2021年1月17日日曜日

幹細胞によるウィルス中枢神経系作用機序の探求(2)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

日本で今、新型コロナウィルスへの感染が確認されている
20代、30代の若い人の割合がおおよそ40%程度というデータがあります。
都道府県、日によってばらつきがありますが、
先日の東京都のデータを参照しました。
20代が一番多いです。
あるインタービューで「東京は1800人感染者が出ました。」
といった情報に対して若い人が聞かれると
「最近は慣れてきた。」
このようなメッセージがありました。
おそらく60代、70代のリスクの高い人は
同じようなコメントになる人は少ないのではないかと思います。
その背景には
「若い人はほとんど重症化しない。」
このような認識があるからだと思います。
実際にデータがそれを示していますが、
気を付けないといけないポイントがあります。
それは、「後遺症の問題」です。
ワクチンの年代別のデータを見るとわかりますが、
基本的に副反応が大きく出るのは若い人が多いです。
それは、免疫系の応答が良いことを示している可能性があります。
それが重症化しない事とつながりがありますが、
逆に免疫反応が良いために過剰な免疫が残ることが考えられます。
そのことが後遺症に関連している可能性があります。
年代別の後遺症のデータでは
30代が一番多くなっていて
20代も決して少ないわけではありません。
後遺症に関しては女性の方が多いというデータもあります(20,21)。
もちろん感染を広げないためというのもありますが、
後遺症のリスクは低くはないという事を認識して
ワクチンの普及や後遺症の治療法が確立するまでは
感染が確認された初期のころと同じくらいの緊張感を持って
過ごしてほしいと思います。

Oliver Harschnitz氏、 Lorenz Studer氏は
中枢神経系の宿主(人など)とウィルスの相互作用機序解明のための
人の幹細胞の利用やそのモデルの構築について総括しています(1)。
この報告で記載されている中枢神経系の免疫機序はおそらく
新型コロナウィルスの後遺症と関連があると考えているので
この点については継続的に調べていきたいと考えています。
幹細胞の治療応用への可能性を含めて
その内容を細かく見ていきながら、
段階的に考えていきたいと思います。
追記、考察を加えながら読者の方と情報共有していきます。

新型コロナウィルスは脳にも作用する事が知られていますが、
このような神経性、神経免疫性の疾患に対しては
今まで亡くなられた方の解剖、生体から採取した組織(生検)
脳脊髄液や血液からの液体生検などに限られていました。
脳には神経細胞を始め、様々な細胞があり、
それらを機械的にも分析していくためには
iPS細胞のような幹細胞の技術は非常に有力です。
またマウスではなく人の脳神経細胞を任意に作製できる事から
より人に近い環境で脳神経に関わる疾患を分析することができます。
新型コロナウィルスで現れるような長く続く後遺症も
iPS細胞を始めとする幹細胞による基礎研究によって
原因が明らかになり、効果的な薬剤が生まれる可能性もあります。

実際に、B細胞、T細胞、Toll様受容体
それらに関わるサイトカインや抗体クラススイッチングなど
免疫機能において人とマウスでは異なるとされています(2,3)。
また、上述した脳神経組織においても
マイクログリアなど脳の免疫、炎症状態は
動物種ごとに異なり、人独自のシステムがあるとされています(4)。

すでに人の多能性幹細胞の技術は
・小頭症(5)
・筋ジストロフィー(6)
・自律神経失調症(7)
・筋委縮性側索硬化症(ALS)(8)
・アルツハイマー病(9)
・パーキンソン病(10)
これらの研究に適用されています。
また、新型コロナウィルスの後遺症につながるような
自己免疫疾患やウィルス誘発性の神経性の疾患に対しての
研究にも適用され始めています(11)。

新型コロナウィルスでは脳神経における免疫機能の改変について
一つの視点として疑う必要があると考えられます。
実際に脱毛と免疫異常は以前から指摘されています。
従って、毛包にアクセスする血液の中の免疫細胞の異常
が考えられますが、脳の血管と近い位置にあるので
同じように影響を受けている可能性も考えられます。
実際に中枢神経系においては
星状膠細胞、マイクログリアが抗ウィルス性を示し
神経系を作る神経細胞もインターフェロンなど
自然免疫系統を細胞内の信号として有しています(12,13)。
従って、iPS細胞からこれらの細胞に分化させて
新型コロナウィルスに対してどのような反応を示すか
といった基礎研究も考えられます。
あるいは脳の組織の一部を人工的に作ることができれば
脳の免疫系統を見ることで、
後遺症の症状の原因となるかもしれない
神経細胞の炎症や余分なたんぱく質の分泌などを
評価できる可能性もあります。
あるいは、後遺症が確認される患者さんからの
血液、脳脊髄液などの液体生検で
脳の炎症を示すバイオマーカーがあれば、
そのバイオマーカーと一致する物質がどのように放出されるか?
といったことを脳神経組織のオルガノイドによって
〇新型コロナウィルス
〇血中に存在する炎症性物質
これらの暴露条件で確認することができるかもしれません。
そうした時に、免疫異常を示す受容体などの
プロセスに関わる信号因子を抑制するような
薬剤の開発も考えられます。
また、原因が分かれば脳に到達する前に
手を打つこともできます。
すでにそういった炎症が見られる人は、
炎症を示している細胞種などを特定できれば、
そこから何らかの治療の戦略が考えられる可能性があります。
-
例えば、ウェストナイルウィルスでは
皮質神経細胞、顆粒状細胞が関与する
インターフェロンβ(Ⅰ型インターフェロン)が
高まるとされています(14)。
新型コロナウィルスでもⅠ型インターフェロンは
抗ウィルス性のために重要な免疫機能です。
これはX染色体に関与する遺伝子が存在し(15)、
これを多く持つ女性においてこの反応が強い可能性があります。
抜け毛などの後遺症が女性に多いことは
このⅠ型インターフェロンの反応性が高まりすぎている可能性を
一つの原因として疑う余地があります。
あるいは自己抗体の存在があるかどうか?です。
一方、ジカウィルスでは
マイクログリアや神経前駆細胞が影響を受け
脳神経細胞の発展が妨げられた時に
小頭症になるとされています(16,17)。
-
1918年にスペイン風邪と呼ばれるインフルエンザが流行しました。
その時にはパーキンソン病のような症状を後遺症として
示す人がいたことが記録されています。
その原因に関してははっきりとしたことはわかっていませんが、
中枢神経系にウィルスが走化性、正の向性を示して
脳神経に近づき、一部到達したことで
血管脳関門が損傷し、脳の自己免疫疾患などが起きた可能性
が指摘されています(18,19)。
従って、新型コロナウィルスに罹患して
長引く後遺症に悩まされている患者さんに対しては
自己抗体の有無について調べる事が重要になります。
-
実際にこのような推測される中枢神経系の免疫異常に対して
iPS細胞などの幹細胞の技術を治療のために生かすためには
少なくとも
-
①患者さんの血液、脳脊髄液、CT画像、症状などの検査、診断
②幹細胞によって作り出した中枢神経系の組織の生理機序
-
これらのデータをうまく整合させる必要があると思います。
可能であれば、患者さん自身の体細胞から作り出した
中枢神経系の組織で想定される環境、
例えば、新型コロナウィルスの暴露で
生じた組織内の異常な状態と
患者さんの検査、診断によって生み出された情報が一致すれば
中枢神経系のオルガノイドで起こっていることが
患者さんの実際の中枢神経系で起こっていると考え
その上で薬剤などによる治療戦略を考えるということです。
今までは
①の患者さんの検査情報だけでしたが
それに加えて幹細胞によるオルガノイドの情報があれば
より精度の高い治療を行うことができる可能性があります。

以上です。

(参考文献)
(1)
Oliver Harschnitz & Lorenz Studer 
Human stem cell models to study host–virus interactions in the central nervous system
Nature Reviews Immunology (2021)
(2)
Mestas, J. & Hughes, C. C. W. 
Of mice and not men: differences between mouse and human immunology. 
J. Immunol. 172, 2731–2738 (2004).
(3)
Sinmaz, N., Nguyen, T., Tea, F., Dale, R. C. & Brilot, F. 
Mapping autoantigen epitopes: molecular insights into autoantibody-associated disorders of the nervous system. 
J. Neuroinflammation 13, 219 (2016).
(4)
Smith, A. M. & Dragunow, M. 
The human side of microglia. 
Trends Neurosci. 37, 125–135 (2014).
(5)
Lancaster, M. A. et al. 
Cerebral organoids model human brain development and microcephaly. 
Nature 501, 373–379 (2014).  
(6)
Ebert, A. D. et al. 
Induced pluripotent stem cells  from a spinal muscular atrophy patient. 
Nature 457, 277–280 (2009).
(7)
Zeltner, N. et al. 
Capturing the biology of  disease severity in a PSC-based model of familial dysautonomia. 
Nat. Med. 22, 1421–1427 (2016).
(8)
Dimos, J. T. et al. 
Induced pluripotent stem cells generated from patients with ALS can be differentiated into motor neurons. 
Science 321, 1218–1221 (2008).  
(9)
Israel, M. A. et al. 
Probing sporadic and familial Alzheimer’s disease using induced pluripotent stem cells. 
Nature 482, 216–220 (2012).
(10)
Soldner, F. et al. 
Generation of isogenic pluripotent stem cells differing exclusively at two early onset Parkinson point mutations. 
Cell 146, 318–331 (2011).
(11) 
Harschnitz, O. 
Human stem cell–derived models: lessons for autoimmune diseases of the nervous system. 
Neuroscientist 25, 199–207 (2018).
(12)
Delhaye, S. et al. 
Neurons produce type I interferon during viral encephalitis. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 103, 7835–7840 (2006).
(13)
Zimmer, B. et al. 
Human iPSC-derived trigeminal neurons lack constitutive TLR3-dependent immunity that protects cortical neurons from HSV-1 infection. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 115, E8775–E8782 (2018).
(14)
Cho, H. et al. 
Differential innate immune response programs in neuronal subtypes determine susceptibility to infection in the brain by positive-stranded RNA viruses. 
Nat. Med. 19, 458–464 (2013).
(15)
Webb, K. et al. 
Sex and pubertal differences in the type 1 interferon pathway associate with both X chromosome number and serum sex hormone concentration. 
Front Immunol. 9, 3167 (2019).
(16)
Qian, X., Nguyen, H. N., Jacob, F., Song, H. &  Ming, G.-L. 
Using brain organoids to understand  Zika virus-induced microcephaly. 
Development 144, 952–957 (2017).
(17)
Lum, F.-M. et al. 
Zika virus infects human fetal brain microglia and induces inflammation. 
Clin. Infect. Dis. 64, 914–920 (2017).
(18)
Dale, R. C. et al. 
Encephalitis lethargica syndrome:  20 new cases and evidence of basal ganglia autoimmunity. 
Brain 127, 21–33 (2004).
(19)
Hoffman, L. A. & Vilensky, J. A. 
Encephalitis lethargica: 100 years after the epidemic. 
Brain  140, 2246–2251 (2017).

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