2021年3月17日水曜日

逃避変異系統(B.1.351)に対するワクチンChAdOx1疫学的評価

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

南アフリカで広がりを見せている変異系統(B.1.351)
は逃避変異性が強いE484Kの変異が見られます。
その他,RBD(2つ)、NTD(5つ)の変異が見られます(2,3)。
これらの変異が中和能を下げる事は以前から知られていました。
しかし、実際にこれらの変異が疫学的に
どれくらいワクチンの効果を低下させるかというのは
わかっていませんでした。
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S.A. Madhi, V. Baillie, S. Gilbert, A.J. Pollard,  T. de Oliveira, P.L. Moore, A. Sigal, A. Izu, A.L. Koen, L. Fairlie, S.D. Padayachee, K. Dheda, S.L. Barnabas, Q.E. Bhorat, C. Briner,
(敬称略)ら南アフリカ、イギリス、ドイツの医療研究グループは
オックスフォード大学、アストラゼネカ社製のワクチン
ChAdOx1(AZD1222)において
南アフリカで広がりを見せている変異系統(B.1.351)の効果を
疫学的に調査、報告されています。
その内容の一部について速やかに
読者の方と情報共有したいと思います(1)。
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//重要な結果//ーーーーー
南アフリカで行われた1464人規模の2重盲検法による
B.1.351変異系統での比較において
軽症、中等症の発症事例におけるワクチンの効果は10.4%であり、
統計的に有意性を示す結果ではないと考えられます。
この調査ではChAdOx1(AZD1222)においては
B.1.351変異系統に関してはワクチンによる
軽症、中等症に対する効果はほとんど確認できなかったと考えられます。
中等症、重症化において逃避変異に効果を示すかどうかに関しては
母数が少ない、あるいは該当者がいないために
今回の報告では評価できませんでした。
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//軽症、中等症の定義//ーーーーーー
--
(軽症)
これら3つの項目のうちいずれか1つ
加えて中等症、重症の評価基準を満たさない
・熱
・新たに生じた咳
・熱(37.8℃以上)、筋肉痛、悪寒、味覚障害、頭痛、
下痢、倦怠感、嘔吐、食欲低下(これら2つ以上)
--
(中等症)
これら3つの項目のうち1つ以上
・熱(37.8℃以上)、筋肉痛、悪寒、味覚障害、頭痛、
下痢、倦怠感、嘔吐、食欲低下
これら熱+2つ以上の症状+3日以上続く
・高熱(38.4℃以上)+3日以上継続
・息切れ、多呼吸(20-29/min)、SpO2<94%
X線、CTによる肺の異常、肺聴診による副雑音
(参考文献(1) Supplementary Table S1,S2より)
ーーーーーー

//実施時期//ーーーーーー
2020年6月24日~11月9日
ーーーーーー

//南アフリカでの変異系統B.1.351の広がり//ーー
2020年9月28日の週に確認され
そこから2か月程度で全体の80%を占めるようになる。
(参考文献(1) Supplementary Figure S1より)
この疫学調査の対象の時期においても
変異系統B.1.351が市中感染している時期と重複しており
今回の結果が得られたと考えられます。
ーーーーーー

//中和能の比較//ーーーーー
イギリス、ブラジルと比較して
南アフリカの人の従来株に対する中和能は低くはない。
(参考文献(1) Figure.2Aより)
ーーーーー

//変異による中和能の変化//ーーーーー
ワクチン接種群において
-
従来株
中和能400以上が50%程度。
残りの50%は中和能50-399。
50以下はいない。
-
B.1.351変異系統に該当するRBDのみの変異。
半分が中和能50以下。
のこりの半分が中和能50-399。
中和能400以上はいない。
-
B.1.351変異系統に該当する全ての変異(NTDサイトも含む)
75%以上が中和能50以下。
のこりが中和能50-399。
中和能400以上はいない。
--
※変異による中和能の低下はワクチン接種群の
ほうが自然に感染した群に比べて割合が大きい。
(参考文献(1) Figure.2Bより)
ーーーーー

//ワクチンの効果//ーーーーー
比較条件
ーー
・軽症から中等症の発症
・B.1.351変異系統のみ
・ワクチン2回接種から14日以上経過
ーー
有症人数/対象者人数(割合)
偽薬:20/714(2.8)
ワクチン接種:19/750(2.5)
ワクチンの効果:10.4%(−76.8 to 54.8)
---
※重症に発展した患者はいない。
軽症は上の統計も含めて全体で32人
(15:ワクチン、17:偽薬)
中等症は10人
(4:ワクチン、6:偽薬)
従って、今回の結果から中等症以上の
重症化に対するワクチンの効果について
統計的に比較するだけの母数は得られていません。
ーーーーー

//細胞性免疫の反応//ーーーーーー
ワクチン接種後のB.1.351に関連する受容体を持つ
CD4陽性T細胞
160-218 
319-377 
372-430 
425-483 
478-536 
これらの細胞が確認されています。
(参考文献(1) Supplementary Figure.S7より)
ーーーーー

//筆者の視点、考察//ーーーーーー
ワクチン接種を進めていった時に
今後想定されることは逃避変異が逐次、導入される
可能性があるという事です。
少なくともB.1.351に対しては
現在のワクチンでは中和能が激減していますから
ワクチンとして設計変更はこれから必要です。
しかし、設計変更したら、また逃避変異が入って
再度、設計変更する必要性が生まれる可能性があります。
--
そうした中で考えないといけない事は
変異に対して強靭なワクチンの開発
もしくは接種体制を考える事です。
変異が起きにくい、
変異が起きたとしても結合性への影響が小さい
結合位置、結合範囲の検討や
複数の特徴の異なるワクチンを混ぜる事などです。
--
もう一つの視点としては
中和能が低く、マッチングが小さいワクチンにおいても
症状の程度に効果があるか?
という視点です。
実際に南アフリカの中間報告では
今回、調査対象とならなかった
中等症から重症に関しては57%
重症に関しては89%
のワクチンの効果がB.1.357変異系統に対しても
確認されているということです(4)。
これはT細胞など細胞性免疫が働いている可能性が考えらます(5)。
T細胞において上述したように
B.1.351変異株のSタンパク質に対して結合性持つ
表面受容体を持つT細胞表現型は確認されましたが
その割合は高くはありません(1)。
--
S.A. Madhi氏は、何十億と接種が進められていく
現在のワクチンにおいて
少なくとも今回確認されたChAdOx1の接種試行に対して
熟考が必要であると明言されています(1)。
--
少なくとも現状のワクチンで接種を世界的に進める事は
もう現時点で止める事はできませんから
大切な事は
〇逃避変異に対するワクチンの効果を大規模に調べる事
〇逃避変異に対するワクチンの症状の程度に関する効果を調べる事
〇逃避変異を世界的に広げない事
〇遺伝子変異系統を継続的にモニターする事
〇ワクチン接種後に感染した人のウィルスの遺伝子を全て調べる事
少なくともこれらが求められます。
ーーーーーー

以上です。

(参考文献)
(1)
Shabir A. Madhi, Ph.D., Vicky Baillie, Ph.D., Clare L. Cutland, Ph.D., Merryn Voysey, D.Phil., Anthonet L. Koen, M.B., B.Ch., Lee Fairlie, F.C.Paeds., Sherman D. Padayachee, M.B., Ch.B., Keertan Dheda, Ph.D., Shaun L. Barnabas, Ph.D., Qasim E. Bhorat, M.Sc., Carmen Briner, M.B., B.Ch., Gaurav Kwatra, Ph.D., Khatija Ahmed, F.C.Path. (Micro), Parvinder Aley, D.Phil., Sutika Bhikha, M.B., B.Ch., Jinal N. Bhiman, Ph.D., As’ad E. Bhorat, F.R.A.C.G.P., Jeanine du Plessis, B.Sc., Aliasgar Esmail, M.D., Marisa Groenewald, M.B., B.Ch., Elizea Horne, M.B., B.Ch., Shi-Hsia Hwa, M.Sc., Aylin Jose, M.B., B.Ch., Teresa Lambe, Ph.D., Matt Laubscher, M.Sc., Mookho Malahleha, M.B., Ch.B., Masebole Masenya, M.B., Ch.B., Mduduzi Masilela, M.B., Ch.B., Shakeel McKenzie, B.Sc., Kgaogelo Molapo, Nat.Dip.O.H.S., Andrew Moultrie, B.Sc., Suzette Oelofse, M.B., Ch.B., Faeezah Patel, M.B., B.Ch., Sureshnee Pillay, B.Sc., Sarah Rhead, M.B., Ch.B., Hylton Rodel, B.Sc., Lindie Rossouw, M.B., B.Ch., Carol Taoushanis, B.Pharm., Houriiyah Tegally, M.Sc., Asha Thombrayil, M.B., B.Ch., Samuel van Eck, R.N., Constantinos K. Wibmer, Ph.D., Nicholas M. Durham, Ph.D., Elizabeth J. Kelly, Ph.D., Tonya L. Villafana, Ph.D., Sarah Gilbert, Ph.D., Andrew J. Pollard, F.Med.Sci., Tulio de Oliveira, Ph.D., Penny L. Moore, Ph.D., Alex Sigal, Ph.D., and Alane Izu, Ph.D. for the NGS-SA Group Wits–VIDA COVID Group*
Efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 Covid-19 Vaccine against the B.1.351 Variant
The New England Journal of Medicine March 16, 2021
(2)
Cele S, Gazy I, Jackson L, et al. 
Escape of  SARS-CoV-2  501Y.V2  variants  from neutralization  by  convalescent  plasma. 
January 26, 2021 (https://www . medrxiv . org/  content/  10 . 1101/  2021 . 01 . 26 . 21250224v1). preprint.
(3)
Tegally H, Wilkinson E, Giovanetti M, et  al.  
Emergence  and  rapid  spread  of  a new  severe  acute  respiratory  syndrome-related  coronavirus  2  (SARS-CoV-2)  lin-eage  with  multiple  spike  mutations  in South Africa. 
December 22, 2020 (https://www . medrxiv . org/  content/  10 . 1101/  2020 . 12 . 21 . 20248640v1). preprint.
(4)
Johnson & Johnson. 
Johnson & Johnson COVID-19 vaccine authorized by U.S. FDA for emergency use — first single-shot vaccine in fight against global pandemic. 
February  27,  2021  
(https://www . jnj . com/johnson - johnson - announces - single - shot - janssen - covid - 19 - vaccine - candidate - met - primary - endpoints - in - interim - analysis - of - its - phase - 3 - ensemble - trial).
(5)
McMahan K, Yu J, Mercado NB, et al. 
Correlates  of  protection  against  SARS-CoV-2 in rhesus macaques. 
Nature 2021; 590: 630-4.


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