2021年9月29日水曜日

社会的処方という選択

先日、ある認知症の患者さんに焦点を当てた
メディアを拝見している時、
ちょっとした一言に鼓舞されるものがありました。
「認知症を直す、止める薬は世界にないからね。」
という患者さん自身の言葉です。
認知症というのは感情的な部分が比較的残るといわれていて
どんどんできなくなっていく事を自覚できることが
非常に苦しまれる部分だと思います。
そういった背景の中でもし認知症を遅らせる、止める
あるいは治す薬が生まれたら、
配偶者の方など身近な人も含めて、
多くの人の幸福に貢献できるだろうと考えました。
他にも今、不治とされる病はたいさんあり、
その中で良い薬の需要が高いと思われます。
薬のできる事はその点において大きいと思います。
但し、薬には様々なリスクがあります。
副作用、禁忌などもあります。
あるいは研究開発側の経済的な投資のリスクもあります。
治験の段階で高いリスクを負わないといけない方もいます。
このような事を考慮すると
「医療」という大きな括りで考えたときには
薬に必ずしも頼らない医療というのも存在する余地があります。
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薬を処方しない治療の方法の一つとして
社会的処方(Social prescribing)というのがあります。
この社会的処方というのは
患者さんの健康や持続的幸福(well-being)の向上の為の
地域社会、環境、コミュニティーを整える
サポートをすることを指します(1)。
この社会的処方のコンセプトは
イギリス、アイルランド、オランダで支持されています。
例えば、社会的処方として紹介される活動としては
〇運動(ジム)〇体重管理〇栄養管理
〇芸術活動(音楽♪、絵、工作など)
〇雇用ベースの仕事〇ボランティア活動
〇福祉受給権、経済的運用、家、弁護士サービスの評価サポート
などが挙げられています(2)。
従って、基本的生活、人とのコミュニケーション、趣味
あるいは行政サービスなどが主に含まれます。
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今、コロナ禍の中で高齢の方だけに限らず
「社会的孤立状態」にある人は多くいると思います。
例えば、大学に通っている学生さんの中には
大学で友人関係を構築する事が出来ず、
孤立感を得ている人もいるかもしれません。
それが健康状態に影響を与えるほどになれば、
家族など身近な人が通院するように促す場合もあるかもしれません。
しかし、病院で薬を処方されたとしても、
おそらく多くの場合は解消しないと考えられます。
大きな原因が取り除かれていないからです。
このような場合は「社会的処方」がより重要になります。
社会的処方の難しさは
医療スタッフ、保健士などがどこまで
個人の生活に入り込めるかというところがあると思います。
しかし、例えば、趣味が野球だとします。
野球は一人でできるスポーツではありませんから、
チームに所属する必要があります。
そういった場合、その地域の野球チームを紹介してくれたり
あるいはもっと違う方法で野球と関わる方法を
強制ではなく選択肢として示してくれると
本人としては孤立を解消するための一つの大切な情報となります。
その時に紹介側がうまく仲介してくれれば、
コミュニティーに加わる時の壁も低くなります。
仮に野球の例を挙げましたが、
コロナ禍においても影響を受けにくい趣味もあります。
そういった場合に「情報と仲介だけでも」
本人にとって役に立つ場合が考えられます。
あるいは、週に1回だけでも定期的に
医療スタッフや保健師の方と会うというだけでも
一定の効果がある可能性があります。
本人の体調の変化も見る事ができます。
高齢の方の場合はこういったことはより顕著に当てはまると思います。
なぜなら高齢の方は組織が老化してくるので
薬のリスクがより高くなるからです。
特に他の薬を併用している場合にはそうです。
従って、薬を処方するよりも
社会的活動の環境を整えて促したり、
栄養、運動、睡眠、入浴、水分管理などの
生活の基本となるところをしっかり管理、アドバイスする
社会的処方をしたほうが適しているケースもあると思います。
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日本においては、高齢の方の割合が高い上に
新型コロナウィルスで医療費の負担、負債も多く抱えていますから
今後、高齢の方に対する医療をどうしていくのか?
というのはより効果的な対策が必要になります。
社会的処方というのはイングランドの130の活動の調査では
経済的(コスト効率が高い)とされています(2)。
今回、コロナ禍で病院、保健所、行政の関係性が
各地域で築かれてきている部分があると思います。
そういった苦労の元で築いた経験は
今後、より連携が必要な社会的処方において
役に立つ可能性があると考えられます。

(Reference)
(1)
Bickerdike L, Booth A, Wilson PM, Farley K, Wright K (13 December 2016). 
"Social prescribing: less rhetoric and more reality. A systematic review of the evidence". 
BMJ Open. 2017 (7): e013384. 
(2)
Josephine M. Wildman, Research Associate, Suzanne Moffatt, Reader in Social 35 Gerontology
Social Prescribing
BMJ-UK; Article ID: dric047427;


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