2022年2月24日木曜日

仮説を含む神経系疾患の包括的考察

//なぜ神経変性の疾患は回復しないか?//--
筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含めて
パーキンソン病、アルツハイマー病など
神経変性の疾患は基本的には徐々に病状が悪化していきます。
現在の医療でできる事は、
その進行を抑えるか、現状維持にするかです。
なぜ回復しないか?
神経細胞がどのように機能と関わっているか?
ということを詳しく知る必要があると思いますが、
おそらく一つの理由は
すでに何十年もかけて形成された神経系が
一旦、何らかの刺激(タンパク質、封入体の蓄積)で
機能が不全になると
「その位置に同じ連結性を持つような再現性が得られないから」
ではないか(?)と仮説を立てています。
例えば、
A⇔B⇔C⇔D⇔E
このような神経連結があるとします。
実際にはもっと神経突起、軸索、スパイン、シナプスによる
連結性は多次元で複雑です。
このような時に仮にCの神経細胞が機能不全になったとき
A⇔B⇔×⇔D⇔E
このようになります。
この時「組織学的に再現させようとして」
iPS細胞などで作り出した新しい神経細胞を
Cの位置に正確にいれることができるでしょうか?
おそらくそれは無理でしょう。
そうすると「違う経路」で
神経を再構築する事になります。
神経系というのは
子供のころからの成長、訓練によって形成されます。
新しく形成されたとしても、
そこには「記憶がないから」
少なくとも部分的には周りの神経系の「記憶」を使って
補助しながら、リハビリをする必要があります。
ーー
これが根本的に神経系の疾患を回復させることができない
組織学的観点の理由であると推測しています(?)。
少なくとも脳の補償効果を考慮入れたとしても
回復はリハビリをしながら、ゆっくりになると
私は想定しています(?)。

//神経系、タンパク質病理、考察//--
一方、
Anna-Leigh Brown, Oscar G. Wilkins, Matthew J. Keuss, Sarah E. Hill. 
(敬称略)らからなる医療研究グループと
X. Rosa Ma, Mercedes Prudencio, Yuka Koike. 
(敬称略)らからなる医療研究グループは
神経変性の疾患の一つである
筋萎縮性側索硬化症(ALS)と認知症
のタンパク質病理(proteinopathies)
を明らかにされています(1,2)。
ALS、認知症は「主に神経細胞の(?)」細胞質に
TDP-43が蓄積して、細胞核にTDP-43が少ない、欠損している
状態になります。
(97% ALS, 45% 認知症)(1,3,4)
通常この細胞核にあるTDP-43が
神経細胞内のTDP-43のバランスと量を調整しています。
そのTDP-43が細胞核から欠損すると
UNC13Aの変異依存的にTDP-43のバランスと量が崩れます。
それによって上述したように
細胞質内にTDP-43が多く蓄積されるようになります。
このUNC13Aが遺伝子多型
(構造的な変異をいくつか持っている) 
状態であれば、上述したALS、認知症のリスクは高くなります(1,2)。
ーー
今、改めて考えたい事です。
他の神経変性の疾患であるアルツハイマー病、
あるいはパーキンソン病においても
同様にアミロイドβ、タウタンパク質などの蓄積が見られます。
なぜ、神経変性の疾患はタンパク質病理となっていることが
多いのでしょうか?
私の知る限り、調査する限り、
体細胞と比較的に考えた明確な解はありません(5)。
その中で推測の域で(?)考えたいと思います。
ーー
1つの視点は
「神経細胞は細胞分裂しない」という所にあります。
例えば、体細胞による病理は
もちろんタンパク質による病理もありますが、
多くは細胞分裂の中で線維化、癌化するものが多いです。
体細胞は組織の連結はありますが、
その連結の生理不可逆性は脳神経に比べたら小さいです。
例えば、iPS細胞で心筋シートを貼れば、
機能を回復させる事ができます(6,7)。
体細胞は免疫細胞を始め、組織常在型の細胞も
「機動的」です。
従って、その機動性の中で進化して
病理がある時には線維化、癌化します。
従って、体細胞の根本的な治療としては
線維化、癌化まで至る段階では老化を経験するので
老化細胞を取り除く、老化を防ぐことが
非常に有望な戦略です(8,9)。
一方で、
神経細胞は少なくとも「成長期を過ぎれば」
増えないと言われているので「固定的」です。
神経細胞の幹細胞があります(10)が、
大人の安定期に入った状態では、
「神経細胞に限っては」機能が抑えられているのでは
ないでしょうか(?)。
むしろ神経連結が固定的でないと
小さい時からの様々な記憶が失われてしまう可能性があるので
生物学的に好ましくありません。
この前提で考えた時に、神経変性はなぜ
タンパク質病理が多いのでしょうか?
神経細胞は生きていくために、恒常性を保つために
代謝する必要があります。
その代謝生成物の中でメインとある物質が
タンパク質で、それに異常が出る事が
神経細胞の主な病理になるということです。
言い換えれば、神経細胞は線維化も癌化もしないからです。
後は、鬱や統合失調症などのように
主に神経伝達に影響が出る病気もあります。
少なくとも結果的に生じた神経系の固定性の中の異常が
タンパク質病理や伝達物質病理であると想定しました。
ーー
もう一つの疑問が生じます。
例えば、ALSや認知症で神経変性が生じた場合
その神経細胞は細胞死するのでしょうか?
またその細胞死はどのような機序でしょうか?(11)
例えば、体細胞の老化のように
傍分泌様の細胞死は生じるでしょうか?
つまり一つの細胞から連動して周りの
神経細胞も細胞死するか?という疑問です。
ーー
また神経系の恒常性が体細胞と
根本的に異なる可能性もあります。
伝導性を決めるミエリン鞘などの恒常性は
星状膠細胞などの機能によって維持されています。
基本的には正常な場合においては
免疫細胞は血液脳関門を多くは超えないと思っているので
神経系の恒常性は主に神経細胞と
グリア細胞によって細胞的には構築されている
と考えています。
ーー
このように考えると神経というのは
体細胞のように可逆性が乏しいので、
基本的には維持する、壊さないことが重要です。
例えば、神経系の疾患は
特にストレス、虚血に弱い海馬から生じると言われています。
従って、まずは海馬を守る必要があります。
一方で、神経連結における可塑性はありますが
細胞分裂的には固定性を前提にしているので
特にストレスがなければ、「細胞寿命が長い」
ということが考えられるかもしれません。
人の寿命は120歳までですが、
脳の環境を保つことができれば、
少なくとも神経系はまだ余裕があるかもしれません。
つまり、老化研究においては
体細胞と神経系をある程度分けて考える必要性を感じます。

(参考文献)
(1)
Anna-Leigh Brown, Oscar G. Wilkins, Matthew J. Keuss, Sarah E. Hill, Matteo Zanovello, Weaverly Colleen Lee, Alexander Bampton, Flora C. Y. Lee, Laura Masino, Yue A. Qi, Sam Bryce-Smith, Ariana Gatt, Martina Hallegger, Delphine Fagegaltier, Hemali Phatnani, Hemali Phatnani, Justin Kwan, Dhruv Sareen, James R. Broach, Zachary Simmons, Ximena Arcila-Londono, Edward B. Lee, Vivianna M. Van Deerlin, Neil A. Shneider, Ernest Fraenkel, Lyle W. Ostrow, Frank Baas, Noah Zaitlen, James D. Berry, Andrea Malaspina, Pietro Fratta, Gregory A. Cox, Leslie M. Thompson, Steve Finkbeiner, Efthimios Dardiotis, Timothy M. Miller, Siddharthan Chandran, Suvankar Pal, Eran Hornstein, Daniel J. MacGowan, Terry Heiman-Patterson, Molly G. Hammell, Nikolaos. A. Patsopoulos, Oleg Butovsky, Joshua Dubnau, Avindra Nath, Robert Bowser, Matthew Harms, Eleonora Aronica, Mary Poss, Jennifer Phillips-Cremins, John Crary, Nazem Atassi, Dale J. Lange, Darius J. Adams, Leonidas Stefanis, Marc Gotkine, Robert H. Baloh, Suma Babu, Towfique Raj, Sbrina Paganoni, Ophir Shalem, Colin Smith, Bin Zhang, Brent Harris, Iris Broce, Vivian Drory, John Ravits, Corey McMillan, Vilas Menon, Lani Wu, Steven Altschuler, Yossef Lerner, Rita Sattler, Kendall Van Keuren-Jensen, Orit Rozenblatt-Rosen, Kerstin Lindblad-Toh, Katharine Nicholson, Peter Gregersen, Jeong-Ho Lee, Sulev Kokos & Stephen Muljo Jia Newcombe, Emil K. Gustavsson, Sahba Seddighi, Joel F. Reyes, Steven L. Coon, Daniel Ramos, Giampietro Schiavo, Elizabeth M. C. Fisher, Towfique Raj, Maria Secrier, Tammaryn Lashley, Jernej Ule, Emanuele Buratti, Jack Humphrey, Michael E. Ward & Pietro Fratta
TDP-43 loss and ALS-risk SNPs drive mis-splicing and depletion of UNC13A
Nature (2022)
(2)
X. Rosa Ma, Mercedes Prudencio, Yuka Koike, Sarat C. Vatsavayai, Garam Kim, Fred Harbinski, Adam Briner, Caitlin M. Rodriguez, Caiwei Guo, Tetsuya Akiyama, H. Broder Schmidt, Beryl B. Cummings, David W. Wyatt, Katherine Kurylo, Georgiana Miller, Shila Mekhoubad, Nathan Sallee, Gemechu Mekonnen, Laura Ganser, Jack D. Rubien, Karen Jansen-West, Casey N. Cook, Sarah Pickles, Björn Oskarsson, Neill R. Graff-Radford, Bradley F. Boeve, David S. Knopman, Ronald C. Petersen, Dennis W. Dickson, James Shorter, Sua Myong, Eric M. Green, William W. Seeley, Leonard Petrucelli & Aaron D. Gitler
TDP-43 represses cryptic exon inclusion in the FTD–ALS gene UNC13A
Nature (2022)
(3)
Tan, R. H., Ke, Y. D., Ittner, L. M. & Halliday, G. M. 
ALS/FTLD: experimental models and reality. 
Acta Neuropathol. 133, 177–196 (2017).
(4)
 Neumann, M. et al. 
Ubiquitinated TDP-43 in frontotemporal lobar degeneration and amyotrophic lateral sclerosis. 
Science 314, 130–133 (2006).
(5)
Christopher A Ross, Michelle A Poirier
Protein aggregation and neurodegenerative disease
Nature Medicine volume 10, pagesS10–S17 (2004)
(6)
iPS細胞から作製した心筋細胞シートの医師主導治験の実施―治験計画前半の移植実施報告―
https://www.amed.go.jp/news/release_20201225.html
(7)
iPS細胞から作製した心筋細胞による臨床研究の開始について
https://www.med.osaka-u.ac.jp/archives/12498
(8)
Nathan S. Gasek, George A. Kuchel, James L. Kirkland & Ming Xu
Strategies for targeting senescent cells in human disease
Nature Aging volume 1, pages870–879 (2021)
(9)
Shunya Tsuji, Shohei Minami, Rina Hashimoto, Yusuke Konishi, Tatsuya Suzuki, Tamae Kondo, Miwa Sasai, Shiho Torii, Chikako Ono, Shintaro Shichinohe, Shintaro Sato, Masahiro Wakita, Shintaro Okumura, Sosuke Nakano, Tatsuyuki Matsudaira, Tomonori Matsumoto, Shimpei Kawamoto, Masahiro Yamamoto, Tokiko Watanabe, Yoshiharu Matsuura, Kazuo Takayama, Takeshi Kobayashi, Toru Okamoto & Eiji Hara 
SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response
Nature Aging (2022)
(10)
Neural stem cell 
Wikipedia
(11)
D E Bredesen
Neural apoptosis
Ann Neurol. 1995 Dec;38(6):839-51.


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