2022年2月4日金曜日

COVID-19:時間軸に焦点を当てた自然免疫応答と包括的考察

//背景//
新型コロナウィルス感染症に対する
基本的な戦略として
マスク、距離、接触時間、消毒、換気などの
基本的な感染対策によって感染しないようにする
という事はもちろんですが、
こういった対策の一部は
社会経済に負の影響を与えてしまいます。
従って、社会経済を少しずつ元に戻しながら
付加的な対策として、
体内に入ってもPCRの陽性の閾値までに達しないような
レベルでウィルスを抑え込むということです。
あるいは、治療薬やワクチンによる集団免疫の獲得により
社会の総ウィルス量を減らすということです。
--
症状の重症化とウィルス量には相関がない
という指摘もあります。
しかし、引用元は失念しましたが、
The New England Journal of Medicineの報告で
初期に抗ウィルス治療を行った時の
ウィルス量の推移を調べたものがありました。
それによると顕著に抗ウィルス治療を行ったほうが
ウィルス量の減少が見られました。
この事から少なくとも
ピークの値は相関がない場合もあるけど
全体のウィルス量の時間積分量は関係すると考えることもできます。
現在、日本で塩野義製薬の飲み薬の治験が進んでいますが、
その判定基準の一つは3日後のウィルス量となっています。
PCRの基準以下レベルにどれくらいの人が達するか?
これが薬効の判断基準となっています。
--
ウィルスは人社会の中であらゆるところに
存在していると考えられます。
従って、あらゆるところを消毒します。
その中で口腔、鼻腔の中にウィルスが入る人もいます。
しかしながら、全くそれに気づかない人もおそらくいます。
そういう人のデータはもちろんありません。
例えば、このような可能性は考えられないでしょうか?
ウィルスが入っても
ウィルスのピーク値が極めて低いため、
感染しているとはいえるけど、感染に気付いていないケースです。
科学的な証拠がないので、机上の空論になりますが、
私見では十分に考えられると思います。
実際に感染の波を予想される方も、
今の20倍から30倍の人の感染を想定して計算している場合もあります。
実際に症状があって、漏れている方も一部いると思いますが、
ほとんどの人は、ウィルスが体内に入っているのに
気付かないで感染を乗り越えたと考えることもできます。
つまり、無症状の中にも連続的な様々なレベルが存在するということです。
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Michael S. Diamond & Thirumala-Devi Kanneganti
(敬称略)からなる医療研究グループがまとめている
Table 1には新型コロナウィルスの治療戦略と治療薬の一覧が
整理され、掲載されています(1)。
それを見ると
①抗ウィルス薬
②免疫調整薬
これらの2つに大きく分かれています。
ここから上の議論も含めてどういうことが考えられるかというと
まず、発症からできるだけ早い段階で
抗ウィルス薬を処方して、ウィルス量を減らす試みをします。
しかしながら、治療が遅れる、リスク因子などによって
症状が悪化すると②の免疫調整薬を投与することになります。
これは、炎症性サイトカインやその信号を抑えて調整する薬です。
--
新型コロナウィルスは、
ワクチン接種率、自然感染状況などによって
免疫の状態が変わっていることや
流行株によって状況が変わる事などがあり
どれを基準にするかで変わりますが、
おおよそ20-40%くらいの人が無症状と言われています(1)。
感染初期の段階でワクチン接種がない状況の中で
子供に多いですが無症状で済んだ人は
おそらく身体の免疫系統によって抗ウィルス性が
十分に働いたと想定されます。

//ウィルス増殖、抗ウィルス治療の段階//
Michael S. Diamond氏、Thirumala-Devi Kanneganti氏らは
新型コロナウィルスの自然免疫について
詳しく総括されています(1)。
その中で自然免疫系の役割として
一般的に病原体に対して"The First line"と示されています。
このFirst lineは「最も重要」なのか?
あるいは「最も初期の」なのか?
それが重要になります。
例えば、自然免疫系のNK細胞は
初期に病原体に攻撃をしかける自然免疫であるとされています(2)。
T細胞免疫、B細胞免疫と協調しながら、
あるいはそれらの働きを高めて
これら獲得免疫系と相互に密接に関わる(1)。
このように言われています。
従って、自然免疫系は病原体暴露後に継続的に活性になる
と考える事ができますが、
問題にしたいのは
「どちらが早く働くか?」
ということです。
なぜ、ここに固執するか?
というと、身体の免疫反応性の早さが
新型コロナウィルス感染症に対する無感染、無症状、軽症化
に関わっていると考えるからです。
--
例えば、細胞単位の分析で
重症の患者さんではインターフェロンの反応性が
落ちていることが示されています
(参考文献(3) Fig.2D)。
また、インターフェロンや中和抗体の遅延。
つまり時間軸(迅速な反応性)に着目した報告があります
それらが重症化に関わるということです(4,5)。
これらの報告は、
抗ウィルス薬が発症から数日以内で投与しなければならない
という時間軸の設定に対して、
矛盾しない結果となっていると考えます。
--
このインターフェロンに関しては
IRF3が核内に入り、遺伝子に働きかけることで
インターフェロンが産生、放出されます。
そのIRFは
〇ミトコンドリア
〇STNIG
〇TRIF
これらが関わるとされています。
(参考文献(1) Fig.3より)
このTRIFが自然免疫系のパターン認識受容体である
TLR4、TLR3(受容体)と関わるとされています。
このToll様受容体は11種類ありますが、
TLR4、TLR3のみがTRIFに関わるとされています。
これは自然免疫系では
TLR3:NK細胞
TLR4:マクロファージとなっています。
従って、NK細胞やマクロファージが重要かもしれません。
NK細胞は加齢や強いストレスで能力が低下するといわれています。
ゆえに重症化リスクに加齢があるのは
1つとしてNK細胞に起因するかもしれません。
実際にNK細胞によって作られたインターフェロンは
新型コロナウィルスのタンパク質レベルを下げるのに
重要な役割を担っているとされています(6)。
上述したようにNK細胞はパターン認識するので
事前のウィルス暴露を必要としない(7)ため、
免疫応答の初動に貢献すると考えられます。
--
ワクチンが優れた予防対策なのは、
自然免疫系、獲得免疫系などの反応性が高まっていることです。
つまり、ここでも「スピード」が重要になります。
さらに中和抗体でウィルスの細胞内感染を防ぐことから
ウィルス増殖を防ぐことができます。
従って、特に重症化リスク因子のある人は
ワクチンの接種が重要になります。

//組織の炎症、免疫を調整する段階//
上述したようにウィルス量を減らす前に
主に、肺に感染して、組織にダメージが生まれると
自然免疫系は炎症性サイトカインを放出するようになります。
炎症性サイトカインによってダメージ受けた細胞は
自然免疫細胞依存的に細胞死します(PANoptosis)(8)。
(参考文献(1) Fig,4)。
このようなサイトカインはスパイラル上に増加して
循環器などを通して全身にいきわたり(?)、
心臓や、肝臓などにダメージを与える可能性があります。
--
また、デルタ株のように細胞毒性の強い株は
細胞の融合、合胞性が強く、
それによって組織の結合性などを乱して(?)、
組織を破壊する事も考えられます。
これが「正」であれば、
ウィルス依存的な、直接的な細胞毒性、傷害性である
と考えられます。
--
この段階になると
IL-6, IL-1, TNF, IFN-γ、JAK
これらの信号を抑制する薬を投与する必要性が出てきます。
しかし、傷害を受けた組織の修復は容易ではなく、
治療が長期化したり、後遺症が残る事も考えられます。
現場の医師の中には、
「患者さんの回復力を待つしかない。」
このように言われる方もいます。

//まとめ//
新型コロナウィルスに社会で立ち向かうために重要な事は
生理学的な戦略としては
〇ウィルス量(時間積分量)を増やさない
 つまり、発症後早く治療する
〇組織炎症の場合、炎症を回復、免疫を調整する
ということになります。
今まで、医療現場の方は
特に後者の方に対してずっと治療されてきたと認識しています。
例えば、後者については
最近の画期的な報告として、
「炎症細胞は老化細胞様になる」。
そのうえで老化細胞を取り除く。
ということが示されています(10)。
老化細胞は傍分泌的に周りに影響を与え、
細胞数が増え、蓄積していくので、
できるだけ早い段階で、老化細胞を選択的に取り除く
というコンセプトです。
老化細胞除去薬としてABT263が選択されています(10)。
これは、今まで困難だった組織の炎症の治療の
負担を下げる可能性のある報告だと考えています。
まだ、マウスの段階なので、人で確かめる必要があります。
--
具体的な戦略としては
基本的な対策を除けば、
〇ワクチンを接種する
〇抗ウィルス治療薬を普及させる
これらの両輪を回す必要があります。
ワクチン接種は粛々と進めていく必要がありますが、
特に抗ウィルス薬については
変異株の影響も今のところ小さい(11)ので
できるだけ簡単に処方、投与できる
「飲み薬」が重要になります。
今後、様々な議論があると思いますが、
日本では第2類、第5類の分類も含めて、
「できるだけ全員に円滑に処方できる体制を整える」
ということです。
もちろん副作用などの安全性や
処方の条件(発症から*日まで)などがありますが、
治療薬の処方がスムーズになり、
かつワクチンの3回目接種の割合が増えてくると
日本を含めて、どの国でも
コロナ禍の社会の景観も変わってくると思います。
--
ワクチンと治療薬。
この2つを世界にいきわたらせることができれば、
コロナ禍は収束するか、
インフルエンザレベルの風土病に
リスクが下がることが想定されます。
--
また一方で、子供へのワクチン接種は
現状でリスクが低いことから遅れています。
リスクとベネフィットの関係で
ワクチンのリスクがやや高い事も挙げられます。
しかしながら、インフルエンザのように
子供に対してもリスクが高い株が
今後、生じないとはいえません。
ワクチン接種は一定の時間がかかるので、
その時の為に、すぐに処方できる飲み薬を開発して、
供給体制を整えておくことは重要です。
今、流行しているうちに飲み薬の
子供への安全性を確かめるということは
一考の余地があると思います。
ただし、この場合も大人の安全性確認が先
ということになります。

(参考文献)
(1)
Michael S. Diamond & Thirumala-Devi Kanneganti
Innate immunity: the first line of defense against SARS-CoV-2
Nature Immunology volume 23, pages165–176 (2022)
(2)
高石繁生、飯野忠史
九州大学先端医療イノベーションセンター
「がん免疫療法で新たに注目される「NK(ナチュラルキラー)細胞」」
(3)
Melissa Saichi, Maha Zohra Ladjemi, Sarantis Korniotis, Christophe Rousseau, Zakaria Ait Hamou, Lucile Massenet-Regad, Elise Amblard, Floriane Noel, Yannick Marie, Delphine Bouteiller, Jasna Medvedovic, Frédéric Pène & Vassili Soumelis 
Single-cell RNA sequencing of blood antigen-presenting cells in severe COVID-19 reveals multi-process defects in antiviral immunity
Nature Cell Biology (2021)
(4)
Carolina Lucas, Jon Klein, Maria E. Sundaram, Feimei Liu, Patrick Wong, Julio Silva, Tianyang Mao, Ji Eun Oh, Subhasis Mohanty, Jiefang Huang, Maria Tokuyama, Peiwen Lu, Arvind Venkataraman, Annsea Park, Benjamin Israelow, Chantal B. F. Vogels, M. Catherine Muenker, C-Hong Chang, Arnau Casanovas-Massana, Adam J. Moore, Joseph Zell, John B. Fournier, Yale IMPACT Research Team, Anne L. Wyllie, Melissa Campbell, Alfred I. Lee, Hyung J. Chun, Nathan D. Grubaugh, Wade L. Schulz, Shelli Farhadian, Charles Dela Cruz, Aaron M. Ring, Albert C. Shaw, Adam V. Wisnewski, Inci Yildirim, Albert I. Ko, Saad B. Omer & Akiko Iwasaki 
Delayed production of neutralizing antibodies correlates with fatal COVID-19
Nature Medicine volume 27, pages1178–1186 (2021)
(5)
Thiago Carvalho, Florian Krammer & Akiko Iwasaki
The first 12 months of COVID-19: a timeline of immunological insights
Nature Reviews Immunology volume 21, pages245–256 (2021)
(6)
Jiacheng Bi 
NK cell dysfunction in patients with COVID-19
Cellular & Molecular Immunology volume 19, pages127–129 (2022)
(7)
Wikipedia
ナチュラルキーラー細胞 / Natural killer cell
(8)
Karki, R. et al. Synergism of TNF-α and IFN-γ triggers inflammatory cell 
death, tissue damage, and mortality in SARS-CoV-2 infection and cytokine 
shock syndromes. Cell 184, 149–168 (2021).
(9)
Petra Mlcochova, Steven A. Kemp, Mahesh Shanker Dhar, Guido Papa, Bo Meng, Isabella A. T. M. Ferreira, Rawlings Datir, Dami A. Collier, Anna Albecka, Sujeet Singh, Rajesh Pandey, Jonathan Brown, Jie Zhou, Niluka Goonawardane, Swapnil Mishra, Charles Whittaker, Thomas Mellan, Robin Marwal, Meena Datta, Shantanu Sengupta, Kalaiarasan Ponnusamy, Venkatraman Srinivasan Radhakrishnan, Adam Abdullahi, Oscar Charles, Partha Chattopadhyay, Priti Devi, Daniela Caputo, Tom Peacock, Chand Wattal, Neeraj Goel, Ambrish Satwik, Raju Vaishya, Meenakshi Agarwal, The Indian SARS-CoV-2 Genomics Consortium (INSACOG), The Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, The CITIID-NIHR BioResource COVID-19 Collaboration, Antranik Mavousian, Joo Hyeon Lee, Jessica Bassi, Chiara Silacci-Fegni, Christian Saliba, Dora Pinto, Takashi Irie, Isao Yoshida, William L. Hamilton, Kei Sato, Samir Bhatt, Seth Flaxman, Leo C. James, Davide Corti, Luca Piccoli, Wendy S. Barclay, Partha Rakshit, Anurag Agrawal & Ravindra K. Gupta 
SARS-CoV-2 B.1.617.2 Delta variant replication and immune evasion
Nature volume 599, pages114–119 (2021)
(10)
Shunya Tsuji, Shohei Minami, Rina Hashimoto, Yusuke Konishi, Tatsuya Suzuki, Tamae Kondo, Miwa Sasai, Shiho Torii, Chikako Ono, Shintaro Shichinohe, Shintaro Sato, Masahiro Wakita, Shintaro Okumura, Sosuke Nakano, Tatsuyuki Matsudaira, Tomonori Matsumoto, Shimpei Kawamoto, Masahiro Yamamoto, Tokiko Watanabe, Yoshiharu Matsuura, Kazuo Takayama, Takeshi Kobayashi, Toru Okamoto & Eiji Hara 
SARS-CoV-2 infection triggers paracrine senescence and leads to a sustained senescence-associated inflammatory response
Nature Aging (2022)
(11)
Emi Takashita, Ph.D. Noriko Kinoshita, M.D. Seiya Yamayoshi, D.V.M., Ph.D. Yuko Sakai-Tagawa, Ph.D. Seiichiro Fujisaki, Ph.D. Mutsumi Ito, D.V.M. Kiyoko Iwatsuki-Horimoto, D.V.M., Ph.D. Shiho Chiba, Ph.D. Peter Halfmann, Ph.D. Hiroyuki Nagai, M.D. Makoto Saito, M.D., D.Phil. Eisuke Adachi, M.D., Ph.D. David Sullivan, M.D. Andrew Pekosz, Ph.D. Shinji Watanabe, D.V.M., Ph.D. Kenji Maeda, M.D., Ph.D. Masaki Imai, D.V.M., Ph.D. Hiroshi Yotsuyanagi, M.D., Ph.D Hiroaki Mitsuya, M.D., Ph.D. Norio Ohmagari, M.D., Ph.D. Makoto Takeda, M.D., Ph.D. Hideki Hasegawa, M.D., Ph.D. Yoshihiro Kawaoka, D.V.M., Ph.D.
Efficacy of Antibodies and Antiviral Drugs against Covid-19 Omicron Variant
The New England Journal of Medicine January 26, 2022


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