2021年3月17日水曜日

ミエリン鞘の産生に関わるアペリン受容体

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

例えば、脳卒中で左側の脳の血管がつまり
酸素の供給が一時停止して神経細胞が死滅してしまったら
その場所によっては右半身の一部が動かなくなることがあります。
そうした場合、一つとしては運動系の神経伝達が
損なわれていることが考えられます。
しかし、そのような後遺症はリハビリによって回復する事もあります。
参考文献(2)Fig.4に示しているように
マウスの例で脳卒中が起こり組織が壊死している
周りの神経細胞の連結状態がよくなると
運動機能もそれに応じて良化することがあるとされています。
このような神経細胞は軸索によってつながれ、
その周りには鞘(さや)があります。
この鞘は脂質から成る絶縁膜で軸索同士が
神経伝達の一つである電子(電気信号)が短絡しないような
機能を一つとして持っています。
つまり軸索を絶縁膜(鞘)で覆うことで
電気的な独立性を保っているといえます。
この鞘はミエリン鞘と呼ばれます。
他にはこの鞘によって電気信号の伝達がよくなることがあります。
従って、参考文献(2)Fig.4で示されているような
神経細胞の連結においてミエリン鞘は重要な役割を
担っていると考えられます。
それは運動機能や認知機能にも影響を与えます。
ーーーーーー
Masumi Ito, Rieko Muramatsu, Yuki Kato(敬称略)ら
日本(東京、大阪、茨城)、アメリカからなる医療、研究グループは
歳を重ねることでミエリン鞘の再生、回復、恒常性などが
失われる仕組みについて詳しく報告されています(1)。
本日は、筆者の視点を追記しながら
その内容の一部について読者の方と情報共有したいと思います。
ーーーーーー

//筆者の背景的な視点//ーーーーーーーー
神経細胞というのは、どこからどこまでが細胞単位か?
ということが体細胞に比べて定義しにくいと考えています。
なぜなら軸索などでつながっていて
形状が非常にトポロジカルだからです。
つまり、複雑な形状をしています。
それはグリア細胞であるマイクログリア、星状膠細胞でも同じです。
従って、神経細胞が(有糸分裂などで?)増殖するときには
どのような動的機序なのか?というのがイメージしにくいですし、
軸索でつながった場合にはそもそも分裂しないのか?
という観点もあります。
しかし、ミエリン鞘に関しては、軸索の周りを覆う
脂質(絶縁膜)からなる鞘ですから
逐次、恒常性を保つために再生、回復などが行われる
ということだと参考文献(1)からは推定しています。
おそらく神経細胞には
木の小枝のように伸び損ねている部分があって
何らかのきっかけでそれが伸びて他の神経細胞とつながります。
そしてその軸索の周りにミエリン鞘が形成されると考えています。
つまり脳に変化、可塑性を与えているのは
神経細胞の数というよりも神経細胞が形を変えて繋がる事と
その連結の機能を調整する機構であると考えています。
そのためにはその変化に応じた「材料供給」を
行う必要があります。
それは細胞自身が担う事もあるだろうし、
血液から血液脳関門を超えて運ばれてきた栄養などが
担う事もあると思います。
--
脳は使えば使うほど機能は高まる。
人は脳の潜在能力を十分に引き出せてない。
その可能性は無限大(∞)である。
、、、
このような話がありますが、
神経細胞の絶対数に大きな変化があるわけではなく
それは歳を重ねて細胞死し減っていくと言われていますが、
連結の密度の可変性がそれよりも圧倒的に高いために
神経細胞が減っても何歳でも全体としての機能は高まっていく
可能性を秘めているということが考えられます。
--
ただし、Masumi Ito氏らが明らかにしているように
高齢になるとミエリン鞘を作る能力が下がるために
そのような連結の機能自体が落ちてしまうことが考えられます。
従って、つながりの質が老化によって低下してしまいます。
あるいは参考文献(3)Fig.3に示されているように
脳の柔組織と血管の間の物質の輸送の制御をおこなっている
血液脳関門が老化によって劣化してしまう可能性もあります。
例えば、細胞同士をつなぐ密着結合(Tight-junction)が
不活性化して、余分なたんぱく質などが脳の柔組織に入り
それによって脳の組織の劣化が起こってしまう可能性もあります。
タンパク質が蓄積すれば、アルツハイマー病やパーキンソン病などの
主に高齢の方で見られる脳神経疾患の原因になることも考えられます。
--
一般的に生活の時間が長くなり、多くの経験を積めば
脳の中に含まれる情報量は増えると考えられます。
ある脳科学を専門とされる先生は
「やる気のある高齢者が最強である。」
このように言われています。
つまり、高齢であるということはマイナスに捉えがちですが、
脳の機能に関しては「精緻な連結のための可塑性」という
脳に秘められた最大の可能性があるため、
体細胞にはない特徴があると考えられます。
脳の潜在能力を40代、50代、60代、70代、あるいは80代以上
になっても最大限引き出すためには
神経のつながりを生むような行動、勉強
あるいはトレーニングは必要ですが、
それと同時に組織の質を如何に健全に守っていくか?
ということがあります。
神経細胞のように増やすことが原理的に(?)難しい要素も
ありますが、Masumi Ito氏らが示している
後述するミエリンの回復に関わるような因子がわかり
それが医療的な介入として生かすことができれば
組織的な健全性の維持に貢献すると思います。
また、血液脳関門のように(おそらく)再生可能な組織においては
その組織をどうやって維持、回復させていくか?
そこに医療介入の余地があるのか?
このような視点があります。
ーーーーーーーー

//概要(参考文献(1)//ーーーーーー
アペリン受容体は心血管機能や体液恒常性などに関わる受容体です。
Gタンパク質共役受容体に属するとされています。
軸索の周辺部を覆うミエリンを形成する細胞に
このアペリン受容体が形成されており
この受容体の活性に寄ってミエリンの産生能力に影響を与える
ということです。
この受容体の活性を上げる事で
「マウス」と「人の細胞(試験管)」で
ミエリンの再生を示す信号が確認されました。
ーーーーーーー

//再ミエリン化機能が低下する原因//ーーーーー
オリゴデンドロサイト前駆細胞が好ましくない様式で
脳の間質に蓄積される事(4,5)。
実際にはこのオリゴデンドロサイト細胞は
軸索の周りのミエリン鞘部に直接結合し、
細胞の一部の物質を流出させることで
脂質であるミエリン鞘を形成していると考えられます。
従って、オリゴデンドサイト細胞の質が
そのままミエリン鞘の特性にも影響を与える可能性が
考えられます。
ーーーーー

//結果//ーーーーー
(ML233:アペリン受容体亢進物質:アゴニスト)
マウス、人の細胞共に
量依存的、あるいは閾値的に
ミエリン鞘を示す遺伝子MBPの発現量が
向上していることが示されています。
(参考文献(1) Fig.1g, Fig.5eより)
--
(マウスの老化)
マウスの寿命は系統によって異なりますが、
3,4年といわれます。
参考文献(1)Fig.1aによれば
生後3か月くらいから低下し始め
6か月後には半分くらい
1年半後(18か月後)にはほとんど信号はありません。

Mbp遺伝子(ミエリンタンパク質)発現量。

もし仮にマウスの寿命が2年だとして
その時点での人の寿命が120歳だとすると
人の年齢換算で90歳ごろにはほとんど
ミエリンの再生能力がないかもしれないということになります。
実際にはマウスの年齢が3年、4年であれば
もっとこの年齢は計算上下がることになります。
実際に人の生体内のデータで
このMbp遺伝子の発現量が年齢でどうなっているか
という点に関心があります。
ーーーーー

//再ミエリン機能低下と関連がある疾患//ーーーーーー
・多発性硬化症
・アルツハイマー病(6)
・脳卒中(7)
・筋萎縮性側索硬化症(ALS)(8)
ーーーーーー

//追記//ーーーーー
人の血漿中でのアペリンの半減期は5分以内です(9)。
Masumi Ito氏らは局所的な制御因子である可能性について
言及されています。
実際に解剖学的に脳の組織で
アペリン受容体が発現している細胞種と
その場所を明らかにする事と
その場所が脳の間質にあるならば
その間質液に対するアペリン受容体の寿命も関係します。
--
アペリンのレベルは
運動(10)、栄養レベル(11)によっても制御される
と言われています。
筆者の運動を通した感覚として運動への脳の作用はある
と体感できる部分がありますが、
運動や栄養状態といった日常生活に関係する事と
アペリン、それによるミエリン鞘といった
基礎的な生理学との関連について調べることは
一定の意義があると考える事ができます。
ーーーーー

//細胞特異的輸送系統//ーーーーーー
--
日本は高齢化社会になる事は確実で
あと10年もすれば、後期高齢の方が増えますから
その中で老化に関する疾患と日本社会は向き合う必要があります。
基本的に高齢時における脳に関わる疾患は、
本人よりも子を含めた家族、施設の方の
身体的、心理的負担が大きいと考えられます。
人生をどう全うするのか?
この理想的な答えはわからないままですが
できれば周りに迷惑をかけずに全うしたい
と考える方が多いと思います。
特に日本の方はそうだと思います。
前述したように老化に伴う病気の中で
脳の疾患については一つの中核をなします。
--
おそらく脳に関しては神経のつながりの可能性があるので
それまでの過ごし方によって
高齢になって大きな差が出るところだと思っています。
つまり過ごし方がよければ、
脳の状態をかなり良く維持、あるいは向上させる事すら
できる可能性があると思っています。
実際に脳の神経細胞の寿命は体細胞より長いという
マウスでの報告もあります。
したがって、
80代で身体の機能は否応なしに衰えてきたけど
頭の方は極めて元気という事がありえると考えています。
筆者は現時点では
〇コミュニケーション、笑顔など社会心理的要素
〇ストレスケア
〇運動
〇血糖値の管理(高い状態を維持しない)
〇勉学
〇栄養状態
〇生きがい、夢、目標、趣味
〇神経伝達物質(ドーパミン、セロトニン、オキシトシンなど)
これらが重要だと考えています。
--
このような個人、身体全体で考える巨視的な視点と
細胞特異的輸送系統で考えるような微視的な視点が
あると思っています。
薬剤輸送によって大きく変えられるところはどこか?
神経細胞の数はおそらく変えられないので
それ以外のグリア細胞。
参考文献(1)でのミエリン産生に関わる細胞。
これらに働きかけることで
脳の基礎となる環境を整えるということは
医療的介入余地がある可能性があります。
アペリン受容体の拮抗薬が生まれれば、
ミエリンの状態を良くできるか?
これについてはさらなる研究の価値があると考えられます。
細胞特異的輸送系統としては
解剖学的、組織学的な観点を含め
これらの薬剤の特異的輸送を試みることを目的としています。
そのためには血液脳関門の機能も理解する必要があります。
血液脳関門の機能回復も含めて
総合的な脳のベースとなる環境整備を考える中で
Masumi Ito, Rieko Muramatsu, Yuki Kato(敬称略)らの
この研究は一定の見識を与えるものであると考えます。
ーーーーーー

以上です。

(参考文献)
(1)
Masumi Ito, Rieko Muramatsu, Yuki Kato, Bikram Sharma, Akiko Uyeda, Shogo Tanabe, Harutoshi Fujimura, Hiroyasu Kidoya, Nobuyuki Takakura, Yukio Kawahara, Masaki Takao, Hideki Mochizuki, Akiyoshi Fukamizu & Toshihide Yamashita 
Age-dependent decline in remyelination capacity is mediated by apelin–APJ signaling
Nature Aging volume 1, pages284–294(2021)
(2)
Mary T. Joy & S. Thomas Carmichael 
Encouraging an excitable brain state: mechanisms of brain repair in stroke
Nature Reviews Neuroscience volume 22, pages38–53(2021)
(3)
William A. Banks, May J. Reed, Aric F. Logsdon, Elizabeth M. Rhea & Michelle A. Erickson 
Healthy aging and the blood–brain barrier
Nature Aging volume 1, pages243–254(2021)
(4)
Shields, S. A., Gilson, J. M., Blakemore, W. F. & Franklin, R. J. M. 
Remyelination occurs as extensively but more slowly in old rats compared to young rats following gliotoxin-induced CNS demyelination. 
Glia 28,  77–83 (1999).
(5)
Sim, F. J., Zhao, C., Penderis, J. & Franklin, R. J. M. 
The age-related decrease in CNS remyelination efficiency is attributable to an impairment of both oligodendrocyte progenitor recruitment and differentiation. 
J. Neurosci. 22, 2451–2459 (2002).
(6)
Sun, J., Zhou, H., Bai, F., Zhang, Z. & Ren, Q.
Remyelination: a potential therapeutic strategy for Alzheimer’s disease? 
J. Alzheimers Dis. 58,  597–612 (2017).
(7)
Sozmen, E. G. et al. 
Nogo receptor blockade overcomes remyelination failure after white matter stroke and stimulates functional recovery in aged mice. 
Proc. Natl Acad. Sci. USA 113, E8453–E8462 (2016).
(8)
Li, Y. et al. 
Olfactory ensheathing cell transplantation into spinal cord prolongs the survival of mutant SOD1(G93A) ALS rats through neuroprotection and remyelination. 
Anat. Rec. 294, 847–857 (2011).
(9)
Murza, A., Belleville, K., Longpré, J. M., Sarret, P. & Marsault, É. 
Stability and degradation patterns of chemically modified analogs of apelin-13 in plasma and cerebrospinal fluid. 
Biopolymers 102, 297–303 (2014).
(10)
Vinel, C. et al. 
The exerkine apelin reverses age-associated sarcopenia.  
Nat. Med. 24, 1360–1371 (2018).
(11)
Olszanecka-Glinianowicz, M. et al. 
Circulating apelin level in relation to nutritional status in polycystic ovary syndrome and its association  with metabolic and hormonal disturbances. 
Clin. Endocrinol. 79,  238–242 (2013).


0 コメント:

コメントを投稿

 
;