2021年2月26日金曜日

臨床症状に関連する遺伝子と予防機会

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

山中先生が提唱されている「ファクターX」。
日本人を含めアジア系の人が
なぜ新型コロナウィルスで亡くなる人が少ないのか?
それについて「未知の因子」があると考えられています。
おそらく、
・マスク・3密回避・消毒・手洗い・うがい
これらの社会的な因子もあると考えられます。
あるいは、肥満などの生活習慣病など
リスク因子が疫学的に少ないという事もあるかもしれません。
入院患者が少ない事によって
より個別医療が充実していることもあるかもしれません。
その中での医療現場の方の懸命の治療があります。
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しかし、人が先祖から受け継いできた遺伝的な影響も
リスク因子から排除できるものではありません。
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Hugo Zeberg, Svante Pääbo(敬称略)ら
ドイツ、スウェーデン、日本(沖縄)の
医療研究グループは
新型コロナウィルスのリスク因子としての
対立遺伝子(rs35044562)が染色体3番に見られ
それは先祖ネアンデルタール人から引き継いだとされています(2)。
現生人類(ホモサピエンス)との交雑が起こり
その遺伝子が引き継いだ可能性が指摘されています。
この遺伝子は欧米、インド、オーストラリアではみられますが、
東アジアではほとんど確認されていない遺伝子です。
(参考文献(2) Fig.3より)
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それからさらに追加的な報告として
逆に新型コロナウィルスのリスクを下げる遺伝子が
見つかっています。
対立遺伝子(rs10735079)が染色体12番に見られ
侵入するウィルスの遺伝子破壊を助けるとされています(3)。
その遺伝子はヨーロッパでは多く見られます。
アメリカ合衆国では地域による差が大きい結果となっています。
アジアや日本でも見られます。
(参考文献(3) Fig.3より)
この遺伝子は後述するOAS(1~3)と符号化されています。
--
しかし、Hugo Zeberg氏, Svante Pääbo氏の
声明によれば、遺伝子の影響はあるけど
年齢など他のリスク因子に比べれば小さいかもしれない
と日本の報道でありました。
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Sirui Zhou, Guillaume Butler-Laporte, Tomoko Nakanishi
(敬称略)ら、
カナダ、日本(京都、東京)、イギリス、アメリカ、
スウェーデン、ドイツの
国際的な医療研究グループは
上述した先祖ネアンデルタール人から受け継いだ
リスクを下げると考えられているOAS1遺伝子(2)
によって生まれたタンパク質レベルと
臨床症状(感染感受性、入院、重症)の関連について
過去のデータベース分析および
疫学調査を男女504人規模で行われています(1)。
本日は、その内容について読者の方と情報共有したいと思います。
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//重要な結果//ーーーーーーーー
過去の大規模なデータから
従来から指摘されていたOAS1遺伝子によって
生み出されたタンパク質レベルと
臨床症状の相関はあります。
タンパク質が多くなるほど感染、入院、重症の
リスクはさがります。
症状が重くなればなるほど
その相関は大きくなりリスクは下がります。
--
感染中にはOAS1遺伝子でコード化された
タンパク質は感染時には活性化され
その量が多くなっていることが示されました。
--
これらの遺伝子は抗ウィルス性を示す
インターフェロンの働きと関係があり
この遺伝子レベルが高いことは
新型コロナウィルスだけではなく、
他のウィルスに対する抵抗性も高くなることが
示唆されます。
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//OAS1の正式名称//ーーーーー
2'–5′oligoadenylate synthetase 1 (OAS1)
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//結果1(過去のデータ大規模分析)//ーーーーー
対象:新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)
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(OAS1コード化タンパク質との相関)
感染感受性:オッズ比 0.78
入院:オッズ比 0.61
重症:オッズ比 0.54
--
(1L10RBコード化タンパク質との相関)
※interleukin-10 receptor beta subunit 
感染感受性:オッズ比 0.87
入院:オッズ比 0.53
重症:オッズ比 0.47
--
(参考文献(1) Fig.2より)
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//結果2(実施された疫学調査(1))//ーーーーー
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(条件)
女性:250人/男性:254人
-
(年齢)
65.4歳(中央値)
-
(PCR陽性/陰性)
399人/105人
-
(入院状況:あり/なし)
406人/98人
-
死亡/生存:43人/461人
-
(呼吸器支援状況)
必要なし:233人
酸素補充:143人
人工呼吸器:128人
-
(参考文献(1) Table 2より)
---
(感染中のOAS1タンパク質レベルの相関)
感染感受性:オッズ比4.39(無症状、軽症も含む)
入院:オッズ比1.93
重症:オッズ比1.50
--
つまり、重症患者ほどOAS1タンパク質レベルが
高くないことを示しています。
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(非感染状態でのOAS1タンパク質レベルの相関)
感染感受性:オッズ比0.69
入院:オッズ比0.46
重症:オッズ比0.20
--
過去のデータ分析と傾向は同じ。
重症になればなるほど
タンパク質レベルが高くなると頻度は少なくなります。
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//結果3(OAS1アイソフォームG対立遺伝子)//ーーーーー
--
(背景)
ネアンデルタール人由来のOAS1遺伝子ファミリーの中に
アフリカ人が多く持つ変異である
rs10774671-Gがあります(4,5)。
このGを含むGG、GAの遺伝子表現型は
p46というたんぱく質を多く発現することがわかっています(6)。
--
(G遺伝子型OAS1タンパク質レベルとの相関)
感染感受性:オッズ比0.29
入院:オッズ比0.09
重症:オッズ比0.05
これらの結果から、G遺伝子型OAS1タンパク質(p46)を
多く持つ方の新型コロナウィルスのリスクは
極めて低いことが疫学調査から示されています。
--
(p46の生理機能)
p46は新型コロナウィルスでだけではなく
ウィルス感染後の抗ウィルス、酵素活性を高める
ことが知られています(7)。
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//OAS遺伝子とインターフェロンの関係//ーーーーー
--
OASファミリー(OAS1, OAS2, OAS3)は
インターフェロン刺激遺伝子と言われています(8-12)。
--
薬剤Interferon beta-1bはOAS1発現を
向上すると考えられており(13)、
多発性硬化症の治療薬の選択肢の一つです(14)。
また他のウィルスの治療にも使われています(15)。
薬剤Interferon beta-1bの
新型コロナウィルスへの臨床効果は
必ずしも有効性を示しませんが、
吸入における投与においてフェーズ2の治験で
有効性が示されています(16)。
吸入においては肺での特異的効果性が高まることによる
という示唆もあります(1)。
ーーーーーー

//その他//ーーーーー
新型コロナウィルスではOAS1たんぱく質を逃れる
ウィルス性タンパク質が作用し
それが宿主(人)免疫反応逃避効果を示す
とされています(17,18)。
従って、OAS1タンパク質が強く出る人が
抗ウィルス効果がある事は
この逃避効果が臨床症状の悪化とつながっている
可能性が高いことを示唆します。
これは疫学調査(1)に論理的根拠を示すものです。
ーーーーー

//筆者の考察//ーーーーー
OAS1遺伝子を活性化させる薬剤が
治験では必ずしも強い臨床効果を示さない(1)ことは
投薬するタイミングもあると思います。
ウィルス感染した初期の段階で
インターフェロンが働き抗ウィルス性を示すと
ウィルス量の最大値が小さくなるため
それに応じて肺などの身体の組織の損傷も緩和される
と考えられます。
従って、すでにOAS1遺伝子が強く出る人は
新型コロナウィルスに暴露した時点で
この遺伝子が迅速に働くために
感染しない(検出限界以下にとどまる)、
症状を示さない、重症化しないということになる
と考えられます。
そうすると「予防的な介入」がより効果的です。
例えば、
新型コロナウィルスやインフルエンザワクチンなどで
ウィルス性の免疫機能を定期的に高めることで
OAS1遺伝子の活性度は変わるかどうか?
その点が一つ知りたいです。
もし、ワクチン接種によって
この遺伝子の活性度に変化があれば、
特異的抗体の発現そのものだけではなく、
ウィルス全般に効果があるような交差性への価値を
見出すこともできます。
また、逆にOAS1遺伝子を刺激するような
ワクチンの開発も考えられます。
その際、G遺伝子表現型を高める事が大切です。
ーーーーー

//Special note in English//ーーーーー
Is it possible that activity of OAS1 gene changes by vaccination?
Can we enhance its activity in a prophylactic fashion?
Bacause, the rapid fuction of interferon is important after SARS-CoV-2 infection.
It may be valuable that we will develope vaccine in a manner that OAS1 gene (especially G genotype) is effectively activated.
ーーーーー

以上です。

(参考文献)
(1)
Sirui Zhou, Guillaume Butler-Laporte, Tomoko Nakanishi, David R. Morrison, Jonathan Afilalo, Marc Afilalo, Laetitia Laurent, Maik Pietzner, Nicola Kerrison, Kaiqiong Zhao, Elsa Brunet-Ratnasingham, Danielle Henry, Nofar Kimchi, Zaman Afrasiabi, Nardin Rezk, Meriem Bouab, Louis Petitjean, Charlotte Guzman, Xiaoqing Xue, Chris Tselios, Branka Vulesevic, Olumide Adeleye, Tala Abdullah, Noor Almamlouk, Yiheng Chen, Michaël Chassé, Madeleine Durand, Clare Paterson, Johan Normark, Robert Frithiof, Miklós Lipcsey, Michael Hultström, Celia M. T. Greenwood, Hugo Zeberg, Claudia Langenberg, Elin Thysell, Michael Pollak, Vincent Mooser, Vincenzo Forgetta, Daniel E. Kaufmann & J. Brent Richards 
A Neanderthal OAS1 isoform protects individuals of European ancestry against COVID-19 susceptibility and severity
Nature Medicine (2021)
(2)
Hugo Zeberg & Svante Pääbo 
The major genetic risk factor for severe COVID-19 is inherited from Neanderthals
Nature volume 587, pages610–612(2020)
(3)
Hugo Zeberg & Svante Pääbo 
A genomic region associated with protection against severe COVID-19 is inherited from Neandertals
PNAS March 2, 2021 118 (9) e2026309118;
(4)
Prüfer, K. et al. 
A high-coverage Neandertal genome from Vindija Cave in Croatia. 
Science 358, 655–658 (2017).
(5)
Meyer, M. et al. 
A high-coverage genome sequence from an archaic Denisovan individual. 
Science 338, 222–226 (2012).
(6)
Sams, A. J. et al. 
Adaptively introgressed Neandertal haplotype at the OAS locus functionally impacts innate immune responses in humans. 
Genome Biol. 17, 246 (2016).
(7)
Bonnevie-Nielsen, V. et al. 
Variation in antiviral 2′–5′-oligoadenylate synthetase (2′5′AS) enzyme activity is controlled by a single-nucleotide polymorphism at a splice-acceptor site in the OAS1 gene. 
Am. J. Hum. Genet. 76, 623–633 (2005).
(8)
Min, J.-Y. & Krug, R. M. 
The primary function of RNA binding by the influenza A virus NS1 protein in infected cells: inhibiting the 2 ′–5′oligo (A) synthetase/RNase L pathway. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 103, 7100–7105 (2006).
(9)
Hu, B. et al. 
Cellular responses to HSV-1 infection are linked to specific types of alterations in the host transcriptome. 
Sci. Rep. 6, 28075 (2016).
(10)
Lim, J. K. et al. 
Genetic variation in OAS1 is a risk factor for initial infection with West Nile virus in man. 
PLoS Pathog. 5, e1000321 (2009).
(11)
Simon-Loriere, E. et al. 
High anti-dengue virus activity of the OAS gene family is associated with increased severity of dengue. 
J. Infect. Dis. 212, 2011–2020 (2015).
(12)
Hamano, E. et al. 
Polymorphisms of interferon-inducible genes OAS-1 and MxA associated with SARS in the Vietnamese population. 
Biochem. Biophys. Res. Commun. 329, 1234–1239 (2005).
(13)
Cheng, G. et al. 
Pharmacologic activation of the innate immune system to prevent respiratory viral infections. 
Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 45,  480–488 (2011).
(14)
Harari, D., Orr, I., Rotkopf, R., Baranzini, S. E. & Schreiber, G. 
A robust type I interferon gene signature from blood RNA defines quantitative but not qualitative differences between three major IFN β drugs in the treatment of multiple sclerosis. 
Hum. Mol. Genet. 24, 3192–3205 (2014).
(15)
Lin, F. & Young, H. A. 
Interferons: success in anti-viral immunotherapy. 
Cytokine Growth Factor Rev. 25, 369–376 (2014).
(16)
Monk, P. D. et al. 
Safety and efficacy of inhaled nebulised interferon beta-1a (SNG001) for treatment of SARS-CoV-2 infection: a randomised, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial. 
Lancet Respir. Med. 9, 196–206 (2020).
(17)
Zhao, L. et al. 
Antagonism of the interferon-induced OAS-RNase L pathway by murine coronavirus ns2 protein is required for virus replication and liver pathology. 
Cell Host Microbe 11, 607–616 (2012).
(18)
Zhang, R. et al. 
Homologous 2′,5′-phosphodiesterases from disparate RNA viruses antagonize antiviral innate immunity. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 110, 13114–13119 (2013).


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