2021年2月1日月曜日

糖質ベースのアドジュバントについて

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

従来のインフルエンザワクチンも含めて
ワクチンには免疫補強剤(アドジュバント)が含まれている
といわれています。
対象とする病原体特有の抗原を生み出すワクチンの主成分
についての研究は鋭意行われてきましたが、
それを補強する役割のあるアドジュバントの研究に関しては
活発に進んでこなかったという経緯があるとされています(2)。
今、流行して早期のワクチン需要が世界的に求められている
新型コロナウィルスのワクチンは
mRNAを始め様々なワクチンがありますが、
アドジュバントに関しては情報公開されていない部分である
と認識しています。実際に主成分であるmRNAを運ぶ
脂質ナノ粒子がアドジュバントを兼ねているのか
そうではないのかということも明記はされていません。
しかし、新型コロナウィルスの臨床試験において
アドジュバントの重要性を裏付ける結果があります(3)。
アドジュバントは基本的には
マクロファージ、樹状細胞、単球などの自然免疫系の
Toll様受容体などに働きかけ、
そこから自然免疫系の刺激を通して
獲得免疫系の抗原認識を促す効果があると理解しています。
またアドジュバント自身がT細胞など
獲得免疫系に作用する事もあります(2)。
ーーーーーーーー
Carlo Pifferi, Roberto Fuentes, Alberto Fernández-Tejada 
(敬称略)からなるスペインの医療研究チームは
糖質ベースのアドジュバントについて詳しく包括しています(1)。
本日はその内容の一部について
追記、考察しながら読者の方と情報共有したいと思います。
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//Alumアドジュバントの課題//ーーーーーー
現在使用されているアドジュバントの候補の一つである
Alumアドジュバントは接種部位付近で抗原が捕獲されるため
輸送効率がよくありません。それによって
その部位にマクロファージなど自然免疫系が凝集したり
抗原提示細胞のアドジュバントの認識の効率がよくない
という課題があります(4)。
ーーーーーー

//乳液アドジュバントの課題//ーーーーーー
もう一つ認可されているアドジュバントの一つとして
乳液のアドジュバント(MF59, AS03)があります。
分子メカニズムはよくわかっていませんが、
実際にH1N1インフルエンザのケースでは
このアドジュバントが直接的に
あるいは間接的に作用しているかわかりませんが、
いくつかの副反応が報告されています(5)。
ーーーーーー

//糖質アドジュバントの背景//ーーーーーー
糖質は自然の生体分子として幅広く存在しており
免疫反応を刺激することで知られています(6)。
この材料は人と身体との互換性が高く、
寛容的で、安全性が高いことから
有望なアドジュバントの一つの材料として期待されています(7)。
しかしながら、自然資源から取り出した糖質の場合
十分な量を確保する、精製する、同質なものを獲得する
これらの事に対して壁があり、課題があります。
糖質によるアドジュバントの分子メカニズムは
未知な事が多く残されているのが現状です。
従って、論理根拠のある糖質の構造の最適化などに対しては
まだ多くの改善余地が残されています。
一般的には
糖質ベースのアドジュバントは
T細胞依存の抗原でT細胞を通して自然免疫系を誘発し
アドジュバント自身は弱い抗体反応を誘発します。
その時には親和性がどんどん高められること、
アイソタイプスイッチなどが生じないとされています(13)。
ーーーーーー

//サポニンベースの糖質アドジュバント//ーーーーーー
サポニンは植物由来の材料です。
サポニンの構造は参考文献(1)Fig.1aに示されています。
ベースは炭素、酸素、水素から構成されています。
Quillaja saponariaというチリの木から抽出されるため
頭文字をとってQSと命名されています。
その種類はQS-21、QS-18、QS-17、QS-7があります。
そのうちQS-7、QS-21は毒性が低いと言われています。
QS-7は豊富にはないことから
通常はQS-21が選択されることが多く、
これまでの25年間広く研究されていました(8)。
-
QS-21の機能は未知の部分が多く残されています。
これまでの研究では
QS-21は細胞表面のレクチンと相互作用する事が
示唆されています。
それによって抗原提示細胞の抗原認識が促進され
T細胞が活性化され、
Th1型細胞免疫が高められます(9)。
-
コレステロールとリン酸脂質と合成され
精製されたサポニンベースのアドジュバントの特徴は
・炎症性サイトカイン、ケモカインを誘発
・抗原提示細胞を活性化(樹状細胞など)
・抗原をエンドサイトーシスさせ細胞質内に放出する
・自然免疫と獲得免疫系のつなぎ役
これらの役割があり、
通常のアドジュバントと異なり
Toll様受容体を介して機能を発揮するのではなく
MyD88を介して上述した機能を引き出します(10)。
ーーーーーー

//α-ガラクトシルセラミド由来アドジュバント//ーー
海綿由来の糖脂質からなるアドジュバントで
抗がん作用や免疫刺激作用があります。
構造は参考文献(1) Fig.2aに示されています。
これは自然免疫系である抗原提示細胞の
MHCクラスⅠ受容体の一つであるCD1dに結合して
iNKT細胞などの表面にある受容体との
自然免疫系の結合親和性を高める働きがあります。
それでNKT細胞は信号を受けると
IFNγやIL-4というサイトカインを放出し
Th1型、Th2型の細胞性免疫を高める効果があります。
(参考文献(1) Fig.2bより)
iNKT細胞はB細胞の活性にも関与すると考えられているので
ワクチンのアドジュバントとして使われたときには
抗体の生成の効率に影響を与える可能性が考えられます。
このアドジュバントは
初期過程としてiNKT細胞の活性を抗原認識を
通じて如何に高められるかが機能における鍵である
とされています。
ーーーーーー

//リポ多糖体ベースアドジュバント//ーーーーーー
これはグラム陰性のバクテリアの最外周の被膜の
糖脂質から生まれるものであり、異種性に富んでいます(11)。
リポ多糖体アドジュバントは自然免疫系細胞の
Toll様受容体4(TLR4)と結合して
その後、炎症性サイトカインを放出します。
IL-1βやIL-18を通して炎症性細胞死を導くこともあります(12)。
他にはTNF、IL-6も放出されます。
構造は参考文献(1) Fig.3a-dに示されています。
タンパク質、受容体、骨髄分化因子などと結合して
TLR4を刺激して自然免疫系細胞内で
炎症性サイトカインを分泌するための過程(NF-κB)を引き出します。
その時にはアドジュバントとしての機能を発揮するために
2量体化して結合する事が考えられています。
(参考文献(1) Fig.3eより)
ーーーーーー

//双生イオン性多糖アドジュバント//ーーーーーー
双生イオンなので
高密度で陽性、陰性に帯電した糖質残基があり
細菌由来の多糖であるとされています(14)。
種類としてはPS A1、PS A2、PS Bがあります。
構造は参考文献(1) Fig.4a-cにあります。
これは樹状細胞などの自然免疫系の細胞表面にある
TLR2を刺激して細胞内でNF-κB、NO(一酸化窒素)
などの生理機序を引き出し、
サイトカインや表面受容体など
複数の経路を通じてTh1型の細胞を刺激します。
(参考文献(1) Fig.4dより)

//他の糖質アドジュバント//ーーーーーー
(マイコバクテリア由来)
・Lipoarabinomannans
・Muramyl dipeptide.
・Trehalose-6,6′- dimycolate (TDM or cord factor).
--
(多糖ベース)
・α- Glucans.
・β- Glucans. 
・Fructans
・Mannans
・Chitosan.
ーーーーーー

//筆者の考察、追記//ーーーーーー
実際にその材料が安全かどうか?
植物、細菌など進化してきた結果として
現在、人との共存の中で自然に存在する材料であるならば
副反応、拒絶反応が少なく安全である
といった感覚はあります。
しかし、免疫系を刺激する時点で諸刃の剣の部分があり、
より効果の高いアドジュバントに対して
その裏側には強い副反応が潜んでいる可能性があります。
なぜなら免疫系への効果が大きいからです。
その中で
--
既に身体の中に存在していて(あるいは記憶されていて)
身体が免疫寛容性を持っている材料を選ぶ
--
複数の経路でバランスよく免疫機能を引き出すような
材料を選ぶ
--
必要な免疫機能だけを最小限引き出す材料を選ぶ
--
これらような「機能ベース」で考える事が
重要になる可能性があるのではないかと思います。
そう考える理由は
例えば、人と身近な食べ物であっても
アレルギー反応を引きおこすことはあります。
もちろん一部の人ではあります。
比較的多いのでは花粉症があります。
花粉も自然に存在するものではあります。
従って、
ここで上げられている糖類が全般的に
アドジュバントとして使われたときに
安全性が高いという事を示すのは難しい気がします。
実際にCarlo Pifferi氏らが挙げているように
糖質である植物由来のサポニンベースの
QS-21、QS-18、QS-17、QS-7のうち
QS-18は毒性が高いと言われています。
--
薬剤を開発するときも当てはまると考えられますが、
その材料が体にとって優しいかどうか?
この点については自然に存在するから安全である
ということ1つでは括れない部分があると考えます。
ーーーーーー

(参考文献)
(1)
Carlo Pifferi, Roberto Fuentes & Alberto Fernández-Tejada 
Natural and synthetic carbohydrate-based vaccine adjuvants and their mechanisms of action
Nature Reviews Chemistry (2021)
(2)
Steven G Reed, Mark T Orr & Christopher B Fox 
Key roles of adjuvants in modern vaccines
Nature Medicine volume 19, pages1597–1608(2013)
(3)
C. Keech, G. Albert, I. Cho, A. Robertson, P. Reed, S. Neal, J.S. Plested, M. Zhu, S. Cloney‑Clark, H. Zhou, G. Smith, N. Patel, M.B. Frieman, R.E. Haupt, J. Logue, M. McGrath, S. Weston, P.A. Piedra, C. Desai, K. Callahan, M. Lewis, P. Price‑Abbott, N. Formica, V. Shinde, L. Fries, J.D. Lickliter, P. Griffin, B. Wilkinson, and G.M. Glenn 
Phase 1–2 Trial of a SARS-CoV-2 Recombinant Spike Protein Nanoparticle Vaccine 
The New England Journal of Medicine 2020;383:2320-32.
(4)
Flach, T. L. et al. 
Alum interaction with dendritic cell membrane lipids is essential for its adjuvanticity.  
Nat. Med. 17, 479–487 (2011).
(5)
Olga Sobolev, Elisa Binda, Sean O'Farrell, Anna Lorenc, Joel Pradines, Yongqing Huang, Jay Duffner, Reiner Schulz, John Cason, Maria Zambon, Michael H Malim, Mark Peakman, Andrew Cope, Ishan Capila, Ganesh V Kaundinya & Adrian C Hayday 
Adjuvanted influenza-H1N1 vaccination reveals lymphoid signatures of age-dependent early responses and of clinical adverse events
Nature Immunology volume 17, pages204–213(2016)
(6)
van Kooyk, Y. & Rabinovich, G. A. 
Protein-glycan interactions in the control of innate and adaptive immune responses. 
Nat. Immunol. 9, 593–601 (2008). 
(7)
Petrovsky, N. & Cooper, P. D. 
Carbohydrate-based immune adjuvants. 
Expert Rev. Vaccines 10,  523–537 (2011).  
(8)
Ragupathi, G., Gardner, J. R., Livingston, P. O.  & Gin, D. Y. 
Natural and synthetic saponin adjuvant QS-21 for vaccines against cancer. 
Expert Rev. Vaccines 10, 463–470 (2011).  
(9)
Marciani, D. J. 
Vaccine adjuvants: role and mechanisms of action in vaccine immunogenicity. 
Drug Discov. Today 8, 934–943 (2003).
(10)
Wilson, N. S. et al. 
ISCOMATRIX vaccines mediate CD8+T-cell cross-priming by a MyD88-dependent signaling pathway. 
Immunol. Cell Biol. 90, 540–552 (2012).
(11)
Raetz, C. R. H. & Whitfield, C. 
Lipopolysaccharide endotoxins. 
Annu. Rev. Biochem. 71, 635–700 (2002).
(12)
Mazgaeen, L. & Gurung, P. 
Recent advances in lipopolysaccharide recognition systems. 
Int. J. Mol. Sci. 21, 379 (2020).
(13)
Avci, F. Y. & Kasper, D. L. 
How bacterial carbohydrates influence the adaptive immune system. 
Annu. Rev. Immunol. 28, 107–130 (2010). 
(14)
Tzianabos, A., Wang, J. Y. & Kasper, D. L. 
Biological chemistry of immunomodulation by zwitterionic polysaccharides. 
Carbohydr. Res. 338, 2531–2538 (2003). 

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