2021年3月21日日曜日

腎臓と急性腎障害の生理、病理、SARSとの関連

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

日本腎臓学会の2020年5月1日の声明によれば
新型コロナウィルスと急性腎障害の疫学的な関連において
新型コロナウィルス発症を引き金に急性腎障害が起こりやすい
という明確な科学的なデータ示されていない
とされています。
しかし、急性腎障害と新型コロナウィルスが
結果的に併存している状態での肺炎患者の死亡率は、
合併していない場合と比べて有意に高かったとされています。
一方、2020年10月15日に発表された国際的な合意声明によれば
新型コロナウィルスの感染後の腎臓の関与は
従来から考えられてきたよりもより共通的で
症状の重症化、あるいは救命に関わるとされています。
冒頭述べた急性腎障害発症のリスクについては
地域ごとにバラツキ、偏差があり疫学的に
明確に差異を示す証拠は同様にありませんが、
併存、合併も含めた新型コロナウィルスと急性腎障害の
病理学的な関連は多元的で、複雑である可能性が示唆されています(2)。
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新型コロナウィルスにおいては
パルスオキシメーターによる血中酸素濃度のモニターをします。
血中濃度が下がってくれば救急車を呼ぶように指導されています。
従って、中等症、重症で入院される患者の少なくとも一部は
治療が行われる前に一時的に酸素不足に陥った可能性があります。
腎臓は酸素不足が起こった時に障害を起こしやすい臓器の一つであると考えられます。
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Holger Scholz, Felix J. Boivin, Kai M. Schmidt-Ot(敬称略)ら
ドイツの医療研究グループは急性腎障害の病理と感受性について
詳しく総括されています(1)。
上述した新型コロナウィルスとの関連を踏まえ
筆者の視点で追記しながら、その内容の一部を
読者の方と情報共有したいと思います。
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//概要//----------
急性腎障害の発症の原因は複数あると考えられています。
〇腎虚血
〇腎毒素への暴露
〇脱水
〇敗血症
これらを通じて組織が損傷し、遺伝子的に改変される
可能性が考えられています。
このような組織の損傷を示す組織形態的な改変は
エネルギーと酸素供給の間の繊細なバランスによって引き起こされます。
従って、新型コロナウィルス感染によって
肺の機能が損傷を受け、血中の酸素濃度が不足すると
腎臓のエネルギーと酸素のバランスが崩れる事が考えられ
機能に何らかの影響を与える可能性が考えられます。
腎臓の組織構造は
〇動脈、静脈などの血管(毛細血管、糸球体を含む)
〇尿管
〇皮質、髄質(腎乳頭、腎錐体、腎杯など)
これらがあります。
それぞれに多様な機能があり、機能を継続、
組織、細胞の恒常性を守るための代謝経路は異なります。
--
急性腎障害は腎臓酸素供給が損なわれる事と度々関連します。
なぜなら、全身に動脈を通して酸素を送り込む
心臓の出力の25%程度は腎臓に灌流されるからです(3)。
いくつかの腎臓の組織は酸素供給が不足した時に
補償的なシステムが働かず、嫌気性での代謝機能能力を
備えていないとされています。
従って、酸素の供給が滞ると、いくつかの腎臓の組織は
細胞サイクルが損なわれ損傷する事になります。
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//腎臓と酸素の関連//----------
腎臓は血管が皮質、髄質の中に多く張り巡らされていて
動脈から組織が栄養、酸素を取り込んで
静脈へ排出する経路において
血液を逆流させる事が必要になります。
そうした中で組織の微小な領域も含めれば
酸素濃度の偏差、バラつきが生じやすいとされています。
実際に参考文献(1)Box2の色で示されるように
血管、尿管の酸素分圧に各部位ごとに差があります。
腎臓の皮質であるS1, S2領域の組織、細胞は高い代謝レートがあり、
一定の酸素供給が必要であるとされています。
従って、血中が低酸素状態になると
腎臓の皮質は影響を受けやすいとされています。
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//腎臓と代謝//----------
腎臓は健常者、休息時においては臓器の中で最も高い
代謝レートを示すとされています(4)。
代謝レートが高い理由は腎臓の組織の細胞内の
ミトコンドリアの濃度が高いからです。
酸素の消費量と合わせて、心臓の次に高いとされています(5)。
腎臓は糸球体によって血液から老廃物を取り込んで、
尿管を通じて体外へ出すためのフィルターとして働きますが、
これらの機能を発揮するときに非常に多くのエネルギーを必要とします。
腎障害を持つ患者さんに対して透析をする場合
腎臓の一部の機能を医療介入によって肩代わりしますが、
患者さん自身のエネルギー消費が大きくなり
体重が減少する事があるため、食事管理などが大切になると考えられています。
また、透析に必要な機械的なエネルギーがどれくらいか?
このことが体内の腎臓で老廃物を仕分けする機能が
どれくらいエネルギーが必要かという一つの指針にもなると思います。
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腎臓の尿細管の上皮細胞の中にあるミトコンドリアは
アミノ酸、ケトン体、グルコース、脂肪酸、クエン酸塩など
多くの栄養素を取り込みTCAサイクルを回して
細胞の恒常性を保っていると考えられます。
(参考文献(1) Fig.1より)
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//低酸素から急性腎障害への経路//----------
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低酸素状態になると
低酸素誘発因子(HIF)活性化され
細胞核などにある遺伝子を装飾して遺伝子発現を改変します。
それにより低酸素状態に応じた細胞活動に変わります。
(参考文献(1) Fig.3aより)
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腎臓の尿細管などにある細胞はミトコンドリアを多く含んでいますが、
酸素不足によりストレスを受けると
運動、機能の源になるエネルギー供給を担うATPが不足し
炎症性サイトカイン、免疫細胞を惹起させる
活性酸素(ROS)を上昇させます。
一方、ミトコンドリア内にある遺伝子も改変され
cGAS-STING経路を通じて自然免疫系統を活性化させます。
(参考文献(1) Fig.3cより)
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//急性腎障害と免疫系統の交差性//----------
急性腎障害を通じて上述したように免疫機能が惹起される
可能性が示唆されています。
一方で、免疫機能との関係は双方向性を持っていると考えられています。
例えば、骨髄性の樹状細胞、単球、好中球
リンパ系のT細胞、B細胞は急性腎障害の発展と関連があります。
また、マクロファージや制御性T細胞は
炎症した腎組織の修復や恒常性維持に関わっているとされています(6)
従って、新型コロナウィルスにより免疫機能のバランスが崩れれば、
腎臓にも影響を与える可能性が考えられます。
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以上です。

(参考文献)
(1)
Holger Scholz, Felix J. Boivin, Kai M. Schmidt-Ott, Sebastian Bachmann, Kai-Uwe Eckardt, Ute I. Scholl & Pontus B. Persson 
Kidney physiology and susceptibility to acute kidney injury: implications for renoprotection
Nature Reviews Nephrology (2021)
(2)
Mitra K. Nadim, Lui G. Forni, Ravindra L. Mehta, Michael J. Connor Jr, Kathleen D. Liu, Marlies Ostermann, Thomas Rimmelé, Alexander Zarbock, Samira Bell, Azra Bihorac, Vincenzo Cantaluppi, Eric Hoste, Faeq Husain-Syed, Michael J. Germain, Stuart L. Goldstein, Shruti Gupta, Michael Joannidis, Kianoush Kashani, Jay L. Koyner, Matthieu Legrand, Nuttha Lumlertgul, Sumit Mohan, Neesh Pannu, Zhiyong Peng, Xose L. Perez-Fernandez, Peter Pickkers, John Prowle, Thiago Reis, Nattachai Srisawat, Ashita Tolwani, Anitha Vijayan, Gianluca Villa, Li Yang, Claudio Ronco & John A. Kellum 
COVID-19-associated acute kidney injury: consensus report of the 25th Acute Disease Quality Initiative (ADQI) Workgroup
Nature Reviews Nephrology volume 16, pages747–764(2020)
(3)
Brezis, M. & Rosen, S. 
Hypoxia of the renal medullaits implications for disease. 
N. Engl. J. Med. 332, 647–655 (1995).
(4)
Wang, Z. et al. 
Specific metabolic rates of major organs and tissues across adulthood: evaluation  by mechanistic model of resting energy expenditure. 
Am. J. Clin. Nutr. 92, 1369–1377 (2010)
(5)
Friederich-Persson, M., Persson, P., Hansell, P. & Palm, F. 
Deletion of Uncoupling Protein-2 reduces renal mitochondrial leak respiration, intrarenal hypoxia and proteinuria in a mouse model of type 1 diabetes. 
Acta Physiol. 223, e13058 (2018).
(6)
Kai Singbartl, Cassandra L Formeck, John A Kellum 
Kidney-Immune System Crosstalk in AKI
Semin Nephrol. 2019 Jan;39(1):96-106


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