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今、新型コロナウィルスの治療で世界的に使われている
治療薬として、細胞内でのウィルスの増殖を防ぐ事が
想定されるレムデシビル、
免疫暴走を防ぐステロイド系抗炎症剤である
デキタメタゾンがありますが、
レムデシビルはエボラ出血熱の治療のために開発され、
デキタメタソンは自己免疫疾患や
アレルギー性疾患などの際に使用されます。
日本では特に後者のデキタメタゾンの使用に関しては
「重症の」患者さんにおいて強く推奨されると評価されています。
その他、軽症ではアビガンなども使われています。
これらは全て従来、他の疾患の治療において承認済みのものであり
新型コロナウィルス治療のために転用したものです。
このような仕組みはリパーポス(repurpose)と呼ばれます。
すでに人での副作用の程度は確認できているので、
リスクとベネフィットの天秤にかけることができます。
重症の患者さんでは効果が確認される薬を
積極投与されることが勧められます。
しかし、
薬は薬価の問題、あるいは安定供給の問題がある事
あるいは薬効の程度などを考えると(4)、
リパーポスをさらに進めていく余地は残されています。
そこで世界的に有効な薬がないか
鋭意、調査されています。
Shuofeng Yuan氏らは、金属を含む薬である(Metallodrug)
ラニチジンクエン酸ビスマス(ranitidine bismuth citrate)が
「ゴールデンハムスター(※人ではない)」において
新型コロナウィルスの増殖を防ぎ、
ウィルスに付随した肺炎の症状を緩和したという
報告を上げています。
このラニチジンクエン酸ビスマスは、
ヘリコバクターピロリ感染の治療に広く使われるもの(1)で
胃のヒスタミンH2受容体に拮抗作用を持つものです。
この薬の安全性は広く確認されています(5)。
もともとビスマスは細菌の増殖サイクルに
多元的に作用し、抗菌性を示すことが知られてます(7)。
従って、ウィルスの細胞内での増殖サイクルを擾乱し、
増殖を抑制する作用があっても不思議ではありません。
試験管内の結果ではウィルス遺伝子(RNA)の膜(パッケージ)
を形成する生物モーター役として作用すると考えられている
アデノシン三リン酸加水分解酵素(ATPase)(2)と
複製のための開始部位であるDNAの巻き戻し(DNA-unwinding)(3)
において高い抑制機能を示しました(1)。
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ATPase IC50=0.69μM (半数減少必要用量)
DNA-unwinding IC50=0.70μM
------
この作用機序は、金属であるビスマスイオンによる
酵素(触媒効果)によって亜鉛イオンが不可逆に転座
し新型コロナウィルスのヘリカーゼ
(遺伝子を切断する酵素)の作用を抑制したこと
が挙げられています(1)。
この亜鉛イオンはコロナウィルス粒子の
非構造的タンパク質(nonstructural protein)内に
含まれているといわれています(6)。
ラニチジンクエン酸ビスマスの試験管内の試験では
猿の腎臓の細胞(Vero E6 cells)/人の腸の細胞(CaCo-2 cells)
について細胞内でのウィスルの量の変化を調べています。
特に人の腸の細胞では効果が高く
少量から2桁から3桁ほど薬を投与しなかった場合に比べて
ウィルスの量が少なくなっている事がわかりました。
(参考文献(1) Fig.1(b)(f)より)
ラニチジンクエン酸ビスマスの
ゴールデンハムスターによる生体内の試験では
PCRによってレムデシビルと比較した結果では
鼻と肺のウィルス滴定量は平均して少ないことがわかりました。
(参考文献(1) Fig.3(a)より)
また薬を一種類だけに頼るだけではなく
併用療法の利点も指摘されています。
例えば、
lopinavir/ritonavir/ ribavirinの併用療法では
lopinavir/ritonavirだけによる治療よりも
迅速な抗ウィルス性、臨床改善が見られました(8)。
ウィスルのライフサイクルは
免疫作用、細胞内への浸入、ウィルス膜破壊、
RNAと細胞内物質の相互作用、増殖、
膜形成、膜からの脱出など
様々な過程によって成り立ちます。
それら複雑な機序な中で薬剤が関与できる経路は
多くありますから、その薬理が異なる薬剤を
併用することはメリットを持つ場合もあると考えられます。
今回ビスマス金属が含まれ、安全性が担保されている
ラニチジンクエン酸ビスマスの効果が
「ハムスター」ですが確認されています。
今後、人に対する効果を確認できたときには、
今の治療薬との併用も含めて検討されるものだと考えます。
以上です。
(参考文献)
(1)
Shuofeng Yuan, Runming Wang, Jasper Fuk-Woo Chan, Anna Jinxia Zhang, Tianfan Cheng, Kenn Ka-Heng Chik, Zi-Wei Ye, Suyu Wang, Andrew Chak-Yiu Lee, Lijian Jin, Hongyan Li, Dong-Yan Jin, Kwok-Yung Yuen & Hongzhe Sun
Metallodrug ranitidine bismuth citrate suppresses SARS-CoV-2 replication and relieves virus-associated pneumonia in Syrian hamsters
Nature Microbiology (2020)
(2)
Brendan J. Hilbert, Janelle A. Hayes, Nicholas P. Stone, Caroline M. Duffy, Banumathi Sankaran, and Brian A. Kelch
Structure and mechanism of the ATPase that powers viral genome packaging
PNAS July 21, 2015 112 (29) E3792-E3799
(3)
Kowalski D, Eddy MJ
The DNA unwinding element: a novel, cis-acting component that facilitates opening of the Escherichia coli replication origin.
The EMBO Journal. 8 (13): 4335–44 (December 1989).
(4)
Wang, Y. et al.
Remdesivir in adults with severe COVID-19: a randomised, double-blind, placebo-controlled, multicentre trial.
Lancet 395,1569–1578 (2020).
(5)
Pipkin, G. A., Mills, J. G., Kler, L., Dixon, J. S. & Wood, J. R.
The safety of ranitidine bismuth citrate in controlled clinical studies.
Pharmacoepidem. Drug Safe. 5, 399–407 (1996)
(6)
Baez-Santos, Y. M., St John, S. E. & Mesecar, A. D.
The SARS-coronavirus papain-like protease: structure, function and inhibition by designed antiviral compounds.
Antiviral Res. 115, 21–38 (2015).
(7)
Li, H. & Sun, H.
Recent advances in bioinorganic chemistry of bismuth.
Curr. Opin. Chem. Biol. 16, 74–83 (2012).
(8)
Hung, I. F.-N. et al.
Triple combination of interferon beta-1b, lopinavir-ritonavir, and ribavirin in the treatment of patients admitted to hospital with COVID-19: an open-label, randomised, phase 2 trial.
Lancet 395, 1695–1704 (2020).
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