2020年10月28日水曜日

再生医療とオートファジーの相性と小胞発生機構

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

日本はiPS細胞技術、医療応用の発展のために
多くの時間、資金を投資してきました。
またそれに関わる多くの関係者の方がいます。
その投資してきた資源をより有効にするために
この細胞特異的輸送系統と融合できないか
考えているところです。
いろんな専門家の方の意見を伺いたいところですが、
以下の事を想定しています。
-------
生体内で任意の狙った場所の細胞を
遺伝子ベクターを入れて初期化するときに、
この技術がつかえる可能性があります。
-------
iPS細胞技術で作ることができる任意の発達段階にある細胞を
ナノキャリアとして使うということも考えられます。
細胞は体に自然にあるものですから、
金属などのナノ粒子を体内に入れる場合に比べて
適している可能性があります。
-------
iPS細胞技術で作ったCAR免疫細胞を
運ぶ際に細胞特異的輸送系統がつかえる可能性があります。
CAR免疫細胞は今のところ血液の癌である
白血病の治療に使われる事が多く、
固形の癌には適用が現状では難しいとされています。
それは安定的な病変部位への供給が難しいとされているからです。
-------
患者さんから取り出した免疫細胞を
iPS細胞の技術で初期化して、それを培養、数を増やして
体内に投与するときにより病変部位へ有効に運ぶために
この技術がつかえる可能性があります。
-------

一番初めに述べた技術を含めて
iPS細胞の一つの柱は「再生医療」です。
損傷を受けた臓器、組織を再生することが
その目的の一つとしてあると理解しています。
もちろん臓器そのものを作る研究もあります。
実際にメディアで患者さんの心臓に
iPS細胞技術で作った組織シートを移植する
手術を拝観したことがあります。
そのような「部分修復」が目指す治療の一つである
と理解しています。
しかし、それを様々な臓器の
癌化、老化、線維化、炎症など
様々な不全である状態の組織、細胞の状態において
より汎用的に適用するためには
その基礎的な生理を詳しく理解する必要があります。
その臓器を再生する際に
生理の理解として必要になると考えているのが
iPS細胞で作った質の良い組織が免疫細胞などを誘発して、
古い不全となった細胞、あるいは蓄積したタンパク質を
排除してくれる必要があります。
その時に不可欠になるのが「オートファジー」です。
食作用といわれます。
そのオートファジーは大隅良典先生が1992年に
出芽酵母でのオートファジーを初めて観察されました(1)。
従って、日本に共に所縁のある
iPS細胞、オートファジー現象の
少なくとも再生医療に関する相性は非常に良い
と理解しています。

本日はそのオートファジー現象の根幹をなす機序について
明らかにされた2つの報告を中心に
読者の方と情報共有したいと思います(2,3)。

細胞内では何万種類というたんぱく質が
遺伝子の設計に従って作られます。
その工場となる場所がリボソームと呼ばれる細胞内器官です。
「迷路のような粗面小胞体に」付着している粒子です。
そこで作られたタンパク質に対して細胞内で
いろんな物質と相互作用する中で不要となったもの
あるいは細胞外から取り込んで消化したいものも存在します。
タンパク質の生成、消滅というサイクルを回さないと
細胞内にはどんどんタンパク質が蓄積していくことになるので
私たちが食べ物を食べて、尿や糞便として排出するように
不要なものを消化、分解して放出する機構が必要です。
その消化、分解をする細胞小器官がリソソームと呼ばれ、
細胞質の中に小胞として存在します。
その時にタンパク質が直接的にリソソームに
食されるプロセスがあるかもしれないですが(?)
もう一つの経路として、
細胞質(細胞内の空間、部屋)にある
不要なたんぱく質がリン酸脂質膜に覆われ
オートファゴソームと呼ばれる小胞の中に包まれて
それがリソソームと融合して
リソソーム内にある加水分解酵素によって
タンパク質が分解されるものがあります。
------
その分解された物質は
どのような機序で細胞外へ排出されるのでしょうか?
それは最終的には糞便、尿として排出されるのでしょうか?
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このようにオートファゴソームという自食胞を作るためには
胞子として覆うリン酸脂質2重膜をどこかから引き寄せて
タンパク質を囲むように形成する必要があります。
その際にその伝搬役となる物質が必要です。
Kazuaki Matoba氏ら(2)の報告によると、
Atg2と呼ばれるたんぱく質が
細胞核の周りにある「迷路のような」構造の小胞体から
リン酸脂質を受け取って(5-8)、それを(適切な位置に?)運び
Atg9というこれから形成する
細胞膜を貫通するタンパク質によって
細胞質側から胞子内(内腔)に向かって
リン酸脂質を転座させ、構造化します。
そのような細胞膜の建築屋を
「新規脂質:スクランブラーゼ(Scramblase)」
と呼びます。
このAtg9は「玉ねぎのかけら」のような
多層の構造からなる細胞内小器官であるゴルジ体由来の
小胞によって小胞体近くから運ばれます(9-22)。
そのAtg9の構造について低温電子顕微鏡で
詳しく調べられています。
さらにShintaro Maeda氏らはAtg9タンパク質に絞って
その詳細な構造について報告しています(3)。
その構造において、
酵母のAtg9はホモトリマー(同型3量体)であり、
そこに2つの小さな穴があります。
それが脂質2重層を形成するための経路になっている
と考えられています(2,3)。
加えて、
この穴は開いたり、閉まったりすることが可能で
それによって構造の制御を(何らかの信号を受けて)
行っているものであると考えられます。
(参考文献(3) Fig3(a) Fig.5(a)(b)参照)
この穴はAtg9が特異的に持つものであると言われています(2)。
また、
Atg9がスクランブラーゼと呼ばれる所以は
細胞膜の材料となるリン酸脂質を一方向ではなく
二方向に動かせることができるからです(2)。
リン酸脂質の「運び屋」であるAtg2と
細胞膜の「建築屋」であるAtg9は
隣り合うように存在しています。
(参考文献(2) Fig.1(a) Fig.5(d)参照)
その中でリン酸脂質を受け渡ししていて
実際にAtg9が細胞膜を組み立てていきます。
その時に、
Atg9の左側と右側両方から組み立てることができる
ことが上述した「二方向」であり、
その概念が「スクランブラーゼ」ということになります。
-------
※スクランブル交差点という言葉がありますが、
多方向に交差していることから一方向ではないということで
「スクランブ」ラーゼという命名になったのではないか?
と考えています。
--------
参考文献(2)Fig.1(a)からわかるように
オートファゴソーム(小胞)の脂質2重層の構造は
「リボン、てるてる坊主のような」構造が
上下さかさまに重を成して並んでいるような構造です。
従って、それを形成する際には
内側の部分は反転させる必要がありますが。
それはリボンの頭の部分と
上述したAtg9の穴の部分で
共に親水性担っていて、穴の(側壁に?)
溝が形成されていてそれでうまく反転するような
経路ができているようです(2,3)。

このようなリン酸脂質が小胞体から任意の場所に
どのような駆動力(エネルギー)を得て
運ばれているか?というのはわかっていないようです。
アデノシン三リン酸(ATP)であるエネルギーは
Atg2とAtg9は利用していないとされているので
他のリン酸脂質を任意の場所に動かす動力が
必要であると考えられています(2)。

また
オートファジーの生理が不全になると
感染症、神経変性、癌などの疾患の原因となる
と言われています(23,24)。
そのオートファジーの活性を決める要素の
一つとしてAtg9があります。
この小胞の膜形成の役割を果たすAtg9が
変位するとその活性は落ちるといわれています。
その中で
・triple-leucine  mutation (M8:  K321L  R322L E323L) 
これはオートファジー活性を20%程度低下、
・ pore mutation (M32: M8 + M26 (T412W); M33: M8 + M28 (T419W)) 
これはオートファジー活性を50%程度低下、
という「試験管での」結果になっています(3)。
従って、膜を形成する際において重要な役割を果たす
上述したAtg9の穴(小孔)において
構造的な変異があると膜の形成が上手くいかず(?)
オートファジー活性が落ちて、不要なたんぱく質が
蓄積しやすい状態になる可能性が考えられます。
また、
ATG9Aが発現されている細胞では
「バルーン、風船のような形の」小胞が
0.5~1 µmのサイズで形成されていますが。
その大きさにはバラつきがあります
(参考文献(3) Fig.4(d)WTの写真、(e)オレンジの棒グラフ参照)
この大きさもタンパク質消化能力に関係がある
可能性も考えられます。
あともう一つは、
参考文献(2)Fig.5からわかるように
小胞体に結合しているAtg2タンパク質に
連結(テザリング)される必要があります(3)。
その時の結合親和性がオートファジーの活性の一つの
要因となる可能性もあります。

オートファジーは「細胞内の」食作用の事をいわれます。
ここで想定しているのは、
iPS細胞で作られた質の良い組織、あるいは細胞群が
その「細胞外にある」
癌化、炎症、老化、線維化などの劣化した患部を
分解してくれるか?ということです。
その際、
「細胞外の」余計なタンパク質を取る必要があります。
コラーゲンなどの線維は
細胞表面にあるインテグリンを介して
食作用(ファーゴサイトーシス)によって
細胞内に取り込まれるといわれています(4)。
従って、余計なたんぱく質が細胞に食された後
細胞内で上のオートファジーの機序に従って
分解されるという2段階の経路が想定されます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Takeshige K, Baba M, Tsuboi S, Noda T, Ohsumi Y 
Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-deficient mutants and conditions for its induction. 
The Journal of Cell Biology. 119 (2): 301–11.(October 1992). 
(2)
Kazuaki Matoba, Tetsuya Kotani, Akihisa Tsutsumi, Takuma Tsuji, Takaharu Mori, Daisuke Noshiro, Yuji Sugita, Norimichi Nomura, So Iwata, Yoshinori Ohsumi, Toyoshi Fujimoto, Hitoshi Nakatogawa, Masahide Kikkawa & Nobuo N. Noda 
Atg9 is a lipid scramblase that mediates autophagosomal membrane expansion
Nature Structural & Molecular Biology (2020)
(3)
Shintaro Maeda, Hayashi Yamamoto, Lisa N. Kinch, Christina M. Garza, Satoru Takahashi, Chinatsu Otomo, Nick V. Grishin, Stefano Forli, Noboru Mizushima & Takanori Otomo 
Structure, lipid scrambling activity and role in autophagosome formation of ATG9A
Nature Structural & Molecular Biology (2020)
(4)
Everts, V., van der Zee, E., Creemers, L. and Beertsen, W. 
Phagocytosis and intracellular digestion of collagen, its role in turnover and remodelling. 
Histochem. J. 28, 229-245. (1996). 
(5)
Osawa, T. et al. 
Atg2 mediates direct lipid transfer between membranes for autophagosome formation. 
Nat. Struct. Mol. Biol. 26, 281–288 (2019).
(6)
Valverde, D. P. et al. 
ATG2 transports lipids to promote autophagosome biogenesis. 
J. Cell Biol. 218, 1787–1798 (2019).
(7)
Maeda, S., Otomo, C. & Otomo, T. 
The autophagic membrane tether ATG2A transfers lipids between membranes. 
Elife 8, e45777 (2019).
(8)
Osawa, T., Ishii, Y. & Noda, N. N. 
Human ATG2B possesses a lipid transfer activity which is accelerated by negatively charged lipids and WIPI4. 
Genes Cells 25, 65–70 (2020).
(9)
Yamamoto, H. et al. 
Atg9 vesicles are an important membrane source during early steps of autophagosome formation. 
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(10)
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Trends Biochem. Sci. 45, 484–496 (2020).
(11)
Orsi, A. et al. 
Dynamic and transient interactions of Atg9 with autophagosomes, but not membrane integration, are required for autophagy. 
Mol. Biol. Cell 23, 1860–1873 (2012).
(12)
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