//背景//
新型コロナウィルスのオミクロン株は
2021年11月ごろから南アフリカで急激に広がり、
現時点でそのサブタイプであるBA.2を合わせて
世界で主要流行株になっています。
今までの流れを見ると、より感染力の強い株が
自然選択的に主流となっています。
アルファー、デルタ、オミクロンがそうです。
オミクロン株はSタンパク質に33個の変異が入っており、
感染力を強める変異、抗体を逃避する変異両方が入っています。
上述したように一気に広がる他、
ワクチンの中和能力が低いため、
2回接種したとしてもブレークスルー感染が確認されています。
しかし、幸いなことに
オミクロン株は重症化リスクが低いため、
ある程度の医療負荷で済んでいる状態です。
ワクチンが効いているほかに、
オミクロン株自身の体内での生理が関わっている
という指摘もあります。
--
Rigel Suzuki, Daichi Yamasoba, Izumi Kimura, Lei Wang, Mai Kishimoto, Jumpei Ito
(敬称略)ら医療研究グループは
オミクロン株による感染症の病理を
試験管、ハムスター両方で詳しく調べられています(1)。
本日はその内容の一部を読者の方と
情報共有したいと思います。
//比較対象//
オミクロン株:strain TY38-873)
デルタ株: B.1.617.2 lineage, strain TKYTK1734)
初期タイプ:D614G-bearing early pandemic B.1.1 isolate
(strain TKYE610670)
//感染力//
*試験管
Vero:アフリカミドリザルの腎臓上皮細胞に由来
オミクロン < デルタ≒初期タイプ
培養から3日後の間、1桁以上低い
-
Calu-3:ヒト肺上皮腺がん細胞から樹立した培養細胞
呼吸器の損傷の為に調べられる
オミクロン << デルタ≒初期タイプ
培養から3日後の間、2桁以上低い
-
A549-ACE2:ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞
水や電解質といった物質の肺胞を越える拡散に関与
オミクロン < デルタ < 初期タイプ
初期タイプに比べて
培養から3日後、1桁以上低い
-
HeLa-ACE2/TMPRSS2:ヒト由来の最初の細胞株。
オミクロン株はやや低いが桁では変わらない
-
Nasal epithelial cell:鼻の上皮細胞
オミクロン株はデルタ株と同等
初期タイプよりも1桁程度高い。
(参考文献(1) Fig. 2a and Extended Data Fig. 2)
⇒
これらの結果から
肺由来の細胞(Calu-3,A549-ACE2)では感染力が低く
鼻の細胞では感染力がやや高いという報告です。
これは現在、オミクロン株感染で人が訴える
喉の痛みの強さと肺炎が少ない事と
矛盾しない結果となっています。
//合胞性//
*試験管
デルタ株は重症化リスクが高く、
感染力も強い脅威性の高い株でした。
その理由として高い合胞性(細胞の融合)があったとされています(2)。
その合法性の比較
初期タイプ⇒デルタ株 4倍程度
デルタ株⇒オミクロン株 1/10倍以下
(参考文献(1) Fig.2g)
⇒
この事から感染細胞はオミクロン株では小さく、
組織へのダメージが少なくて済む可能性が示唆されます。
//肺の機能//
*ハムスター(生体内)
初期タイプ、デルタ株では感染後、
1週間以内で肺の機能が低下しました。
一方で、オミクロン株では
肺の機能の低下はわずかであるか、無い結果です。
一方で
血中の酸素飽和度もオミクロン株では98%を維持。
初期タイプ、デルタ株では2%程度の減少がみられています。
(参考文献(1) Fig.3b.c,d)
//鼻腔のウィルス量//
*ハムスター(生体内)
オミクロン株では感染後2-3日で最大に達して
そこから1週間後に急速に低下します。
デルタ株、オミクロン株では
その低下のスピードが緩やかです。
おおよそ100倍の違いがあります。
(参考文献(1) Fig.3e)
⇒
人におけるオミクロン株の鼻腔のウィルス量の推移を
知ることは重要です。
なぜなら、感染後や濃厚接触の隔離期間に関わるからです。
それが社会機能を低下させているので、
ここのデータをとる事が大事です。
人の場合はワクチンを接種しているので
ウィルス量の推移も変わると考えられます。
例えば、ワクチンを2回、あるいは3回接種している人の
ブレークスルー感染後のウィルス量の推移を調べる事で
現在よりも隔離期間を短くできる可能性があります。
つまり、医療従事者の方でワクチンを3回接種している人は
2回接種している人よりも隔離期間が短くて済む
といった結果も考えられるという事です。
//炎症//
*ハムスター(生体内)
気管支の炎症、出血、肺胞の損傷、
タイプⅡ肺炎、大きな肺炎
それぞれにおいて
オミクロン株はデルタ株よりも低いスコアになっています。
(参考文献(1) Fig.5c)
//まとめ//
オミクロン株においては、特に肺へのリスクが低いことが
試験管、ハムスター共に示されています。
これは人の疫学データとも一致する結果です。
//議論//
Rigel Suzuki氏らはオミクロン株の肺へのリスクが
低いことに関しては合胞性の低さとS1/S2サブユニットの
へき開性の低さが関わっていると考えられています。
一方で、
ウィルスの広がりは指数関数的であるので
重症化のリスクが低くても、
絶対数でみれば、多くなる可能性も否定できず、
オミクロン株の世界の健康へのリスクが
他の株に対して相対的に低いとは結論付けることは
できないとされています。
オミクロン株はかってないほどの広がりを見せている事から
一定割合で生じる変異、系統樹の詳しいモニタリングは
今後も続けていく必要があるとされています。
(参考文献)
(1)
Rigel Suzuki, Daichi Yamasoba, Izumi Kimura, Lei Wang, Mai Kishimoto, Jumpei Ito, Yuhei Morioka, Naganori Nao, Hesham Nasser, Keiya Uriu, Yusuke Kosugi, Masumi Tsuda, Yasuko Orba, Michihito Sasaki, Ryo Shimizu, Ryoko Kawabata, Kumiko Yoshimatsu, Hiroyuki Asakura, Mami Nagashima, Kenji Sadamasu, Kazuhisa Yoshimura, The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, Hirofumi Sawa, Terumasa Ikeda, Takashi Irie, Keita Matsuno, Shinya Tanaka, Takasuke Fukuhara & Kei Sato
Attenuated fusogenicity and pathogenicity of SARS-CoV-2 Omicron variant
Nature (2022)
(2)
Petra Mlcochova, Steven A. Kemp, Mahesh Shanker Dhar, Guido Papa, Bo Meng, Isabella A. T. M. Ferreira, Rawlings Datir, Dami A. Collier, Anna Albecka, Sujeet Singh, Rajesh Pandey, Jonathan Brown, Jie Zhou, Niluka Goonawardane, Swapnil Mishra, Charles Whittaker, Thomas Mellan, Robin Marwal, Meena Datta, Shantanu Sengupta, Kalaiarasan Ponnusamy, Venkatraman Srinivasan Radhakrishnan, Adam Abdullahi, Oscar Charles, Partha Chattopadhyay, Priti Devi, Daniela Caputo, Tom Peacock, Chand Wattal, Neeraj Goel, Ambrish Satwik, Raju Vaishya, Meenakshi Agarwal, The Indian SARS-CoV-2 Genomics Consortium (INSACOG), The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, The CITIID-NIHR BioResource COVID-19 Collaboration, Antranik Mavousian, Joo Hyeon Lee, Jessica Bassi, Chiara Silacci-Fegni, Christian Saliba, Dora Pinto, Takashi Irie, Isao Yoshida, William L. Hamilton, Kei Sato, Samir Bhatt, Seth Flaxman, Leo C. James, Davide Corti, Luca Piccoli, Wendy S. Barclay, Partha Rakshit, Anurag Agrawal & Ravindra K. Gupta
SARS-CoV-2 B.1.617.2 Delta variant replication and immune evasion
Nature volume 599, pages114–119 (2021)
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