インテグリンはアメリカの
エルキ・ルースラーティ氏によって
36年前の1984年に発見されました。
それ以来、様々な型のインテグリンが見つかっていますが、
(現在は24種類)
特に私が注目しているのは
インテグリンαvβ3という型のインテグリンです。
このインテグリンは
乳癌において転移性のない細胞には
それが発現されていない一方で
転移性のある細胞にだけ発現されていることが
細胞外受容体を検知する
フローサイトメトリー測定によって確認されています(1)。
従って、
転移性を示す乳癌に対して整合性を持つ抗がん剤
あるいは
周辺の細胞の栄養などの
状態を改善するようなシステムを封入した
脂質などからなる胞において
その表面にインテグリンαvβ3に特異的に
親和性の高い糖たんぱく質などを多く装飾した胞を
作製することができれば、
転移性を示す乳癌細胞にだけ結合する状態を実現できるため
より効果の高い薬効を得られる可能性があります。
インテグリンαvβ3は参考文献(1)のように
悪性度の高い腫瘍に特異的に発現されている可能性があり
アンカーとしての有力な候補の一つだと考えています。
従って、
その詳細な構造を調べることは大きな意味を持ちます。
そのインテグリンαvβ3は
12のドメインを持ち
「ヘッド(head)」と呼ばれる卵形の部分
2つの「テイル(tails)」と呼ばれる部分に
組み込まれています。
インテグリンの長さは約28nmで
α鎖(150~180kD)、β鎖(~90kD)
Ⅰ型被膜タンパク質であり信号の伝達において
細胞膜の通過は巨視的にみれば1回です。
そのうちテイルでは非常に柔軟性の富んだ構造になっており
そこで広角に曲がることができます。
このような可動性、動きが
インテグリンαvβ3の制御、機能と関係していると
考えられています(2)。
テイルはα鎖、β鎖が平行に近い状態で位置しているドメインで
α鎖はCalf、Thigh
β鎖はβTD、EGF、Hybrid(?)
です。
2つと考えられているのは
おそらくLinkerと呼ばれる構造としては「細い」
架橋する部分が存在するからであると仮定しています。
(参考文献(2) Fig.1(C)参照)
ヘッドの中にはαv鎖、β3鎖のサブユニット間の界面があります。
つまりインテグリンの最先端にある部分がヘッドと呼ばれる部分です。
そのヘッド部分のαv鎖、β3鎖には
-------
①αv鎖:βプロペラ
7つのブレードが輪を作るように構成され、
それぞれの構造内に
カルシウムイオン、多糖、ジスルフィド(硫黄原子2個)
が装飾されています。
(参考文献(2) Fig.2(A)参照)
------
②β3鎖:βAドメイン
トップには輪を作るように残基が8つあります。
(参考文献(2) Fig.2(C)参照)
-------
(参考文献(2) Fig.1(C)の先端部分:青-αv鎖、赤-β3鎖)
これはGタンパク質のGαとGβの界面の構造に似ている
と評価されています(2)。
※Gタンパク質との比較は参考文献(2)Fig.4より
主にインテグリンに結合するのは
β鎖なので上述した残基に親和性を持つ物質が結合し、
細胞接着、拡散、増殖、分化など(2)
様々な機能を発揮すると考えられます。
β鎖のβAドメインには
金属イオン依存の吸着サイト(MIDAS)があり
ループを形成する配位子結合界面内に作用するような
位置をとります。また機能制御に関わっている
カルシウム結合サイトの近くにあります。
上述したように評価した時の
構造は低温で評価しているので固定されていますが
実際に生体内にある時には構造が変化すると
考えられています。
例えば、
細胞内から細胞外、あるいは細胞外から細胞内に
機能発現のための信号伝達をこの物質を介して行う場合、
それぞれ特異な構造をとるといわれています。
従って、
構造は同じタイプのインテグリンでも
固定的に定まらないと考えておくことが重要です。
また細胞の種類によっても違うといわれているので
微視的に見れば構造的な違いは
同じインテグリンであっても細胞ごとにみられる
可能性が示唆されています(3-5)。
これは複雑性を包含しますが、
逆に細胞ごとに構造が異なる可能性は
細胞特異的に
「病状を回復させるような機能を持つ物質」
を封入した胞を輸送する場合においては
良い機会になる可能性があります。
従って、比較的広く発現されているインテグリンでも
病変部位に見られるような特定の細胞においては
微視的な構造に差異が見られる可能性があります。
β3鎖の表面において結合性を示す
「疎水性(黄)」「イオン性(赤)」「混合型(オレンジ)」
があります。
これらの結合部位は複数の方位に存在します。
(参考文献(2) Fig.5参照)
もう一つの結合形態として
分子間力によるπ-π結合がありますが、
装飾因子を設計する際には、
どのエピトープにどのような結合を持って行うか?
というのは効果的に結合させるうえで
重要になると考えられます。
さらにもっと巨視的に見た時には
α鎖、β鎖それぞれに配位子結合サイトは存在しますが、
配位子に対して特異性を示すのは
主に結合に寄与するβ鎖の部分であるとされています。
(参考文献(2) Fig.6より)
β鎖は、親和性が高く結合活性なopen構造
逆に結合不活性なclosed構造が存在することが
わかっています(6,7)。
β鎖の中のらせん構造をとる
α7の長さ、β鎖に対する相対的な位置が
大きく影響を及ぼすとされています(2)。
※α7の位置は参考文献(2) Fig.3(A)参照
上述した内容から構造的な可変性は
様々な要因で存在するので、
例えば、転移性を有した癌細胞だけに結合させる
場合においても、癌細胞だけでも
ある程度のインテグリンの構造的な偏差があると考えておく
必要があるかもしれません。
そうすると同じインテグリンでも、
1つだけを評価して構造決定するのではなく、
ある程度数を増やして統計的な評価が必要になると思います。
その中で他のインテグリンや受容体に対して特異性があるけど、
同じ癌細胞の中の同じ型のインテグリンの中では
構造変化が起こりにくい結合部位を選択することが
1つ重要になると考えます。
以上です。
(参考文献)
(1)
Kara A. Furger et al.
β3 Integrin Expression Increases Breast Carcinoma Cell Responsiveness to the Malignancy-Enhancing Effects of Osteopontin
Molecular Cancer Research Vol. 1, 810–819, September 2003
(2)
Jian-Ping Xiong, Thilo Stehle, Beate Diefenbach, Rongguang Zhang, Reinhardt Dunker, David L. Scott, Andrzej Joachimiak, Simon L. Goodman, M. Amin Arnaout
Crystal Structure of the Extracellular Segment of Integrin aVb3
Science 05 Apr 2002: Vol. 296, Issue 5565, pp. 151-155
(3)
P. J. Sims, M. H. Ginsberg, E. F. Plow, S. J. Shattil,
J. Biol. Chem. 266, 7345 (1991).
(4)
X. Du et al.,
J. Biol. Chem. 268, 23087 (1993).
(5)
R. R. Hantgan, C. Paumi, M. Rocco, J. W. Weisel,
Biochemistry 38, 14461 (1999).
(6)
J.-O. Lee, L. Anne-Bankston, M. A. Arnaout, R. C.Liddington,
Structure 3, 1333 (1995).
(7)
21. J. Emsley, C. G. Knight, R. W. Farndale, M. J. Barnes, R. C. Liddington,
Cell 100, 47 (2000).
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