2020年10月26日月曜日

双特異的なアンタゴニスト、アンカーとしての可能性

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

細胞の外側には様々な種類の受容体があり
その受容体は、細胞が分化、成熟する段階で
遺伝子などの設計図によて改変されます。
例えば、免疫細胞であれば
CD4+T細胞といった表記がされます。
この場合CD4という型の細胞表面の受容体が
活性な状態で存在することを意味します。
このような受容体は、細胞の機能と密接に関わっており、
CD4の場合はB細胞、CD8+T細胞の機能などを調整する
ヘルバーT細胞ととして働きます。
しかし、その機能は体にとって良いものばかりではなく
疾患の原因になるものもあります。
従って、これらの受容体の機能を弱めるような
薬剤を意図的に投与することがあります。
それを「アンタゴニスト」と呼びます。
しかし、
Ricardo A. Fernandes氏らの指摘によれば、
このような細胞内外の信号を受容体にリガント(薬剤)を
結合させることで「継続的に」弱めることは
想像以上に難しいことであるといわれています。
それは、リガンド(配位子)が結合した後に
それを補償するような信号は生じることがあるからです(1)。
そこでフォスファターゼと呼ばれる
基質(受容体)を加水分解する脱リン酸化酵素を
補強すること(phosphatase recruitment (RIPR))で
細胞表面の受容体の信号を弱める
代替のアプローチを示しています(1)。
この脱リン酸化酵素RRIPは、2つの受容体を
架橋するように連結結合します(cis-ligation)。
従って、双特異性を持ちます(bi-specific)。
この脱リン酸化酵素RIPRはチロシン活性の受容体の
結合面に特異性を持つのでPD-1受容体に結合します。
それに加えてCD45という受容体にも特異的に結合します。
(参考文献(1) Fig 2(a)参照)
PD-1は免疫細胞であるT細胞の活性化を抑制する
免疫チェックポイント阻害の標的となる受容体ですが
それとCD45を脱リン酸化酵素RRIPによって連結する
ことで従来の抗PD1抗体とよりも信号の抑制が
強化されたことを示しています(1)。
従って、脱リン酸化酵素RRIPは
2つの受容体に特異的親和性を持つように設計されています。
このCD45というのは免疫細胞を含むリンパを起源とする
全ての細胞に見つかっている
チロシンのリン酸化を活性化させるものです(2)。
従って、免疫細胞を標的とするときに
PD-1とセットで特異性を示す対象としての
選択として適していると考えられます。
加えて、
このCD45は大きな細胞外ドメインを持つ(1)ので
そこに結合させる配位子が特異的親和性を持つように
設計しやすい受容体です。
薬理的な効果としては
この脱リン酸化酵素RRIPを結合させることで
CAR-T細胞の機能を高めたり、
(参考文献(1) Fig 2(h)(i)参照)
癌細胞を退行させたりする効果がありました(1)。
※ただし、試験管(in vitro)の結果

この脱リン酸化酵素RRIPは広く免疫細胞に発現されている
チロシン活性の受容体に親和性を持っているので
例えば、食作用のあるマクロファージに作用させる
事もできます(1)。
従って、癌の免疫療法など、課題が多い治療戦略において
多面的な有効性を示す可能性があります。
例えば、
この双特異性を示す(bi-specific)リガントは
T細胞の活性化だけではなく、
B細胞(4)、マクロファージ(1)、NK細胞(3)など
多くの免疫系の細胞種に対して
その機能を調整するために応用できる可能性があります。

/細胞特異的輸送系統に対する応用について/
このように2か所でアンカーさせることは
足場が二つある事を意味し、
結合安定性を高めるものであると考えられます。
従って、
狙った生理機能を持たせた物質を中に封入したナノ粒子を
細胞特異的に輸送する際において
2つの受容体に同時に結合するような設計をすることで
より選択性を上げる事ができると思います。
例えば、片方しか受容体が存在しない場合と
両方受容体が存在する場合における
特異的親和性が大きく異なれば、
それによって特異性、選択性が高まります。
また、標的とする細胞
例えば悪性度の強い転移性の癌細胞に
特異的な受容体を探す場合において
「1つだけ」の特異的受容体を探すよりも
「2つ、3つのセットで」特異的受容体を探すほうが
その癌細胞だけの特徴を洗い出しやすい可能性もあります。
このように複数の受容体を視野に入れて
特異的なアンカーを探していく事は
細胞特異的輸送系統の可能性を広げるものである
と考えています。

以上です。

(参考文献)
(1)
Ricardo A. Fernandes, Leon Su, Yoko Nishiga, Junming Ren, Aladdin M. Bhuiyan, Ning Cheng, Calvin J. Kuo, Lora K. Picton, Shozo Ohtsuki, Robbie G. Majzner, Skyler P. Rietberg, Crystal L. Mackall, Qian Yin, Lestat R. Ali, Xinbo Yang, Christina S. Savvides, Julien Sage, Michael Dougan & K. Christopher Garcia 
Immune receptor inhibition through enforced phosphatase recruitment
Nature (2020)
(2)
Tonks, N. K. 
Protein tyrosine phosphatases: from genes, to function, to disease. 
Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 7, 833–846 (2006).
(3)
Olaf Gross et al.
Multiple ITAM-coupled NK-cell receptors engage the Bcl10/Malt1 complex via Carma1 for NF-κB and MAPK activation to selectively control cytokine production
Blood. 2008 Sep 15; 112(6): 2421–2428.
(4)
Leo D Wang and Marcus R Clark
B-cell antigen-receptor signalling in lymphocyte development
Immunology. 2003 Dec; 110(4): 411–420.

0 コメント:

コメントを投稿

 
;