2022年2月7日月曜日

脳神経疾患のバイオマーカーGFAPの適正と付加的考察

//背景//-----
神経疾患というのは身体的、心理的、
あるいは組織学的なアプローチで診断される事が一般的です。
しかし、アルツハイマー病などでも言われるように
早期の無症候段階で診断して、
早期に治療することの需要が高まっています(2)。
他の脳神経疾患でも同様です。
その早期発見のための一つの重要な方法は
患者さんの液体生検による感度の高いバイオマーカーの
探索、検出です。
--
Ahmed Abdelhak(敬称略)ら国際的な医療研究グループは
近年、脳神経疾患のバイオマーカーとして注目されている
星状膠細胞の中間フィラメントである
Glial fibrillary acidic protein (GFAP)について
総括されています(1)。

//経緯//-----
2018年、FDAは
Glial fibrillary acidic protein(以下GFAP)
Ubiquitin carboxy-terminal hydrolase L1(UCH-L1) 
これらを軽症の外傷性脳損傷
Mild traumatic brain injury (mTBI)
これらを公認のバイオマーカーと定め、
今まで中枢神経系の信頼できるバイオマーカーとして
成功を収めています(3-5)。

//外傷性脳損傷//-----
外傷性脳損傷とは、字の定義の通り、
交通事故、転倒などによる外傷によって
脳が損傷し、それによって
知的機能、運動機能などが低下する疾患です。
特に転倒においては
高齢の方においては日常的に生じうる事故です。
仮に足腰の機能が低下した状態で
階段から転倒して、頭を強打すると、
このような脳損傷が生じる可能性があります。
しかし、下述するように
CT検査ではわからないような脳損傷もあります。
そうした場合、見過ごされたまま日常生活を
送ることも考えられます。

//GFAPの生物学、分析//-----
星状膠細胞は中枢神経系の30-40%を占める
多く存在する細胞種です(6)。
その機能は
・構造面でニューロンのネットワークを支える機能
・物質輸送を介してアストロサイト周辺の
 様々な条件を調節する機能
これらとされています。
このGFAPはアストロサイトの細胞質にある
中間径フィラメントです。
このフィラメントは成熟したアストロサイトに存在して
脳の灰白質、白質など様々な部分に存在します(7)。
そのアイソフォームは
α, β, δ, ζ, κ, ∆135, ∆164, ∆exon6 and ∆exon7
これらとなっています(8)。
最も豊富に存在するアイソフォームはこのうち
(GFAP)αとなっています(9)。
--
近年
Single molecule array (simoa)。
これによりGFAPを検出する分解能が向上したため
健康な人でもGFAPを血中から検出する事が可能になりました。
このことから様々な脳の疾患について
GFAPレベルを高感度に調べる事に寄って
検出する事が可能になりました(10)。
--
しかし、GFAPがどのように星状膠細胞から
血中に排出されるかという病理については
複雑で、議論されている最中です(1)。
当然ですが、中枢神経系から血中に出るためには
血液脳関門を通る必要があります。
また血液-脳脊髄液関門も指摘されています。
その経路において
・くも膜絨毛(Arachnoid villi)
・脳小血管系(Glymphatic system)
・頸部リンパ節(Cervical lymph nodes)
これらが想定されています(1)。
これらの双方向の液体交換によって
GFAPが血中に流れ出していると想定されています(11-13)。
--
一方で、GFAPの量の正確な検出においては
タンパク質の凝集などの効果によって
偽陰性が出る可能性も示されています(Hook effect)(1)。

//GFAPと外傷性脳損傷//-----
星状膠細胞の中間フィラメントである
GFAPは外傷性脳損傷の最も優れたバイオマーカーである
とされています(1)。
例えば、CTの異常の有無で
GFAPの量に差が出るという報告も多くあります。
(参考文献(1) Table1より)
また、CTでは現れない軽い外傷性脳損傷でも
GFAPがバイオマーカーとして使用することができます(14)。
従って、CT, MRIなど組織的な評価と共に
生物学的な評価としてGFAPを使用することができ
それらを組み合わせることで
より精緻な分析が可能になると期待されます(1)。

//GFAPと脳血管の出血//-----
急性の脳卒中など脳血管に出血がみられる場合
GFAPをバイオマーカーとして使用できる可能性があります。
1つの報告では
感度84.2%、特異性96.3%
これらを示しています(15)。
特に脳出血がある場合のバイオマーカーとして適しています。

//GFAPと多発性硬化症//-----
感度の高いSingle molecule array (simoa)
これを使用した場合において
多発性硬化症に対してGFAPは
バイオマーカーとして使える可能性が
健常者との比較評価によって示されています(16,17)。

//GFAPと神経変性疾患//-----
(①GFAPが高い疾患)
・アルツハイマー病
・パーキンソン病様認知症(PDD)
・レビー小体様認知症(DLB)
(①よりGFAPが低い疾患)
・前頭側頭認知症
・パーキンソン病
 ⇒これらはコントロール群と変わらない。
上述したことが示されています(18)。
しかし、脳脊髄液では
すべての神経変性を持つ全ての患者さんで
同レベルでした。
つまり①の群は
脳脊髄液に対する血液のGFAPレベルが高い
という事が示されています。

血液のGFAPレベルが高いという事は
血液脳関門、もしくは/および
脳脊髄液-血液関門の組織の状態が不全であるという事か?
そういった事も考えられます。
実際にGFAPの量によって
病気の進行度を測れるかどうか?
この点については各疾患に対する異種性が考えられる事と
GFAPの凝集などの形成によって感度が変わる可能性がある事
などが不安定要素として挙げられています(1)。
アルツハイマー病がGFAP高値なのはこの疾患と
星状膠細胞が反応性表現型であることが関係している可能性があります(27)。

//GFAPと脳腫瘍//-----
神経膠腫はお子さんに多く診られる脳腫瘍であり、
星状膠細胞を含むグリア細胞が癌細胞になる疾患です。
この神経膠腫に対して
発症の有無に関する検出には
GFAPは感度があります(19-23)。
しかし、どれくらいグレードが高いか?については
・癌の量
・細胞死の量
・癌組織のGFAPの発現量
これらによって変わる事から(19,24)
GFAPによって診断する事は難しいとされています。
また、予後とGFAPは一致しない結果となっています(1)。

//考察1//-----
GFAPを生体内の複雑な生理の中で
より有効なバイオマーカーとするには
それぞれの疾患における星状膠細胞
その中に存在するGFAPが
どのような関連性を持っているか紐解く必要がある
のではないか?と考えます。
例えば、
神経膠腫を持つお子さんの細胞をiPS細胞技術によって
初期化した後に患者特異的な星状膠細胞を培養し、
その中のGFAPがどのようになっているか?
GFAPにはいくつかのサブタイプがあります。
α, β, δ, ζ, κ, ∆135, ∆164, ∆exon6 and ∆exon7
これらです。
これらにおいて特異性がないかどうか?
これが一つの詳しい評価項目となります。
脳の人工組織を作ることができれば、
さらに詳しい分析ができるかもしれません。
--
一方で、外傷と一番相性の良いバイオマーカーである
ということも指針になるかもしれません。
例えば、癌のケースであれば、
癌の量、細胞死の量、癌細胞のGFAP発現量などがあり、
これらが交絡因子となる事が考えられますが、
それよりも主要因子として、
中枢神経系の脳血管関門や脳脊髄液-血液関門の
損傷がどれくらい進んでいるか?
ということがあるかもしれません。
--
一方で、グリア性ではない脳への転移については
GFAPの識別できる上昇がみられない(19-23)
ということが示されています。
これは逆説的に考えるとどういうことか?
例えば、脳の転移では外傷のような組織学的な
症状は大きくは生じていない証拠であるか?
このような考察が生まれます。

//考察2//-----
このGFAPは損傷を受けている組織の近くに多く
発現されている可能性があります。
肺などではウィルスによって損傷を受けた組織は
老化様の表現型を示し、それが蓄積する
といわれています(25)。
これは脳、血管でも同じ事が当てはまるか?
それを確認する価値はあると思います。
もし、そうであれば、
GFAPに特異的な結合性をもつ
薬剤輸送媒体と老化細胞除去薬(Senolytic drugs)(26)
これらを架橋、結合させて複合体を作る。
もしくはGFAPに特異的結合性を持つ
ペプチド、タンパク質を装飾したナノ粒子を
脳まで輸送する。
これらによってGFAPを利用した
脳の外傷治癒促進の可能性を示すことができる可能性があります。
細胞種特異的輸送系統のコンセプトも
利用する事ができる可能性があります。
但し、Cell-type-specific delivery sytemを
脳に適用しようとしたときには血液脳関門を超える必要があるので
輸送媒体として使う細胞種をよく検討する必要があります。
脳の場合はウィルス、小胞なども含めて胞を使うのではなく
よりシンプルな構造のほうが適している可能性があります。

(参考文献)
(1)
Ahmed Abdelhak, Matteo Foschi, Samir Abu-Rumeileh, John K. Yue, Lucio D’Anna, Andre Huss, Patrick Oeckl, Albert C. Ludolph, Jens Kuhle, Axel Petzold, Geoffrey T. Manley, Ari J. Green, Markus Otto & Hayrettin Tumani 
Blood GFAP as an emerging biomarker in brain and spinal cord disorders
Nature Reviews Neurology (2022)
(2)
岩坪 威, 新美 芳樹
2 万人規模、国内最大のオンラインコホート構築から
アルツハイマー病超早期の研究と治療を目指す『J-TRC 研究』が新規ステージに
—アルツハイマー病・認知症の克服に向けて国際的な予防・治療薬治験との連携が本格始動へ— 
https://www.m.u-tokyo.ac.jp/news/admin/release_20220203-2.pdf
(3)
US Food and Drug Administration. FDA authorizes 
marketing of first blood test to aid in the evaluation of 
concussion in adults. https://www.fda.gov/news-events/
press-announcements/fda-authorizes-marketing-first- 
blood-test-aid-evaluation-concussion-adults (2018)
(4)
Messing, A. & Brenner, M. GFAP at 50. ASN Neuro 
12, 1759091420949680 (2020).
(5)
Petzold, A. Glial fibrillary acidic protein is a body  
fluid biomarker for glial pathology in human disease. 
Brain Res. 1600, 17–31 (2015).
(6)
Verkhratsky, A. & Butt, A. Glial Physiology and 
Pathophysiology 93–96 (Wiley, 2013).
(7)
Middeldorp, J. & Hol, E. M. GFAP in health and 
disease. Prog. Neurobiol. 93, 421–443 (2011).
(8)
Kamphuis, W. et al. GFAP isoforms in adult mouse 
brain with a focus on neurogenic astrocytes and 
reactive astrogliosis in mouse models of Alzheimer 
disease. PLoS ONE 7, e42823 (2012).
(9)
Hol, E. M. & Capetanaki, Y. Type III intermediate 
filaments desmin, glial fibrillary acidic protein (GFAP), 
vimentin, and peripherin. Cold Spring Harb. Perspect. 
Biol. 9, a021642 (2017).
(10)
Abdelhak, A., Huss, A., Kassubek, J., Tumani, H.  
& Otto, M. Serum GFAP as a biomarker for disease 
severity in multiple sclerosis. Sci. Rep. 8, 14798 
(2018).
(11)
Brinker, T., Stopa, E., Morrison, J. & Klinge, P.  
A new look at cerebrospinal fluid circulation.  
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(12)
Tumani, H., Huss, A. & Bachhuber, F. The cerebrospinal 
fluid and barriers–anatomic and physiologic 
considerations. Handb. Clin. Neurol. 146, 21–32 
(2017).
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transported from brain to blood via the glymphatic 
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(14)
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(15)
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(16)
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SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response
Nature Aging (2022)
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Relationship between astrocyte reactivity, using novel 11C-BU99008 PET, and glucose metabolism, grey matter volume and amyloid load in cognitively impaired individuals 
Molecular Psychiatry (2022)

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