2021年9月15日水曜日

免疫老化と高齢の方への新型コロナウィルス治療改善

日本では新型コロナウィルスの第五波が少し落ち着いてきました。
気を緩めずに対策をしながら、ワクチン接種を進めて
徐々に経済活動を再開していくという流れが示されています。
この第五波では感染力の強いデルタ株が主流になっている事から
今まで重症化のリスクが比較的小さかった40代、50代の人でも
多く重症化しました。それ以下の若年層でも見られています。
このような負の側面が社会で注目されていますが、
隠れた功績としてワクチンがあります。
ワクチンは極低頻度で生じる重篤なものも含めて副反応があり、
そうした報道ももちろん重要ですが、
一方で、第五波の中で多くの命を陰で救っている事は間違いありません。
もし仮にmRNAワクチンに代表されるワクチンの承認が
世界的に遅れて、日本への供給が半年程度遅れいていたとすると
この第五波に対してワクチンなしで
社会、医療は立ち向かう必要がありました。
そうすると状況はもっと深刻であり、
災害のレベルは段違いになったと考えられます。
従って、ワクチンの正の側面に対して、
隠れてはいますが、しっかりと認識する必要があります。
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今、暗示したように高齢の方の新型コロナウィルスのリスクは
顕著に高いことが疫学的にも示されています。
例えば、アメリカでは2021年5月24日時点で
約59万人の方が命を落としていますが、
そのうち日本で優先接種を進められた基準である
65歳以上の方の割合が80%を占めると言われています(4,5)。
入院以上のリスクは
重症化のリスクが低い5-17歳の人に比べて
65-74歳の人は1300倍、85歳以上の人は8700倍と言われています(4)。
高齢であるという事は日本でもリスク因子となっています。
加齢がリスク因子となる原因の一つは
免疫機能の低下にあると考えられています(1)。
---
Juliet M. Bartleson, Dina Radenkovic, Anthony J. Covarrubias, David Furman, Daniel A. Winer & Eric Verdin 
(敬称略)からなる医療研究グループは
新型コロナウィルスと加齢に伴う免疫機能の低下、
それを視野に入れた治療戦略について総括されています(1)。
本日はその内容の一部を独自の視点、調査、考察を加えながら
読者の方と情報共有したいと思います。

//免疫老化//---
人は数兆個の細胞が常に入れ替わっていますが、
テロメアの長さから換算すると
人の寿命の限界はおおよそ120歳と言われています。
9月20日には敬老の日がありますが、
118歳の田中力子さんは世界最高齢です。
この寿命の限界を超える事ができるという事は示されるかもしれませんし、
今後、科学、医療の発展に伴って
さらに延命される事も可能かもしれません。
しかし、身体全体を構成する細胞すべてが老化する事、
身体は様々なバランスによって正常に保たれている事を考慮すると
仮に細胞を再生する事が出来たとしても
全身に施すことが難しい以上
顕著な寿命限界の向上の実現は非常に困難であると考えられます。
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今述べたようにあらゆる細胞は老化する事が考えられます。
従って感染症の病理に関わる免疫細胞も老化します。
加齢に伴い、様々な組織が老化する事と、
免疫細胞自身も老化する事から
慢性的な炎症が生じる事が多くなると考えられます。
組織の老化や免疫細胞の老化は
(おそらく)負のスパイラルとなり、
老化を相乗的に推し進めるものであると理解しています。
このような免疫系の老化は
新型コロナウィルスのような感染症に対する
抗ウィルス性などの身体の反応に影響を及ぼすと考えらえます(6)。
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免疫機能の老化に伴って以下の免疫経路が低下する事が知られています。
〇JAK-STAT信号
〇MyD88
〇NF-κB 
〇pattern-recognition受容体刺激
これらです(7,8)。
また、Juliet M. Bartleson氏らがFig.2で示しているように
重症化する患者さんの特徴は病状が進行する段階で
あるいは全体的に獲得免疫系の作用が弱いことが指摘されています(1)。
例えば、加齢によって
〇抗原提示機能
〇ナイーブT細胞の出現
〇Ⅰ型インタフェロン反応
〇CD8+T細胞の細胞傷害性
〇T細胞、B細胞のレパートリ
〇抗体の親和性
これらの低下が挙げられています(9,10)。
重症化の関連要因としてⅠ型インターフェロンの遅延が挙げられる
ことがありますが(11)、高齢の方が重症化しやすい事は
抗体、免疫連携、免疫細胞など様々な要因が複雑に絡み合って
生じていると考える事ができます。

//治療の戦略//---
新型コロナウィルスを始め、インフルエンザにおいても
感染して、免疫機能が高まっている時には
免疫機能を抑える必要があります。
ラパマイシンは免疫抑制剤として使われますが、
高用量では免疫抑制的に働き、
低用量では免疫刺激的に働くといわれています(12)。
このラパマイシンはmTOR活性を下げる機能があり、
カロリー制限やメチオニン制限などでmTORレベル低下依存的に
「動物の例で」延命が確認されたように(2,3)、
加齢に伴う免疫機能への介入として注目されています。
しかしながら、
ラパマイシンはIL-6の発現を促すことから
新型コロナウィルスの治療においては適していないかもしれない
と指摘されています(13)。
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抗老化物質(Senolytic)としてフィセチン、ケルセチン、
ダサチニブが抗炎症性、血栓予防に効果があるとされています。
例えば、フィセチンはいちごやりんごに含まれていることが
知られています。
しかしながら、これらの物質が
老化した免疫系を若返らせるか、進行を抑えるか
ということについてはさらなる研究、議論が必要であるとされています。
新型コロナウィルスなどの感染症に対する
高齢者特異的な治療においても同様です。
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その他にはNAD+レベルの向上や
食事の改善、プロバイオティクスなども挙げられています(1)。
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これらを総合すると高齢者に焦点を絞った免疫系の治療では
低下している免疫系の種類が一つではない事から
老化そのものにアドレスするアンチエイジングのアプローチが
挙げられています。
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その他の視点としては、
mRNAワクチンやアデノウィルスワクチンで
新型コロナウィルス特異的な抗体を産生する事に成功し
疫学的にも高い発病予防、重症化予防を実現しています。
上述したように加齢に伴って
獲得免疫系の反応が低下する事が挙げられることから
ワクチンによってT細胞、B細胞など獲得免疫系を
定期的に刺激する事が免疫老化に対してどのような影響があるか?
そういった観点も今後の研究において必要だと考えられます。

//考察//---
現在、ワクチン接種が進んでいる事
一方で感染性の強いデルタ株が主流になっている事から
新型コロナウィルス蔓延に対する世界、日本、社会の状況は
変化してきています。
若い人に対してもワクチン接種が進んでいった時には
相対的には再び高齢の方のリスクが顕著に高くなることが考えられます。
ワクチンの効力において重要な要素である
抗体価も時間経過とともに減少していくからです。
また、経済活動を再開させるにあたって
社会の中で感染のリスクが高まる中で
高齢の方のリスクが顕在化する事も考えられます。
感染した時に早期に抗ウィルス治療ができるように
医療制度、体制を整える事が重要です。
一方で、上述したようにアンチエイジング、日常生活、
ワクチンによる老化遅延に関する研究は
高齢の方の治療を改善していく上で土台となるものです。

(参考文献)
(1)
Juliet M. Bartleson, Dina Radenkovic, Anthony J. Covarrubias, David Furman, Daniel A. Winer & Eric Verdin 
SARS-CoV-2, COVID-19 and the aging immune system
Nature Aging volume 1, pages769–782 (2021)
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Author information
Author notes
These authors jointly supervised this work: David Furman, Daniel A. Winer, Eric Verdin.
Affiliations
Buck Institute for Research on Aging, Novato, CA, USA
Juliet M. Bartleson, David Furman, Daniel A. Winer & Eric Verdin
Faculty of Life Sciences and Medicine, King’s College London, London, UK
Dina Radenkovic
Hooke, Health, Longevity Optimisation, London, UK
Dina Radenkovic
Department of Microbiology, Immunology and Molecular Genetics, David Geffen School of Medicine at UCLA, Los Angeles, CA, USA
Anthony J. Covarrubias
Molecular Biology Institute, University of California, Los Angeles, Los Angeles, CA, USA
Anthony J. Covarrubias
(2)
Powers RW, Kaeberlein M, Caldwell SD, Kennedy BK, Fields S (January 2006). 
"Extension of chronological life span in yeast by decreased TOR pathway signaling". 
Genes & Development. 20 (2): 174–84. 
(3)
Kaeberlein M, Powers RW, Steffen KK, Westman EA, Hu D, Dang N, Kerr EO, Kirkland KT, Fields S, Kennedy BK (November 2005). 
"Regulation of yeast replicative life span by TOR and Sch9 in response to nutrients". 
Science. 310 (5751): 1193–6
(4)
Centers for Disease Control and Prevention. 
COVID Data Tracker. Vol. 2021 (accessed 24 May 2021): 
https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker
(5)
Gold, J. A. W. et al. 
Race, ethnicity, and age trends in persons who died from COVID-19—United States,
May–August 2020. MMWR Morb. Mortal. Wkly Rep. 69, 1517–1521 (2020).
(6)
Ferrucci, L. & Fabbri, E. 
Inflammageing: chronic inflammation in ageing, cardiovascular disease, and frailty. 
Nat. Rev. Cardiol. 15, 505–522 (2018).
(7)
Shen-Orr, S. S. et al. 
Defective signaling in the JAK–STAT pathway tracks with chronic inflammation and cardiovascular risk in aging humans. 
Cell Syst. 3, 374–384 (2016).
(8)
Rea, I. M. et al. 
Age and age-related diseases: role of inflammation triggers and cytokines. 
Front. Immunol. 9, 586 (2018).
(9)
Derhovanessian, E., Solana, R., Larbi, A. & Pawelec, G. 
Immunity, ageing and cancer. 
Immun. Ageing 5, 11 (2008).
(10)
Weiskopf, D., Weinberger, B. & Grubeck-Loebenstein, B. 
The aging of the immune system. 
Transpl. Int. 22, 1041–1050 (2009).
(11)
Hadjadj, J. et al. 
Impaired type I interferon activity and inflammatory responses in severe COVID-19 patients. 
Science 369, 718–724 (2020).
(12)
Ferrer, I. R., Araki, K. & Ford, M. L. 
Paradoxical aspects of rapamycin immunobiology in transplantation. 
Am. J. Transplant. 11, 654–659 (2011).
(13)
Yu, B., Li, C., Sun, Y. & Wang, D. W. 
Insulin treatment is associated with increased mortality in patients with COVID-19 and type 2 diabetes. 
Cell Metab. 33, 65–77 (2021).

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