いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
癌細胞は組織を作り、通常細胞とは異なる
独自の恒常性を築いて継続的な生存を可能にします。
その時には通常細胞との違いに着目して
それに特異的に効く薬剤などが検討されます。
その場合、癌細胞を消滅させるために関与できる
細胞の生理段階は色々考えられると思います。
例えば、
癌細胞が細胞分裂するときの特徴を捉えて
その分裂が上手くいかないようにすることで
癌細胞の発展を抑えることができます。
通常、免疫療法や化学療法でも
癌細胞の進化の中でそれを逃れる細胞種が現れ、
それが結果的に勢力を増すことが考えられますが、
細胞分裂の段階で関与することで
このような生理の変異が仮に起こりにくければ
治療としては優れているということになります。
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Ryan J. Quinton, Amanda DiDomizio, Marc A. Vittoria(敬称略)
らアメリカ合衆国、日本(三重)の医療研究グループは
癌細胞に広く確認される染色体異常に着目して
異常を示す細胞の分裂機序について詳しく報告しています(1)。
本日はその内容の一部について読者の方と情報共有したいと思います。
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//概要//ーーーーーー
癌細胞の全ゲノム倍加(Whole-genome doubling(WGD))によって
生じた4倍体の細胞は人の癌で広く確認されます。
4倍体の細胞は2倍体の通常細胞に対して遺伝子不安定性が大きく
癌細胞で広くみられるp53の変異などとも関連しています。
また通常の細胞では必要としないKiF18Aという
有糸分裂の際のモータータンパク質が働かないと
4倍体の異常な細胞は染色体が核から細胞質に漏れ出し
DNAにダメージを受けます。
それによって細胞の数を増やすのが難しくなります。
従って、このKiF18Aというたんぱく質を阻害する事が
癌細胞対する治療標的として広く成り立つ可能性が示唆されています。
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//背景、全ゲノム倍加(WGD)について//ーーーーーー
通常、人の細胞は両親から受け継いだ2つの染色体による
2倍数性の細胞を持ちます。
しかし、異常な癌組織(少なくとも一部)では染色体が複製され
4倍数性を持つ細胞となります。
これを全ゲノム倍加(WGD)と呼び、特に初期の癌細胞生成において
広く確認され、人の癌で一定の共通性が確認されるとされています(2,3)。
このような4倍数性の細胞は染色体の構造の異常が見られ(3)、
悪性度の高い変異や染色体不安定性を助長させるものです(4-7)。
実際にゲノムの倍加は進行性のある癌の転移や予後不良につながる
ことが臨床の中で指摘されています(8)。
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//全ゲノム倍加(WGD)と遺伝子異常//ーーーーーー
全ゲノム倍加が確認される4倍体の癌細胞は
TP53とPPPR21Aの変異と高い相関性があります。
(参考文献(1) Fig.1Cより)
この変異は進行性腫瘍で人で確認されるものです(8,9)。
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//全ゲノム倍加(WGD)とモータータンパク質(KIF18A)//ーー
KIF18Aは有糸分裂の際に染色体が振動するのを抑えて
位置を安定化させる役割があります。
従って、有糸分裂の過程での染色体の配座、分布を
適切に制御するために働くモータータンパク質です(10-13)。
(イメージ:参考文献(1) Fig.4cより)
このモータータンパク質(KIF18A)は
通常の2倍体の細胞では位置に対して大きな影響を
与えません(参考文献(1) Fig.3c,gより)。
従って、正常な細胞分裂のために必要なものではありません(14)。
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一方、4倍体の異常な細胞では
位置の変動が大きくなり、染色体が大きく切り離されるため
細胞内に染色体を収納している細胞核の膜が破れ
細胞質に滲出することでDNAにダメージを与えたり
細胞の老化に関係するcGAS–STING経路を活性化させます(15-18)。
実際に距離が離れていることが確認されています。
(参考文献(1) Fig.3c,gより)。
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//細胞特異的輸送系統の観点//ーーーーーーーー
Ryan J. Quinton氏らが示しているように
このモータータンパク質KIF18Aを阻害する事が
癌細胞の分裂後の癌細胞の寿命を短くすることに
貢献する可能性があります。
その時に重要になるのが
このたんぱく質の働きを抑える物質が開発されたときに
4倍体の細胞を特異的に見つけ出すことです。
筆者の調査によれば4倍体の癌細胞が示す
特異的な細胞マーカー(表面受容体など)を示す報告は
現状見つける事ができていません。
遺伝子の状態が異なることで独自の細胞表面の
タンパク質が生まれる可能性は考えられます。
そうした場合にそれを標的として輸送することで
KIF18A阻害薬の薬効を上げる事に貢献できる可能性があります。
TP53の変異は癌細胞と関連性の高い遺伝子異常なので
KIF18A阻害薬と4倍体癌細胞特異的アンカーシステム
が確立されれば比較的幅広く癌治療に使える
可能性も考えられます。
また4倍体癌細胞の分裂の際に
必須となる他の物質が分かれば
ナノ粒子輸送媒体に同封することで
さらに効果が高められる可能性があります。
従って、この生理段階で関与する事が有効であるならば
細胞分裂やそれに関わる機序をさらに調べて
より頑強な抑制システムを構築する事が望まれます。
ーーーーーーーー
以上です。
(参考文献)
(1)
Ryan J. Quinton, Amanda DiDomizio, Marc A. Vittoria, Kristýna Kotýnková, Carlos J. Ticas, Sheena Patel, Yusuke Koga, Jasmine Vakhshoorzadeh, Nicole Hermance, Taruho S. Kuroda, Neha Parulekar, Alison M. Taylor, Amity L. Manning, Joshua D. Campbell & Neil J. Ganem
Whole-genome doubling confers unique genetic vulnerabilities on tumour cells
Nature (2021)
(2)
Lens, S. M. A. & Medema, R. H.
Cytokinesis defects and cancer.
Nat. Rev. Cancer 19, 32–45 (2019).
(3)
Fujiwara, T. et al.
Cytokinesis failure generating tetraploids promotes tumorigenesis in p53-null cells.
Nature 437, 1043–1047 (2005).
(4)
Ganem, N. J., Godinho, S. A. & Pellman, D.
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Nature 460, 278–282 (2009).
(5)
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Ploidy controls the success of mutators and nature of mutations during budding yeast evolution.
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(6)
Dewhurst, S. M. et al.
Tolerance of whole-genome doubling propagates chromosomal instability and accelerates cancer genome evolution.
Cancer Discov. 4, 175–185 (2014).
(7)
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Nat. Genet. 52, 283–293 (2020).
(8)
Bielski, C. M. et al.
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(11)
Stumpff, J., Wagenbach, M., Franck, A., Asbury, C. L. & Wordeman, L.
Kif18A and chromokinesins confine centromere movements via microtubule growth suppression and spatial control of kinetochore tension.
Dev. Cell 22, 1017–1029 (2012).
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Mitotic progression following DNA damage enables pattern recognition within micronuclei.
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Zhang, C.-Z. et al.
Chromothripsis from DNA damage in micronuclei.
Nature 522, 179–184 (2015).
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