//背景//
新型コロナウィルス感染症で気をつけないといけないのが
急性期の症状だけではなく、急性期を過ぎた
ポスト急性期での後遺症です。
おおよそ30-70%の人が感染から2-3か月後にも少なくとも
続いている後遺症を経験すると言われています(2)。
その後遺症は個人差があり、全身に及びますが、
代表的なものが
・嗅覚味覚障害
・記憶力の低下
・倦怠感
・息切れ
・胃腸の不調
これらです(2)。
---
Yapeng Su(敬称略)ら医療研究グループは
その後遺症の主に免疫学的な機序について
実際の後遺症を示した100名の患者さんからの
血液による分析によって初めて明らかにしています。
その内容を見ると、
今までリスク因子とされていた
・Ⅱ型糖尿病などの併存症
・症状の程度(重症、肺炎)
だけではなく、
・臨床症状を示さない自己抗体
・多くの人が感染している体内潜伏ウィルス
など
新型コロナウィルス発症前の状態が
後遺症に関わっていることが示されています(1)。
Alexandra Flemming(敬称略)はこの報告を
"First glimpses into the mechanisms of Long COVID"
と評されています(2)。
---
開示されている情報を一つ一つ紐解いて、整理しながら
治療も含めていくつかの考察、調査内容を提示して
新型コロナウィルス後遺症研究、
治療のための一翼として機能いたします。
//後遺症と関連の深い要因//
(倦怠感)
・Ⅱ型糖尿病
(呼吸器のウィルス活性化)
・Ⅱ型糖尿病
(神経症状)
・女性
・感染時の免疫グロブリン量
(息切れ)
・心疾患
・女性
・喫煙
(せき)
・Ⅱ型糖尿病
・感染時の免疫グロブリン量
・感染時の赤血球量
(嗅覚、味覚障害)
・心疾患
・せき(後遺症として)
--
(参考文献(1) Fig.1Dより)
--
※神経症状を有している人はサーカディアンリズム
が崩れる傾向にあります。
従って、睡眠障害が顕著になります。
(参考文献(1) Fig.1Eより)
//ウィルス血症//
(定義)
ウィルスが軌道や呼吸器だけではなく
血中に侵入する事です。
従って、ウィルス血症では循環器を通じて
全身に回ることを意味すると考えられます。
--
SARS-CoV-2ウィルス血症(SARS-CoV-2 RNAemia)
(注)RNAemiaなのでウィルスそのものだけではなく
エンベロープが解けたウィルスRNAが検出されるものも
含まれると考えます。
このSARS-CoV-2 RNAemiaは「25%」
-
エプスタインバールウィルス血症(EBV viremia)
これは「14%」
これらの割合の患者さんで見られました。
-
これらの血中ウィルス量は
感染時にピークとなり、
そこから指数関数的に低下していきます。
後遺症の時期、2-3か月後では
SARS-CoV-2, EBVウィルスの検出は
ごくわずかとなっています。
(ピークと比べて3桁以上低下)
--
この変化から、エプスタインバールウィルスは
一部の人において新型コロナウィルス感染において
「再活性化された」と考えられます。
--
一方、
サイトメガロウィルスの上昇はみられません。
//ウィルス血症と後遺症//
感染時のSARS-CoV-2のRNA血症は
ほとんどの後遺症のオッズを向上させます。
特に脳に関わる
記憶、集中力、睡眠などの神経障害
これらのリスクを高めます。
--
エプスタインバールウィルス血症は
胃腸、記憶、倦怠感、痰などの症状と関わりが強いです。
このエプスタインバールウィルスと
後遺症の関連性について指摘している報道もあります。
--
いずれにしても潜伏ウィルスや新型コロナウィルスの
RNAが血中に侵入することで
後遺症のリスクを高める事が示されています。
--
入院を要する比較的症状の重い患者さんにおいて
エプスタインバールウィルス血症が多く診られています。
また回復もやや遅延しているようにみえます。
(参考文献(1) Fig.5D)
//自己抗体の後遺症//
自己抗体から生じる全身性エリテマトーデスは
新型コロナウィルスの後遺症と症状が似ていると言われています(4)。
全身に炎症を起こす自己免疫疾患です。
例えば、関節痛なども関連します。
その全身性エリテマトーデスに関わる以下6つの自己抗体
anti-IFN-α2,
Ro/SS-A,
La/SS-B,
U1-snRNP,
Jo-1,
P1
これらは、後遺症を発症した人において
健康な人よりも多く見られます。
しかし、抗体のクラススイッチが感染時から起こっている
ことから、感染前から自己抗体を持っていた人が
多いではないかと考えられています。
しかし、自己免疫疾患の有症状だった人は
ヘルスレコードで6%しかいなかったとされています。
多くは無症状の自己抗体量であったとされています。
--
新型コロナウィルス特異的な抗体は
新型コロナウィルスの後遺症との相関は低いですが、
これらの自己抗体は後遺症との相関は高いです。
・痰
・胃腸
・運動能力低下
・咳
・呼吸器ウィルス
・嗅覚味覚障害
です。
(参考文献(1) Fig.2C)
--
これらの自己抗体は急性期の新型コロナウィルス
炎症反応によって高まったとされています。
例えば、抗ウィルス性のIFN-γの血漿濃度は
anti-IFN-α2,
Ro/SS-A,
U1-snRNP,
P1
これらの自己抗体量を顕著に増やします。
(参考文献(1) Fig.2D)
//T細胞の系統//
急性期と後遺症の時期では
CD8+ T細胞、CD4+ T細胞の
細胞傷害性、メモリー性それぞれにおいて
時期によって明らかに異なる
表現型の細胞へ分化していることがわかります。
(参考文献(1) Fig.3B)
--
サイトメガロウィルス抗原に特異的な
細胞傷害性CMV-specific CD8+T細胞が
後遺症の患者さんで多くなっています。
//考察1//
ウィルス血症がどのようなルートで生じるか?
それについては科学的な証拠を掴む必要があります。
想定されるルートは肺の組織に感染したウィルスが
・細胞外に放出されるときに周辺の(毛細)血管に入るか?
・ダメージを受けた肺において
組織の隙間からウィルスそのものが(毛細)血管に入るか?
・肺が細胞死した時に細胞内にあるウィルス、RNAが
周辺の血中に放出されるか?
その様な事が考えられます。
肺は循環器において重要な組織で血管が集まっているので
呼吸器系感染症ではメインのルートになるのではないか?
その時に重要になるのが、
変異ウィルスによって後遺症の頻度、程度は変わるか?
ということです。
例えば、肺でのウィルス量が少ないオミクロン株は
他の株に対して、後遺症になる確率、
あるいは病状の程度が低いかどうか?
//考察2//
エプスタインバールウィルスは
新型コロナウィルス後遺症と類似性の見られる
全身性エリテマトーデスを含め
自己免疫疾患と関わりがあり、
自己抗体の産生、自己免疫疾患の原因となります。
また、パーキンソン病などの神経変性疾患との関連性も
指摘されています。
これら、自己抗体は
参考文献(1)Fig.2Bからわかるように
「新型コロナウィルス抗体そのもの」とは
関連性が低いとされています。
この事からどういう事が推定されるか?
・生きたウィルスに感染して抗体を産生する場合、
・mRNA、ウィルス不活化などのワクチンを接種して
抗体を産生する場合
これらでは自己抗体の産生が異なるのではないか?
と考えられます。
つまり、抗体をより直接的に生み出すワクチンは
他の体内潜伏ウィルスの活性化や
それによる自己抗体の産生のリスクが低いと
言えるかどうか?ということです。
これは、非常に重要な意味を持っています。
しかしながら、
エプスタインバールウィルスの
再活性化の機序についてはよくわかっていません。
少なくとも試験管では
B細胞受容体の刺激により再活性化する
といわれています(3)。
従って、現時点ではワクチンが
自己抗体を産生したり
エプスタインバールウィルスを
再活性化するか、しないかは未知です。
但し、下述するように自己抗体は細胞死する事によって
生じる事があるとされています(11)。
ワクチンは重症化を下げる効果があるので
少なくとも自己抗体は生まれにくいと考える事もできます。
//考察3//
エプスタインバールウィルスは
・バーキットリンパ腫(5)
・血球貧食性リンパ組織症(6)
・胃癌、上咽頭癌(7,8)
・多発的硬化症(9)
・リンパ腫様肉芽腫(10)
これらのリスクと関連があるとされています。
一方で日本では90-100%の人で感染しているウィルスです。
潜伏期と再活性時において
上述した疾患と関連があるか?
しかし、ウィルス血症ウィルス濃度は
感染後、速やかに低下しています。
--
同じく免疫細胞が特異性を見せた
サイトメガロウィルスも広く感染がみられるものです。
おそらく「体内に存在することで」
新型コロナウィルス後遺症と関連して
このウィルス特異的な細胞傷害性T細胞が発現した
と考えられます。
しかし、このウィルス血症は見られていません。
ただ、
サイロメガロウィルスは先天性感染を起こすと
20%の胎児で子宮内発育遅延・肝脾腫・小頭症を
起こすとされています。
妊娠時のインフルエンザ感染に対して
すでに注意喚起されていますが、
それは新型コロナウィルスでも当てはまる可能性があります。
--
このようなウィルス感染による潜伏ウィルスの変化は
新型コロナウィルスだけではなく、
インフルエンザでも起こり得ることなので
感染症の脅威が産業の国際化が進み高まる中
今後、より詳細な研究が必要です。
//治療//
ウィルス血症は時間と共に指数関数的に減っています。
残る要素としては自己抗体の高まりです。
特に新型コロナウィルスは
全身性エリテマトーデス(SLE)との関連が深いと言われています(4)。
従って、従来からのこの疾患に対する治療を適用する
ことが一つの道であると考える事も出来ます。
ステロイドやリツキシマブ(治験中)などによる
治療が考えられます。
また、SLEではインターフェロンの活性が高まっています(12)。
この報告でもインターフェロンとCOVID-19後遺症の関連が
他の自己抗体に比べても強く出ています。
それをおさえるアニフロルマブ(Anifrolumab)
これを投与したところ1年間の継続治療で
全身性エリテマトーデスの患者さんに対して
おおよそ25%程度の炎症頻度の改善が見られています(13)。
従って、この治療をCOVID-19の患者さんに適用した時に
一定の臨床効果を示す可能性があります。
--
一方で、
全身性エリテマトーデスの自己抗体は
根源の一つとしては細胞死によるものである
と考えられています。
(参考文献(11) Figure.1)
従って、損傷を強く受ける肺組織を急性期に守ることが
1つは大切になります。
従って、ワクチンによって事前に重症化を防ぎ
肺組織を守る事は重要になると考えられます。
//まとめ//
後遺症は感染前の自己抗体や潜伏ウィルスなどによっても
影響を受けると考えられますが、
これらは新型コロナウィルス感染によって惹起されます。
従って、対策としては、
1つは新型コロナウィルスを重症化させない
ということが挙げられると思います。
しかし、後遺症は軽症でも起こることがあります。
軽症に限定した後遺症の機序は明らかではありませんが、
ピークのウィルス量はあまり変わらない
というデータもあります。
ウィルスに暴露する事、免疫系が高まる事は
軽症でも起こる事なので、
一定の確率で後遺症が生じてしまうという事は
考えられるかもしれません。
また、女性が起こりやすいという事も一般的です。
新型コロナウィルスも含めた
感染症における「性差研究」も今後求められます。
(参考文献)
(1)
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Sarah Li, Sunga Hong, Rongyu Zhang, Jingyi Xie, Sergey A. Kornilov, Kelsey
Scherler, Ana Jimena Pavlovitch-Bedzyk, Shen Dong, Christopher Lausted, Inyoul
Lee, Shannon Fallen, Chengzhen L. Dai, Priyanka Baloni, Brett Smith, Venkata R.
Duvvuri, Kristin G. Anderson, Jing Li, Fan Yang, Caroline J. Duncombe, Denise J.
McCulloch, Clifford Rostomily, Pamela Troisch, Jing Zhou, Sean Mackay, Quinn
DeGottardi, Damon H. May, Ruth Taniguchi, Rachel M. Gittelman, Mark Klinger,
Thomas M. Snyder, Ryan Roper, Gladys Wojciechowska, Kim Murray, Rick Edmark,
Simon Evans, Lesley Jones, Yong Zhou, Lee Rowen, Rachel Liu, William Chour,
Heather A. Algren, William R. Berrington, Julie A. Wallick, Rebecca A. Cochran,
Mary E. Micikas, the ISB-Swedish COVID19 Biobanking Unit, Terri Wrin, Christos J.
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D. Price, Naeha Subramanian, Joshua A. Hill, Jennifer Hadlock, Andrew T. Magis,
Antoni Ribas, Lewis L. Lanier, Scott D. Boyd, Jeffrey A. Bluestone, Helen Chu, Leroy
Hood, Raphael Gottardo, Philip D. Greenberg, Mark M. Davis, Jason D. Goldman,
James R. Heath
Multiple Early Factors Anticipate Post-Acute COVID-19 Sequelae
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(2)
Alexandra Flemming
First glimpses into the mechanisms of Long COVID
Nature Reviews Immunology (2022)
(3)
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"Progress and problems in understanding and managing primary Epstein-Barr virus infections".
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(4)
Raveendran, A. V, Jayadevan, R., and Sashidharan, S. (2021).
Long COVID: An overview.
Diabetes Metab. Syndr. 15, 869–875.
(5)
Pannone G, Zamparese R, Pace M, Pedicillo MC, Cagiano S, Somma P, et al. (2014). "The role of EBV in the pathogenesis of Burkitt's Lymphoma: an Italian hospital based survey". Infectious Agents and Cancer. 9 (1): 34.
(6)
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(7)
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(8)
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(9)
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(10)
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(11)
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(12)
Bengtsson AA, Rönnblom L. Role of
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(13)
Eric F. Morand, M.B., B.S., Ph.D., Richard Furie, M.D., Yoshiya Tanaka, M.D., Ph.D., Ian N. Bruce, M.D., Anca D. Askanase, M.D., M.P.H., Christophe Richez, M.D., Ph.D., Sang-Cheol Bae, M.D., Ph.D., M.P.H., Philip Z. Brohawn, M.B.A., Lilia Pineda, M.D., Anna Berglind, Ph.D., and Raj Tummala, M.D. for the TULIP-2 Trial Investigators*
Trial of Anifrolumab in Active Systemic Lupus Erythematosus
The New England Journal of Medicine 2020; 382:211-221
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