//背景//---
あらゆる疾患において、病態を正確に分析、把握して
患者さんの診察、問診と合わせて
総合的に治療方針を決める事が重要だと考えられます。
同じ病名がついている疾患でもいくつかのタイプが存在します。
例えば、乳癌では4つのタイプが大きくあると言われています。
今後、細胞レベルの分析技術が上がっていく事によって
さらにこの分類は亜型も含めて細かくなる可能性があります。
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病状を詳しく分析するためには検査が必要です。
その際、PETなどのように放射線物質を使った分析では
癌において有効ではありますが、
使用できる回数が被ばくのリスクを考えると限られる
というのがあります。それはCTでも指摘されています。
また医療コストの面もありますから
簡便でより有効な分析手法の需要が高いと考えられます。
私の視点としては、血液、唾液、汗、脳脊髄液、(皮膚)組織など
患者さんの身体の生検でよりさらに詳しい分析ができないか?
という視点があります。
取得自体が簡便である事と、
他の患者さんと合わせて一気に
機械内で分析できる可能性があるため、
コストの低減、時間節約にもつながるからです。
そうすると自然と頻度が上がってくるため
常に移り変わる身体の状態を掌握することができるからです。
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Brian M. Andersen, Camilo Faust Akl, Michael A. Wheeler, E. Antonio Chiocca, David A. Reardon & Francisco J. Quintana
(敬称略)ら医療研究グループは
脳腫瘍のうち、神経膠腫、転移性脳腫瘍について
各免疫細胞の勢力と
それぞれの細胞の腫瘍組織の中での生理について総括しています(1)。
本日はその報告内のFig.1,2の内容を核として
独自の視点、考察を加えながら追記していきます。
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//筆者の視点//---
例えば、晴れた日に外を歩いている時、
左手の内側に赤い斑点が出てきたとします。
そうした場合、植物、日光(紫外線など)、微生物など
環境のいずれかと身体が反応して、
何らかの免疫異常が皮膚に現れていると考えられます。
自然と収まるケースもありますが、
そうではなければ、ステロイド塗り薬を
患部に塗布するなどの処置を行うことがあります。
それで収まった時は、おそらく過剰に高まった免疫反応が
うまく調整されたと考える事ができます。
しかしながら、主因となっている免疫細胞群に対して
効果がなければ、おそらく改善しないと考えられます。
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癌でも同じ事が言えます。
癌細胞は細胞の異常であり、身体の恒常性を乱すものです。
従って、普段は数を増やさないように
免疫機能などによって制御されています。
しかし、ある大きさを超えると免疫機能だけでは
組織の成長を止める事ができなくなります。
そうすると身体の反応としては
癌組織周辺で免疫機能にも異常が出る事が考えられます。
どのような免疫細胞がどれくらいの割合で存在するか?
ということを主要組織の中でつかむことは
免疫療法に限らず、抗がん剤による化学療法を進める
にあたっても非常に重要になります。
免疫機能をうまく調整して、癌細胞を攻撃し、
かつ身体の通常組織を傷つけないようにすることができれば、
抗がん剤による治療、外科治療も楽になると考えられます。
副作用や後遺症の状態も変わると考えられます。
Brian M. Andersen氏, Camilo Faust Akl氏らの
免疫細胞の勢力に注目した総括は
上述したような点において意義があると考えられます。
//免疫細胞の勢力関係//---
ーー
(転移性脳腫瘍)
転移性脳腫瘍では単球由来のマクロファージ、
好中球、CD4+、CD8+T細胞の割合が8割程度となっています。
これは、転移性脳腫瘍が原発腫瘍の特徴を残して
脳に血液を通じて流入して、生着、成長したからである
と考えられます。
ここで視点としてあるのが、
通常、脳の血管には血液脳関門があり、
身体の組織の免疫細胞の種類は異なります。
例えば、脳の免疫ではマイクログリアと呼ばれる
グリア細胞が神経系の免疫機能に関わります。
一方、CD4+、CD8+T細胞などのリンパ系の免疫細胞は
それほど多くは分布していません。
血液脳関門を多くの割合で通過する事が出来ないからです。
しかし、転移性の脳腫瘍ではこのリンパ系の免疫細胞が
多く観られることから転移した脳腫瘍につながる
あるいは周辺の血管組織の状態が
通常組織の血液脳関門を備えた状態と大きく異なる可能性があります。
--
このような視点に立つと薬剤で転移性脳腫瘍の治療を
行う際にアクセスについて考える必要があります。
逆にこの異常がある(かもしれない)転移性脳腫瘍につながる
あるいはその周辺の血管を主要に使って
薬剤をアクセスさせる事ができれば、
転移性脳腫瘍特異的に薬剤を届けることができる可能性があります。
一つの考え方としては
通常は血液脳関門を超えない分子構造の大きな薬剤成分にしておいて
その血液を通じてだけしか届かないようにする事で
転移性脳腫瘍だけに薬剤を届けることができるかもしれません。
もう一つの考え方としては
Fig.1aで示されているように転移性脳腫瘍につながる
血液系を何らかの方法で可視化、明らかにできないか?
という視点もあります。
ただ、前提を確かめる必要もあります。
すなわち、転移性脳腫瘍につながる、周辺の血管の
内皮、周皮構造を調べる事です。
ーー
(IDH変異がある神経膠腫)
※IDH変異:マイクログリアの遺伝子不安定性を高める変異
この脳腫瘍ではマイクログリアに変異がみられることから
腫瘍組織環境のマイクログリアの割合が7割程度と
非常に多くなっています。
変異がない場合、転移性の脳腫瘍と大きく異なります。
神経膠腫はグリア細胞由来の癌組織なので
割合として多いマイクログリアの特徴を掴んで
その上で治療する事が必要になります。
//神経膠腫と免疫細胞//---
Fig.2a-dでは免疫細胞から放出されるサイトカインなどを
通じて神経膠腫の恒常性、成長に関わる機序を明らかにしています。
例示されている免疫細胞は
アストロサイト、マイクログリア、T細胞、
単球由来マクロファージです。
ーー
(アストロサイト)
神経膠腫の炎症を防ぎ、成長を促す物質の亢進
IL-10、PDL1、TGFβ
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(マイクログリア)
神経膠腫の炎症を防ぎ、成長を促す物質の亢進
PDL1、TGFβ
神経膠腫腫瘍組織に侵入する物質
MMP14、STI1、SPP1、EGF
--
(T細胞)
T細胞の癌細胞傷害性を低下させる物質(Exhaustion)
PD1、TIGHT、LAG3、CD39
--
(単球由来マクロファージ)
神経膠腫の炎症を防ぎ、成長を促す物質の亢進
PDL1、TGFβ、IL-10、CD155、ARG1、CD39、IL1RN、CD73
神経膠腫を炎症させ、退行させる物質の亢進
IL-1β、TNF、IL-27
ーー
(筆者の視点)
ここからいくつかの事が考えられます。
先ほどの細胞種勢力図から
例えば、IDH変異型ではマイクログリアが多くなっています。
従って、マイクログリアの癌細胞への作用のうち
成長を促す抗炎症性サイトカインを抑えることができれば
癌細胞の環境を免疫的に変えられる可能性があります。
そうするとPDL1とTGFβを抑える事が重要になります。
一方、IDH変異がない場合には
マクロファージの割合が大きくなっていますから
マクロファージの癌組織に対する炎症>>抗炎症
となるようにサイトカインを調整する事が考えられます。
しかし、関わる物質が多いため、
標的を決める上で難しさがあるかもしれません。
-
もう一方の視点として、
癌への抗炎症性として共通性の高い物質があります。
それがPDL1、PD1です。
これは免疫チェックポイントと呼ばれます。
従って、免疫チェックポイント阻害薬が
脳環境内に届き、うまく働けば、
神経膠腫の退行を免疫多面的に進める事ができる可能性があります。
しかし、PD1-PDL1軸の免疫チェックポイント阻害薬における
神経膠腫の臨床好反応はおおよそ8%の患者さんに
留まると言われています(3)。
その中でタイミングが重要であるとされています(4)。
これらが本当にPD1-PDL1軸の中で
アンタゴニスト(阻害)として働いているかどうか?
という構造的な確認は何らかの方法で必要かもしれません。
//転移性脳腫瘍と免疫細胞//---
Fig.2で示されるように脳組織に転移するためには
血管内皮、周皮を通過する必要があります。
それに関わる免疫細胞が
アストロサイト、マイクログリア、
単球由来マクロファージです。
アストロサイトは
TNF, IL-6, IFNα, CCL2が亢進
マイクログリア
IL-1β, IL-12, TNF, CXCL8, CXCL10が亢進
単球由来マクロファージ
IL-1β, IL-27, TNFが亢進
これらとなっています。
これらは転移性癌細胞に対して炎症性を持ちます。
但し、マイクログリアに関しては
PDL1, CXCL10, VISTAが抗炎症性となっています。
ここでも免疫チェックポイントである
PDL1とVISTAがキーとなっているため、
免疫チェックポイントをどう阻害して、
癌細胞の細胞傷害性を維持するかが重要になります。
//考察//---
免疫機能を維持するということにおいては
PD1(免疫細胞側)-PDL1(癌細胞側)の結合を
如何に防いで免疫機能を維持するかが一つ重要になります。
従って、免疫チェックポイント阻害薬の働きが注目されます。
Ref.(1)Table 2で示されるように
多くの治験が今まで行われていますが、
必ずしも正の奏功に結びついていないとされています。
例えば、子宮頸がんに対して
免疫チェックポイント阻害薬を用いた臨床報告(2)では
PL-D1レベルが高い人ほど効果が大きく現れています。
従って、上述した治療を脳腫瘍に適用する場合に
脳腫瘍のPD-L1レベルに対して
臨床的奏功がどのように相関関係を持っているか?
という分析が重要になります。
PD-L1に相関がなければ、薬剤が狙い通り働いていない
可能性も疑う必要性が出てきます。
脳組織は特に血液脳関門がある事から
薬剤のアクセスが難しい部位です。
その様な事も含めて、より詳細な分析が必要なると考えられます。
//Cell-type-specific delivery system//ーー
薬剤を輸送するときには血液を通じて標的部位に到達する
ことが主になると考えられます。
脳の腫瘍であれば、
脳に直接注射して注入するわけにはいかないからです。
従って、代謝なども含めて薬剤の導線を考える必要性があります。
輸送効率を高めるためには
巨視的、微視的などスケールの異なる中での
「走化性(向性)」を癌組織に対して高める必要性があります。
これは血管中を含めて考えると容易ではありません。
例えば、インテグリンという受容体があります。
このインテグリンはα鎖β鎖という
ヘテロダイマーの構造になっていて
それぞれのドメインにはいくつかの型があります。
その型の組み合わせで多くの亜型を有します。
転移性癌のみに存在するインテグリンもありますが、
これは血液の内皮にも多く存在するため
それを標的にすると血液内で結合して止まってしまう可能性があります。
従って、長い導線を考える中で
特異的な受容体、その結合部位を探すことは容易ではありません。
--
脳の導線に関しては、特に転移性の脳腫瘍の場合には
そこまで導かれた血管に通常とは異なる何らかの変化が
ある可能性もあります。
例えば、転移性の癌細胞、DNA、RNA、関連サイトカインが
血液中を通ることで内皮が影響を受けて
なんらかの特異的受容体を発現するかもしれません。
そうした場合、その受容体を薬剤を封入したナノ粒子が認識して
そこで薬剤を放出するように設計すれば、
脳腫瘍に繋がる血管系で薬剤が特異的に放出されるため
輸送効率が高まる可能性があります。
--
本当は病変部位までナノ粒子を閉じておいて、
病変部位で開放されることが理想的ですが、
準・理想的な考え方として、
そこまでつながる血管系で放出させるということもある
と考えます。
(Reference)
(1)
Brian M. Andersen, Camilo Faust Akl, Michael A. Wheeler, E. Antonio Chiocca, David A. Reardon & Francisco J. Quintana
Glial and myeloid heterogeneity in the brain tumour microenvironment
Nature Reviews Cancer (2021)
---
Author information
Author notes
These authors contributed equally: Brian M. Andersen, Camilo Faust Akl.
Affiliations
Ann Romney Center for Neurologic Diseases, Brigham and Women’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Brian M. Andersen, Camilo Faust Akl, Michael A. Wheeler & Francisco J. Quintana
Center for Neuro-Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Brian M. Andersen & David A. Reardon
Department of Neurosurgery, Brigham and Women’s Hospital, Boston, MA, USA
E. Antonio Chiocca
Broad Institute of MIT and Harvard, Cambridge, MA, USA
Michael A. Wheeler & Francisco J. Quintana
(2)
Nicoletta Colombo, M.D., Ph.D., Coraline Dubot, M.D., Domenica Lorusso, M.D., Ph.D., M. Valeria Caceres, M.D., Ph.D., Kosei Hasegawa, M.D., Ph.D., Ronnie Shapira-Frommer, M.D., Krishnansu S. Tewari, M.D., Pamela Salman, M.D., Edwin Hoyos Usta, M.D., Eduardo Yañez, M.D., Mahmut Gümüş, M.D., Mivael Olivera Hurtado de Mendoza, M.D., Vanessa Samouëlian, M.D., Ph.D., Vincent Castonguay, M.D., Alexander Arkhipov, M.D., Ph.D., Sarper Toker, M.D., M.B.A., Kan Li, Ph.D., Stephen M. Keefe, M.D., and Bradley J. Monk, M.D. for the KEYNOTE-826 Investigators*
Pembrolizumab for Persistent, Recurrent, or Metastatic Cervical Cancer
The New England Journal of Medicine September 18, 2021
---
Author Affiliations
From the University of Milan–Bicocca and European Institute of Oncology IRCCS, Milan (N.C.), and Fondazione Policlinico Universitario A. Gemelli IRCCS and Catholic University of the Sacred Heart, Rome (D.L.) — both in Italy; Institut Curie Saint-Cloud, Group d’Investigateurs Nationaux pour l’Etude des Cancers Ovariens, Saint-Cloud, France (C.D.); Instituto de Oncología Ángel H. Roffo, Buenos Aires (M.V.C.); Saitama Medical University International Medical Center, Hidaka, Japan (K.H.); Ella Lemelbaum Institute for Immuno-Oncology, Sheba Medical Center, Ramat Gan, Israel (R.S.-F.); the University of California, Irvine, Orange (K.S.T.); Oncovida Cancer Center, Providencia (P.S.), and Universidad de la Frontera, Temuco (E.Y.) — both in Chile; IMAT (Instituto Médico de Alta Tecnología) Oncomedica, Monteria, Colombia (E.H.U.); Istanbul Medeniyet University Hospital, Istanbul, Turkey (M.G.); Instituto Nacional de Enfermedades Neoplásicas, Lima, Peru (M.O.H.M.); Centre Hospitalier de l’Université de Montréal, Centre de Recherche de l’Université de Montréal, Université de Montréal, Montreal (V.S.), and Centre Hospitalier Universitaire de Québec, Université Laval, Quebec (V.C.) — both in Quebec, Canada; the Medical Rehabilitation Center of the Ministry of Health of the Russian Federation, Moscow (A.A.); Merck, Kenilworth, NJ (S.T., K.L., S.M.K.); and Arizona Oncology (U.S. Oncology Network), University of Arizona College of Medicine, Creighton University School of Medicine, Phoenix (B.J.M.).
(3)
Reardon, D. A. et al.
Effect of nivolumab vs bevacizumab in patients with recurrent glioblastoma: the checkmate 143 phase 3 randomized clinical trial.
JAMA Oncol. 6, 1003 (2020).
(4)
Cloughesy, T. F. et al.
Neoadjuvant anti-PD-1 immunotherapy promotes a survival benefit with intratumoral and systemic immune responses in recurrent glioblastoma.
Nat. Med. 25, 477–486 (2019).
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