2020年10月13日火曜日

GD2標的CAR-T細胞による網膜芽種の免疫療法

病変部位を治癒するような生理機能を持った物質(※)
(※薬剤に限らない)
をナノ粒子の中に封入して
病変部位に存在する細胞や蓄積したタンパク質などの
組織に特異的に輸送するシステムにおいて、
細胞の表面に標的組織「だけ」が持っている
結合部位を見つけだし、その特異的結合部位に高い親和性を持つ
装飾因子をナノ粒子の中に(遺伝子操作によって(?))
作り出すことが考えられます。
これに似た発想はすでに世の中に存在し、
例えば、
「キメラ抗原受容体T細胞(CAR-T細胞)」というのがあります。
これはT細胞の表面に遺伝子操作を行うことによって
特異的に抗原認識できるような受容体を
細胞表面に作り出すことです。
その製造方法の一つとして、細胞内に任意のウィルス
をいれるというものがあります。
これで癌細胞に特異的に発現している受容体を認識し
免疫療法の効率を上げようと試みられています。
しかし、
移植片対宿主病という、いわゆる「拒絶反応」が起こり
細胞外の受容体に結合、刺激することで
余剰な免疫機能を誘発してしまうことがあります。
細胞特異的輸送系統では、
その細胞外に出ている結合部位を選び出す際に
このような拒絶反応が起こりにくい部位を探す必要があります。
CAR-T細胞の場合はその受容体を作り出した免疫細胞自体が
病気を治療するような免疫機能を持つ必要がありますが、
この細胞特異的輸送系統の意図するところは、
その中に封入された物質を運ぶことです。
従って、
「特異的に強固に結合する」ということが優先されます。
言い換えれば、特に生理機能に寄与しない
特異的な結合部位でも良いということです。
このように、すでに生体外で
特異的な受容体を細胞に作り出す技術はCAR-T細胞にはあり、
また、それに対する生体の反応についても
多く報告されているので、
それについて調べることは意味を持ちます。

このCAR-T細胞を使った治療は
難治性の癌に対して有効だと考えられています。
ただ、確実性の高い輸送系統の確立が難しく
特定の位置に血管外も含めて
繰り返しアクセスする必要がある
固形癌については課題が山積されていると言われてます(1)。
この難治性腫瘍のうち、
網膜芽腫と呼ばれる腫瘍は
眼球内の網膜上に形成される腫瘍です。
一般的に子供に診られやすい癌で
年齢がさらに若くなり幼児になると
亡くなられるケースも多い癌です(1)。
治療においても場合によれば、眼球を除去する必要があり
それによって視力を失ってしまいます。
両目にできるケースも多く(1)、
両方の視力を失ってしまうことになります。
眼球を取り除くことに対する外見上の問題と
視力の喪失という問題、
さらには残された長い人生を考えると
予後の心のケアも当然必要になります。
その中で視力を失わず、眼球の切除を要しないような
副作用の少ない治療が望まれます。
眼球を残す治療としては、
目の動脈を通して抗がん剤を注入して治療する方法です。
これにより視力を失うことなく助かるケースもあります(3)。
しかしながら、このような化学療法
あるいは放射線療法の場合には、
それに付随して悪性腫瘍ができるケースがあり(1)、
より副作用の少ない治療が望まれています。
※他の従来の治療方法として、
凍結療法、温熱療法があります(2)。

そこで白羽の矢が立ったのが
この「CAR-T細胞を使った免疫療法」です。
このCAR-T療法は、急性リンパ性白血病、
つまり血液の癌について最も有効な療法の一つとして
挙げられています(9)。
血液内にあるので固形癌に比べて
細胞方式での輸送において向いているからです。

そのキメラ抗原受容体として、
網膜芽腫だけに過剰に発現されている(2)
GD2タンパク質を標的とし、その受容体を認識するように
T細胞の受容体を改変した療法が報告されています。
さらに、Kai Wang氏らは、
このCAR-T細胞を
キトサン-ポリエチレングリコールからなる
ヒドロゲルというゼリー状の材料の中に組み込んで
保護しながら、網膜上の腫瘍まで
特異的に輸送する系統を考案し、
マウスによって適用、報告しています(2)。
またこのCAR-T細胞にIL-15という
免疫機能を誘発し、細胞の増殖を促進する
サイトカインを放出する能力を加え、
より持続的な免疫機能の発揮を促しました(2)。
(参考文献(1) Fig.1参照)

このGD2タンパク質を標的としたCAR-T細胞による
免疫療法は、前臨床段階として
神経芽細胞腫、非上皮性悪性腫瘍(肉腫)、
メラノーマ、乳がん、特定の神経膠腫に対して
研究されてます(4-8)。

Kai Wang氏らは、この治療システムにおいて
マウスの視力を失うことなく
網膜芽腫の除去をGD2 CAR-T免疫療法によって
実現しました(2)。

このCAR-T細胞をどのように輸送したか?
網膜下の注入のために
腫瘍組織内に直接10^6個の細胞を接種しました。
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より腫瘍に近いところからのアクセスなので
人に対して適用するときにそれが可能かどうか?
という点が一つ気になるところです。
また、保護したとしても
通常の静脈注射などでナノ粒子を輸送する際においては
そこから離れた病変部位に特異性を持たせるのは
体の大きな人においては障壁が高いことかもしれない
と推測しました。
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実験条件として
①治療なし
②CD19標的CAR-T細胞
③GD2標的CAR-T細胞
④GD2標的IL-15分泌CAR-T細胞
⑤ゲルあり治療なし
⑥ゲルありCD19標的CAR-T細胞
⑦ゲルありGD2標的CAR-T細胞
⑧ゲルありGD2標的IL-15分泌CAR-T細胞
⑨CD19標的IL-15分泌CAR-T細胞
のパターンで比較しています。
60日間の腫瘍組織の大きさを比較した結果
①、②、⑤、⑥、⑨では全てのケースで腫瘍組織は大きくなり
③、④、⑦では個体差があり、大きくなる個体もありました。
⑧では全個体腫瘍組織の増殖、成長はみられませんでした。
(参考文献(2) Fig.1(g)、Fig.2(d)、Fig.3(d)より)
従って
GD2タンパク質標的、IL-15、ヒドロゲル
3つの付加的な効果が段階的に確認されており、
すべて満たす条件で癌組織の成長阻止、退行が
期待できるということです。

現在、GD2を標的とした
CAR-T細胞、CAR-NK細胞の神経芽細胞腫に対する
臨床試験が始まっています。
(NCT03721068 and NCT03294954)
特にCAR-NK細胞においては
移植片対宿主病(拒絶反応)が出にくいといわれており、
実際にCD19を標的としたCAR-NK細胞の
急性リンパ性白血病の人に対する治験で
副作用がなく完全寛解が確認された
という報告もあります(10)。
従って、より安全性の高い細胞種の選択において
T細胞をNK細胞に置き換えるという案も
俎上に載るものだと考えます。

以上です。

(参考文献)
(1)
Anandani Nellan & Terry J. Fry 
Optimizing CARs for ocular delivery
Nature Cancer (2020)
(2)
Kai Wang, Yuhui Chen, Sarah Ahn, Min Zheng, Elisa Landoni, Gianpietro Dotti, Barbara Savoldo & Zongchao Han 
GD2-specific CAR T cells encapsulated in an injectable hydrogel control retinoblastoma and preserve vision
Nature Cancer (2020)
(3)
Abramson, D. H., Francis, J. H. & Gobin, Y. P. 
Int. Ophthalmol. Clin. 59, 87–94 (2019).
(4)
Chen, Y. et al. 
Clin. Cancer Res. 25, 2915–2924 (2019).
(5)
 Long, A. H. et al. 
Cancer Immunol. Res. 4, 869–880 (2016).
(6)
Gargett, T. et al. 
Mol. Ther. 24, 1135–1149 (2016).
(7)
Pule, M. A. et al. 
Nat. Med. 14, 1264–1270 (2008).
(8)
Mount, C. W. et al. 
Nat. Med. 24, 572–579 (2018).
(9)
Maude, S. L. et al. 
Chimeric antigen receptor T cells for sustained remissions in leukemia. 
N. Engl. J. Med. 371, 1507–1517 (2014).
(10)
Enli Liu, M.D., David Marin, M.D., Pinaki Banerjee, Ph.D.,Homer A. Macapinlac, M.D., Philip Thompson, M.B., B.S., Rafet Basar, M.D., Lucila Nassif Kerbauy, M.D., Bethany Overman, B.S.N., Peter Thall, Ph.D., Mecit Kaplan, M.S., Vandana Nandivada, M.S., Indresh Kaur, Ph.D., Ana Nunez Cortes, M.D., Kai Cao, M.D., May Daher, M.D., Chitra Hosing, M.D., Evan N. Cohen, Ph.D., Partow Kebriaei, M.D., Rohtesh Mehta, M.D., Sattva Neelapu, M.D., Yago Nieto, M.D., Ph.D., Michael Wang, M.D., William Wierda, M.D., Ph.D., Michael Keating, M.D., Richard Champlin, M.D., Elizabeth J. Shpall, M.D., and Katayoun Rezvani, M.D., Ph.D.  
Use of CAR-Transduced Natural Killer Cells in CD19-Positive Lymphoid Tumors
The New England Journal of Medicine 2020; 382:545-553

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