いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
マウスや人にはないオルガノイドのメリットは
実際に生物の犠牲を減らすことができる
というのが根本にあります。
他に重要な視点としては
「任意性」だと考えています。
例えば、マウスの体内のでの薬剤の働きを見るときには
マウスは奥行きがあり、外から不可視ですから
その分析手法は限られます。
例えば、光で分析するとなれば、
組織内への透過性の高い波長を選ぶ必要があります。
またその場で検出する手法も限定的になります。
しかし、オルガノイドの場合は
例えば、組織表面の薬剤の動きを
非常に微細に分析したいとするならば、
その表面を特定して露出するような組織にして
解析装置の解析台に合うような大きさにして
その場観察できるようにすることができます。
参考文献(1)Fig.7に示しているように
金属の電極上に組織を形成することもできます。
-
しかし、身体の組織というのは
上皮、間質、内皮、血管、リンパ管など
様々な部位があり
それらの形成には血液による
免疫細胞や栄養素の作用、
神経細胞による神経系の命令など
様々な要素が関わっていて
身体として恒常性を示しながら
時間をかけて成長していきます。
幼児から大人にかけて身体が大きくなるにつれて
身体のいろんな組織が成熟しますが、
その期間は10年以上と非常に長いです。
そのような組織としての完全性の中での
局所(ニッチ)がありますから
その局所だけうまく人工的に組織を形成する場合
様々な未熟性、不完全性、不具合が出ることが考えられます。
ーーーーーーーー
Moritz Hofer、 Matthias P. Lutolf(敬称略)ら
スイスの医療研究グループは
オルガノイドを医療工学的な観点も含めて
総括されています(1)。
本日はその内容のうち
オルガノイドの課題についての内容の一部を
読者の方と情報共有したいと思います。
ーーーーーーーー
//オルガノイドの成熟、機能の課題//ーーーーーー
--
・間質、血管、微生物の形成の欠如
これらによって自然の臓器の複雑性を
再現することが難しいとされています(1)。
⇒
流れの形成、空気界面の制御、機械的な刺激によって
細胞の成熟において「試験管で」
改善したという報告はあります(2-4)。
しかし、このような特徴を
実際にオルガノイドを作るときに適用するのは
技術的に大きな障壁があります(5)。
--
上皮細胞のオルガノイドは幹細胞を使った系統では
寿命が短く、1週間程度の場合もあり、
組織を形成するのに必要な様々な細胞タイプに
分化するためには十分な時間はありません(1)。
⇒
上皮細胞も1種類の細胞だけではないからです。
神経細胞もありますし、その細胞種は多彩です。
そのような多様性を再現する事も難しいですが、
そもそもそれぞれに分化する時間的猶予という点でも
寿命が短いことで困難を伴うということです。
--
従って、細胞の成熟化を強化するような
環境形成、技術が必要になります(6)。
ーーーーーー
//周辺環境に関する課題//ーーーーーー
--
・栄養素、排出物循環の課題
組織は血管から栄養素を得て細胞が代謝を行い
増殖、組織形成、生存維持を実現します。
しかし、オルガノイドでは
そのような栄養取得が不完全であるため
組織の成長に支障をきたします。
また、細胞は体と同じように
タンパク質などの排出物を放出しますが、
それは通常間質液などを通じて静脈から
排出されますが、その系統が欠如していることで
排出物が組織の中に堆積することがあります。
それが組織の核となり、異常形成の原因となります。
(参考文献(1)筆者追記)
--
また腸などの研究では
微生物と宿主(この場合、オルガノイド組織)との
相互作用を見る場合には、
微生物に関しては上皮組織の粘膜の部分に作用させる
必要があります。
また栄養素や免疫機能に関わるサイトカインは
表層の下にある基質の部分に作用させる必要があります。
このような適切な作用組織の分離がオルガノイドで
できるかどうか?という視点もあります。
ーーーーーー
//異質性、再現性の問題(1)//ーーーーーー
単一の幹細胞から任意の細胞に分化させて
オルガノイド形成をしていく細胞プロセスにおいて
その細胞の発展は「確率的な」特徴を持つ
とされています。
つまり、画一的な成長ではないため
どのように組織が完成するか未知の部分があります。
この確率的な特徴は再現性、制御性を低下させます。
--
病理や薬効を組織の中で分析していくためには
それぞれの系統において再現性が欠かせません。
また実際の人の組織との整合性も必要です。
従って、
どのように制御性、再現性を上げるかは
向き合う必要がある大きな課題です。
--
⇒
iPS細胞の研究で心臓シートを作るときに
網目状の生体寛容性のある基板(腹膜の網)を安定的な
組織形成のために補助的に用意している技術があります(9)。
オルガノイドの形成においては
全く何もない空間に3次元形成する場合
制御性、再現性を上げるのは難しいと考えられます。
予め安定的な成長を誘導するような
生体寛容性のある基板が必要だと考えています。
--
(筆者の追記あり)
ーーーーーー
//評価、分析の課題(1)//ーーーーーー
実際に人工組織、オルガノイドが
トランスレーショナル医療の研究開発材料として
使えるかどうかの評価をする必要があります。
そのためには位置、形状、材料などを
特定するために光学的な解析を行います。
それでは不十分で
代謝生成物、ペプチド、たんぱく質の分泌、
電気的な特性などの整合性も必要です。
しかし、
これらの測定は技術的な課題があるとされています(7)。
例えば、
胆液やタンパク質などの上述した分泌物の
分析においてはそれらの量が微小であるため
解析装置の検出限界を下回る可能性があります(8)。
また、組織の中に
バイオセンサーを埋め込むアイデアもありますが
実際には実用性に欠けると現在では評価されています。
ーーーーーー
//細胞特異的輸送系統の観点//ーーーーーーーー
実際には細胞特異的輸送系統では
オルガノイド中のナノ粒子の薬剤輸送の評価を
想定しています。
実際に任意に設計したナノ粒子が
目的とする組織中の細胞種に有効に結合しているか
輸送されているか、エンドサイトーシスしているか
などをその場観察できれば理想的である
と考えています。
--
それとは別の観点として
オルガノイドの形成そのものに
細胞特異的輸送系統のコンセプトが使えないか
考えてみます。
細胞特異的輸送系統では幹細胞から分化した
細胞種に任意の受容体、結合因子を形成することを
想定しています。
その技術が高度化していけば、
その技術をより有効な「オルガノイド形成そのもの」に
使える可能性もあります。
つまり、インテグリンやカドヘリンなど
細胞同士の結合を誘発する受容体を任意に設計することは
オルガノイド形成の制御因子の一つになる可能性もあります。
また、前述した骨組みとなる
腹膜などの生体寛容性のある基板を使う場合には
それに有効に成長するような細胞装飾ができる可能性もあります。
ただし、気を付けないといけないのは
そのような任意の表面装飾を行うことで
細胞そのものの特性を大きく歪めることがないようにする事です。
ーーーーーーーー
以上です。
(参考文献)
(1)
Moritz Hofer & Matthias P. Lutolf
Engineering organoids
Nature Reviews Materials (2021)
(2)
Lu, D. & Kassab, G. S.
Role of shear stress and stretch in vascular mechanobiology.
J. R. Soc. Interface 8, 1379–1385 (2011).
(3)
Abraham, G. et al.
Growth and differentiation of primary and passaged equine bronchial epithelial cells under conventional and air-liquid-interface culture conditions.
BMC Vet. Res. 7, 26 (2011).
(4)
Park, J. S. et al.
The effect of matrix stiffness on the differentiation of mesenchymal stem cells in response to TGF-β.
Biomaterials 32, 3921–3930 (2011).
(5)
Park, S. E., Georgescu, A. & Huh, D.
Organoids-on- a-chip.
Science 364, 960–965 (2019).
(6)
Velasco, S. et al.
Individual brain organoids reproducibly form cell diversity of the human cerebral cortex.
Nature 570, 523–527 (2019).
(7)
Kim, G. A., Ginga, N. J. & Takayama, S.
Integration of sensors in gastrointestinal organoid culture for biological analysis.
Cell. Mol. Gastroenterol. Hepatol. 6, 123–131.e1 (2018).
(8)
Collins, S. D. et al.
in Hepatocellular Carcinoma Ch. 3 (ed. Tirnitz-Parker, J. E. E.) 47–67 (Codon Publications, 2019)
(9)
Masashi Kawamura, Shigeru Miyagawa, Satsuki Fukushima, Atsuhiro Saito, Kenji Miki, Shunsuke Funakoshi, Yoshinori Yoshida, Shinya Yamanaka, Tatsuya Shimizu, Teruo Okano, Takashi Daimon, Koichi Toda & Yoshiki Sawa
Enhanced Therapeutic Effects of Human iPS Cell Derived-Cardiomyocyte by Combined Cell-Sheets with Omental Flap Technique in Porcine Ischemic Cardiomyopathy Model
Scientific Reports volume 7, Article number: 8824 (2017)
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