2021年3月10日水曜日

脳神経への薬剤輸送と治療戦略(1)

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

例えば、新型コロナウィルスの症状で
肺の組織が炎症を受けて、
組織の結合状態や表面状態に異常が出ると
吸い込んだ空気(窒素、酸素、二酸化炭素)を
気道から肺胞に運び、肺胞の周りにある動脈に
対して酸素を中心としたガスを供給する事に問題が出ます。
血液の異常は全身に関わりますから
それで身体の至る所で大小異常が出ることが考えられます。
肺を含めた身体の異常は体内で
「生理現象として」起こっているわけですが、
そこに末梢神経を含めた神経系があることによって
罹患された患者さんは初めて
倦怠感、発熱、はきけ、痛み、せきなどが生じます。
発熱やせきなどの症状を医師の方が診断することで
コロナ陽性と加えてそこで初めて検査が行われ
身体の異常がわかります。
身体の異常も複雑な事がある事は否定できませんが、
様々な検査でわかることが多いです。
実際に組織を見ることができれば、
顕微鏡も使えば見た目で判断することができる
事もあると思います。
神経系の異常ももちろんそうなのですが、
神経系の疾患の難しいところは
〇ネットワーク、つながりの影響が強い事
〇脳は未知の臓器であること
〇血流も機能に大きく関与している事
〇神経細胞は基本的には再生しない(と考えられる)事
〇人の感覚、運動の因果の不透明性が高い事
、、
これらが挙げられます。
また、神経系は直接的に感覚や運動に関係するので
体細胞系の治療よりもより治療を慎重に行う必要もあります。
そうしないと非常に苦しみを伴う治療になります。
一般的に難病とされているのは
筆者の感覚では脳神経系の病気が多い
と感じています。
今後、細胞特異的輸送系統で
多くの疾患と向き合っていく経路において
脳神経系の病は絶対に避けられない事だろう
と強く考えています。
ただ一方で
脳神経系だからこそある良い機会があると思っています。
それが「補償システム」です。
先日、東京大学の先生がパラスポーツ選手の
脳の活動をMRIで分析されていました。
その中で不足する機能を補うように
脳の活動が効率的になることが確認されています。
ある時は広範囲に
違う時には効率的、集中的に働きます。
このような補償システムを常に頭に置きながら
薬剤などを通じて脳神経の疾患と向き合っていく事は
一つの道筋であると考えています。
ーーーーーーーー
Georg C. Terstappen, Axel H. Meyer, Robert D. Bell, Wandong Zhang
(敬称略) からなるアメリカ、カナダの
医療研究グループは
脳の血管内皮から組織内にかけて存在する
血液脳関門に対する薬剤の輸送を考え
その中で治療戦略を包括的に提供されています(1)。
本日は、その概要部分について
筆者独自の観点を追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。
ーーーーーーーーー

//概要//ーーーーーー
脳への薬剤輸送においては
近年、勢力を伸ばしつつあるモノクローナル抗体による
治療においても課題があります。
例えば、
脳の組織内の薬剤濃度は身体の血液中の
0.01%~0.1%であるという報告もあります(2,3)。
--
実際には脳への薬剤供給のアプローチとしては
侵襲型と非侵襲があると思っています。
脊髄など髄鞘内に直接投与する方法もあります。
これは侵襲型といえます。
Antisense oligonucleotide nusinersen
これが脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy)
に対して近年アメリカで承認されたとされています(4-6)。
ただし、血管脳関門を元来、通過できない
高分子量化学物質を含む薬剤においては
遺伝的、進化的に排除してきた側面も否定できないので
副作用、副反応については慎重に分析していく必要があります。
--
また血液脳関門をもともと通過できる
脳に向性(走化性)をもつウィルス
ナノ粒子、エクソソーム
これらに結合させて輸送媒体として利用して
脳組織に薬剤供給するシステムも考えられます。
あるいは
血液脳関門のエンドソームの受容体に結合する
抗体などを使って通過させるという方法もあります。
これをトランスサイトーシスと呼びます。
ーーーーーー

//細胞特異的輸送系統の観点//ーーーーーーーー
--
輸送媒体としては
細胞、ナノ粒子、ウィルス、エクソソームなどが
考えられます。
これらのうち脳に到達しやすい輸送媒体を選び
そのうえで脳内の任意の組織に到達しやすいような
装飾因子設計をすることで
脳に対する輸送効率を高められる可能性があります。
一方、
脳の血流が様々な運動や思考によって
どの部分が高まるかというのがわかれば、
薬剤を通して輸送させるときに
優先的に輸送させたい部位の血流が高まるような
行動、思考を薬剤投与後に行う事によって
薬剤輸送効率を補助的に高めることができるかもしれません。
ーーーーーーーー

以上です。

(参考文献)
(1)
Georg C. Terstappen, Axel H. Meyer, Robert D. Bell & Wandong Zhang 
Strategies for delivering therapeutics across the blood–brain barrier
Nature Reviews Drug Discovery (2021)
(2)
Abbott, N. J. et al. 
Structure and function of the blood- brain barrier. 
Neurobiol. Dis. 37, 13–25 (2010).
(3)
St- Amour, I. et al. 
Brain bioavailability of human intravenous immunoglobulin and its transport through the murine blood- brain barrier. 
J. Cereb. Blood Flow. Metab. 33, 1983–1992 (2013).
(4)
Agrawal, M. et al. 
Nose- to-brain drug delivery: an update on clinical challenges and progress towards approval of anti- Alzheimer drugs. 
J. Control. Rel. 281, 139–177 (2018).
(5)
Sabir, F., Ismail, R. & Csoka, I. 
Nose- to-brain delivery of antiglioblastoma drugs embedded into lipid nanocarrier systems: status quo and outlook. 
Drug Discov. Today 25, 185–194 (2020).
(6)
Bennett, C. F., Krainer, A. R. & Cleveland, D. W. 
Antisense oligonucleotide therapies for neurodegenerative diseases. 
Annu. Rev. Neurosci. 4, 385–406 (2019).


0 コメント:

コメントを投稿

 
;