2021年2月10日水曜日

人組織肺を持つマウスによる病理と薬理(モルヌピラビル)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

医学、医療の分野では
基礎研究から臨床までを繋げる学問、概念は
トランスレーショナル医療と呼ばれます。
それが外科、内科、薬科などの大きな区分け
あるいは内科の中でも腫瘍内科、呼吸器内科など
多様な科があります。
その基礎学問(腫瘍学、内分泌学、分子生物学など)があります。
そういったことの包摂は
トランスレーショナル総合医療と言えると思います。
これに理工学、倫理、法律などが加わると
さらに総合性の範囲が拡大すると思います。
-
実際には臨床で患者様の命を救う、疾患を治す、
治したうえでその後の生活の質に貢献する
といった最終到達点があります。
新型コロナウィルスでもそれは当てはまります。
このような「連携、連結」の一つの鍵になるのが
私は幹細胞などを使った人工組織(オルガノイド)である
と思っています。
例えば、新型コロナウィルスなどの感染症、
それに伴う呼吸器系疾患などに対して、
人の肺の組織の一部を人工的に作り出して
その環境の中で病理、薬理を探るということです。
実際には実験でよく使われるマウスと人では異なるわけですから
基礎実験から臨床に行くまでには
一つの崖を飛び越える必要があります。
そこには一定の不連続性があります。
従って、その不連続性を埋めるためには
マウスの実験の他に
人の組織のオルガノイドの作製が欠かせないと思います。
--
自身が今まで認識していなかった他の有力な方法として
マウスの中に人由来の組織を作るということです。
例えば、人の細胞で出来た肺をマウスに作り出して
その環境で新型コロナウィルスの病理、薬理を調べれば、
生命系が自然に維持された状態で
人の組織について「人以外で」調べる事ができますから
方法としては非常に画期的だと思われます。
例えば、
脳に関しては難しい病気は多くありますが、
その病理、薬理の理解は進んでいないと言われています。
従って、iPS細胞などによって脳の組織を作り出して
そのうえでアルツハイマー病や筋萎縮性側索硬化症(ALS)など
難しい病気の機序、薬剤の働きを調べようと
鋭意、研究が進められています。
脳は神経系の特別な臓器なので
マウスの中に人の神経細胞で出来た脳を作り出すとなると
「倫理的な議論」が必要だろうと思います。
しかしその倫理的な線引き、境界は
どのような目的でそれが使われるか?
それによって変わると思います。
例えば、純粋に脳の機能について調べるのと
特定の難病に絞って、脳の病理、薬理を調べるのでは
おそらく倫理的な境界線は変わると思います。
ーーーーーーーー
Angela Wahl, Lisa E. Gralinski, Claire E. Johnson(敬称略)
らアメリカ合衆国の医療研究グループは
マウスの中に人由来の肺を作り出して
病理、薬理(モルヌピラビル)について詳細に調べられています(1)。
本日はその内容の一部を読者の方と情報共有したいと思います。
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//概要//ーーーーーー
コウモリ由来のコロナウィルスは中間宿主を介することなく
人に直接感染する可能性が示唆されます。
マウスの中の人の細胞からできた肺において
新型コロナウィルス患者と同様の病理、症状が確認されました。
モルヌピラビルは今フェーズ2,3の治験が行われています。
このモルヌピラビルはインフルエンザの薬として
開発されたものですが、有力な薬効としては
即効性です。2日で最低でも2桁、最大で7桁程度の
ウィルス量の低下が見られます。
(参考文献(1) Fig.4より)
-
(筆者の考察)
この「即効性」は新型コロナウィルスの治療において
非常に重要で、発症から数日の早期の治療では
少なくとも一定の奏功を示す可能性が期待できます。
ーーーーーー

//背景//ーーーーーー
人に感染する新型コロナウィルスは
遺伝子的な改変や人の受容体の導入などを行わない限り
実験で使われるマウスには感染しません(2-9)。
従って、人に感染する新型コロナウィルスの
病理、薬理を調べるためには
人の細胞、組織からできた肺、血管などで
マウスで調べる事が有効になります
Angela Wahl氏, Lisa E. Gralinski氏らは
それをHuman lung-only mice(LoM)と呼び
人の本物の組織で出来た肺を持つマウスで実験しています(10)。
-
一方、コウモリの新型コロナウィルスは
人に直接感染する事が確認されています。
-
(筆者の視点)
今後、コロナ系ウィルスに対する社会的な対応として
専門家以外コウモリと人との接触を避けるなどが
必要になる可能性があります。
ーーーーーー

//人組織肺(マウス)の肺の病理//ーーーーーー
肺胞の基礎となる被膜がウィルス感染によって
剥がれている事が確認されています。
(参考文献(1) Fig.2c,dより)
--
血栓の元となる繊維素が肺胞腔の中に存在しています。
(参考文献(1) Fig.2fより)
--
繊維素から成る血栓が確認されています。
(参考文献(1) Fig.2gより)
これは人の肺組織でも同様の血栓が肺で見られています(11-13)。
--
ウィルスの細胞感染に関わる
ACE2受容体、TMPRSS2の発現が確認されています。
(参考文献(1) Extended Data Table 4より).
--
(免疫信号)
・Ⅰ型インターフェロン
・自然免疫反応
・サイトカイン仲介信号
・サイトカイン生成
・ストレス反応
・炎症反応
・NIK, NF-κB信号
・急性炎症反応
・血液凝固経路
これらが遺伝子分析によって確認されています。
(参考文献(1) Fig.3bより)
ーーーーーー

//人組織肺(マウス)の肺の薬理(モルヌピラビル)//ーー
--
(モルヌピラビルについて)
経口で有効な薬剤。
インフルエンザの治療のため開発。
ウィルスの複製の際のコピーエラーを誘導することで
抗ウィルス性を示します。
(Synthetic nucleoside derivative N4-hydroxycytidine)
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有力な薬効としては即効性です。
2日で最低でも2桁、最大で7桁程度の
ウィルス量の低下が見られます。
(参考文献(1) Fig.4より)
-
(筆者の考察)
基本的には新型コロナウィルスは10日後には
他の人に感染する可能性がかなり低くなるために
その時には一部に残存があったとしても
ウィルス量は免疫機能によって減少していると考えられます。
従って、ウィルス量が多い時に
薬剤を投与する事が求められると思いますが、
このウィルスは潜伏性があります。
つまりウィルス感染していても症状が出てこないことです。
急激に症状が悪化する傾向があるため
治療に対しては即効性が求められます。
この薬剤の「即効性」という点に対して
特に着目して今後治験結果の評価をしていきます。
ーーーーーー

//モルヌピラビル治験について//ーーーーー
モルヌピラビルは今フェーズ2,3の治験が行われています。
安全性と効果が1日2回投与1600mg/dayの用量で行われています。
(参考文献(14))
ーーーーー

以上です。

(参考文献)
(1)
Angela Wahl, Lisa E. Gralinski, Claire E. Johnson, Wenbo Yao, Martina Kovarova, Kenneth H. Dinnon III, Hongwei Liu, Victoria J. Madden, Halina M. Krzystek, Chandrav De, Kristen K. White, Kendra Gully, Alexandra Schäfer, Tanzila Zaman, Sarah R. Leist, Paul O. Grant, Gregory R. Bluemling, Alexander A. Kolykhalov, Michael G. Natchus, Frederic B. Askin, George Painter, Edward P. Browne, Corbin D. Jones, Raymond J. Pickles, Ralph S. Baric & J. Victor Garcia 
SARS-CoV-2 infection is effectively treated and prevented by EIDD-2801
Nature (2021)
(2)
Cockrell, A. S. et al. 
A mouse model for MERS coronavirus-induced acute respiratory distress syndrome. 
Nat Microbiol 2, 16226, https://doi.org/10.1038/nmicrobiol.2016.226 (2016).
(3)
Dinnon, K. H., 3rd et al. 
A mouse-adapted model of SARS-CoV-2 to test COVID-19 countermeasures. 
Nature 586, 560-566, https://doi.org/10.1038/s41586-020-2708-8 (2020).
(4)
Gralinski, L. E. et al. 
Complement Activation Contributes to Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus Pathogenesis. 
mBio 9, https://doi.org/10.1128/mBio.01753-18 (2018).
(5)
Jiang, R. D. et al. 
Pathogenesis of SARS-CoV-2 in Transgenic Mice Expressing Human Angiotensin-Converting Enzyme 2. 
Cell, https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.05.027 (2020).
(6)
McCray, P. B., Jr. et al. 
Lethal infection of K18-hACE2 mice infected with severe acute respiratory syndrome coronavirus. 
J Virol 81, 813-821, https://doi.org/10.1128/JVI.02012-06 (2007).
(7)
Menachery, V. D. et al. 
Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus Nonstructural Protein 16 Is Necessary for Interferon Resistance and Viral Pathogenesis. 
mSphere 2, https://doi.org/10.1128/mSphere.00346-17 (2017).
(8)
Menachery, V. D. et al. 
A SARS-like cluster of circulating bat coronaviruses shows potential for human emergence. 
Nat Med 21, 1508-1513, https://doi.org/10.1038/nm.3985 (2015).
(9)
Menachery, V. D. et al. 
SARS-like WIV1-CoV poised for human emergence. 
Proc Natl Acad Sci U S A 113, 3048-3053, https://doi.org/10.1073/pnas.1517719113 (2016).
(10)
Wahl, A. et al. 
Precision mouse models with expanded tropism for human pathogens. 
Nat Biotechnol 37, 1163-1173, https://doi.org/10.1038/s41587-019-0225-9 (2019).
(11)
Carsana, L. et al. 
Pulmonary post-mortem findings in a series of COVID-19 cases from northern Italy: a two-centre descriptive study. 
Lancet Infect Dis, https://doi.org/10.1016/S1473-3099(20)30434-5 (2020).
(12)
Menter, T. et al. 
Post-mortem examination of COVID19 patients reveals diffuse alveolar damage with severe capillary congestion and variegated findings of lungs and other organs suggesting vascular dysfunction. 
Histopathology, https://doi.org/10.1111/his.14134 (2020).
(13)
Tian, S. et al. 
Pulmonary Pathology of Early-Phase 2019 Novel Coronavirus (COVID-19) Pneumonia in Two Patients With Lung Cancer. 
J Thorac Oncol 15, 700-704, https://doi.org/10.1016/j.jtho.2020.02.010 (2020).
(14)
Efficacy and Safety of Molnupiravir (MK-4482) in Hospitalized Adult Participants With COVID-19 (MK-4482-001), 
https://ClinicalTrials.gov/show/NCT04575584


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