いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
血液は身体の至る所に存在し、
栄養を届ける、老廃物を受け取るといった
循環の中での体全身の恒常性に寄与しています。
身体を物質的に支える主要な循環系といえます。
しかし、それに対して均衡状態を保つように
「指令を与える」システムがないと身体はうまく働きません。
なぜなら、重力や気圧といった外的な
物理的要因だけで循環系を回せるはずがないからです。
精巧に制御する系統が必要です。
それが「神経系」であると理解しています。
従って、神経系の解剖図を見ると
全身に広がっていることがわかります。
脳だけにあるわけではありません。
しかし、それらは精緻につながっていますから
信号のやり取りの中心は脳神経にあるとも考えられます。
しかし、この神経は考えられているよりも
もっと「機動性に富んでいる」かもしれません。
神経系の細胞の中に
「Neuroendocrine (NE) cells」
「神経内分泌系の細胞」というのがあります。
これは神経系からの信号である神経伝達物質を受け取って
細胞の発展などをとげるいわば
「神経系と細胞の機動的なつなぎ役」とも言えます。
これは分泌物質を通して血液にも伝えます。
新型コロナウィルスでは
ウィルスによって免疫機能が惹起され
炎症性サイトカインストームが起こると
3億個ある肺胞の大部分、一部の組織が炎症によって壊れ
呼吸によって吸い込んだ酸素が
肺胞の周りにある動脈系の毛細血管に輸送されなくなります。
そうすると呼吸は当然速くなりますが、
それでも血液中の酸素濃度が足りなくなります。
酸素は細胞の活動(代謝)に欠かせないものですから
酸素が不足すると身体全身の細部から機能不全が生じます。
肺胞の組織では酸素の濃度管理が重要なことから
そこには酸素濃度を検知する幹細胞があります。
酸素濃度が低下した時にその幹細胞が
神経内分泌系の細胞に分化することを押しすすめ
この神経内分泌系細胞は肺胞の組織を回復させます。
それを人為的に遺伝子操作などで切除することは
組織の損傷に関わることがわかっています(1)。
この神経内分泌系の細胞は
Calcitonin gene–related peptide (CGRP)
このペプチドを分泌して組織の炎症を緩和させる、
回復させる機能があるからです。
従って、低酸素状態になったときには
「身体の異常事態」を感知して
細胞の間に一部存在する多能性分化能を持つ
幹細胞が神経内分泌系の細胞に変わり
組織の修復をするようなペプチドを出し
補償的な生理が生まれるという事です。
Manjunatha Shivaraju氏ら医療、研究グループは
上述したことをマウス、
人の細胞(試験管)によって示しました(1)。
(※)
=====の⇒は私の考察、追記
気道にある神経内分泌系の細胞は
上述した組織の修復に関わる
Calcitonin gene–related peptide (CGRP) だけではなく
人の心の状態にも影響がある
セロトニンも出すことがわかっています(2,3)。
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⇒
このカルトシニンは
血液中のカルシウムやリン酸塩の量を調整する役割があります。
このカルシウムとリン酸塩の血中濃度は密接に関わっており、
これが過剰になるとリン酸カルシウムの結晶が
軟部組織に沈着する可能性が高くなります。
それにより石灰化が起こり血管内皮が硬化するため
動脈硬化性血管疾患を促進します。
慢性腎臓病疾患を持たれている患者さんでは
そのリスクが高いと言われています。
このように多くなっても、
逆に少なくなっても問題があります。
従って、
新型コロナウィルスでは低酸素状態になり
それを修復させようとする機序が働き、
神経内分泌系の細胞形成が過形成になる可能性があります。
カルトシニンはカルシウムとリンを調整する働きがありますが
それが過剰になったときに制御を失うとするならば、
血管系の損傷に関わっている可能性もあります。
-
血中のカルシウムの量と新型コロナウィルスの重症度の関係は
相関関係が認められ、
低濃度(2.0mmol/L以下:正常2.20~2.60mmol/L)
になると臨床結果が悪くなるというデータがあります(4)。
カルシウムは骨などの形成のほかに
細胞の代謝におけるメッセンジャー(信号伝達媒体)
として働きます。
例えば、筋肉の動き、副腎ホルモンの分泌などです(5)。
非常に精緻に濃度が制御されているため
血中のカルシウム濃度が変わると細胞の恒常性に
大きな影響を与えてしまいます。
また、腎臓の疾患とのかかわりもあります。
腎臓の機能が低下すると
カルシウムと密接に関わりがあるリンを尿へ排出できなくなり、
血中のリン濃度があがります。
またビタミンDの働きが阻害されるため、
カルシウムが体に吸収されにくくなり、
血液中のカルシウム濃度が下がります(6)。
従って、
-
・腎臓の機能の低下
・肺の酸素濃度の低下による神経内分泌細胞の過形成?
過形成時カルトシニンと血中のリンとカルシウムの関係
-
・腎疾患⇔新型コロナウィルスの双方向リスク
・カルシウム低下と重症化の関連
-
これらの関わりについて考えていく必要があります。
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上述したような神経内分泌細胞の過形成は
多様な肺疾患に関わりがあります。
・NEHI(幼児神経内分泌細胞過形成)
・SIDS(乳幼児突然死症候群)
・ぜんそく
・先天性肺炎
・肺高血圧
・嚢胞性肺線維症
・CDH(先天性横隔膜ヘルニア)
・COPD(慢性閉塞性肺疾患)
これらです(7,8)。
しかし、過形成が生じる理由はまだよくわかっていません。
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⇒
出生まもなくして、肺胞を含めた上皮細胞は
初めて大気中の酸素に暴露されることになります。
その時に神経内分泌細胞が減少するといわれています(13-15)。
上で挙げた乳幼児における肺に関わる疾患は
神経内分泌細胞の「変化率が高い時期だからこそ」
その制御を失うリスクも成人よりは高い
といえるかもしれません。
従って、神経内分泌細胞の制御因子を考える事は
これらの疾患の治療の一助となる可能性もあります。
あるいは基礎的な事として
酸素濃度、血液内構成物質(Ca,Pなど)の適正管理などが
治療として挙げられるかもしれません。
ただ、酸素は管理を間違えると有毒性もあります(1)。
血中の二酸化炭素が増える高炭酸症などのリスクもあるため、
酸素補充を行う際には過多にならないように
適性に管理する必要があります。
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この神経内分泌細胞は抹消神経が繋がっている
神経上皮組織体(neuroepithelial bodies)に存在します。
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⇒
従って、幹細胞から分化するときには
神経系の構築もも同時に何らかの信号において
局所でなされるという事だと考えられます。
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この神経上皮組織体の機能は
・酸素検出(9)
・機械的シグナル伝達(10,11)
・肺胞の血液循環の調整(11)
・感覚機能(匂い、味)(11)
・炎症の調節(12)
これらが挙げられています。
//実験結果//
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(低酸素による神経内分泌細胞の亢進)
マウスにおいて低酸素状態にした状態では
参考文献(1)Fig.1(A)で示すように
赤紫、黄色の分布が下の段で大きくなっている
ことがわかります。
これは神経内分泌系の細胞のバイオマーカーなので
その細胞の発展が低酸素によって高まっている
ことがわかります。
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(幹細胞が神経内分泌細胞に分化)
参考文献(1)Fig.2(A)で示されたように
赤色の幹細胞が重なるように
緑色の神経内分泌細胞に変わっている様子がわかります。
これが幹細胞⇒神経内分泌細胞(分化)を示しています。
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(CGRPによる組織回復)
参考文献(1)Fig.S13(E)で示されるように
マウスに鼻腔から
Calcitonin gene–related peptide (CGRP) を
投与すると上皮細胞の密度が向上しています。
(※)
CGRPはマウスの肺胞上皮細胞において
細胞分裂促進因子(mitogen)として働く
ことが知られています(16)。
//議論//
Manjunatha Shivaraju氏らは、
神経内分泌細胞が不足している状態で
酸素を人為的に供給することに一定の警鐘を鳴らしています。
それによってもともと体に備わった
神経内分泌細胞の誘発、組織の回復を阻害する
可能性があるからです。
一方、神経内分泌細胞が過形成になっている場合は
(NEHI(幼児神経内分泌細胞過形成)など)
酸素を供給することで低酸素に反応する細胞の
反応を鈍らせることによって奏功が期待されるかも
しれないといわれています。
-----
⇒
新型コロナウィルスで
酸素濃度が90%以下の呼吸不全になるような状態では
やはり適正な酸素飽和度を人為的に素早く維持することは
大切だと考えられます。
ただ、一方で自然な身体の反応として
低酸素になったときに回復する機序がある
という事を知っておくことは大事です。
例えば、症状が落ち着いてきた回復期には
CGRPなどを使って回復を促進することができるか?
あるいは、軽度な運動などリハビリなどを通して
ゆっくり段階的に呼吸器に負荷をかけて
回復を促すことができるか?
その様な事が大切になるかもしれません。
また、神経内分泌細胞が過形成になっている事が
血液中のバイオマーカーなどで測ることができたら
過形成ですから酸素を補充する事は
均衡状態を保つ上では重要だと考えられます。
従って、新型コロナウィルス急性期を終えて
症状が落ち着いてきた時に
神経内分泌細胞の状態を調べる事ができれば
そこから継続的な治療の指針の一つの情報になる
可能性があります。
-----
(参考文献)
(1)
Manjunatha Shivaraju, Udbhav K. Chitta, Robert M. H. Grange, Isha H. Jain, Diane Capen, Lan Liao, Jianming Xu, Fumito Ichinose, Warren M. Zapol, Vamsi K. Mootha, Jayaraj Rajagopal
Airway stem cells sense hypoxia and differentiate into protective solitary neuroendocrine cells
Science 371 , 52 – 57 (2021)
(2)
F. Feyrter,
Virchows Arch. Pathol. Anat. Physiol. 320, 551 – 563(1951).
(3)
F. Feyrter,
Virchows Arch. Pathol. Anat. Physiol. Med. 325, 723 – 732 (1954).
(4)
Jia-Kui Sun et al.
Serum calcium as a biomarker of clinical severity and prognosis in patients with coronavirus disease 2019
Aging (Albany NY). 2020 Jun 30; 12(12): 11287–11295.
(5)
H Rasmussen
Cellular calcium metabolism
Ann Intern Med. 1983 May;98(5 Pt 2):809-16.
(6)
角田 隆俊教授、石田 真理医師
東海大学医学部付属八王子病院
腎臓病とリン・カルシウムについて考えよう
~慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常とは~
(7)
E. Cutz, Semin. Diagn.
Pathol. 32, 420 – 437 (2015).
(8)
E. Cutz, H. Yeger, J. Pan, T. Ito,
Curr. Respir. Med. Rev. 4,174 – 186 (2008).
(9)
E. Cutz, A.
Jackson, Respir. Physiol. 115, 201 – 214 (1999).
(10)
R. I. Linnoila,
Lab. Invest. 86, 425 – 444 (2006).
(11)
E. Cutz, J. Pan, H. Yeger, N. J. Domnik, J. T. Fisher,
Semin. Cell Dev. Biol. 24, 40 – 50 (2013).
(12)
K. Branchfield et al.,
Science 351, 707 – 710 (2016).
(13)
I. M. Keith, J. A. Will,
Thorax 36, 767 – 773 (1981).
(14)
N. S. Track, E. Cutz,
Life Sci. 30, 1553 – 1556 (1982).
(15)
H. Moosavi, P. Smith, D.
Heath, Thorax 28, 729 – 741 (1973).
(16)
Y. Kawanami et al.,
Respir. Res. 10, 8 (2009).

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