いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。
今、新型コロナウィルスでは
薬剤のリパーポスというのが行われています。
新型コロナウィルスの病理を踏まえたうえで
薬効を示す可能性の高い薬剤が選ばれ
それが承認、臨床で使われます。
例えば、
エボラ出血熱の治療薬である
レムデシビルはRNAの増殖を防ぐ薬剤で有り
同じRNAウィルスである新型コロナウィルスの
抗ウィルス薬として適用されています。
デキサメタゾンも古くから使われている
ステロイド系免疫調整剤であり、
アクテムラも関節リウマチの治療薬としての
免疫調整剤です。
それらが今、治療で使われています。
本日のテーマである筋委縮性側索硬化症(ALS)は
その病理がはっきりわかっていない部分があるので
特効性を示す薬剤がまだ承認されていない
と筆者が知る限り認識しています。
基本的に神経系の疾患は
構造としてどこに問題がありそうか
というのがわかっていても
細胞の生死だけではなく軸索による
連結による可塑性もあることから
通常の細胞よりも複雑です。
また物理的に修復できたとしても
機能としてどのように回復していくのか?
そうではないのか?ということも
理解するのが難しいです。
また、脳は血液脳関門があることから
薬剤のアクセスに障壁があるため
通常の組織よりも薬理が複雑になります。
さらに臓器としてのマウスとの異種性や倫理の問題、
外傷などのリスクなどを考えると
薬剤などの開発のための基礎研究、臨床研究
あるいはそれを繋ぐトランスレーショナル研究も
他の組織よりも困難が伴います。
従って、リパーポスの中で根治は難しいですが、
症状を遅らせるような薬剤を探していくという事が
行われていると考えられます。
そうした中で、
実際の疾患モデルを3次元構造的に作り出し
それを母体として根治を目指した研究を行う
という事は強く望まれます。
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Matthew C. Kiernan, Steve Vucic, Kevin Talbot(敬称略)ら
オーストラリア、イギリス、アイルランド、アメリカ
オランダ、ニュージーランドの
国際的な医療研究グループは
筋萎縮性側索硬化症(ALS)について
臨床的な発展を含めて詳しく包括されています(1)。
本日はその内容の一部を
読者の方と情報共有したいと思います。
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//iPS細胞の利用可能性//ーーーーーーーー
患者さんの皮膚の繊維芽細胞から取り出した
体細胞をiPS細胞の遺伝子ファクターによって初期化して、
神経系の前駆細胞に分化させて
神経細胞とグリア細胞を作製します(2)。
患者さんの皮膚から取り出した細胞の遺伝子には
ALSを示す遺伝子の痕跡が残っている可能性があるので
そこから神経系の細胞に再び分化させたとき
一定割合はALSとなる運動系ニューロンの障害が
現れる可能性があります。
そうするとその表現型は
その患者さんの病状と類似性が高い可能性があり、
そこから試験管やオルガノイド(人工組織)を
作成することができれば、
その系統の中で有効な薬剤を見つけることができる
可能性があります。
それは従来の薬剤の中で有力な候補を
徹底的にスクリーニングする方法もあります。
また、その細胞を多く作製し保存すれば
新規の薬剤開発の母体として
継続的に何度も使える可能性もあります。
ーーーーー
/☆細胞特異的輸送系統の観点/
ALSを示す組織の巨視的、微視的な構造に着目します。
通常の組織との比較の中で
表現型として患部に特異的な要素を見つけ出し
それをまずは標的として定めます。
ALSの異常は上から順に
細胞核:TDP-43の異常分泌
ミトコンドリア:活性酸素増大
ミトコンドリア:DNAダメージ
細胞質:cGAMPの異常分泌
小胞体:STINGの活性
細胞質:TBK1⇒IRF-3,IκBα
細胞核:インターフェロン、炎症性サイトカイン
これらのような経路になっています(3)。
(参考文献(3) Figure 1より)
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/☆治療戦略/
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(細胞核内)
TDP-43を細胞核内で異常分泌させる遺伝子を見つける
⇒
細胞特異的輸送系統(iPS細胞ナノ粒子輸送)で
iPS細胞で作製した脳のオルガノイドに対して
Crispr-Cas9で神経系細胞の遺伝子改変を試みます。
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(ミトコンドリア)
活性酸素の生成を抑えるような環境にできないか?
(酸素レベル、栄養素など)
例えば、
ミトコンドリアの異常の疾患は
異常なミトコンドリアの閾値を超えることで起こる
とされています(4)。
細胞内には数百個~数千個のミトコンドリアが
存在すると言われています。
この「閾値」はどれくらいの割合のミトコンドリアが
異常になるか?で疾患が決まり、
逆言えば、少数であれば正常に機能する事を暗示しています。
ALSでTDP-43の分泌異常により
どれくらいのミトコンドリアが異常となるか?
すでに異常になったミトコンドリアは再生するのか?
融合も含めた動的機序の中で
正常化させるための軌道に乗せられるか?
ALSではこのミトコンドリアの異常が
ミトコンドリア疾患で示されるような閾値を大きく
超えているのか?
そのような観点があります。
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小胞体:STINGの活性
細胞質:TBK1⇒IRF-3,IκBα
細胞核:インターフェロン、炎症性サイトカイン
これらに関しても同様に
それを抑える薬を考えます。
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根本的な治療としては
(もし以下が正しければ)
最も上流のプロセスであるTDP-43の発現を抑えることです。
またそれによって影響を受けた
ミトコンドリアをどう回復させるか?
その様な事が考えられます。
それをしながら病状を進行させないように
下流側のSTNIGやインターフェロンなどの抑制を試みます。
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(細胞分裂の観点)
神経細胞は細胞分裂後すぐにG0期に入るため
増えないとされています。
これは生物の進化の過程で獲得してきたことですから
重要な意味がある可能性があります。
脳の神経のつながりと思考や行動などの関連は
コヒーレンシー(揃う事)
解像度(絞り、広がり)、位置、タイミング
これらの要素が大切であると仮説を立てています。
細胞が増えると構造的な可塑性が
軸索による連結以外に生じてしまうので
電気や血流などの生理信号とのマッチングが
上手くいかずに、行動や思考に支障をきたす
という可能性があるかもしれません。
この仮説が科学的事実と異なるとすれば
他の可能性としては
すでに軸索によって境界なくつながっている
神経細胞が活発に分裂すると軸索がその動きによって
切断されてしまう可能性がある
という事も考えられます。
もし、乳児の頃に神経系が増えるとすれば
その当時の事をあまり思い出せないという事
あるいは意識レベルが大人ほど高くない事と
関係しているかという観点もあります。
一方、
Rbファミリータンパク質を欠損させると
神経細胞が増えることが示されています(5)。
おそらく神経細胞を細胞分裂によって入れ替える
ということは現実的ではありません。
それよりもすでに存在する
神経細胞を如何に守るか?
あるいは機能不全になっている細胞死する前の
神経細胞を回復させられるか?
という観点があります。
--
一方、間質にあるグリア細胞においては
免疫機能、軸索の状態、血液脳関門など
脳の組織を健全に維持する事に貢献します。
可動性に富んでいると考えられますが、
こちらの細胞が分裂しないということであれば
軸索によって固定されている神経細胞よりも
介入する余地がある可能性があります。
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/☆細胞特異的輸送系統の観点/
複数の治療戦略において
脳神経組織の細胞種を定めて、
複数のルートで治療していく必要があるため
iPS細胞やナノ粒子による輸送媒体によって
正確に設計して
それが実現されるかどうかを
ALSを発症しているオルガノイドで確かめる
ということが求められます。
ーーーーーーーー
以上です。
(参考文献)
(1)
Matthew C. Kiernan, Steve Vucic, Kevin Talbot, Christopher J. McDermott, Orla Hardiman, Jeremy M. Shefner, Ammar Al-Chalabi, William Huynh, Merit Cudkowicz, Paul Talman, Leonard H. Van den Berg, Thanuja Dharmadasa, Paul Wicks, Claire Reilly & Martin R. Turner
ーーー
Brain and Mind Centre, University of Sydney, Sydney, New South Wales, Australia
Matthew C. Kiernan & William Huynh
Institute of Clinical Neurosciences, Royal Prince Alfred Hospital, Sydney, New South Wales, Australia
Matthew C. Kiernan & William Huynh
Sydney Medical School Westmead, University of Sydney, Sydney, New South Wales, Australia
Steve Vucic
Nuffield Department of Clinical Neurosciences, University of Oxford, Oxford, UK
Kevin Talbot, Thanuja Dharmadasa & Martin R. Turner
Sheffield Institute for Translational Neuroscience, University of Sheffield, Sheffield, UK
Christopher J. McDermott
NIHR Sheffield Biomedical Research Centre, Sheffield, UK
Christopher J. McDermott
Academic Neurology Unit, Trinity Biomedical Sciences Institute, Trinity College Dublin, Dublin, Ireland
Orla Hardiman
National Neuroscience Centre, Beaumont Hospital, Dublin, Ireland
Orla Hardiman
Department of Neurology, Barrow Neurological Institute, University of Arizona College of Medicine Phoenix, Creighton University, Phoenix, AZ, USA
Jeremy M. Shefner
King’s College London, Maurice Wohl Clinical Neuroscience Institute, Department of Basic and Clinical Neuroscience, London, UK
Ammar Al-Chalabi
Massachusetts General Hospital, Boston, MA, USA
Merit Cudkowicz
Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Merit Cudkowicz
Neurosciences Department, Barwon Health District, Melbourne, Victoria, Australia
Paul Talman
Department of Neurology, UMC Utrecht Brain Center, University Medical Center Utrecht, Utrecht, Netherlands
Leonard H. Van den Berg
Wicks Digital Health, Lichfield, United Kingdom
Paul Wicks
The Motor Neurone Disease Association of New Zealand, Auckland, New Zealand
Claire Reilly
ーーー
Improving clinical trial outcomes in amyotrophic lateral sclerosis
Nature Reviews Neurology (2020)
(2)
Mertens, J., Marchetto, M. C., Bardy, C. & Gage, F. H.
Evaluating cell reprogramming, differentiation and conversion technologies in neuroscience.
Nat. Rev. Neurosci. 17, 424 (2016).
(3)
Philip Van Damme, M.D., Ph.D., and Wim Robberecht, M.D., Ph.D.
STING-Induced Inflammation — A Novel Therapeutic Target in ALS?
The New England Journal of Medicine 384;8 765-767 (2021)
(4)
William L. Macken, Jana Vandrovcova, Michael G. Hanna & Robert D. S. Pitceathly
Applying genomic and transcriptomic advances to mitochondrial medicine
Nature Reviews Neurology (2021)
(5)
Mio Oshikawa, Kei Okada, Hidenori Tabata, Koh-ichi Nagata, Itsuki Ajioka
Dnmt1-dependent Chk1 pathway suppression is protective against neuron division
Development 2017 144: 3303-3314; doi: 10.1242/dev.154013
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