2022年2月15日火曜日

テロメアと老化、老化関連疾患、iPS細胞の関連と考察

//背景//ーー
テロメアは染色体の端にあるTTAGGGという単位をもつ
周期的な構造で染色体のDNAの複製、
それによる細胞分裂に関わる遺伝子構造です。
またDNAがダメージを受けている細胞においては
DNAダメージを検知して(DDR)、
それ以上数を増やさないように
細胞増殖を停止する働きもあります(2,3)。
(細胞サイクル停止因子 p21, p16)
--
テロメアは加齢により細胞分裂を繰り返したり、
内的、外的な要因によってテロメアDNAが損傷を受けると
短くなります。
そのように短くなったテロメアは
様々なたんぱく質によって装飾され
DNAの修復や融合などの重要な機能が抑制されてしまいます(4)。
このような状態になると
DNAのダメージ反応は継続的に細胞内で生じるようになり、
細胞の老化が推し進められます。
このようにDNAダメージ反応が活性化されている状態では
テロメア位置に以下の老化マーカーが形成されます。
・Telomere-associated DDR foci (TAFs) 
・Telomere-induced DNA damage foci (TIFs)
--
テロメア機能が不全となった状態では
いくつかの細胞タイプでは
アポトーシスやオートファジーを通して細胞死します。
しかしながら、老化細胞は
老化に関わる炎症性サイトカイン
Senescence-associated secretory phenotype (SASP)。
これを発出します。
このサイトカインは自身の細胞や
近くに存在する細胞に影響を与え、
自身、近くの細胞の老化を促してしまいます。
従って、老化細胞が核形成すると周りの細胞も老化させ
組織の炎症、線維化など組織の状態を悪化させる事も考えられます。
従って、老化因子がみられる場合には
その細胞を速やかに除去する必要があります。
--
テロメアは通常の染色体のDNAと異なり、
細胞修復の大元となる部位なので、
そこが内因的、外因的に損傷を受けると
可逆的に修復する事はできません。
なぜなら、もしテロメアを修復する能力が高ければ、
生物はいつまでも生きられる事を意味するからです。
生物におおよその寿命が設定されている限り、
テロメアの不可逆性は維持されます。
そのように構造的に不可逆なので、
テロメアが損傷、老化により短くなると
継続的なDNAダメージ反応が起こり
細胞の老化は促進されます。
--
人は高齢になると様々な疾患を発症するようになります。
その一つの病因は、テロメア構造短縮化による
細胞の老化であると言っても過言ではありません。
--
Francesca Rossiello, Diana Jurk, João F. Passos & Fabrizio d’Adda di Fagagna
(敬称略)ら医療研究グループは
テロメアの機能不全と老化、老化による疾患について
総括されています(1)。
本日はその内容の一部と
iPS細胞とテロメアに関する調査について
読者の方と情報共有したいと思います。

//テロメアと老化//ーー
他の動物と比較した時にテロメアの絶対的な長さが
それぞれの動物の寿命も決めているわけではありません。
主に関係するのはテロメアの短縮化が
どれだけの周期、速度で生じるか?ということです(1,5)。
--
ここが重要なポイントです。
テロメアの短縮化は、ある組織、臓器内で
同じスピードで起こるのではなく、組織内で異種性があります。
つまり、テロメアが短い細胞と、長い細胞が
共存している可能性です(6)。
しかし、何らかのストレスを受けて、
少数の細胞のテロメアが短い状態であると
そこから老化マーカーを自己分泌、傍分泌様に発現し
自ら、周りの細胞組織を炎症、線維化させてしまいます。
従って、老化マーカー(TAF)を発現している
老化細胞を除去する療法が提案されています(7-10)。
すでに日本では老化細胞除去療法を提案している医療機関もあります。
今後、エビデンスが積みあがり、
さらに標的性、効果の高い薬剤が生まれると
世界で一気に普及する可能性があります。
--
老化マーカー(TAFs)を低減できる要素としては
・カロリー制限(9)
・運動(11)
・ラパマイシン(12,13)
・17β-oestradiol(14)
これらが挙げられています。
--
この老化マーカー(TAFs)は
・慢性炎症(15)
・肥満(8,9)
・ミトコンドリアの不全(7)
・オートファジーの不全(16)
これらによって蓄積すると言われています。

//テロメア短縮化と疾患の関係//
どのようなきっかけによって疾患に発展したか?
これについては個々によると思いますが、
少なくとも結果的には
下記、全身の疾患において、
テロメア短縮化が一定の割合で伴っていることが
示されています(1)。
--
<肺>
・突発性肺線維症
・慢性閉塞性肺疾患
--
<循環器>
・心臓病
・動脈硬化
・貧血
・骨髄異形成症候群
--
<代謝>
・メタボリックシンドローム
・Ⅱ型糖尿病
--
<肝臓>
・肝疾患
--
<骨>
・骨関節炎
・骨そしょう症
--
<腎臓>
・腎臓病
--
<脳神経>
・アルツハイマー病
・パーキンソン病
--
<眼>
・老化関連黄斑変性
--
・低受精率

//iPS細胞との関連//ーー
iPS細胞は細胞の初期化をする事によって
多能性を得て、身体の様々な部位の細胞になることができます。
しかし、もしその過程で、テロメアの長さがそのままであれば、
初期化をしても細胞の状態は初期化前の年齢を引き継いだままです。
高齢の患者さんからとったiPS細胞であれば、
すぐに老化細胞となってしまいます。
山中因子によって初期化した時に
テロメアの伸張が起こるか?
その視点で調査してみました。
Suneet Agarwal(敬称略)ら医療研究グループの発表によると
テロメアの維持不全に関わる
先天性角化不全症の患者さんの細胞を初期化することで
テロメアーゼが活発化して、テロメアの伸張が確認された
とされています(17)。
同様に動物のケースにおいて体細胞をiPSCにリプログラムすると
テロメアの伸張が見られたとされています。
但し、テロメアの伸張に関わる
・Telomerase reverse transcriptase (TERT) 
この転写酵素がテロメアの伸張に関わりますが、
これが制御不能な状態で働いているのが癌細胞です(18)。
従って、初期化する前の細胞の年齢が高く
老化している細胞を初期化するときには
その過程で癌化因子が入りやすい事も考えられるかもしれません。
この視点において、Ana Banito(敬称略)らは
老化細胞の初期化は多能性獲得成功を阻むと報告されています(19)。
--
老化研究は、最も資金が集まりやすい領域だと考えています。
なぜなら、世界の富裕層の方が欲しいのは
「健康な時間」だからです。
おそらく今の限界である120歳以上に寿命を延ばすためには
植物の研究が欠かせないと考えます。
植物の中には体細胞のリプログラミングを成長後も失わず
多能性幹細胞を新生する能力を備えています(20)。
どのように細胞の年齢サイクル(老化⇔若返り)を築き
生物として永続性を得ているのか?
例えば、植物の細胞のDNAのテロメア部分のダイナミクスを
分子レベルで観察するとどのようになっているか?
そこからiPS細胞の発見のように
さらに人とのしての永続性のヒントがあるかもしれません。
また、植物は
テロメア伸張転写因子を活発に働かせることで癌化するのか?
そういったリスクマネイジメントの研究も考えられます。

//考察//ーー
老化組織も悪影響のある組織としてみると、
癌組織と同じような考え方ができます。
癌も周りの細胞に影響を与え、
悪性度の高いものは競争に勝ち組織を大きくしていきます。
老化細胞には癌のように「離れた組織に」転移する事が
あるかどうかは未知ですが、
少なくとも傍分泌様に周りの組織に影響を与え
細胞の状態を悪化させます。
例えば、肝臓の臓器全体が老化してしまい、
肝硬変や癌などが生じている状態では
臓器移植が必要です。
一方、転倒した時の擦り傷のように
各臓器、組織の一部が老化している状態では、
癌細胞と同じようにその組織を老化細胞除去薬で取り除く
ということが大切になります。
また老化細胞の場合は、
テロメアが長い老化マーカーが少ない細胞の増殖を促したり、
iPS細胞で作られたテロメアが回復した(?)心筋シートのように
組織に貼り付ける、あるいは特異的に輸送するなどをして
若くて健康な細胞の範囲を広げることが治療として考えられます。

(参考文献)
(1)
Francesca Rossiello, Diana Jurk, João F. Passos & Fabrizio d’Adda di Fagagna 
Telomere dysfunction in ageing and age-related diseases
Nature Cell Biology volume 24, pages135–147 (2022)
(2)
 d’Adda di Fagagna, F. et al. 
A DNA damage checkpoint response in telomere-initiated senescence. 
Nature 426, 194–198 (2003).
(3)
Herbig, U., Jobling, W. A., Chen, B. P., Chen, D. J. & Sedivy, J. M. 
Telomere shortening triggers senescence of human cells through a pathway involving ATM, p53, and p21 CIP1 , but not p16 INK4a . 
Mol. Cell 14, 501–513 (2004).
(4)
Cesare, A. J. & Karlseder, J. A three-state model of telomere control over 
human proliferative boundaries. Curr. Opin. Cell Biol. 24, 731–738 (2012).
(5)
Whittemore, K., Vera, E., Martínez-Nevado, E., Sanpera, C. & Blasco, M. A. 
Telomere shortening rate predicts species life span. Proc. Natl Acad. Sci. 
USA 116, 15122–15127 (2019).
(6)
Hemann, M. T., Strong, M. A., Hao, L.-Y. & Greider, C. W. The shortest 
telomere, not average telomere length, is critical for cell viability and 
chromosome stability. Cell 107, 67–77 (2001).
(7)
Anderson, R. et al. Length-independent telomere damage drives 
post-mitotic cardiomyocyte senescence. EMBO J. 38, e100492 (2019).
(8)
Ogrodnik, M. et al. Obesity-induced cellular senescence drives anxiety and 
impairs neurogenesis. Cell Metab. 29, 1233 (2019).
(9)
Ogrodnik, M. et al. 
Cellular senescence drives age-dependent hepatic steatosis. 
Nat. Commun. 8, 15691 (2017).
(10)
Roos, C. M. et al. 
Chronic senolytic treatment alleviates established vasomotor dysfunction in aged or atherosclerotic mice. 
Aging Cell 15, 973–977 (2016).
(11)
Bianchi, A. et al. Moderate exercise inhibits age-related inflammation, liver 
steatosis, senescence, and tumorigenesis. J. Immunol. 206, 904–916 (2021).
(12)
Correia-Melo, C. et al. Mitochondria are required for pro-ageing features of 
the senescent phenotype. EMBO J. 35, 724–742 (2016).
(13)
Correia-Melo, C. et al. Rapamycin improves healthspan but not 
inflammaging in nfκb1 –/–  mice. Aging Cell 18, e12882 (2019).
(14)
Stout, M. B. et al. 17α-Estradiol alleviates age-related metabolic and 
inflammatory dysfunction in male mice without inducing feminization.  
J. Gerontol. A Biol. Sci. Med. Sci. 72, 3–15 (2017).
(15)
Jurk, D. et al. Chronic inflammation induces telomere dysfunction and 
accelerates ageing in mice. Nat. Commun. 2, 4172 (2014).
(16)
Cassidy, L. D. et al. Temporal inhibition of autophagy reveals segmental 
reversal of ageing with increased cancer risk. Nat. Commun. 11, 307 (2020).
(17)
Suneet Agarwal, Yuin-Han Loh, Erin M. McLoughlin, Junjiu Huang, In-Hyun Park, Justine D. Miller, Hongguang Huo, Maja Okuka, Rosana Maria dos Reis, Sabine Loewer, Huck-Hui Ng, David L. Keefe, Frederick D. Goldman, Aloysius J. Klingelhutz, Lin Liu & George Q. Daley 
Telomere elongation in induced pluripotent stem cells from dyskeratosis congenita patients
Nature volume 464, pages292–296 (2010)
(18)
Andrew J Colebatch et al.
TERT gene: its function and dysregulation in cance
Journal of Clinical Pathology vol.72 issue.4 205653 (2018)
(19)
Ana Banito et al.
Senescence impairs successful reprogramming to pluripotent stem cells
Genes & Dev. 2009. 23: 2134-2139
(20)
日本 文部科学省科学研究費助成事業
植物の生命力を支える多能性幹細胞の基礎原理


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