2022年2月9日水曜日

胎児下部尿管閉塞(LUTO)の定義、診断、治療と再生医療の価値

//背景//ーーー
妊娠女性、胎児の健康を守るためには定期的な検査が必要です。
超音波検査では子宮内の胎児の周囲を満たしている
液体である羊水量が計測されます。
赤ちゃんは臍帯血、羊水などを通して
栄養を取り込んだり、排泄物を出したりして
生きていくための循環系の恒常性を守っています。
この中で前述した羊水量が多くても、少なくても
問題があるとされています。
妊娠が進んで胎生16週以降になると
胎児の尿が羊水の構成成分の主体となるため
仮に羊水量が少ないと尿が上手く排出的できていない
ことが推定されます。
そういった中、腎臓、尿路の異常が疑われます。
胎児の腎尿路異常は非常に稀で
特に組織的な異常が疑われる
膀胱の流出経路が閉塞する
Fetal lower urinary tract obstruction(以下LUTO)
これは世界の疫学統計では
1万人に2,3人の頻度であるとされています(9)。
またその中で重症度が3つに区分されていて
お子さんごとの程度のばらつきは大きいとされています(9)。
--
LUTOと診断されるタイミング。
出生前と出生後ではほぼ同等の割合である
と2005年の調査で明らかにされています(9)。
つまり、可能性としては半分の赤ちゃんにおいて
LUTOが生じていても胎内で見過ごされている
と推定されます。
--
Valentina Capone, Nicola Persico, Alfredo Berrettini, Stèphane Decramer, Erika Adalgisa De Marco, Diego De Palma, Alessandra Familiari, Wout Feitz, Maria Herthelius, Vytis Kazlauskas, Max Liebau, Gianantonio Manzoni, Michal Maternik, Giovanni Mosiello, Joost Peter Schanstra, Johan Vande Walle, Elke Wühl, Elisa Ylinen, Aleksandra Zurowska, Franz Schaefer & Giovanni Montini 
(敬称略)ら国際的な周産期医療、研究グループは
合意声明としてLUTOの定義、診断、維持/治療
これらについて総括されています(1)。
(*)The ERKNet CAKUT-Obstructive Uropathy Work Group
これらの団体による報告です。
その内容の一部について追記しながら
読者の方と情報共有したいと思います。

//合意声明(1)の概要//ーーー
胎児LUTOは出産後の併存症、命を落とすの原因となります。
上述したように膀胱の流出経路が閉塞することで
尿が膀胱に溜まってしまい、循環系の一部が遮断されます。
そうすると羊水が過少になります。
羊水は胎児の肺の形成と深いかかわりがあります。
お腹にいる赤ちゃんは羊水を飲んだり、排出する事で
外界に出る前に肺の機能を訓練しています。
羊水が少なくなると肺の訓練ができなくなるため
肺の成長が阻害され、異形成するリスクが高まります。
また、尿路が止まってしまうことで腎臓、膀胱にも影響が出ます。
--
しかしながら、今のところLUTOと完全に見分ける事ができる
特異的な診断基準は世界的にもありません。
--
そのような課題がある中、
The European Reference Network for Rare Kidney Diseases 
ヨーロッパの腎臓病の希少疾患のネットワーク機構は
ワークグループを設立しました。
そこで、出産前の胎児のLUTOの
・臨床的定義
・診断
・維持/治療
これらに関する"Recommendations"を定めました。
(Reccomendationの詳細は以下。)
--
診断のため最も信頼できる要因は
Antero-posterior diameter of renal pelvis 
「腎盂の前後径」です。
腎盂(じんう)とは腎臓において尿管に隣接して
存在する「ろうと様」の部分です。
その径(太さ)が変わる部分の大きさをモニターすることです。
この腎盂の前後径は通常は
・≥7 mm at 16–27 weeks gestation 
・≥10 mm at ≥28 weeks. 
これらとされていますが、それぞれ
・4-6mm at 16-17w
・7-9mm at ≥28w
これらに当てはまれば、臨床的検討が必要である
とされています。
その場合、条件として
・尿路拡張
・腎臓異形成
・膀胱、尿管形成異常
・羊水量
これらなど画像診断でわかる項目1つ満たす必要があります(2)。
--
予後に関しては
・羊水過少症-Oligohydramnios 
・羊水の枯渇-Anhydramnios
これら羊水の過少が妊娠20週より前に生じているかどうか?
これが大きなリスク因子になっています。
従って、羊水の量のチェックは非常に重要になります。
一方で
腎機能代替療法のリスクは生まれる前に予見することは
難しいとされています。
--
妊娠時にLUTOと診断された場合には
尿路閉塞の維持治療が産前、産後両方で出来る
分野横断的な治療チームがいる産婦人科病院に付託される
必要があります。
--
治療では膀胱に溜まった尿を抜き取る必要があります。
そのため羊膜-胎児の下腹部にニードルを貫通させて
陰圧シリンダーによって尿を抜き取ります。
*Prenatal vesico-amniotic shunt placement
(参考文献(1) Fig.4より)
それによりLUTOが生じた胎児の周産期の生存率が上昇し、
少なくとも一部のの命を救うことができる
とされています。

//LUTOについて//ーーー
胎児FUTOの疾患原因は胎児の尿路発育、組織形成の
段階での膀胱の流出経路の閉塞です。
その流出経路が閉塞することにより
膀胱に尿が溜まり、膀胱の拡張や膀胱壁の厚膜化が生じます。
それによって羊水の尿蛋白が多くなり、
結果、身体が低タンパク血症になり浮腫(むくみ)がでます。
子宮ネフローゼ症候群(Ureteronephrosis)。
また腎臓の柔組織が圧縮されます
(kidney parenchymal compression)。
さらに上述したように羊水が過少、枯渇します。
実際に妊娠の第二期に羊水が過少、枯渇すると
60-80%の胎児が命を落としてしまうので(3,4)、
それを必ず防ぐ必要があります。
--
LUTOによって影響を受ける臓器のうち
腎臓の異形成は胎児LUTOの重大な合併症です。
この腎臓は尿路が閉塞する事に寄って
腎臓の組織である糸球体の発達に影響を与えます(5)。
尿は毎日排出するものなので
短期間の尿路閉塞でも腎組織に重大な影響を与えます。
6日で半分のネフロン(腎臓単位)、
6週間で全てのネフロンが機能不全になります。
従って、LUTOの(前兆も含めた?)早期診断、治療が
非常に重要になります。
LUTOで生存した子供の末期の腎臓病になる
生涯リスクは30%であるとされています(6)。
--
LUTOの共通の最も共通の原因は
後部の尿路弁と尿道の閉塞です(7)。
--
超音波で所見できる要素は
・膀胱の拡張
・水腎症
・尿管の拡張
・羊水過少、枯渇
これらです(1)。
--
産前の子宮内で生じたLUTOに対して
治療を施し、産後にどれくらい腎機能に悪影響があるか?
この見積もりはお子さんの予後を健康に近づける上で
非常に需要の高い要求です。
ただ、胎児の場合難しいのは
親御さんから生を受けてから初期の段階で
尿路が(一時的にも)閉塞する事で
腎臓にどれくらい悪影響があって、
またその悪影響がその後の腎臓の組織、機能の発達の
軌跡にどのような関連性を持たせるか?
これは、組織として安定している大人の
予後診断よりも難しいのではないか?
このように想定されます。
但し、確実に言えるのは、
子宮内で胎児が育っている時に
臍帯血、羊水、胎児の循環系を異常がある中でも
最大限、最長に守るということです。
そのためには
Valentina Capone, Nicola Persico(敬称略)らが
合意声明しているように
LUTOの定義、診断、維持/治療の
国際的なガイドラインを定める必要があります。
それが安定的な医療介入につながると考えられるからです。

//ErKNet recommendations//ーーー
*参考文献(1)Box1参照
(推奨1)
診断のため最も信頼できる要因は
Antero-posterior diameter of renal pelvis 
「腎盂の前後径」です。
腎盂(じんう)とは腎臓において尿管に隣接して
存在する「ろうと様」の部分です。
その径(太さ)が変わる部分の大きさをモニターすることです。
この腎盂の前後径は通常は
・≥7 mm at 16–27 weeks gestation 
・≥10 mm at ≥28 weeks. 
これらとされていますが、それぞれ
・4-6mm at 16-17w
・7-9mm at ≥28w
これらに当てはまれば、臨床的検討が必要である
とされています。
その場合、条件として
・尿路拡張
・腎臓異形成
・膀胱、尿管形成異常
・羊水量
これらなど画像診断でわかる項目1つ満たす必要があります(2)。
--
(推奨2)
胎児のLUTO診断の疑いについて
<胎児の膀胱の拡張>
妊娠第一期では
縦の径 7mm以上, 15mm以上であれば強く疑われる。
妊娠第二期、第三期での
膀胱拡張時の径の基準については
より詳しい研究が必要であるとされています。
--
(推奨3)
羊水過少、枯渇は胎児や新生児が命を落とす
リスク因子となっています。
特に妊娠20週以前においてそうなることです。
その場合、肺の異形成が高い確率で予見されます。
従って、羊水のモニタリングは重要です。
--
(推奨4)
腎臓機能代替療法のリスクについては
LUTOを持つ胎児において産前に予見する事は
難しいとされています。
羊水の量、腎臓柔組織のエコー輝度、
胎児尿バイオマーカーは信頼できる予測因子ではありません。
羊水の量が正常であっても、
産後の腎臓の機能が正常であるかどうかの
強い示唆はありません。
推奨7にも示されたように
LUTOの治療を受けて、産後、一命をとりとめた
子供においては腎臓機能の定期的、かつ詳しい検査が
必要であります。
--
(推奨5)
LUTOの重症度を測る多因子のスコアが
産後の臨床結果を予見するために提案されています。
しかし、それはまだ臨床的に適用されていません。
そのためには追加的な臨床的妥当性を必要としています。
<参考:重症度分類>Ref.(1) Table1より
#:軽症
腎盂の前後径が正常 (妊娠26週)
##:中等症
膀胱の体積 5.4cm^3以下
腎盂の前後径が正常 (妊娠20週)
###:重症
膀胱の体積 5.4cm^3以上
羊水の過少、枯渇(妊娠20週)
--
(推奨6)
妊娠時にLUTOと診断された場合には
尿路閉塞の維持治療が産前、産後両方で出来る
分野横断的な治療チームがいる産婦人科病院に付託される
必要があります。
--
(推奨7)
胎児の膀胱に溜まった尿を抜き取る
Prenatal vesico-amniotic shunt placement。
これは生存率を上げる事が示されています。
しかしながら、産後、長期的なリスクが
腎臓の機能も含めて残存するので、
持続的かつ注意深いモニタリングが必要です。

//まとめ、考察//ーーー
人の成長を物質として例えるのに
倫理的な抵抗がある方もいるかもしれないですが、
1つの異分野の考え方として提供します。
例えば、
ある基板上に無機物質を結晶成長させる時には
成長してしばらく経った後の安定期の条件よりも
成長「初期」の条件が結晶品質に大きく影響を与えます。
例えば、貫通転位や点欠陥の密度は
主に成長初期の膜形成に依存する部分が大きいです。
それは、癌組織の成長でも同じかもしれません。
細胞が癌微小環境に成長するときには
基板である微小環境の状態や
初期に癌細胞が成長していくときに条件が、
その後の組織としての大きさ、表現型、特質を決める
かもしれないという考え方です。
--
そういったことは人の成長でもいえるかもしれません。
脳、骨、筋肉、肺、心臓、肝臓、腎臓、脾臓、
膀胱、胸腺、血管、リンパ管、目、鼻、口、耳
手、足、泌尿器、歯、毛髪、、
様々な器官が形作られていきます。
子供が子宮内にいる胎児のときに
どこかに異常が出てしまうと
その一か所だけではなく他の組織にも影響を与えてしまいます。
例えば、横隔膜の異形成では肺に異常がでます。
今回のように尿管閉塞でも腎臓や肺に影響が出ます。
--
但し、人の成長の初期というは
倫理的な面も含めて研究する難しさがあります。
一方で、その活路として
iPS細胞も含めて再生医療で腎臓を作る試みもされています(8)。
その時にもちろん、組織として移植ができる
完全な腎臓を作ることを目的としますが、
その臨床的価値はそれだけにとどまりません。
初期の状態からどのように成長するか?
それについて完全に体内と条件を揃える事はできませんが、
失敗もしながら詳しく軌跡を分析する事で
今までほとんど理解されなかった
胎児の成長初期の問題について
様々な角度で理解が進む可能性があります。
--
LUTOも含めて一旦尿管に異常が出てしまうと
一生、腎臓機能などのモニタリングが必要になります。
成長初期に腎臓がダメージを受けた可能性があるからです。
それだけ成長初期というのは臨界的で大切な時期です。
しかし、その理解は進んでいないという認識です。
その大切なギャップを埋めるためには
再生医療の存在が非常に大きいと思います。
私が、周産期/新生児/幼児医療に
今と同様に向き合き続ける限り、
胎児から存在する先天性の疾患に対する
再生医療の価値について再確認し、
支援、応援していきたいと思います。

(参考文献)
(1)
Valentina Capone, Nicola Persico, Alfredo Berrettini, Stèphane Decramer, Erika Adalgisa De Marco, Diego De Palma, Alessandra Familiari, Wout Feitz, Maria Herthelius, Vytis Kazlauskas, Max Liebau, Gianantonio Manzoni, Michal Maternik, Giovanni Mosiello, Joost Peter Schanstra, Johan Vande Walle, Elke Wühl, Elisa Ylinen, Aleksandra Zurowska, Franz Schaefer & Giovanni Montini 
Definition, diagnosis and management of fetal lower urinary tract obstruction: consensus of the ERKNet CAKUT-Obstructive Uropathy Work Group
Nature Reviews Urology (2022)
(2)
Nguyen, H. T. et al. 
Multidisciplinary consensus on the classification of prenatal and postnatal urinary tract dilation (UTD classification system). 
J. Pediatr. Urol. 10, 982–998 (2014).
(3)
Hobbins, J. C. et al. 
Antenatal diagnosis of renal anomalies with ultrasound. I. Obstructive uropathy. 
Am. J. Obstet. Gynecol. 148, 868–877 (1984).
(4)
Reuss, A., Wladimiroff, J. W., Stewart, P. A. & Scholtmeijer, R. J. 
Non- invasive management of fetal obstructive uropathy. 
Lancet 2, 949–951 (1988).
(5)
Matsell, D. G., Mok, A. & Tarantal, A. F. 
Altered primate glomerular development due to in uterourinary tract obstruction. 
Kidney Int. 61, 1263–1269 (2002).
(6)
Heikkila, J., Holmberg, C., Kyllonen, L., Rintala, R. & Taskinen, S. 
Long- term risk of end stage renal disease in patients with posterior urethral valves. 
J. Urol. 186, 2392–2396 (2011).
(7)
Ruano, R. et al. 
Fetal intervention for severe lower urinary tract obstruction: a multicenter case- control study comparing fetal cystoscopy with vesicoamniotic shunting. 
Ultrasound Obstet. Gynecol. 45, 452–458 (2015).
(8)
京都大学CiRA、リジェネフロ社およびアストラゼネカ社との共同研究契約の締結を発表 共同研究によりiPS細胞から腎臓組織の作製を目指す
https://www.cira.kyoto-u.ac.jp/j/pressrelease/news/220207-100000.html
(9)
Anumba, D. O., Scott, J. E., Plant, N. D. & Robson, S. C. 
Diagnosis and outcome of fetal lower urinary tract obstruction in the northern region of England. 
Prenat. Diagn. 25, 7–13 (2005).


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