新型コロナウィルスに限らず、
生体内の細胞表面にもある受容体のいくつかは
糖たんぱく質からなる物質で構成されています。
おそらく糖が親水性を持ち、
表面電荷、ゼータ電位が低いために
生体内にある余計なたんぱく質などの付着を防ぎ、
その受容体を保護する役割があるため
そのような複合材料から成っていると思われます。
実際に受容体に結合する抗体は、
糖の間から顔を出すように表面に出ている
タンパク質の部分(エピトープ)です。
新型コロナウィルスではそのような受容体は
Sタンパク質と呼ばれます。
このSタンパク質は
生体内でACE2という受容体を細胞表面に発現している
特定の細胞に対してある程度の選択性を持って浸入し、
ウィルス感染します。
今述べたACE2受容体にSタンパク質が結合して
その後、細胞膜表面と融合しながら
細胞膜を変形させて、細胞内に侵入します。
従って、細胞の中に入るまでの機序、逐次段階を
考えた時には形状、形質変換が必要です。
そのような変化が
受容体に結合したという信号の後に起こります。
そのような変化はこのSタンパク質-受容体の場合は
「cleavage:開裂」と呼ばれます。
それがfurinと呼ばれる部位によって起こる
とされています(1-3)。
このSタンパク質にはS1、S2という塊となる部位(ドメイン)
があります。受容体に初めに結合する部位はS1です。
そのS1が受容体に結合した後に、
構造は不安定化し、S1のがSタンパク質から切り離されます。
その結合前後のS1、S2の結合界面においては
S2ドメイン側のY837, K854という残基が
切り離されることによってS1とS2が分離されます。
(参考文献(6) Fig.2(B)結合前,(C)結合後)
この界面の結合はπ-π相互作用(π-stacking interaction)
という結合様式をとると言われています(7)。
この結合様式は
「芳香環がコインを積み重ねた様な配置で安定化する」
といわれています。
有機物質の高次構造の安定化においては
疎水結合と並んで見られる代表的な形である
といわれています。
そうするともう一方のS2と呼ばれるドメインの
表面のシールド(盾となるようなもの)がはがれ
構造としてオープン、活性となります。
その後、細胞膜との融合に必要なペプチドを放出します(4,5,6)。
Sタンパク質にはオープン構造、クローズ構造
というのがあり、オープンな状態では
結合面が露出した状態で活性にACE2受容体と結合できます。
このSタンパク質は3つのドメインが架橋された
3量体(trimetric)構造なので、
1つのSタンパク質に対して3つのACE2受容体結合部位を持ちます。
1つにACE2受容体が結合すると
その結合エネルギーの一部が他のドメインの結合部位を
オープンにするために使われます。
そのような流れの中で3つの結合部位に対して
全てACE2受容体が結合した後
S1は母体となるS2部位から切り離されることになります。
(参考文献(6) Fig.1より)
ここで疑問があります。
Sタンパク質が持つ3つの結合部位に全てに
ACE2が結合しないと開裂されず
それによってエンドサイトーシスできないのであれば、
細胞内に侵入するときには
細胞表面には少なくとも1つのタンパク質、ウィルスに対して
3つのACE2受容体が必要ということなのか?
という点です。
参考文献(6) Fig.1ではACE2が細胞膜から独立した
状態で描写されているので
本来は細胞膜表面にある受容体に対してはどうか?
という点です。
3つの受容体が都合のよい配置で細胞表面にある
必要があるのか?
それも疑問点です。
あるいは、すでに細胞外にACE2からなるたんぱく質が
独立で遊走している可能性も、もちろん考えられます。
その場合もそのうち一つは細胞表面にある受容体と
結合しない事には機能しないので、
ある程度の条件が整わないとウィルス感染しないという
ことを意味にするのか?という点もあります。
また、
ワクチンを接種した時に抗体が生まれますが、
抗体がSタンパク質に結合するときには
3つ全てについてS1を切り離さないといけないのか
それとも1つ抗体が結合すれば、
残りの2つの結合面にACE2受容体がついたとしても
そこからエンドサイトーシスは起きないのか?
あるいは1つ抗体がつくことによって
あと2つのS1ドメインの構造のオープン化を促すのか?
抗体を通した逐次段階(Sequential steps)を
詳細に考えることも重要です。
以上です。
(参考文献)
(1)
Belouzard, S., Chu, V. C. & Whittaker, G. R.
Activation of the SARS coronavirus spike protein via sequential proteolytic cleavage at two distinct sites.
Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 106, 5871–5876 (2009).
(2)
Millet, J. K. & Whittaker, G. R.
Host cell entry of Middle East respiratory syndrome coronavirus after two-step, furin-mediated activation of the spike protein.
Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 111, 15214–15219 (2014).
(3)
Hoffmann, M. et al.
SARS-CoV-2 Cell Entry Depends on ACE2 and TMPRSS2 and Is Blocked by a Clinically Proven Protease Inhibitor.
Cell 181, 271-280.e8 (2020)
(4)
Lai, A. L., Millet, J. K., Daniel, S., Freed, J. H. & Whittaker, G. R.
The SARS-CoV Fusion Peptide Forms an Extended Bipartite Fusion Platform that Perturbs Membrane Order in a Calcium-Dependent Manner.
J. Mol. Biol. (2017).
https://doi.org/10.1016/j.jmb.2017.10.017.
(5)
Song, W., Gui, M., Wang, X. & Xiang, Y.
Cryo-EM structure of the SARS coronavirus spike glycoprotein in complex with its host cell receptor ACE2.
PLoS Pathog. (2018).
https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1007236.
(6)
Donald J. Benton, Antoni G. Wrobel, Pengqi Xu, Chloë Roustan, Stephen R. Martin, Peter B. Rosenthal, John J. Skehel & Steven J. Gamblin
Receptor binding and priming of the spike protein of SARS-CoV-2 for membrane fusion
Nature (2020)
doi.org/10.1038/s41586-020-2772-0
(7)
Wrobel, A. G. et al.
SARS-CoV-2 and bat RaTG13 spike glycoprotein structures inform on virus evolution and furin-cleavage effects.
Nat. Struct. Mol. Biol. 1–5 (2020).
https://doi.org/10.1038/s41594-020-0468-7.
登録:
コメントの投稿 (Atom)

0 コメント:
コメントを投稿