2020年10月11日日曜日

高精度低温電子顕微鏡の測定システム設計

細胞特異的に意図した物質を運ぶためには
任意の機能物質を封入した胞に
標的細胞に特異的親和性の高い物質を
胞表面に装飾する必要があります。
その装飾因子を設計するためには、
どういう結合部位を持つ糖たんぱく質にするか?
というのを考えます。
その際には標的細胞、あるいは輸送する胞の
両方の結合部位やその周辺の構造を
微視的にも巨視的にも詳細に構造解析する
必要があります。
微視的に測定するときには
実際に生体内にある状態が変わらない事と
精度の高い測定が求められます。

様々な解析手法がありますが、
中核をなす解析手法として
低温電子顕微鏡(cryo-electron microscopy)があります。
この測定では、
液体窒素温度まで下げるので、その温度変化がある中で
Å単位の解像度を得ようとしているわけですから
その精密な測定系を構築するのは困難である
また測定者の習熟も必要であるということは
特別な考察を必要とするまでもありません。

上手く測定手法を確立すれば、
Å単位の解像度を持ちますが、
共通する複数の課題があると言われています。

/課題/
①電子線によって試料がダメージを受ける
つまり結合などの状態が変わる可能性
----
②試料が動くことによって像がぼやける
----
③メンテナンスコストが高い(2)
----
④試料準備の段階で表面状態が変わる(4)
----
例えば、①、②の課題を補償するために
何万もの像を撮ってそれを平均化して評価する
という手法がとられています(1)。

Katerina Naydenova氏ら(3)によって
構築された低温電子顕微鏡では
1,2μmの穴の中にサポート膜を入れ
それにガラス化した(アモルファスの)氷の層の中に
タンパク質など解析したい物質を組み込みます。
穴は複数空いていて、一回装置内に試料を入れると
多くの物質を解析することができます。
(参考文献(1)の写真参照)

上述した課題②の試料が動くことの
要因はいくつかあります(3)。
(A)ステージが動く
(B)支持基板が曲がる
(C)試料を覆う氷が曲がる(参考文献(3)Fig.1(D)参照)
(D)測定試料の分子が動く
これらは、温度変化の時、
あるいは電子線を当てた時
両方の機会において変位する可能性をもちます。

上述したように試料を入れる部分には穴が開いていて
その穴の大きさは試料の変位を最小化するための
適切な大きさがあります。
200nm~1900nmまで大きさを変えたところ
200nm~300nmが最適であることがわかりました。
(参考文献(3) Fig.1(B),(C)より)
ただしこれは試料の大きさ、
それをシールドする氷の厚さによって変わります。
それらが小さくなれば、たわみやすくなるため
最適な穴の大きさは小さくなります(3)。
従って、試料を入れるサンプルフォルダは
様々な大きさに適応できるように
穴の大きさの異なる複数のパターンが必要であると
考えられます。
また穴のパターン、配置の対称性を上げる事によって、
穴ごとの測定バラつきを下げる事にも貢献すると思います。
(参考文献(3) Fig.3より)
つまり、この場所の穴にいれないと
正確に測定できないということを避けることに
貢献すると考えられます。

温度を低温にするときに
そのスピードが速いと容積変化が急速に進むので
そこでかかるストレスが閾値を超えてしまいます(3)。
それによって変位幅が大きくなります。
一方、
電子線を当てたときには、
水分子がエネルギーを得て拡散長が大きくなるため
高い粘性を持った液体になり(3)
それによって試料が変位する原因になります。
従って、どれくらいの時間をかけて
液体窒素温度まで低温にするか
あるいはどれくらいの強度の電子線を当てるか
(e/Å2)は最適化する必要があると考えられます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Micah Rapp and Bridget Carragher 
Better, faster, and even cheap
Science  09 Oct 2020:Vol. 370, Issue 6513, pp. 171
(2)
K. Naydenova et al., 
IUCrJ 6, 1086 (2019). 
(3)
Katerina Naydenova, Peipei Jia, Christopher J. Russo
Cryo-EM with sub–1Å specimen movement
Science  09 Oct 2020:Vol. 370, Issue 6513, pp. 223-226
(4)
R. M. Glaeser, 
Curr. Opin. Colloid Interface Sci. 34, 1 – 8(2018).

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