いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
癌の治療において難しいのは異種性であると思っています。
それぞれの患者さんが違う遺伝子型、表現型を示していることで
統一的な治療方針を示すのが難しいという事です。
有効な治療においては高い客観的奏功率が示されますが、
それは統計的にそうであって、
その治療の有効性から逸脱している患者さんも一定割合います。
例えば、卵巣癌の治療において
1つのパターンの薬剤では治療方針を定義できません。
そのサブタイプがあったとしても
数種類に分類できるものではなく、
細かい違いも含めればさらに多くの亜型が存在します。
例えば、脳の腫瘍では
脳の免疫機能に関わるマイクログリアの多様性が報告されています。
脳の腫瘍は子供と高齢の方が罹患しやすいと言われていますが、
子供と高齢の方の脳の中のマイクログリアの特徴は大きく異なります。
(参考文献(2)Fig.1参照)
そういった状況の中、骨髄腫瘍において
患者さんの液体生検で癌細胞の遺伝子検査を行い
その遺伝子に応じた診断、患者さんの分類が試みられています。
(参考文献(3) Figure1より)
特に従来の治療で効果を示さない難治性の癌においては
遺伝子型、表現型をしっかり分析して
それに合った個別の治療戦略を考えていく必要があります。
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Meng Xiao He, Michael S. Cuoco, Jett Crowdis,
(敬称略)らアメリカ合衆国の医療研究グループは
治療が難しい前立腺癌の遺伝子的な特徴と
従来の治療によって生じた免疫機能の改変について
詳しく報告されています(1)。
本日は、筆者の観点を追記しながら
読者の方とその内容の一部について情報共有したいと思います。
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//概要//ーーーーーーー
難治性である進行性の前立腺がんの患者さん14名の
単一細胞解像度を持つ転写因子の遺伝子解析を行いました。
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腺がん細胞はアンドロゲン受容体アイソフォームがある。
それらは構造的に「先端が欠けて」おり
それが治療に対する抵抗性の原因になっている可能性があります。
それは従来から指摘されていました(5,6)。
表面が欠ける事によってその受容体に対する
ホルモン治療で使われる薬剤の結合親和性が下がり、
それによって抵抗性を生じている可能性があります。
従って、構造解析を低温電子顕微鏡などで行い
表面が欠けている中でも効果的なエピトープ(結合部位)を探し
その結合部位に作用するような薬剤を開発する必要があります。
-
アンドロゲン受容体拮抗薬であるエンザルタミドに対して
抵抗性を示す難治性の前立腺癌は
上皮間葉転換による癌組織の成長、転移、
成長因子β信号がそれらの抵抗性に関わっています。
これらは癌細胞の系統として可塑性に富んでおり、
多様な遺伝子型、表現型を示すことが知られています。
その遺伝子としてHOXB5, HOXB6, NR1D2が
従来より指摘されています(7-9)。
参考文献(1)ではこれに追加して
TFF3, LHX2, SOX2, E2F1, EZH2, NANOG
これらの遺伝子が亢進されていることが示されています。
(参考文献(1) Fig.3cより)
-
またエンザルタミドによる化学療法の後に
免疫機能として癌細胞に対して細胞傷害性を持つ
CD8+T細胞のクローン性増殖が起こり
その表現型において機能不全マーカーである
免疫チェックポイントPDCD1(encoding PD-1)
かつHAVCR2, TOX, CX3CR1, CXCR4, GZMB,
これらの遺伝子型が確認されています。
(参考文献(1) Fig.4bより)
このうちCX3CR1は細胞傷害性CD8陽性T細胞の増殖を抑制し、
免疫チェックポイント阻害薬(PD-L1 blockade)、
これに対する反応性が悪いことが知られています(16-18)。
エンザルタミドとアテゾリズマブ(免疫チェックポイント阻害薬)
の併用が試みられましたが、
客観的奏功が認められなったとされています(19)。
また自然免疫系リンパ系免疫細胞であるNK細胞に関しては
CD16マーカーが陽性となっています。
(参考文献(1) Fig.4aより)
これはAntibody-dependent cell-mediated cytotoxicity
を高めることが知られています。
一方、CD16陽性NK細胞では癌抗体などの認識なしに
癌細胞を攻撃できる事が知られています(10)。
しかし、このNK細胞においてCX3CR1の活性が高まっているので
NK細胞の成長を阻害する変異が起こっている可能性があります。
このCX3CR1の活性が高い人は薬剤反応性が良くない傾向にあります(1)。
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//難治性癌について//ーーーーーー
去勢しても治療が難しいとされる前立腺癌。
第二世代のアンドロゲン(男性ホルモン)標的治療
免疫チェックポイント阻害薬
これらの治療に対して抵抗性を示します(4)。
これらの抵抗性の細胞レベルでの理解は
今まで進んでいませんでした。
一方で
RB1, AR, TP53, Wnt/β-catenin pathway, PI3K pathway
homologous recombination repair genes
これらが抵抗性に関わっていることが知られています(11-14)。
転移が見られる場合の
共通の部位は骨、リンパ節、肝臓であるとされています(15)。
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//アンドロゲン受容体の多様性//ーーーーーー
リンパ節、骨において
アンドロゲン受容体(AR)の多様性が
エンザルタミド投与前後で見られています。
(受容体のアイソフォーム)
AR-45,AR-V7,AR-V9,AR-V8,AR-V18,AR-V6,AR-23
AR-V11,AR-V3,AR-V13,AR-v657es
(参考文献(1) Fig.1aより)
⇒
これらの多様な受容体において
拮抗作用を与えるエピトープがどのように変わっているか?
その比較の中で比較的構造として変化しにくい
ところがあれば、そこを標的とできます。
また、複数のエピトープに作用するような抗体や
エピトープとそれ以外の所に結合面を持ち
できるだけ多くの残基に対して結合するような
抗体の開発ができないか?という視点があります。
これが新型コロナウィルスにおいて
逃避変異を繰り返すかもしれない
Sタンパク質に対する交差性の強い抗体作製コンセプト、技術と
共通する部分があります。
従って、筆者としては今後数年間続くと考えられる
ワクチンの開発を継続的にモニターしていき、
その中で遺伝子変異に対して有効な戦略を見出していこう
と考えています。
このような有効なアプローチは
特に異種性、変異性が強い癌細胞にも応用できる可能性が
あると考えています。
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//癌抗原(prostate-specific antigen)の治療後の推移//ーー
患者さんごとにばらつきがありますが、
エンザルタミドによる化学療法後に
癌抗原の量が激減している患者さんがいます。
化学療法開始後50日で4桁程度低下する患者さんもいれば
低下しない患者さんもいます。
アンドロゲン受容体の多様性が少ない患者さん(01115578)
においては癌抗原が向上していることがわかります。
但し、必ずしもアンドロゲン受容体の変異が起こり
構造が多様、異種的になっている患者さんが
免疫機能の誘発に必要な癌抗原の量が低下するかどうか?
これについてはさらなる調査が必要だと考えています。
(参考文献(1) Fig.1a,bより)
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//エンザルタミド治療後の変化//ーーーーーー
(上皮間葉転換関連遺伝子)
薬剤投与後、この遺伝子の発現量の偏差が大きくなっています。
その中央値を投与前と比較すると
この遺伝子の活性が高まっていることがわかります。
従って、化学療法後に
癌組織の成長や転移が生じている可能性が考えられます。
(参考文献(1) Fig.2bより)
--
(癌成長因子β関連位遺伝子)
同様に薬物治療後
遺伝子発現量において細胞後の偏差は大きくなり
その中央値は治療前に比べて高まっていることがわかります。
(参考文献(1) Fig.2cより)
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//筆者の視点、考察//ーーーーーー
癌細胞の治療においてはNK細胞の働きを如何に高めるか?
それがCD8陽性T細胞に加えて重要だと思います。
NK細胞の働きを弱めているのがCX3CR1の遺伝子活性であがれば
この遺伝子に標的を絞った治療が一つの戦略として考えられます。
あるいはその数を強制的に確保するため
CAR-NK細胞治療が難治性前立腺癌において
有効かどうかという視点もあります。
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//細胞特異的輸送系統//ーーーーーーーー
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細胞特異的輸送系統では精密医療を目指しています。
分析した遺伝子の一部によって細胞表面にアクセスできる
突起、受容体の構造がわかるので、
遺伝子とその表現型を正確に分析します。
低温顕微鏡などで構造解析を高解像度で行います。
そうして導入する薬剤輸送媒体に
その結合部位に特異的親和性を示す装飾因子を
ウィルスベクターなどを使って遺伝子的に作製します。
--
このような事を行う事は
細胞特異的輸送系統の王道のプロセスであると想定しているので
直接的に薬剤開発に貢献するものですが、
同時に異種性を示す疾患の理解にも貢献するものです。
参考文献(1)で示されたように
難治性の癌の特徴を理解するときには
遺伝子解析と構造解析が欠かせません。
そのようなプロセスは細胞特異的輸送系統の確立プロセスと
調和し、両立するものです。
--
新型コロナウィルスでは(クラスの)異なる抗体を
カクテルすることが変異に強いかもしれないことが
示唆されています。
同様に細胞特異的輸送系統の輸送媒体においては
装飾因子を設計するときには
1つのエピトープだけを標的にするようなものではなく
遺伝子操作によって複数のエピトープ
あるいは受容体を認識するようにしておけば
癌治療で長期的に治療する場合において
それを逃れる変異が起こった時
並列認識によりその構造変化に強い輸送系統を築ける可能性があります。
参考文献(1)ではアンドロゲン受容体の
アイソフォームの異種性が非常に高い患者さんもいるので
そういったことは一般的に起こり得ることして
それを想定した輸送媒体装飾因子設計が必要になります。
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以上です。
//Special note in English//ーーーーーーーー
In Japan, today is the special day when we express gratitude for important people in a returned fashion.
For example, I can send a bundle of flowers(💐) for you.
We hope to go hand in hand for a superb medicine with you.
ーーーーーーーー
(参考文献)
(1)
Meng Xiao He, Michael S. Cuoco, Jett Crowdis, Alice Bosma-Moody, Zhenwei Zhang, Kevin Bi, Abhay Kanodia, Mei-Ju Su, Sheng-Yu Ku, Maria Mica Garcia, Amalia R. Sweet, Christopher Rodman, Laura DelloStritto, Rebecca Silver, John Steinharter, Parin Shah, Benjamin Izar, Nathan C. Walk, Kelly P. Burke, Ziad Bakouny, Alok K. Tewari, David Liu, Sabrina Y. Camp, Natalie I. Vokes, Keyan Salari, Jihye Park, Sébastien Vigneau, Lawrence Fong, Joshua W. Russo, Xin Yuan, Steven P. Balk, Himisha Beltran, Orit Rozenblatt-Rosen, Aviv Regev, Asaf Rotem, Mary-Ellen Taplin & Eliezer M. Van Allen
Transcriptional mediators of treatment resistance in lethal prostate cancer
Nature Medicine (2021)
(参考文献)
(2)
Lily Keane, Mathilde Cheray, Klas Blomgren & Bertrand Joseph
Multifaceted microglia — key players in primary brain tumour heterogeneity
Nature Reviews Neurology (2021)
(3)
Eric J. Duncavage, M.D., Molly C. Schroeder, Ph.D., Michele O’Laughlin, B.S., Roxanne Wilson, B.S., Sandra MacMillan, B.S., Andrew Bohannon, B.S., Scott Kruchowski, B.S., John Garza, B.S., Feiyu Du, M.S., Andrew E.O. Hughes, M.D., Ph.D., Josh Robinson, B.A., Emma Hughes, B.S., Sharon E. Heath, Jack D. Baty, B.A., Julie Neidich, M.D., Matthew J. Christopher, M.D., Ph.D., Meagan A. Jacoby, M.D., Ph.D., Geoffrey L. Uy, M.D., Robert S. Fulton, M.S., Christopher A. Miller, Ph.D., Jacqueline E. Payton, M.D., Ph.D., Daniel C. Link, M.D., Matthew J. Walter, M.D., Peter Westervelt, M.D., Ph.D., John F. DiPersio, M.D., Ph.D., Timothy J. Ley, M.D., and David H. Spencer, M.D., Ph.D.
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Abstract CT014: IMbassador250: A phase III trial comparing atezolizumab with enzalutamide vs enzalutamide alone in patients with metastatic castration-resistant prostate cancer (mCRPC).
Cancer Res. 80, CT014–CT014 (2020).
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