2021年3月19日金曜日

残基614変異の構造上の特徴

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

新型コロナウィルスが2020年の遺伝子的な進化において
初めはD614系統が主流でしたが
2020年3月の以前にヨーロッパでG614系統と呼ばれる
感染力の高いウィルス系統に変異して
それから3か月後の6月の時点では
世界のほとんどの地域でG614系統のウィルスになっています。
(参考文献(2) Fig.3より)
実際にそのように勢力が大きく変わったことから
D614系統に比べて感染力が強いという事は疫学的に示されます。
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Jun Zhang, Yongfei Cai, Tianshu Xiao(敬称略)ら
医療研究グループは新型コロナウィルスD614系統とG614系統の
細胞感染に関わるSタンパク質の構造を低温電子顕微鏡で
詳しく調査されています(1)。
本日は筆者の視点を追記しながら
その内容の一部を読者の方と情報共有したいと思います。
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//感染力が高まったと考えられる原因//ーーーーーー
新型コロナウィルスが体内で増殖するためには
細胞に侵入して、そこでRNAを増殖させる必要があります。
その細胞に侵入するときにはACE2という細胞表面受容体に
新型コロナウィルスのスパイク(Sタンパク質)のRBD位置が
最初に結合する必要があります。
その受容体結合面(Rececptor binding domain:RBD)は
3量体からなっており、それぞれのドメインにおいて
up, intermediate, down conformation
という3つの状態を取ることができます。
upではRBDが押し上げられて突出した状態になっています。
(参考文献(1) Figure S9の赤の構造)
down配座(参考文献(1) Figure S9の青の構造)
ではRBDがタンパク質の構造の中に埋没した状態になっているため
有効にACE2受容体に結合することができません。
--
このような配座(3次元結合状態)の状態変化の鍵を握っているのが
Sタンパク質構造中のFPPRドメインです。
(参考文献(1) Fig.3 桃色の部分)
RBDは3量体だから3つセットで形成されていますが、
そのうち図の下側のRBDにおいて
downとup配座の構造比較がされています。
この図の下段の左2つのRBD downの配座とupの配座を見比べると
残基862,823のFPPRの構造が大きく変化していて
open配座では架橋が取れて大きく開放された状態になっています。
--
FPPR(fusion peptide proximal region)の中に
リジン残基(K854)という構造がありますが、
up配座をとる(G614系統)とclose配座を取る(D614系統)
これらの構造比較が拡大図として示されています。
(参考文献(1) Fig.4より)
半透明の黄色の部分がD614系統
緑と紫がG614系統
これらが図の中で重ねられています。
このK854というのはFPPRドメインの中の残基ですが、
変異の元となっている614残基との位置の評価を行うと
その距離が変わっていることがわかります。
緑と紫の距離が半透明の黄色の間隔よりも大きくなっています。
これはおそらく配座を変える事と関係していると思います。
実際に過去の報告で614と854の間の塩による架橋が
切断されて、up配座になることが示唆されています(3-5)。
--
参考文献(1) Fig.S2で示されているように
細胞との融合活性がこれらの系統で大きく変わらないことから
この変異によって感染力が強まった原因は
おそらくRBDの配座の状態が変わったことが大きい
と筆者は評価しています。
--
しかし、Jun Zhang, Yongfei Cai(敬称略)らは
実際にRBDが露出している事よりもCTD2、630ループなど
周りの構造による固定によって3量体構造が安定する事が
感染力を挙げたと結論付けています。
実際にはG614系統で確認されているように
3量体のうちDownとup配座が両方存在して、
それらが構造的に安定であることが重要だということです。
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//追記//ーーーーーー
イギリス、南アフリカ、ブラジル、アメリカ(カリフォルニア)
で確認されている変異系統全てにD614Gの変異が入っています。
(参考文献(1) Table S3より)
Jun Zhang, Yongfei Cai(敬称略)らは
結びの所で「変異レートが低い」とされていますが、
筆者の視点ではそれ以外の可能性として
D614Gという構造が感染性を決める上で非常に重要な構造で
それ以外の構造をランダムな変異で取った時には
有効に増殖しないために自然淘汰(消滅)する可能性を考えています。
従って、
D614Gに特異的親和性の高い抗体を作ることができた時
どのような意味を持つかということです。
実際にはD614Gの変異があるB.1.1.7に関しては
現在進められているワクチンで中和能があります。
それにE484Kという変異が入ると中和能が低下します。
--
これら重要な残基614,484が構造として
受容体認識から細胞膜との融合、侵入の動的機序において
どのような重要性を持つかという事を調べる事は
今後のワクチン開発において重要な可能性があります。
ーーーーーー-

以上です。

(参考文献)
(1)
Jun Zhang, Yongfei Cai, Tianshu Xiao, Jianming Lu, Hanqin Peng, Sarah M. Sterling, Richard M. Walsh Jr., Sophia Rits-Volloch, Haisun Zhu, Alec N. Woosley, Wei Yang, Piotr Sliz, Bing Chen
Structural impact on SARS-CoV-2 spike protein by D614G substitution 
Science 10.1126/science.abf2303 (2021).  
(2)
Los Alamos National Laboratory
Tracking SARS-CoV-2 Spike mutations
https://www.lanl.gov/updates/sars-cov-2-variant.php
(3)
Y. Cai, J. Zhang, T. Xiao, H. Peng, S. M. Sterling, R. M. Walsh Jr., S. Rawson, S. Rits-Volloch, B. Chen, 
Distinct conformational states of SARS-CoV-2 spike protein. 
Science 369, 1586–1592 (2020). 
(4)
 T.  Zhou,  Y.  Tsybovsky,  J.  Gorman,  M.  Rapp,  G.  Cerutti,  G.-Y.  Chuang,  P.  S. 
Katsamba, J. M. Sampson, A. Schön, J. Bimela, J. C. Boyington, A. Nazzari, A. S. 
Olia, W. Shi, M. Sastry, T. Stephens, J. Stuckey, I-T. Teng, P. Wang, S. Wang, B. 
Zhang, R. A. Friesner, D. D. Ho, J. R. Mascola, L. Shapiro, P. D. Kwong, Cryo-EM 
Structures of SARS-CoV-2 Spike without and with ACE2 Reveal a pH-Dependent 
Switch to Mediate Endosomal Positioning of Receptor-Binding Domains. 
Cell Host Microbe 28, 867–879.e5 (2020). 
(5)
X. Xiong, K. Qu, K. A. Ciazynska, M. Hosmillo, A. P. Carter, S. Ebrahimi, Z. Ke, S. H. 
W.  Scheres,  L.  Bergamaschi,  G.  L.  Grice,  Y.  Zhang,  CITIID-NIHR  COVID-19 
BioResource Collaboration, J. A. Nathan, S. Baker, L. C. James, H. E. Baxendale, I. 
Goodfellow,  R.  Doffinger,  J.  A.  G.  Briggs,  
A  thermostable,  closed  SARS-CoV-2 spike  protein  trimer.  
Nat.  Struct.  Mol.  Biol.  27,  934–941  (2020). 


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