2022年2月8日火曜日

COVID-19:心臓血管系の後遺症の疫学、生理機序、治療

//背景//
新型コロナウィルスのワクチンのベネフィットとリスクについて
様々な議論がされています。
すでにワクチンの感染予防の効果は示されていますが、
大規模ワクチン接種がなかったときの
これまでの世界の状況というのを
そのケースが比較群として当然ないことから
評価する事はできません。
しかし、日本においてはデルタ株の流行時、
もっと深刻な医療、社会状況になったことを
高い信頼性で推定することができます。
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一方で、感染した時のリスクに関しては
単に軽症、中等症、重症という区分だけではなく、
自身が持つ併存症の悪化や
感染した後に起こるかもしれない後遺症なども含めて
考える必要があります。
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新型コロナウィルスのワクチンの一つの重篤な副作用として
心筋炎が挙げられています。
しかし、この心筋炎については
実際に感染した時に罹る心筋炎のリスクの方が
顕著に高いことが示されています(2)。
(参考文献(2) Figure.3)
また日本のケースでは
新型コロナウィルス前の年間の心筋炎の罹患者数は
10万人あたり22人とされており
ワクチンの全年齢のリスクは
10万人あたり数人以下なので
毎年罹る人よりも顕著に低い値となっています。
中にはワクチンと関係がない状態で
偶然、ワクチンを打った時期に
心筋炎を患った人もいるかもしれません。
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従って、急性期の新型コロナウィルス感染症の罹患と
ワクチン接種における心臓血管疾患のリスクは
ワクチンのほうが有意に低いことが示されていますが、
急性期を過ぎた(Post acute)時期における
COVID-19後遺症としての心臓血管疾患のリスクについては
今まで疫学的にもわかっていませんでした。
--
Yan Xie, Evan Xu, Benjamin Bowe, Ziyad Al-Aly
(敬称略)からなる医療研究グループは
急性期を過ぎた、発症後30日以降から1年間において
心臓血管系の後遺症について
コントロール群とリスクを
数十万人規模で比較されています(1)。
その貴重な結果の概要と推定上の原因
治療を含めた付加的考察について
読者の方と情報共有したいと思います。

//結果(概要)//
心臓血管系の後遺症で一番リスクが高いのは
上述したワクチンの副作用でもまれに現れる
「心筋炎」です。
(参考文献(1) Fig.2より)
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・脳血管疾患、
・律動不整、
・炎症性心臓病、
・虚血性心臓病、
・他の心臓病、
・血栓症
これらにおけるCOVID-19罹患時の
「入院なし」「入院」「集中治療」
これらの段階別それぞれのリスクを見ると
コントロール群に対して、
重症度依存的に高くなります。
特に、入院の有無において
リスクの差が大きくなります。
(参考文献(1) Fig.5より)
--
集中治療、重症の患者さんで特に
それ以下の症状に対して高まっているのは
心停止と心臓性ショックです。
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入院も含めてリスクが高まっているのが
「肺閉栓」です。
(これに対する考察は下述。)
--
上述したいずれかの心臓血管に関わる後遺症が
生じる(コントロール群に対して余分の)人数は
1000人当たり、
入院なし:20-30人程度
入院あり:150-200人程度
集中治療:300人程度
これらとなっています。
従って、決して低い確率ではありません。
ただし、こうしたデータは現データのアメリカと
ヨーロッパ、アジア、アフリカなどで
それぞれ異なる可能性はあります。
しかし、日本でも
心臓血管後遺症外来を設けた医療機関もあります(4)。

//考察1//
上述したのように心臓血管の疾患が
急性期を過ぎて、長期的に生じる生理機序については
今のところ完全にはわかっていません(5,6)。
--
その中で下記、
推定上の機序が示されています。
・心筋細胞へのウィルス感染
・ウィルス感染による細胞死、組織破壊
・血管内皮のウィルス感染
・心臓組織の転写因子の改変
・免疫機能(補体)の活性化
・凝血
・細小血管障害
・ACE2の抑制
・Renin–angiotensin–aldosteroneシステムの抑制
 血圧、液体、電解質バランスの調整
 全体の血管抵抗の調整
・炎症性サイトカインの高値
・TGF-β信号の活性化
・組織の線維化
・組織の損傷
これらが挙げられています(1,5,7-11)。

//考察2//
Yan Xie氏らが1年かけて集めたデータを元に
肺と心臓の組織学的な関わりを含めて考えてみます。
重要なのは
参考文献(1)Fig.5の下から3番目の肺閉栓症の
入院有無、集中治療の3つのデータです。
このデータをみると
肺閉栓症に関しては入院の有無で
リスクが5倍程度異なります。
これは、他の心臓血管系の疾患よりも大きな差となっています。
つまり、入院の基準となる肺へのダメージ(肺炎)が
そのまま急性期を過ぎても残っている可能性が考えられます。
一方、
心臓は肺とも密接に関わっています。
身体から静脈を通じて右心房に入った血流は
右心室を流れ、肺に到達します。
肺胞で呼吸によって二酸化炭素、酸素濃度を調整し
今度は呼吸で得た酸素の多い血流を動脈として
心臓の左心房に運びます。
その血液が左心室に運ばれ、大動脈から全身にいきわたります。
従って、肺の状態が悪化すると
密接に関わる心臓の状態も同様になるのは
少なくとも一定の合理性があります。
--
Paul M. Hassoun氏が肺高血圧症の総括で示しています(12)。
肺の動脈が炎症などによって閉栓して、
高血圧状態になると心臓の様々な部分に影響を受けます。
(参考文献(12) Figure.1より)
新型コロナウィルスによって肺炎を起こすと
肺高血圧症様の症状が生じる(?)可能性です。
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この事から心臓血管系の後遺症においては
感染した時に肺にダメージを受けたかどうかが
重要なリスク因子になっていると考えられないでしょうか?
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そうすると体にとって中枢となる心臓を
新型コロナウィルス感染症から守るためには
まずは肺の組織を守ることが大切ということになります。
それは同じ呼吸器系の感染症である
インフルエンザでも同様です。
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また上の仮説がある程度「正」であるとするならば、
Paul M. Hassoun氏が示しているように以下の治療が考えられます(12)。
①気道圧解放換気(Airway pressure release ventilation)
②通気を補助(Neurally adjusted ventilatory assist)
③肺動脈血管拡張剤
④血行力学的補助
⑤一酸化窒素形成不足を補う
⑥エンドセリン受容体上昇を抑える
⑦Rho-kinase(ROCK)を抑える
⑧cGMP生成を促す
但し、これらの治療を行う際には
それに相当するエビデンスが生体内検査によって
示される必要があります。

//考察3//
急性期を過ぎた状態での心臓血管のリスクと
急性期を合わせて考えると
COVID-19に感染するリスクと
ワクチンの副作用のリスク、
ワクチンのベネフィット
それらの天秤はまた一段変わると考えられます。

(参考文献)
(1)
Yan Xie, Evan Xu, Benjamin Bowe & Ziyad Al-Aly
Long-term cardiovascular outcomes of COVID-19
Nature Medicine (2022)
(2)
Noam Barda, M.D., Noa Dagan, M.D., Yatir Ben-Shlomo, B.Sc., Eldad Kepten, Ph.D., Jacob Waxman, M.D., Reut Ohana, M.Sc., Miguel A. Hernán, M.D., Marc Lipsitch, D.Phil., Isaac Kohane, M.D., Doron Netzer, M.D., Ben Y. Reis, Ph.D., and Ran D. Balicer, M.D.
Safety of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine in a Nationwide Setting
The New England Journal of Medicine August 25, 2021
(3)
Dror Mevorach, M.D., Emilia Anis, M.D., M.P.H., Noa Cedar, M.P.H., Michal Bromberg, M.D., M.P.H., Eric J. Haas, M.D., M.S.C.E., Eyal Nadir, M.D., Sharon Olsha-Castell, M.D., Dana Arad, R.N., M.S.N., Tal Hasin, M.D., Nir Levi, M.D., Rabea Asleh, M.D., Ph.D., Offer Amir, M.D., Karen Meir, M.D., Dotan Cohen, M.D., Rita Dichtiar, M.P.H., Deborah Novick, M.Sc., Yael Hershkovitz, M.Sc., Ron Dagan, M.D., Iris Leitersdorf, M.D., M.H.A., Ronen Ben-Ami, M.D., Ian Miskin, M.D., Walid Saliba, M.D., M.P.H., Khitam Muhsen, Ph.D., Yehezkel Levi, M.D., Manfred S. Green, M.B., Ch.B., Ph.D., Lital Keinan-Boker, M.D., Ph.D., and Sharon Alroy-Preis, M.D., M.P.H.
Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccine against Covid-19 in Israel
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
(4)
北海道循環器病院
新型コロナウイルス心臓後遺症専門外来について
(5)
Farshidfar, F., Koleini, N. & Ardehali, H. 
Cardiovascular complications of COVID-19. JCI Insight 6, e148980 (2021).
(6)
Nalbandian, A. et al. 
Post-acute COVID-19 syndrome. N
at. Med. 27, 601–615 (2021)
(7)
Nishiga, M., Wang, D. W., Han, Y., Lewis, D. B. & Wu, J. C. 
COVID-19 and cardiovascular disease: from basic mechanisms to clinical perspectives. 
Nat. Rev. Cardiol. 17, 543–558 (2020).
(8)
Chung, M. K. et al. 
COVID-19 and cardiovascular disease. 
Circ. Res. 128, 1214–1236 (2021).
(9)
Delorey, T. M. et al. 
COVID-19 tissue atlases reveal SARS-CoV-2 pathology and cellular targets. 
Nature 595, 107–113 (2021).
(10)
Song, W.-C. & FitzGerald, G. A. 
COVID-19, microangiopathy, hemostatic activation, and complement. 
J. Clin. Invest. 130, 3950–3953 (2020).
(11)
Varga, Z. et al.
 Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. 
Lancet 395, 1417–1418 (2020).
(12)
Paul M. Hassoun, M.D
Pulmonary Arterial Hypertension
The New England Journal of Medicine 2021; 385:2361-2376


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