2022年2月3日木曜日

COVID-19:後遺症の現状、課題、対策

//背景//--
身体に未知のウィルスが侵入すると
異物と判断して、自然免疫系などがウィルスを抗原として
認識して、抗ウィルス信号を発出します。
しかし、それによる初期のウィルス消滅に失敗すると
ウィルスは体内に広がり、
下記で示すような免疫機能を異常に高めたりします。
またウィルス自身の細胞毒性の一つは
Petra Mlcochova氏らが示しているように
細胞の融合、合胞化であると考えています(2)。
それによりウィルス感染した様々な臓器、血管などの
組織(結合性など)が破壊され、
その組織破壊によりまた免疫機能が高まります。
そのような負のスパイラルにより、
サイトカインストーム、免疫惹起が生じます。
免疫細胞、サイトカインは血流を通じて全身に回るので
それによって
全身的な症状や他の臓器も炎症を生じる可能性があります。
そのような体細胞的な考え方だけではなく、
ウィルスの多くは「神経向性(Neurotropism)」を持っています。
例えば、
Japanese Encephalitis, 
Venezuelan Equine Encephalitis, 
California encephalitis viruses
Polio, 
Coxsackie, 
Echo, 
Mumps, 
Measles, 
Influenza 
Rabies,
Herpes simplex, 
Varicella-zoster, 
Epstein–Barr, 
Cytomegalovirus 
HHV-6 
SARS-CoV-1,
MERS,
SARS-CoV-2
これらのウィルスです。
まだ、SARS-CoV-2を含めて中枢神経系の感染の十分な証拠がない
ウィルスもありますが、
例えば、神経疾患である多発性硬化症は
Epstein–Barrウィルスによって生じる事は
疫学的に示されています(3)。
少なくとも臨床症状で神経症状が出ている事から
新型コロナウィルスにおいても直接的かつ/あるいは間接的に
ウィルスが中枢神経系に作用している可能性があります。
--
このようにウィルス毒性、免疫系統、ウィルスの神経向性など
の特徴を考えると
新型コロナウィルスの影響は体全体に広がる事が考えられます。
その様な事から、おそらく後遺症は
下述するように全身の様々な症状を生み出すと考えられます。
従って、後遺症の治療は容易ではないと考えられます。
しかしながら、今、世界で少なくとも数百万人の人が
後遺症で苦しんでいることから、
治療の為の道筋をエビデンスベースで立てていく事は
非常に重要になります。
--
Saurabh Mehandru & Miriam Merad(敬称略)からなる
医療研究グループは現在わかっている事をベースに
新型コロナウィルスの後遺症について総括されています(1)。
まずは枠組みとして、症状と因果関係を整理して
それを引用させていただきました。
そのうえで重要だと考える部分をまとめ、
独自の調査、考察を上の記述と合わせて加筆し
世界の後遺症治療と向き合う方々に対して
付加価値を提供したいと思います。

//後遺症の症状//--
(頻度の高い症状)
・倦怠感
・集中力低下
・睡眠障害
・慢性頭痛
・ブレインフォグ
・記憶障害
・感情障害
・疼痛症候群
・動悸
・失神
・律動不整
・姿勢振戦
・呼吸困難
・せき
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(全身性の症状)
・倦怠感-Fatigue
・集中力の低下-Poor concentration
・活動の制限-Restriction of daily activities
・慢性の不快感-Chronic malaise
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(呼吸器の症状)
・呼吸困難-Dyspnea
・持続性のせき-Persistent cough
・喘息の再燃、悪化-Exacerbation of asthma
・肺拡散能力の低下-Reduced DLCO
・CT画像による肺の異常-
 Persistent radiological abnormalities
・胸膜炎-Pleurisy
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(神経精神の症状)
・睡眠の異常-Sleep abnormalities
・慢性頭痛-Chronic headache
・味覚嗅覚の低下-Olfactory and gustatory impairments
・ブレインフォグ-Brain fog
  脳幹あたりのCT画像による白い影(組織の硬化)
・記憶力、集中力の低下
 Defects in memory and concentration
・抑うつ-Depression
・不安-Anxiety
・心的外傷後ストレス障害
 Post-traumatic stress disorder
・目まい-Dizziness
・平衡感覚の低下-Imbalance
・目まい-Vertigo
・精神病、幻覚
 Psychosis and hallucinations
・小径線維ニューロパシ
 Small fiber neuropathy
 末梢神経が壊れる疾患
・姿勢振戦-Postural tremor
  姿勢の震え
・疼痛症候群-Pain syndromes
・神経変性疾患-Neurodegenerative disorders
--
(筋骨格の症状)
・筋肉痛-yalgia
・関節痛-Joint pain
・関節炎-Small joint arthritis
--
(心臓の症状)
・非典型的胸痛-Atypical chest pain
・胸部逼迫-Chest tightness
・動悸-Palpitations
・頻脈-Tachycardia
・伝導異常-Conduction abnormalities
  心臓の刺激伝導系が徐々に障害され、
  房室ブロックによる徐脈を来す疾患
・律動不整-Dysrhythmias
・起立性低血圧-Orthostatic hypotension
・血管迷走神経性失神-Vasovagal syncope
・体位性起立性頻脈症候群
 Postural orthostatic tachycardia syndrome
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(血管の症状)
・静脈炎-Phlebitis
・静脈血栓症-Thrombophlebitis
--
(胃腸の症状)
・食欲低下-Loss of appetite
・腹痛-Abdominal pain
・嘔吐-Nausea
・体重減少-Weight loss
・腸運動性の変化-Altered bowel motility
・潰瘍性腸症候群-Irritable bowel syndrome
・嚥下障害-Dysphagia
--
(内分泌系の症状)
・持続性血糖値異常
  Persistent glycemic abnormalities
・亜急性甲状腺機能亢進症
 Subacute thyrotoxicosis
・ハシモト甲状腺炎-Hashimoto’s thyroiditis
・グラーベ病-Grave’s disease
 びまん性甲状腺腫
・脂質異常-Lipid abnormalities
--
(腎臓の症状)
・GFR値低下-Decreased GFR
  ろ過量の低下
・顕微血尿-Microhematuria
--
(皮膚の症状)
・皮膚発疹-Skin rash
・休止期脱毛-Telogen effluvium
・爪の異常-Nail alterations
--
(混合型の症状)
・脱毛-Hearing loss
・咽頭痛-Sore throat
・目の充血-Red eyes
・耳鳴り-Tinnitus
--
(検査でわかる項目)
・好中球の上昇:Elevated neutrophils
・LCN-2(lipocalin 2)
・MMP-7(matrix metalloprotease 7)
・幹細胞増殖因子-HGF
・Elevated D-dimer
・貧血-Anemia
・脂質異常-Lipid abnormalities
・Elevated HbA1C
・血清アルブミンの減少-Reduced serum albumin
・肝機能の低下-Abnormal liver function tests
・血小板の増加-Thrombocytosis
・血液凝固の異常-Coagulation abnormalities
・電解液異常-Electrolyte abnormaliities

//後遺症の推定上の因子//--
①ウィルス内在、潜伏
・口から肛門までの期間(GI tract)
・中枢神経系
・他のACE2受容体発現臓器
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②持続的な炎症
・臓器の恒常性環境の改変
・炎症性細胞の持続発現
・炎症性サイトカインの産生
・代謝の改変
・抗体Fc部位依存的な信号
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③自己免疫疾患
・ウィルス模倣- Viral mimicry
・ウィルス、細菌依存的な耐性破壊
・エピトープ拡大
・不明の抗体産生
・自己免疫性抗体産生

・突発性血小板減少性紫斑病(ITP)
・ギラン・バレー症候群
・多発性神経炎
・抗リン脂質抗体
・自己反応性T細胞
--
①②③⇒④
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・肺線維症、肺の創傷
・心臓組織の再形成
・神経炎症、再形成
・自律神経障害
--
⑤急性期の臓器の損傷
--
⑥併存症の悪化
--
(①②③⇒④)⑤⑥が後遺症の原因

//治療へつなげるための後遺症の評価//--
・ScRNAシーケンス分析
・プロテオミクス分析
・多重化イメージング
・空間トランスクリプトミクス
・ウィルス特異的免疫分析
・自己抗体の検出
・ウィルスリザーバー(貯蔵部位)の検出

//筆者が考える課題//
現時点で、どれくらいの割合の人が上述した症状を
持っているかという詳細な疫学データはいくつか
参考文献(1)の中でも挙げられています。
しかし、実際に後遺症を患っている人そのものの
生物、生理学的な(メタ)分析が進んでいないということです。
それを行った数少ない報告があります(4)。
31人の後遺症を持つ人と、そうではない人と
条件を合わせたうえで比較した結果
後遺症を持つ人の下述した免疫的特徴を見出しています(4)。
・Activated CD14+CD16+ monocytes
・Activated plasmacytoid dendritic cells
・Elevation of Type 1 and 3 inteferon 
・Elevation pentraxin 3 and IL-6
これらは炎症を示す免疫細胞やサイトカインですが、
実際に組織に炎症が起こっていてそうなっているのか?
それともそのような細胞が組織修復の後でも
痕跡として残っているのか?ということがあります。
--
Saurabh Mehandru氏、Miriam Merad氏が明記しているように
急性期の症状についての分析は、
疫学、組織学、生物学的に進んでいますが、
それが後遺症の時期である発症後12週後の
明らかになっている臨床症状とどのように関連があるか?
ということについてはまだよくわかっていないということです。
例えば、参考文献(1)Fig.1のAutoimmunity
この記事では上述③に当たる部分は
他のウィルスの情報を元に類推されています。
実際に、COVID-19発症後の自己抗体の存在については
いくつかの証拠があります(5-7)。
しかし、後遺症の期間に当たる自己抗体の存在については
まだよくわかっていません。
--
新型コロナウィルスの後遺症を患っている方が
世界に多くいる中で、
Chansavath Phetsouphanh氏にように(4)
できるだけ条件を揃えて、
*COVID-19罹患/後遺症あり
*COVID-19罹患/後遺症なし
*未感染
これらのグループに分けて、
後遺症の症状なども大分類しながら、
Saurabh Mehandru氏らがFig.1に示している
(上述した//治療へつなげるための後遺症の評価//)
Evaluative strategiesの項目を
多面的に調べていく事で明らかになってくると思います。
その多面性の中には患者さんから上述した
(血液検査などでわかる項目)も含まれます。
また、後遺症の理解を深めることで
今後の感染者に対して未然に後遺症への発展を
防ぐことにも貢献する可能性があります。

//まとめ//--
後遺症に関しては疫学データが
オンラインアンケートなどを用いて
簡易的に集められることから始めに揃っています。
そこから有効な治療につなげていくためには
生物、生理学的な理解が必要です。
そのためには実際の後遺症を罹患した患者さんから
生物、生理学的なエビデンスをとる必要があります。
また、すでに治療に当たられている医師からの
検査結果、治療方針、結果などの情報も共有化できれば、
より効果的、効率的な分析に繋がると考えられます。
後遺症は多岐にわたり、人それぞれ異なるといわれます。
従って、国際的、学際的、トランスレーショナルな
アプローチで後遺症治療に向き合う必要があります。
筆者もその小さな一翼として機能していきたいと思います。

(参考文献)
(1)
Saurabh Mehandru & Miriam Merad
Pathological sequelae of long-haul COVID
Nature Immunology volume 23, pages194–202 (2022)
(2)
Petra Mlcochova, Steven A. Kemp, Mahesh Shanker Dhar, Guido Papa, Bo Meng, Isabella A. T. M. Ferreira, Rawlings Datir, Dami A. Collier, Anna Albecka, Sujeet Singh, Rajesh Pandey, Jonathan Brown, Jie Zhou, Niluka Goonawardane, Swapnil Mishra, Charles Whittaker, Thomas Mellan, Robin Marwal, Meena Datta, Shantanu Sengupta, Kalaiarasan Ponnusamy, Venkatraman Srinivasan Radhakrishnan, Adam Abdullahi, Oscar Charles, Partha Chattopadhyay, Priti Devi, Daniela Caputo, Tom Peacock, Chand Wattal, Neeraj Goel, Ambrish Satwik, Raju Vaishya, Meenakshi Agarwal, The Indian SARS-CoV-2 Genomics Consortium (INSACOG), The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, The CITIID-NIHR BioResource COVID-19 Collaboration, Antranik Mavousian, Joo Hyeon Lee, Jessica Bassi, Chiara Silacci-Fegni, Christian Saliba, Dora Pinto, Takashi Irie, Isao Yoshida, William L. Hamilton, Kei Sato, Samir Bhatt, Seth Flaxman, Leo C. James, Davide Corti, Luca Piccoli, Wendy S. Barclay, Partha Rakshit, Anurag Agrawal & Ravindra K. Gupta 
SARS-CoV-2 B.1.617.2 Delta variant replication and immune evasion
Nature volume 599, pages114–119 (2021)
(3)
Kjetil Bjornevik, Marianna Cortese, Brian C. Healy, Jens Kuhle, Michael J. Mina,Yumei Leng, Stephen J. Elledge, David W. Niebuhr, Ann I. Scher,Kassandra L. Munger, Alberto Ascherio
Longitudinal analysis reveals high prevalence of Epstein-Barr virus associated with multiple sclerosis
Science 375 , 296 – 301 (2022) 
(4)
Chansavath Phetsouphanh, David R. Darley, Daniel B. Wilson, Annett Howe, C. Mee Ling Munier, Sheila K. Patel, Jennifer A. Juno, Louise M. Burrell, Stephen J. Kent, Gregory J. Dore, Anthony D. Kelleher & Gail V. Matthews
Immunological dysfunction persists for 8 months following initial mild-to-moderate SARS-CoV-2 infection
Nature Immunology volume 23, pages210–216 (2022)
(5)
Bastard, P. et al. 
Autoantibodies against type I IFNs in patients with life-threatening COVID-19. 
Science 370, 423 (2020).
(6)
Chang, S. E. et al. 
New-onset IgG autoantibodies in hospitalized patients with COVID-19. 
Nat. Commun. 12, 5417 (2021).
(7)
Wang, E. Y. et al. 
Diverse functional autoantibodies in patients with COVID-19. 
Nature 595, 283–288 (2021).


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