2021年9月20日月曜日

新型コロナウィルス後遺症の観点を踏まえた肥満細胞関連疾患について

新型コロナウィルス感染と合わせて社会的脅威である
後遺症についてはまだ理解が進んでおらず、
治療方法のガイドラインもなく、確立していません。
しかしながら、
新型コロナウィルスの後遺症は
筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群
肥満細胞活性化症候群
全身性肥満細胞症
と類似性を見出せると指摘されています(2)。
特に肥満細胞との関わりが強いのではないか?
と推測されています。
従って、後遺症の生理、治療を考える上で
過去から調べられてきた肥満細胞症とそれに関する疾患について
調べる事は価値のある事です。
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Theoharis C. Theoharides, Peter Valent, and Cem Akin,
(敬称略)からなる医療研究グループは
基礎医学から臨床までトランスレーショナルに
肥満細胞症とその関連の疾患について総括しています(1)。
本日はその内容の一部を
新型コロナウィルスの観点を加えながら読者の方と
情報共有したいと思います。

//概要//---
肥満細胞はヒスタミンの主な供給源であるため
アレルギーやアナフィラキシーにおいて重要な役割を果たします。
肥満細胞がアレルゲン、細菌、サイトカイン、薬剤、
菌類、ペプチド、毒、ウィルスなどによって活性化されることで
ヒスタミンやサイトカインなどを放出することで
以下、全身に影響を与えます。
例えば、新型コロナウィルスなど有害なウィルスが侵入した時には
自然免疫系と同じようにToll様受容体によって認識して
活性化されるとされています(4)。
新型コロナウィルスの初期症状に倦怠感や
味覚、嗅覚障害などがありますが、
少なくともそのうちの一部は肥満細胞の活性化が関係している
かもしれません。
なぜなら、toll様受容体による直接的なウィルス認識は
生体内の反応として早いと考えるからです。
従って、新型コロナウィルスの初期症状と関連している
可能性を想定しました。
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(心臓血管)
高血圧、失神、頭のふらつき、頻脈
(皮膚)
顔面紅潮、掻痒、じんましん、血管性浮腫
(消化器)
腹部の痙攣、下痢、食道逆流、嘔吐
(筋骨格)
痛み、骨の痛み、骨減少、骨そしょう症
(脳神経)
不安、抑うつ、集中力低下、記憶力低下、不眠症、片頭痛
(呼吸器)
鼻づまり、鼻掻痒、呼吸が浅い、咽喉腫脹、喘鳴
(全身性)
倦怠感、不快感、体重低下
---
これらに共通して関連性が深い物質は
ヒスタミン、IL-6、TNFです
従って、これらを抑える薬が効果を発揮するかもしれません。
また新型コロナウィルスの後遺症において
例えば、神経系の症状との関連が深いのであれば
作用している肥満細胞の位置が脳内にある可能性があります。
実際に視床下部や脳幹の中で
肥満細胞が活性化されるモデルが提唱されています(2)。
このようなモデルが後遺症において正しいかどうかを
確認するためには肥満細胞、それに追随したヒスタミンが
活性化されているかどうかを確かめる必要性があります。
---
特に全身性の肥満細胞症で現れる最も共通の症状は
感情的なストレスです(5)。
新型コロナウィルスの後遺症を調べていった時に
統計的に心の状態に影響が出ている人が多い場合には
肥満細胞症との関連を疑う必要があります。

//診断//---
肥満細胞疾患の診断と治療は症状の特徴の複雑性と
類似する疾患が非常に多いこと、変化し続ける事から
区別して診断する事が難しいとされています(1)。
---
KIT変異と肥満細胞の表現型を
フローサイトメトリー、免疫組織化学分析により
評価する事によって、過去に突発性アナフィラキシー
の診断を受けた人の亜群を類別することができた
とされています(6)。
アナフィラキシーは肥満細胞症の一つですが、
元々、肥満細胞に欠陥があるかもしれない事を示すものです。
またIgE抗体の依存の反応が
肥満細胞の相対量が高まっている時に
高まる可能性があります。
しかしながら、肥満細胞の相対量(mast-cell burden)と
アナフィラキシーのリスクの間には
直接的な相関はないことが指摘されているため(7,8)
付加的な説明が必要であるとされています。
---
肥満細胞が活性化された時のバイオマーカーとして
以下の候補が挙げられます(9)。
〇血清中のトリプターゼレベル
〇尿のヒスタミン代謝生成物
〇11-β-prostaglandin F2α
また肥満細胞症(Mastocytosis)においては
〇KIT変異
〇CD25+陽性
が確認されています(10-12)。
従って、診断するときの手順としては
アレルギー既往歴を問診した後
トリプターゼレベルを評価します。
それが20ng/ml以上であれば
骨髄生検によってD816V KIT変異の有無を調べます。
そうして肥満細胞症であるかどうかを診断します。
11.5-20ng/mlであれば、
その変異を調べる前にIgE抗体量を調べます。

//治療//---
アナフィラキシーが生じている場合には
エピネフリンを筋肉注射します。
免疫調整薬のグルココルチコイドが使われる事がありますが、
副作用と照らし合わせながら可否が判断されます。
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今のところ全身性肥満細胞症に対して完治する
治療法は存在しません。
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肥満細胞のヒスタミンが原因であると考えられるので
ヒスタミン受容体拮抗薬である
ロラタジン、セチリジン、フェキソフェナジン
ヒドロキシジンを選択することができます(1)。
ヒドロキシジンは抗不安薬を兼ねています(1)。
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下痢、顔面紅潮、頭痛などが出ている人は
ヒスタミンとセロトニン受容体の拮抗薬である
シプロペプタジンが候補として検討されます(1)。
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システイン-ロイコトリエン受容体は
肥満細胞からアレルギーを引き起こすホルモン放出
に関わる受容体です。
その働きを拮抗させるモンテルカストを選択できます。
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ヒスタミン受容体1と2両方の拮抗薬であるジレウトン
を選択する事もできます(13)。
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上述した尿の中の11β-PGF2αレベルが高まっていて
非ステロイド系抗炎症剤に副作用が出ない人には
アセチルサリチル酸が有効かもしれません。
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三環系抗うつ薬
アミトリプチリン、ドキセピン、プロクロルペラジン
これらはヒスタミン拮抗性を持つだけではなく
肥満細胞の抑制する働きもあります(14)。
但し、鎮静作用と体重増加の副作用があります。

//食品による緩和の可能性//---
オリーブオイルに含まれる
ヒドロキシチロソールとオレウロペインは
肥満細胞の脱顆粒、つまりヒスタミンやTNFなど
アレルギーの原因となる物質の放出を防ぐ働きがあります(3)。

//新型コロナウィルス後遺症について//---
新型コロナウィルス後遺症の症状は多岐にわたるため
上述した肥満細胞依存的に生じているかどうかは不明です。
しかし、尿のトリプターゼレベルを計測する事はできます。
上述したようにこのレベルとIgE抗体量
あるいは骨髄生検でD816V KIT変異を調べることで
後遺症が肥満細胞依存的に生じているかどうかを
調べる事ができる可能性があります。
またより脳に対して向性が高いという事であれば、
脳脊髄液でこれらのレベルを測ることも考えられます。
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現時点では、
患者さんが示している症状に合わせて薬が処方されている
と推測しますが、
今後の視点として、肥満細胞依存である
ヒスタミンに拮抗作用を持つ薬の中で
患者さんのより症状に合う薬を選択するという事も考えられます。
しかし、ヒスタミン拮抗薬は副作用に
後遺症の中で多い倦怠感を引き起こすものが多く
それを処方する事によって逆効果になる可能性もあります。
従って、前提である肥満細胞が後遺症に関与しているかどうか?
ということを慎重に、丁寧に調べる必要があります。

(Reference)
(1)
Theoharis C. Theoharides, Ph.D., M.D., Peter Valent, M.D., and Cem Akin, M.D., Ph.D.
Mast Cells, Mastocytosis, and Related Disorders
The New England Journal of Medicine 2015; 373:163-172
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Author Affiliations
From the Molecular Immunopharmacology and Drug Discovery Laboratory, Department of Integrative Physiology and Pathobiology, and Department of Internal Medicine, Tufts University School of Medicine, Tufts Medical Center (T.C.T.), and Mastocytosis Center, Brigham and Women’s Hospital, Department of Medicine, Harvard Medical School (C.A.) — both in Boston; and the Department of Internal Medicine I, Division of Hematology and Hemostaseology and Ludwig Boltzmann Cluster Oncology, Medical University of Vienna, Vienna (P.V.).
(2)
Theoharis C. Theoharides, Christos Cholevas, Konstantinos Polyzoidis, Antonios Politis 
Long-COVID syndrome-associated brain fog and chemofog: Luteolin to the rescue
BioFactors. 2021;47:232 – 241
(3)
Fabio Andrés Persia, María Laura Mariani, Teresa Hilda Fogal, Alicia Beatriz Penissi
Hydroxytyrosol and oleuropein of olive oil inhibit mast cell degranulation induced by immune and non-immune pathways
Phytomedicine. 2014 Sep 25;21(11):1400-5
(4)
Abraham  SN,  St  John  AL.  
Mast  cell-orchestrated immunity to pathogens. 
Nat Rev Immunol 2010; 10: 440-52.
(5)
Jennings S, Russell N, Jennings B, et al.  
The  Mastocytosis  Society  survey  on mast  cell  disorders:  patient  experiences and perceptions. 
J Allergy Clin Immunol Pract 2014; 2: 70-6.
(6)
Teodosio  C,  Mayado  A,  Sánchez-Mu-ñoz  L,  et  al.  
The  immunophenotype  of mast cells and its utility in the diagnostic work-up of systemic mastocytosis. 
J Leukoc Biol 2015; 97: 49-59.
(7)
van Anrooij B, van der Veer E, de Monchy JG, et al. 
Higher mast cell load decreases the risk of Hymenoptera venom-induced anaphylaxis in patients with mastocytosis. 
J Allergy Clin Immunol 2013; 132: 125-30.
(8)
Zanotti  R,  Lombardo  C,  Passalacqua G, et al. 
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(9)
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Mast cell activation syndrome: improved identification  by  combined  determinations  of serum  tryptase  and  24-hour  urine 11β-prostaglandin2α.  
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Demonstration  of  an  aberrant  mast-cell population with clonal markers in a subset of patients with “idiopathic” anaphylaxis. 
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(11)
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J  Allergy  Clin  Immunol 2010; 126(6): 1099.e4-1104.e4.
(12)
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Definitions, criteria and global classification of mast cell disorders with special reference to mast cell activation syndromes: a consensus proposal. 
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Increased  leukotriene E4  excretion  in  systemic  mastocytosis. Prostaglandins  
Other  Lipid  Mediat  2010; 92: 73-6.
(14)
Clemons  A,  Vasiadi  M,  Kempuraj  D, Kourelis T, Vandoros G, Theoharides TC. 
Amitriptyline and prochlorperazine inhibit proinflammatory mediator release from human  mast  cells:  possible  relevance  to chronic fatigue syndrome.
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