//背景//---
肝臓はよく沈黙の臓器と呼ばれます。
自覚症状がないまま症状が進行し、
肝臓の機能が著しく低下した後、発見されることがあります。
その肝臓は人の癌のうち
6つの主要な部位の一つとされています。
原発腫瘍の場合は肝硬変などから発展して生じるとされています。
肝硬変の前段階には脂肪肝が挙げられます。
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一方で、肝臓は解剖学的な位置、組織により
他の臓器の癌から転移が生じやすいとされています。
従って、肝臓癌を医学生理学的に考える場合には
原発腫瘍と転移の両方を視野に入れる必要があります。
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原発腫瘍の場合は組織の段階的な劣化によって
癌化することが考えられます。
組織を劣化させる原因となる慢性的な炎症反応は
B型、C型肝炎ウィルスのようにウィルス依存的に生じる場合と
アルコールや食生活など生活習慣によって生じる場合があります。
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ウィルス依存の場合には
予防的にはワクチンの接種や
抗ウィルス治療などによって癌化を弱めることができます(5,6)。
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生活習慣に関わる脂肪肝から始まる肝臓の異常においては
アルコールの過剰摂取や西洋式の高脂肪食などによって
血液の糖や脂質(コレステロール)などが高まる事によって
肝小葉の肝細胞組織の脂肪滴の分泌を誘発し
そこから雪崩的に組織の劣化が生じる事が考えられます。
このような生活習慣に関わる脂肪肝は
現在においては発展途上国でも増えているとされています(7)。
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一方、肝臓に癌細胞が転移する頻度は
原発腫瘍の18倍から40倍とされています(8)。
主に胃腸、食道、膵臓、乳房、肺、皮膚などの癌からの
転移がみられるケースが多いとされています(9)。
肝臓に転移した場合には治療が難しく
5年生存率が下がるとともに、生活の質が下がることが
指摘されています(10)。
このように転移が肝臓に生じやすいことは
循環器系から薬剤が投与されたときに
肝臓に到達し、代謝される事と関係している可能性があります。
転移する際には血液、リンパ系などの循環器系を
通じて原発腫瘍から転移サイトまで輸送される事が考えられるので
循環器において向性を持つかもしれない肝臓に
転移が生じやすい事と関係しているかもしれません。
もしそうであれば逆に、
薬剤の標的性を肝臓に対して高めることができれば
肝臓に特異的に働くような治療が実現できるとも考える事ができます。
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しかしながら、肝臓の薬剤による治療は
遺伝子的、代謝的、炎症的に異種性が高いため、
共通化されたガイドラインを定めることが難しく、
治療効果に偏差が生じる事が考えられます。
そういった中で抗がん剤やマルチキナーゼ抑制剤が
候補として挙げられています(11-16)。
一方、最近では第4の癌治療として考えられている免疫療法(17)や
免疫療法(免疫チェックポイント阻害薬)と
他の両方の併用が原発腫瘍、転移肝臓癌に対して
検討されています(18)。
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Xin Li, Pierluigi Ramadori, Dominik Pfister, Marco Seehawer, Lars Zender & Mathias Heikenwalder
(敬称略)からなる医療研究グループは
肝臓の原発腫瘍、肝臓への転移癌における
免疫機能、代謝機能の役割について詳しく包括されています(1)。
本記事ではXin Li氏らが示した図をベースにして
そこから内容の一部を抜粋し、独自の調査、視点を加えています。
原発腫瘍で生じる組織の劣化から癌化に至るまでの生理、
癌が生じた後の成長、退行の生理、
転移について代謝、免疫機能を中心に
組織学の観点を多く取り込んで論じていきます。
また、新たな治療、細胞特異的輸送系統の可能性についても示します。
//肝臓組織の劣化//---
肝小葉と呼ばれる6角形のドメイン、区画があって
主に6角形の角から動脈、静脈が流れていて
肝小葉の中央には静脈があります。
従って、外側から中心に向かって
酸素濃度の勾配があり中央で少なくなっています。
脂肪肝になると肝小葉の外側、中央にある肝細胞から
脂肪滴が放出され、それが内側の肝細胞に運ばれます。
そうすると内側の肝細胞組織が徐々に破壊され始めます。
その他、糖の代謝機能、酸素不足になることによって
静脈と相互作用して、静脈の周りの組織において
免疫細胞や星細胞依存的に線維化が生じると考えられます。
従って、肝臓組織が脂肪肝、肝硬変、肝臓がんに発展していく経路において
代謝機能や免疫機能の改変が肝臓の組織の単位である
肝小葉の中で血液を通じて生じていると考える事ができます。
---
一方、脂肪肝は肝細胞や類洞内皮細胞を不安定化させる可能性があります。
類洞内皮細胞は微小血管の内皮に膜状、層状に形成される
内皮細胞で細網内皮系において重要な役割を果たします。
この内皮細胞は肝臓の線維化において大きな役割を果たすため
脂肪肝、肝硬変、肝臓癌に発展する機序に関わっている可能性があります。
従って、類洞内皮細胞が不安定になる事は
肝臓の組織の状態を悪化させる原因となり得ると考えられます。
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従って、肝臓癌を治療にするにあたって
転移性ではなく原発性の肝臓組織を起因とした癌の場合は
癌以外の通常の細胞、組織においても
代謝機能、免疫機能、肝細胞依存的な劣化がみられることから
癌細胞を単に取り除くだけでは治療効果は見込めない可能性があります。
---
このような脂質などの代謝機能の改変は
HCVなどのウィルスによって誘発される事が示されています(19)。
コレステロール、糖などの血液の状態が
根本では関係している可能性があるため、
まずは血液の状態を健全に戻す事が重要であると考えられます。
その様な中で肝細胞の代謝機能に働きかけたり、
あるいは免疫機能の調整を行ったりすることが重要です。
さらに肝臓組織を修復する事ができるか?ということです。
しかし、これらの事は非常に骨が折れる治療であると推測できます。
//肝臓の免疫特性//---
肝臓は代謝生成物の門番役となっており、
腸に由来する病原体に起因した分子、病原体、
Toll様受容体アゴニストに連続的に標的化されます。
従って、組織としての恒常性を保つため、
免疫抑制性を持つ極性に傾いていると考えられています(1)。
例えば、樹状細胞はT細胞を活性化させる働きがありますが、
肝臓内の樹状細胞は未成熟の為、
T細胞を活性化する能力が低いとされています(20)。
//肝細胞の癌化//---
肝臓またはその周辺の細胞は
肝細胞と胆管細胞があります。
これらは肝臓前駆細胞から分化して形成されます。
前駆細胞も含めて癌化するときには
免疫細胞依存的、細胞死依存的、細胞の疲弊依存的に
生じることが示されています(1)(Fig.3)。
また胆管の周りに癌細胞が生じる場合には
線維化が生じるケースが多いとされており、
前段階で線維化が生じていることがあります。
//癌の成長、退行に関わる代謝機能//---
(免疫細胞の代謝)
免疫細胞の脂肪酸合成と解糖の代謝機能が向上すると
癌細胞を攻撃する機能が高まるとされています。
脂肪酸合成は免疫細胞の攻撃性に関わるとされています(3)。
解糖は細胞の成長と分化に関わっているため
免疫細胞の勢力の維持と成熟に関係していると考えられます(4)。
しかしながら、
免疫細胞のバランスがあり、
免疫機能を弱める制御型T細胞や好中球などにおいて
解糖の代謝機能が促進されると
それによって癌細胞に対して攻撃性を示す
NK細胞やCD8+細胞の細胞傷害性を低下させてしまいます。
---
(癌細胞の代謝)
一般的にいわれるように
癌細胞では糖の代謝異常が起こり、それが高まると
癌細胞の成長を促してしまいます。
また肝臓においては胆汁酸に関わる炎症性物質も
癌細胞の成長を促してしまいます。
またOXPHOSやTCAサイクルは癌の成長が盛んな時には
抑えられていると考えられています。
//肝臓への転移//---
肝臓への転移は原発腫瘍組織から
癌細胞(あるいは血中循環腫瘍DNA:ctDNA)血管へ流れ出て
肝臓へ向性を示し、血管から肝臓組織内に侵入し、
癌微小環境を形成して腫瘍組織が成長します。
その中で関連があるのが
〇癌細胞を結合する受容体
〇輸送媒体(エクソソームなど)
〇免疫細胞
〇血管組織の完全性(隙間など)
これらが関係すると考えています(1)(Fig.5)。
肝臓付近の血管に多く発現される受容体が
癌細胞と親和性を持てばそこで血中の癌細胞は固定され、
血管外に滲出する確率が上がります。
さらには肝臓組織の受容体と親和性を持てば
そこに微小環境を作り、核形成して腫瘍組織を形成します。
エクソソームのような小胞、あるいは免疫細胞が
輸送媒体となって肝臓付近まで輸送することもあります。
免疫細胞は癌組織の成長にも関わります。
---
逆に転移を防ぐためには
上述した4つの要素が働きにくくすることが挙げられます。
受容体、エクソソームへの親和性を下げる(物質で蓋をする)。
癌細胞傷害性免疫細胞の機能を高める。
血管組織の完全性を上げる。
このような事が考えられます。
また詳しくは後述しますが、
このような受容体を目印として
それに親和性を持つような薬剤輸送媒体を投与して
肝臓局所的に薬剤が働くようにすることもできます。
//治療//---
とりわけ転移によって生じた2次肝臓癌においては
CAR免疫細胞注入、生着による標的化療法が有効である可能性があります。
その理由は転移性の場合は循環器を通じて癌細胞が拡散するため
循環器にある転移性癌細胞も標的となるからです。
CAR-TあるいはCAR-NK細胞で効果を発揮しているのは
血液性の免疫細胞癌です。
従って、この実績がある程度反映される可能性があります。
また参考文献(1)Fig.5bで示されたように
perforinを標的としたCAR-NK, CAR-T細胞治療などが
考えられます。あるいは転移性癌に共通してみられる
受容体を標的にすることができます。
新たな提案として
もし仮に転移性癌特異的輸送が実現した時には
その病変部位への近接機会を利用して、
同時に抗がん剤などを輸送出来ないか考えます。
免疫細胞の周りに抗がん剤を複合させることができないか?
ということです。
抗体薬物複合体(Antibody-drug-conjugate)の抗体を
免疫細胞にできないかどうか?ということです。
(Immune cell-drug-conjugate)
すでに肝臓癌に特化したCAR-T治療は
研究段階で報告されています(2)。
//細胞特異的輸送系統//---
細胞特異的輸送系統では癌細胞に直接的に結合する事が
もちろん理想ですが、
その近隣まで薬剤を輸送する事も副次的な目的として含まれます。
その際
〇循環している転移性癌細胞に直接、働きかける治療
〇肝臓の転移サイトを標的とした治療
これらの両輪を回すことも考えられます。
それぞれに関与するキーとなる受容体
例えば、
Neuregulin 1, SAA1, SAA2, C51, CD44v6
これらのタンパク質のエピトープに高い親和性を持って
結合する表面タンパク質をナノ輸送媒体表面に発現させ
肝臓組織に効率よく輸送させるナノ粒子を設計します。
//むすび//---
肝臓の組織の健全性は代謝機能、免疫機能に強く依存しています。
従って、血液の状態との関連性が高いと考えられます。
組織の顕著な再生、改善は現状では難しいことから
予防的な処置が必要であると考えられます。
一方、転移に関しては
治療機会に循環器系への働きかけが加わる事から
CAR治療や細胞特異的輸送系統など
新しい治療の可能性を見出すことができます。
(参考文献)
(1)
Xin Li, Pierluigi Ramadori, Dominik Pfister, Marco Seehawer, Lars Zender & Mathias Heikenwalder
The immunological and metabolic landscape in primary and metastatic liver cancer
Nature Reviews Cancer volume 21, pages541–557 (2021)
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Author information
Author notes
These authors contributed equally: Xin Li, Pierluigi Ramadori.
Affiliations
Division of Chronic Inflammation and Cancer, German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germany
Xin Li, Pierluigi Ramadori, Dominik Pfister & Mathias Heikenwalder
Department of Medical Oncology and Pneumology (Internal Medicine VIII), University Hospital Tuebingen, Tuebingen, Germany
Marco Seehawer & Lars Zender
Department of Medical Oncology, Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical School, Boston, MA, USA
Marco Seehawer
Cluster of Excellence iFIT (EXC 2180) “Image-Guided and Functionally Instructed Tumor Therapies”, University of Tuebingen, Tuebingen, Germany
Lars Zender
German Cancer Research Consortium (DKTK), Partner Site Tübingen, German Cancer Research Center (DKFZ), Heidelberg, Germany
Lars Zender
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