2021年2月9日火曜日

異数性癌細胞の正常な分裂阻害の感受性と治療戦略

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

人の細胞には通常2倍数性に従って染色体があり、
常染色体と呼ばれる22対、計44本の染色体があり、
それに加えて性別を決めるX,Y染色体2本があります。
従って、計46本となっています。
細胞が分裂を行う際、微小管と呼ばれる糸状の管が
この染色体を引っ張るように分裂させて
染色体が分裂して娘細胞に染色体が分配されます。
その際、糸のように引っ張るようなイメージから
有糸分裂と呼ばれていると認識しています。
癌細胞の中には4倍数性の染色体があり、
染色体の数が多いので分裂装置の体積は大きくなります。
2倍数性の細胞と比べた静止画が
参考文献(2) Fig.3gに記されています。
この図から4倍数性の染色体における分裂装置は
大きくなっていることがわかります。
実際に染色体が多くなると細胞核の中に適切に
染色体を収めて娘細胞に分配する事が難しくなりますから
その細胞分裂の位置などの制御性を高める必要があります。
従って、参考文献(2)では
有糸分裂に関わるモータータンパク質であるKIF18A
という位置の安定性を高める物質の働きが
4倍数性の癌細胞では重要であることが示されています。
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Yael Cohen-Sharir, James M. McFarland, Mai Abdusamad(敬称略)ら
イスラエル、アメリカ、ドイツ、イタリア、オランダの
国際的な医療研究チームはこの4倍数性とも関わる
異数性の染色体を細胞内に含む癌細胞において
有糸分裂の制御性に関わるMitotic checkpointの
抑制がどのように正常細胞と異なるかについて報告しています(1)。
本日は、その内容の一部について
読者の方と情報共有したいと思います。
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//異数性について//ーーーーーー
染色体の異数性とはその数が通常は46ですが
45、47といったように数が異なる事を示しています。
このような染色体の欠落がある事で
遺伝子性の疾患の共通の病因となります。
実際に固形の癌細胞では68%が異数性である
という報告があります(3)。
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//Mitotic checkpointについて//ーーーーーー
このチェックポイントは有糸分裂の後期に
娘細胞への分裂のために複製された染色体が
紡錘に適切に固着するまでに離れる事を防ぐとされています。
従って、適切な有糸分裂のために欠かせないとされています。
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//腫瘍異数性の影響//ーーーーーー
癌細胞がそれくらい異数性を持つかは
・遺伝子の特徴
・細胞の特徴
・組織の型
・増殖率
・染色体不安定性
・全ゲノム倍加(Whole genome duplication(WGD))
・p53の機能
これらに関わっているとされています(4-10)。
例えば、全ゲノムが倍加する4倍数性の細胞では
(染色体の数が多いために?)異数性が生じやすいと
考えられます。
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//Mitotic checkpoint阻害薬に対する影響//ーー
TTK抑制剤は
Spindle assembly checkpoint (SAC),
(別名:Mitotic checkpoint) 
これを阻害して、正常な有糸分裂を阻害する働きがあり
細胞死を誘導するものです。
これに対して正倍数性の正常細胞は
高い感受性を持っていますが、
異数性の細胞は「短い期間(3~5日)においては」
感受性は低くなっており、影響を受けにくいとされています、
従って、この間においては
異数性の状態で有糸分裂が実現するので
その中で染色体異常を示す癌細胞が蓄積すると考えられます。
しかし、その阻害薬への暴露時間が長くなると(14日)
今度はその感受性が高まります。
(参考文献(1) Fig.3gより)
従って、SAC抑制剤への長期暴露においては
異数性癌細胞は細胞死へと誘導されます。
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//異数性細胞と有糸分裂モータータンパク質KIF18A//ーー
異数性細胞では有糸分裂モータータンパク質KIF18Aは
この特徴と負の相関があるとされており、
異数性の特徴が強いと少ない傾向にあります。
(参考文献(1) Fig.4aより)
しかし、このモータータンパク質KIF18Aの影響は
参考文献(2)の4倍性の癌細胞で示されたように
大きいことが示されています。
(参考文献(1) Fig.4fより)
つまり、このたんぱく質が欠損すると
細胞の増殖率が大きく低下するとされています。
ーーーーーー

//細胞特異的輸送系統の観点//ーーーーーーーー
4倍数性、異数性も含めて染色体異常を示す癌細胞は
多いと考えられます。
その癌細胞においてモータータンパク質であるKIF18Aは
細胞分裂して癌細胞が生存する上で重要な物質なので
これを薬剤によって阻害する事は
共通的に一定の奏功を示す可能性があります。
また、Mitotic checkpoint阻害薬においては
短期的な暴露では効果がありませんが、
それが長くなると通常細胞よりも効果が出てくるので
細胞特異的輸送系統で
この染色体異常を示す癌細胞にアンカーさせて
半減期が長いシステムで特異的な薬剤供給ができるか
という観点があります。
このMitotic checkpoint阻害薬は
短期では通常細胞の方が感受性が高いので
オフターゲットすると副作用が大きく出る可能性があります。
従って、運用が難しい薬だと考えられますが、
KIF18Aと併用することで効果が出る可能性があります。
ただし、KIF18Aの量を減らすことは
このチェックポイント阻害薬の感受性を下げる事が考えられます。
従って、特異的親和性の高い薬剤供給が重要になります。
そういう中においても
参考文献(1) Extended Data Fig.9rから
併用による癌細胞の増殖低下に対する相乗効果には
一定の期待値があります。
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以上です。

(参考文献)
(1)
Yael Cohen-Sharir, James M. McFarland, Mai Abdusamad, Carolyn Marquis, Sara V. Bernhard, Mariya Kazachkova, Helen Tang, Marica R. Ippolito, Kathrin Laue, Johanna Zerbib, Heidi L. H. Malaby, Andrew Jones, Lisa-Marie Stautmeister, Irena Bockaj, René Wardenaar, Nicholas Lyons, Ankur Nagaraja, Adam J. Bass, Diana C. J. Spierings, Floris Foijer, Rameen Beroukhim, Stefano Santaguida, Todd R. Golub, Jason Stumpff, Zuzana Storchová & Uri Ben-David 
Aneuploidy renders cancer cells vulnerable to mitotic checkpoint inhibition
Nature (2021)
(2)
Ryan J. Quinton, Amanda DiDomizio, Marc A. Vittoria, Kristýna Kotýnková, Carlos J. Ticas, Sheena Patel, Yusuke Koga, Jasmine Vakhshoorzadeh, Nicole Hermance, Taruho S. Kuroda, Neha Parulekar, Alison M. Taylor, Amity L. Manning, Joshua D. Campbell & Neil J. Ganem 
Whole-genome doubling confers unique genetic vulnerabilities on tumour cells
Nature (2021)
(3)
Duijf, P.H.G.; Schultz, N.; Benezra, R. 
Cancer cells preferentially lose small chromosomes, 
Int J Cancer, 132 (10): 2316–2326 (2013), 
(4)
Taylor, A. M. et al. 
Genomic and functional approaches to understanding cancer aneuploidy. 
Cancer Cell 33, 676–689.e3 (2018).
(5)
Bielski, C. M. et al. 
Genome doubling shapes the evolution and prognosis of advanced cancers. 
Nat. Genet. 50, 1189–1195 (2018).
(6)
Carter, S. L. et al. 
Absolute quantification of somatic DNA alterations in human cancer. 
Nat. Biotechnol. 30, 413–421 (2012).
(7)
Hieronymus, H. et al. 
Tumor copy number alteration burden is a pan-cancer prognostic factor associated with recurrence and death. 
eLife 7, e37294 (2018).
(8)
Smith, J. C. & Sheltzer, J. M. 
Systematic identification of mutations and copy number alterations associated with cancer patient prognosis. 
eLife 7, e39217 (2018).
(9)
Soto, M., García-Santisteban, I., Krenning, L., Medema, R. H. & Raaijmakers, J. A. 
Chromosomes trapped in micronuclei are liable to segregation errors. 
J. Cell Sci. 131, jcs214742 (2018).
(10)
Zhang, C. Z. et al. 
Chromothripsis from DNA damage in micronuclei. 
Nature 522, 179–184 (2015).


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