2020年10月31日土曜日

遺伝子改変による治療、特異的治療ための輸送方式

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

私たちの体の組織、臓器を基礎として支える
大きな一つの単位は細胞です。
その細胞の中には様々な小器官があり、
細胞内の空間にはタンパク質があります。
その細胞質においても細胞の成長、分化、成熟
あるいは免疫細胞など他の細胞との相互作用などを司る
生理機能があります。
また、
細胞の中には細胞核があり、その中に遺伝子があります。
遺伝子はタンパク質、脂質など
私たちの体を支える機能性を持った
任意の高分子を作ることができます。
遺伝子はその設計図となるものです。
しかし、
何らかのきっかけがあり
体に疾患が出たときには身体の健康なバランス
恒常性が崩れた状態になります。
その大元では細胞の活動が不順になっていて
さらにはその細胞内の特定の遺伝子が変異したり
不安定になっていることが考えられます。
変異することで異常な生理物質の合成、分解などが起き
細胞の健康な活動が乱されている状態であると推測できます。
もちろん、様々な生理物質が
体の循環の中で「運命的に」「確率的に」作用するという
統計的な事も含めた物理的な要因の中で
遺伝子「だけ」で決められない部分がありますし、
またコード化されていない
遺伝子の役割についても検討されています。
しかし、そうではあっても
異常になっている遺伝子のうち
「影響力高いものについては少なくとも」
変異した遺伝子を良い方向に改変する事は
ベース、基礎の治療方針として考えられることです。

Elizabeth M. Porto氏らは
その遺伝子の単位であるヌクレオチドにおいて
単一ヌクレオチド可変物(single-nucleotide variants (SNVs))
を細胞内のDNA、RNAに導入することについて
その治療効果と輸送方式について総括していますので
読者の方々と情報を共有したいと思います(1)。

遺伝子変異の96%は単一のヌクレオチドの変異
だといわれていますので(2)、
この単一のヌクレオチドに作用する物質を
制御して細胞内に導入する技術は大切で
また遺伝子がどのような表現型を持ち、
遺伝子が人の体の状態、健康状態にどう影響を与えるか
の理解を改善する上で重要だと考えられてます(3-7)。

実際にはその遺伝子改変はCRISPRシステムの中で
Cas9と呼ばれるたんぱく質を通して行われるのが
一つの方式としてあります。
そのCas9がguideRNAと結合していて
それらの複合体が遺伝子に結合して、
遺伝子の結合を切ってguideRNAが
「遺伝子にまとわりつくように作用して(?)」
新しい任意の遺伝子配列(編集)に修復するのを
可能にするものです。
(参考文献(1) Fig.1より)
従って、この方式で遺伝子編集する場合においては
このCas9タンパク質とguideRNAの複合体を含む
物質を編集したい任意の遺伝子に運ぶ必要があります。
その際に問題となっていると考えられる細胞に
アクセスして、その中にある標的遺伝子を特異的に
任意のguideRNA(?)によって意図する遺伝子に編集できれば
それに対する動物、そして人の身体の応答をみることで
遺伝子の表現型を評価でき、
かつ上述したように健康状態への影響も同様に評価できます。
従って、
細胞特異的輸送系統では
狙った細胞に対して特異性を持って輸送することを
目的としていますから、
遺伝子編集を用いた治療との親和性は高いことになります。
今のところ全ゲノム情報など
コンピューターの性能の向上で蓄積されていますが、
ゲノム同士の相互作用やノンコード遺伝子、
あるいは物理的な相互作用などの影響もあることから
実際にゲノムに対する表現型へのリンクに関しては
大きな課題が残っていると考えられます。
しかしながら
前述したように遺伝子の中には
癌に関わるp53のように強固に作用する遺伝子もあることから
そのような影響力の大きな遺伝子に対して
細胞、遺伝子特異的にCas9のような編集のための
物質を輸送することは強く望まれていると考えています。

しかしながら、
遺伝子編集で気を付けないといけないのは
標的でない遺伝子を改変してしまう可能性(off-target edits)
があることです(8-10)。
この問題に対しては(改変する遺伝子に親和性を持つように?)
Cas9のタンパク質の(活性部位を?)改変する事で
目的ではない遺伝子に対しては作用しないようにする
研究が進められています。
(参考文献(1) Fig.3c Table 1参照)
現状、guideRNAに依存しない形では
狙いではない遺伝子の改変のレベルは10~100倍下げること
に成功しています(11)。
もう一つは、
周りの遺伝子と相互作用してしまう可能性(bystander effect)の
問題もあります(12)。
この効果はCas9を通した遺伝子編集では脱アミノ酸反応によって
引き起こされることが確認されている(13)ので、
この脱アミノ酸を引き起こす酵素の働きを弱めることで
防ぐことができるかもしれないと考えられています(1)。

/輸送方法/
輸送方法における一つの方針としては
狙いの細胞(遺伝子)への輸送効率を上げて
狙いでない細胞(遺伝子)に輸送されないようにすることです。
そのために参考文献(1) Fig.4に示されるような
大きく分けて以下の三つの輸送方式が提案されています。
-----
・ウィルスによる輸送
・ナノ粒子による輸送
・電気穿孔法
(電気パルスで細胞膜に孔をあけ物質を導入する手法)
-----
これらです。
また、
粒子で運ぶ際に物質に着目した分類では
参考文献(1) Table 2に
物質、輸送方式(下に記載)、技術的な要素、利点、課題
が表にしてまとめられています。
------
核酸(プラスミドDNA,RNA)
・陽イオン性脂質
・脂質ナノ粒子
・電気穿孔法
・直接的輸送
・細胞の注入
--
ウィルス(細胞表面受容体を通じて輸送)
・アデノウィルス
・アデノ関連ウィルス
・レトロウィルス
・レンチウィルス
・センダイウイルス
---
タンパク質
・脂質ナノ粒子
・陽イオン性脂質
---
その他
・DNAケージ
・ウィルス様粒子
・細胞貫通ペプチド
・物理的輸送
------
これらの輸送方式に対して
特にウィルスや脂質ナノ粒子に関する輸送では
細胞種を選んで特異的に輸送したいために
その細胞の表面に発現されている糖たんぱく質などの
受容体を「複合要素も含めて」調べて
その中で特徴を洗い出し、その特異的特徴に
親和性を示す装飾を
Cas9など遺伝子改変物質を封入した胞、粒子にすることで
より輸送の精度があげられる可能性を想定しています。

以上です。

(参考文献)
(1)
Elizabeth M. Porto, Alexis C. Komor, Ian M. Slaymaker & Gene W. Yeo 
Base editing: advances and therapeutic opportunities
Nature Reviews Drug Discovery (2020)
(2)
Auton, A. et al. 
A global reference for human genetic variation. 
Nature 526, 68–74 (2015).
(3)
Katsonis, P. et al. 
Single nucleotide variations:biological impact and theoretical interpretation. 
Protein Sci. 23, 1650–1666 (2014).
(4)
Zhang, F. & Lupski, J. R. 
Non-coding genetic variants in human disease. 
Hum. Mol. Genet. 24, R102–R110 (2015).
(5)
Kircher, M. et al. 
A general framework for estimating the relative pathogenicity of human genetic variants. 
Nat. Genet. 46, 310–315 (2014).
(6)
Bertucci, F. et al. 
Genomic characterization of metastatic breast cancers. 
Nature 569, 560–564 (2019).
(7)
Smith, C. et al. 
Efficient and allele-specific genome editing of disease loci in human iPSCs. 
Mol. Ther. 23, 570–577 (2015).
(8)
Komor, A. C., Kim, Y. B., Packer, M. S., Zuris, J. A. & Liu, D. R. 
Programmable editing of a target base in genomic DNA without double-stranded DNA cleavage. 
Nature 533, 420–424 (2016). 
(9)
Gaudelli, N. M. et al. 
Programmable base editing of A•T to G•C in genomic DNA without DNA cleavage. 
Nature 551, 464–471 (2017).
(10)
Rallapalli, K. L., Komor, A. C. & Paesani, F. 
Computer simulations explain mutation-induced effects on the DNA editing by adenine base editors. 
Sci. Adv. 6, eaaz2309 (2020).
(11)
Doman, J. L., Raguram, A., Newby, G. A. & Liu, D. R. 
Evaluation and minimization of Cas9-independent off-target DNA editing by cytosine base editors.  
Nat. Biotechnol. 38, 620–628 (2020).
(12)
Gehrke, J. M. et al. 
An APOBEC3A–Cas9 base editor with minimized bystander and off-target activities. 
Nat. Biotechnol. 36, 977 (2018).
(13)
Komor, A. C. et al. 
Improved base excision repair inhibition and bacteriophage Mu Gam protein yields C:G-to-T:A base editors with higher efficiency and product purity. 
Sci. Adv. 3, eaao4774 (2017).  

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