2022年2月23日水曜日

CRISPRシステムによる癌治療に向けて

Alyna Katti, Bianca J. Diaz, Christina M. Caragine, Neville E. Sanjana & Lukas E. Dow
(敬称略)からなる医療研究グループが
年表(Ref.(1)Fig.1)に示しているように
初めてCrispr-Cas9による遺伝子編集が行われたのが
2013年でそこから2019年までにCrispr-Casシステムは
いくつかの方式、編集対象を示しながら発展してきています。
Crisprは遺伝子を編集する技術ですから
遺伝子疾患や、遺伝子変異を伴う癌などの治療が対象となります。
逆に、遺伝子変異を意図的に行い、
そこから試験管内、人工組織、マウスなどの生体に
組み込むことで特定の遺伝子変異に伴う
病態、病理について調べるという方向性もあります。

Alyna Katti氏らが総括されている
癌の生体病理や治療にCrispr技術を利用するためには
無作為に見出した癌の変異を標的として
それを修正するだけでは
少なくとも病理を理解したり、治療効果は望めない
と考える事ができます。
なぜなら1つの腫瘍組織の中に、
あるいは癌細胞の中に存在する変異は膨大だからです。
またエピジェネティックな装飾因子や
ノンコード因子、
転写因子(RNA)なども含めるともっと多様になります。
実際に1つの腫瘍で1億のコード領域の変異が見られた
という報告もあります(2)。
従って、その癌の生存、増殖において
より重要な遺伝子を見つける必要があります。
それをドライバー変異ともいいます。
例えば、肺がんのケースでは
EGFR、KRAS、ALK-fusion、ROS1-fusion, LTK-fusionなど
ある程度は特定されています。
従って、Crispr-Cas9でこれらの遺伝子を
標的とした研究も報告されています(3-5)。

このように癌治療にCrisprを適用するためには
Alyna Katti氏らにより
Ref.(1)Fig.1で示されたような
遺伝子編集するための技術が重要ですが、
もう一つの要素として、
「どの遺伝子を編集するか?」という事を
特定する必要があります。
その重要な遺伝子の特定においても
Crispr技術を使うことができます。
Crisprを使って遺伝子スクリーニングを行うことです。
これによって特定の薬剤の反応性や病理などにおいて
関係遺伝子を振り分けることができます(1)。
また、
遺伝子の特定の箇所にマーキング(バーコーディング)
することで細胞の発生系統樹を追跡することができます。
(参考文献(1) Fig.4)
それによって前駆細胞から分化していった
細胞がどのような遺伝子変異、相続を行っていったか?
ということがバーコードを印として識別できます(1)。
遺伝子スクリーニング、バーコーディングは
Crisprで標的とする癌遺伝子の特定に貢献する
と考える事ができます。
また遺伝子スクリーニングするときに
免疫細胞などと同じ環境に置くこと(1)で
遺伝子と免疫の関わりを理解できる可能性があります。
なぜなら、生体内の癌組織は
常に免疫系統による作用を強く受けているからです。

実際にこうした議論は行われていて
標的とする遺伝子領域は
癌の内的、外的要因を合わせると数百種類といわれています(1)。
このような状況下で想定上の標的を定め
臨床試験に応用することは
多くの壁があるとされています(1)。

また遺伝子治療においては必ず共存する問題は
Crisprシステムをどう標的細胞まで特異的に輸送するか?
という問題です。
COVID-19のmRNAワクチンで使われたナノ粒子技術は
利用できる可能性がありますが、
標的細胞は樹状細胞などの循環器系にある免疫細胞です。
またmRNAはタンパク質を生み出すためのものなので
遺伝子を編集するsgRNAと比べて、
オフターゲットのリスクは小さいと考えられます。
従って、Crisprシステムを利用する場合には
より正確な輸送が必要になります。
癌は血液性のものだけではなく
組織常在型の固形性のものもあります。
特に組織常在型の細胞に対するナノ粒子の輸送に関しては
まだ、基礎研究においても実績は十分ではありません(6,7)。
Zhongyi Hu氏らが示すような
癌特異的な表面タンパク質を明らかにして(8)
それを標的とした表面装飾型ナノ粒子を確立する事が
CrisprシステムのためのsgRNA特異的輸送の為の1つの方略です。
その点において
Alyna Katti氏らが総括した
Crisprシステムによる癌治療と
細胞特異的輸送系統(Cell-type-specific delivery system)。
これらの技術的親和性は高いと考えられます。
しかしながら、おそらく
Crisprシステムによる遺伝子編集技術を
癌治療に適用するのは血液性の癌が先になると想定されます。

(参考文献)
(1)
Alyna Katti, Bianca J. Diaz, Christina M. Caragine, Neville E. Sanjana & Lukas E. Dow
CRISPR in cancer biology and therapy
Nature Reviews Cancer (2022)
(2)
Shaoping Ling, Zheng Hu, Zuyu Yang, Fang Yang, Yawei Li, Pei Lin, Ke Chen, Lili Dong, Lihua Cao, Yong Tao, Lingtong Hao, Qingjian Chen, Qiang Gong, Dafei Wu, Wenjie Li, Wenming Zhao, Xiuyun Tian, Chunyi Hao, Eric A. Hungate, Daniel V. T. Catenacci, Richard R. Hudson, Wen-Hsiung Li, Xuemei Lu, and Chung-I Wu
Extremely high genetic diversity in a single tumor points to prevalence of non-Darwinian cell evolution
PNAS November 24, 2015 112 (47) E6496-E6505
(3)
Wonjoo Kim et al.
Targeting mutant KRAS with CRISPR-Cas9 controls tumor growth
Genome Res. 2018 Mar; 28(3): 374–382.
(4)
Bin Liu et al.
CRISPR-mediated ablation of overexpressed EGFR in combination with sunitinib significantly suppresses renal cell carcinoma proliferation
PLoS One. 2020; 15(5): e0232985.
(5)
Hiroki Izumi, Shingo Matsumoto, Jie Liu, Kosuke Tanaka, Shunta Mori, Kumiko Hayashi, Shogo Kumagai, Yuji Shibata, Takuma Hayashida, Kana Watanabe, Tatsuro Fukuhara, Takaya Ikeda, Kiyotaka Yoh, Terufumi Kato, Kazumi Nishino, Atsushi Nakamura, Ichiro Nakachi, Shoichi Kuyama, Naoki Furuya, Jun Sakakibara-Konishi, Isamu Okamoto, Kageaki Taima, Noriyuki Ebi, Haruko Daga, Akira Yamasaki, Masahiro Kodani, Hibiki Udagawa, Keisuke Kirita, Yoshitaka Zenke, Kaname Nosaki, Eri Sugiyama, Tetsuya Sakai, Tokiko Nakai, Genichiro Ishii, Seiji Niho, Atsushi Ohtsu, Susumu S. Kobayashi & Koichi Goto
The CLIP1–LTK fusion is an oncogenic driver in non‐small‐cell lung cancer
Nature volume 600, pages319–323 (2021)
(6)
Jung Seok Lee, Patrick Han, Rabib Chaudhury, Shihan Khan, Sean Bickerton, Michael D. McHugh, Hyun Bong Park, Alyssa L. Siefert, Gerald Rea, José M. Carballido, David A. Horwitz, Jason Criscione, Karlo Perica, Robert Samstein, Ragy Rageb, Dongin Kim & Tarek M. Fahmy 
Metabolic and immunomodulatory control of type 1 diabetes via orally delivered bile-acid-polymer nanocarriers of insulin or rapamycin
Nature Biomedical Engineering volume 5, pages983–997 (2021)
(7)
Xiangang Huang, Chuang Liu, Na Kong, Yufen Xiao, Arif Yurdagul Jr., Ira Tabas & Wei Tao
Synthesis of siRNA nanoparticles to silence plaque-destabilizing gene in atherosclerotic lesional macrophages
Nature Protocols (2022)
(8)
Zhongyi Hu, Jiao Yuan, Meixiao Long, Junjie Jiang, Youyou Zhang, Tianli Zhang, Mu Xu, Yi Fan, Janos L. Tanyi, Kathleen T. Montone, Omid Tavana, Ho Man Chan, Xiaowen Hu, Robert H. Vonderheide & Lin Zhang 
The Cancer Surfaceome Atlas integrates genomic, functional and drug response data to identify actionable targets
Nature Cancer volume 2, pages1406–1422 (2021)

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