//背景//
悪性度の高い癌細胞は活性な増殖能を持っています。
その増殖能に関わる遺伝子は癌ドライバー遺伝子と言われます。
この癌の成長を推し進める遺伝子と
その遺伝子によって転写、翻訳されたタンパク質の構造を
Åレベルで、精細に分析する事は非常に大切です。
上皮成長因子(EGF)はチロシンキナーゼと連携して、
最終的にDNAや細胞増殖に関わります。
従って、増殖能の高い癌細胞では
これらの機能が高まっている可能性があります。
例えば、肺癌では上皮成長因子関連遺伝子の変異によって
実際に活性度が高まっていると言われています(2)。
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膠芽細胞腫において、この上皮成長因子に着目して
この働きを抑える薬剤-EGFR inhibitors。
これを投与しましたが、成功していません(3,4)。
従って、変異によって薬効を抑えるような
重要な構造変化が起きている可能性があります。
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Chun Hu(敬称略)ら医療研究グループは
膠芽細胞腫で生じるR84K変異が
上皮成長因子受容体の構造、機能を改変する
ことを確かめられています(1)。
//内容//
上皮成長因子受容体は
三つのドメイン(Ⅰ、Ⅱ、Ⅲ)があります。
それらが左右でダイマー(2量体)を作っています。
両サイドに1つずつあるⅠ、Ⅲがこの順に縦に並んでいて
その間にリガンドが挟みこまれるように結合します。
ドメインⅡは内側の連結部に左右1つずつ存在します。
通常はリガンドが上皮成長因子の時「だけ」
構造が対称になり、安定になるようなダイナミクスを持っています。
(参考文献(1) Fig.3C)。
しかし、R84K変異が入ると
今まで対称構造にならなかった親和性の低いリガンド
例えば、EREG, AREG, EPGN
これらの結合親和性も対称になる事に寄って
高まってしまいます。
(参考文献(1) Fig.1d, Fig.2f)
つまり、R84K変異は上皮成長因子受容体の
「識別能力」を低下させます。
これは
〇残基K84+とA265
〇残基L38とF263のDimer armが
左右共に連結性が弱まっている事に起因します。
(参考文献(1) Fig.3b)。
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実際にEREG(Epiregulin)は膠芽細胞腫において
ERK/MAPK経路依存的に発がん性を高めると言われています(5)。
このERK/MAPK経路はチロシンキナーゼ、
上皮成長因子と細胞増殖において関連がある事から
R84K変異による上皮成長因子受容体の
「対称構造になりやすい」
「安定的な構造になりやすい」
改変によって、リガンド識別能力を失い
癌細胞増殖能を高めているかもしれない
ことが示されました。
//Cell-type-specific delivery systemの視点//
細胞種特異的輸送系統では、
このような構造改変を利用して
標的細胞への輸送効率を高める事を検討します。
R84Kによって改変された構造が
ドメイン(Ⅰ、Ⅲ)の間に様々な構造を引き付け、
結合させる働きがあるのであれば、
そこからより特異的なリガンドを探せる可能性があります。
なぜなら、識別能力が下がることで
リガンドの選択性が上がっているからです。
その場合、結合することで増殖能を高めてしまうことも
考えられるので、抑制機序を如何に組み込むかが
大切になります。
(参考文献)
(1)
Chun Hu, Carlos A. Leche II, Anatoly Kiyatkin, Zhaolong Yu, Steven E. Stayrook, Kathryn M. Ferguson & Mark A. Lemmon
Glioblastoma mutations alter EGFR dimer structure to prevent ligand bias
Nature (2022)
(2)
Eck, M. J. & Yun, C. H. Structural and mechanistic underpinnings of the differential drug
sensitivity of EGFR mutations in non-small cell lung cancer. Biochim. Biophys. Acta 1804,
559–566 (2010).
(3)
Heimberger, A. B. et al. Prognostic effect of epidermal growth factor receptor and
EGFRvIII in glioblastoma multiforme patients. Clin. Cancer Res. 11, 1462–1466 (2005).
(4)
Eskilsson, E. et al. EGFR heterogeneity and implications for therapeutic intervention in
glioblastoma. Neuro Oncol. 20, 743–752 (2018).
(5)
Shinji Kohsaka, Kunihiko Hinohara, Lei Wang, Tatsunori Nishimura, Masana Urushido, Kazuhiro Yachi, Masumi Tsuda, Mishie Tanino, Taichi Kimura, Hiroshi Nishihara, Noriko Gotoh, Shinya Tanaka
Epiregulin enhances tumorigenicity by activating the ERK/MAPK pathway in glioblastoma
Neuro Oncol. 2014 Jul;16(7):960-70
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