2020年10月17日土曜日

急性骨髄性白血病の腫瘍形成促進遺伝子変異標的CAR-T免疫治療

新型コロナウィルスのワクチンのタイプとして
RNAをナノ粒子の中に詰め込んだものがあります。
そのRNAは新型コロナウィルス粒子の表面にある
エントリー受容体と結合するSタンパク質を
ナノ粒子表面に発現するように設計されています。
日本と供給の契約を結んでいる
アメリカの製薬会社のファイザー社(さん)がその一つです。
そのワクチンにおいて、
Sたんぱく質をフルサイズで実現し
配座がより安定するように作り替えたものの
ワクチンの治験結果も報告されています(1)。
このようにナノ粒子をデブリなどの付着を防いで
かつ膜表面に発現するタンパク質を
自由度を持って設計できる技術は、
思い描く細胞特異的輸送系統の
実現を近づけるものだと考えています。
新型コロナウィルスでモノクローナル抗体を生み出す
という薬理技術は一般化して認知されましたが、
このような構想は従来のインフルエンザでもそうですし、
感染性ではない病の治療でも採用されていることです。
従って、細胞表面にある受容体に親和性を持つように
働きかけるという観点は一つの共通的な治療戦略であります。
日本で亡くなられるケースが最も多い癌に関しては、
そのような薬理に対して逃れる機序が存在しており、
効果的な治療が日々模索されています。
その中で癌細胞に特異的に発現される受容体を使った
治療戦略というのは考えられてきました。
癌治療の中には免疫治療と呼ばれる
体が本来持つ癌細胞を攻撃する免疫能力を利用して
治療しようとする分野があります。
その免疫機能を担う免疫細胞であるT細胞を取り出して、
ウィルスなどを使って異なる遺伝子を
人工的にT細胞の中に挿入して、
癌細胞が特異的に発現している受容体に働きかけ
癌細胞だけを攻撃し、退行させるような機能を持たせる技術があります。
これをCAR-T細胞免疫療法と呼びますが、
初めてこの細胞を開発したのが
Yoshikazu Kuwana氏らのグループであり
1987年です。33年前です(2)。
この報告は藤田保険衛生大学(現:藤田医科大学)、東京大学、
協和発酵バイオ社(さん)、名古屋大学から発表されたものです。
この藤田医科大学はリバーセル社(さん)と
iPS細胞を使った新型コロナウィルスの治療を目指し
その中で汎用性キラーT細胞を利用するとあります。
おそらく上で述べたCAR-T細胞の研究成果の積み上げが
この新型コロナウィルスの治療の中で生かされるものである
と理解しています。
このキメラ抗原受容体を使った技術は
設計図である遺伝子をT細胞内に入れることによって
任意の受容体に結合する物質を細胞表面に作り出す技術です。
従って、
「病変部位を狙って治癒させる物質」を封入した
ナノ粒子の表面にその病変部位に存在する
細胞表面にある受容体特異的に結合する装飾因子を
遺伝子によって設計する構想は
このCAR-T細胞の技術、
あるいは冒頭で述べたナノ粒子RNAワクチンの技術と
非常に親和性が高いです。
ゆえに
これらの内容を含む過去の報告を調べることは意味を持ちます。

Guozhu Xie氏らは急性骨髄性白血病の治療を目指し
マウスのモデルで癌組織が特異的に持つ
遺伝子変異の結果として生まれたエピトープである
タンパク質から成る「nucleophosmin neoepitope」(AIQ)
を標的としました(3)。
このエピトープは急性骨髄性白血病に罹患した
患者さんの35%で観られるものであるとされています(6-8)。
この遺伝子変異は腫瘍形成を推し進める遺伝子変異であり
悪性腫瘍の表現型(生理機能)を維持するために必要な改変ですから、
それを標的にしたとしても、それを回避するような
後天的改変が起こりにくいとされています(4,5)。
従ってキメラ抗原受容体の標的として安定的であり
適していると考えられます。

CAR-T細胞によって
その急性骨髄性白血病に特異的に表れる
ネオエピドープに結合するようにレンチウィルスベクターを使って、
遺伝子をT細胞内に導入しました。
表面に設計し、作製されたscFv(single-chain variable fragment)が
どのような層構造を持って結合しているか図示されています。
CAR部分は表面をscFvとして4層構造になっています。
(参考文献(3) Fig.3(a)(b)参照)

このscFvを発現する酵母を使って(9)、
AIQネオエピトープとの結合親和性を調べた結果
高い特異的親和性が認められました(3)。

これらのネオエピトープに特異的に結合するように
設計されたCAR-T細胞に対する
このネオエピトープを活性に持つ
急性骨髄性白血病細胞に対して
マウス由来の細胞に対しての試験管、生体内での抗がん効果
人由来の細胞に対して試験管、
それをマウスに移植した時の(xenograft)の抗がん効果が
共に認められたとされています(3)。

またこのAIQエピトープを標的とすることは、
通常細胞を攻撃することはなく(少なく)(3)、
上手く人に適用できたときには副作用の少ない
治療方針に繋がる可能性があります。

今回の研究結果においてscFvを表面装飾したCAR-T細胞は
ターゲットにおける親和性は7nMと非常に高かったのですが、
(このレベルはT細胞のMHC受容体に対する親和性の10~100倍)
このように親和性が高い場合、良い効果だけではなく
T細胞の場合には栄養失調の状態である
T cell exhaustionを促進したり、
それによってT細胞が細胞死することも挙げられています(10)。
逆に、薬剤輸送系統の場合には、
仮に細胞の中に放出したい物質を入れた時には
その細胞の膜が壊れてくれることが望ましいので
このT細胞が親和性が高い状態で癌細胞に結合した時に
細胞死が誘発されるかもしれない機序が
胞を分解させるシステムのヒントになる可能性もあります。

以上です。

(参考文献)
(1)
Edward E. Walsh, M.D., Robert W. Frenck, Jr., M.D., Ann R. Falsey, M.D., Nicholas Kitchin, M.D., Judith Absalon, M.D., Alejandra Gurtman, M.D., Stephen Lockhart, D.M., Kathleen Neuzil, M.D., Mark J. Mulligan, M.D., Ruth Bailey, B.Sc., Kena A. Swanson, Ph.D., Ping Li, Ph.D., Kenneth Koury, Ph.D., Warren Kalina, Ph.D., David Cooper, Ph.D., Camila Fontes-Garfias, B.Sc., Pei-Yong Shi, Ph.D., Özlem Türeci, M.D., Kristin R. Tompkins, B.Sc., Kirsten E. Lyke, M.D., Vanessa Raabe, M.D., Philip R. Dormitzer, M.D., Kathrin U. Jansen, Ph.D., Uğur Şahin, M.D., and William C. Gruber, M.D.  
Safety and Immunogenicity of Two RNA-Based Covid-19 Vaccine Candidates
The New England Journal of Medicine  October 14 2020
(2)
Kuwana Y, Asakura Y, Utsunomiya N, Nakanishi M, Arata Y, Itoh S, Nagase F, Kurosawa Y (February 1989). 
Expression of chimeric receptor composed of immunoglobulin-derived V regions and T-cell receptor-derived C regions. 
Biochem Biophys Res Commun. 149 (3): 960–968. 
(3)
Guozhu Xie, Nikola A. Ivica, Bin Jia, Yingzhong Li, Han Dong, Yong Liang, Douglas Brown, Romee Rizwan & Jianzhu Chen 
CAR-T cells targeting a nucleophosmin neoepitope exhibit potent specific activity in mouse models of acute myeloid leukaemia
Nature Biomedical Engineering (2020)
(4)
Blankenstein, T., Leisegang, M., Uckert, W. & Schreiber, H. 
Targeting cancer-specific mutations by T cell receptor gene therapy. 
Curr. Opin. Immunol. 33, 112–119 (2015).
(5)
Van der Lee, D. I. et al. 
Mutated nucleophosmin 1 as immunotherapy target in acute myeloid leukemia. 
J. Clin. Invest. 129, 774–785 (2019).
(6)
Ley, T. J. et al. 
Genomic and epigenomic landscapes of adult de novo acute myeloid leukemia. 
N. Engl. J. Med. 368, 2059–2074 (2013).
(7)
Papaemmanuil, E. et al. 
Genomic classification and prognosis in acute myeloid leukemia. 
N. Engl. J. Med. 374, 2209–2221 (2016).
(8)
Falini, B. et al. 
Cytoplasmic nucleophosmin in acute myelogenous leukemia with a normal karyotype. 
N. Engl. J. Med. 352, 254–266 (2005).
(9)
Chao, G. et al. 
Isolating and engineering human antibodies using yeast surface display. 
Nat. Protoc. 1, 755–768 (2006).
(10)
Watanabe, K., Kuramitsu, S., Posey, A. J. & June, C. H. 
Expanding the therapeutic window for CAR T cell therapy in solid tumors: the knowns and unknowns of CAR T cell biology.
Front. Immunol. 9, 2486 (2018).

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