カーボンがボール状になったのがフラーレン、
筒状になったのがカーボンナノチューブと呼ばれます。
カーボンナノチューブは軽くて、堅牢な材料として知られています。
それが原子オーダーの薄いシート状になったのがグラフェンです。
グラフェンの研究は電子、磁気デバイスを中心に
盛んに研究されていますが、
グラフェンの導入が早いとされているのが
グラフェンを材料として使うというものです。
その機械的特性を生かして材料の質を上げようというものです。
一方で、本日紹介するように
薬剤などの医療応用も検討されています。
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Giada Cellot, Audrey Franceschi Biagioni & Laura Ballerini
(敬称略)ら医療研究グループは
グラフェン系材料が持つ特異な物理化学的性質を利用して
脳にどのように作用して、脳神経神経疾患に対しての
治療に応用できるか?
臨床前段階の結果を中心に総括しています(1)。
本日は、独自の調査、視点、考察を加えながら
内容の一部を参照し、読者の方と情報共有したいと思います。
//直接的脳への作用//---
グラフェンは酸素が結合、脱離する酸化還元反応を
有する事ができます。
このような酸化グラフェンにおいては
脳神経系に材料そのものが作用する事が知られています。
作用する対象は、
神経細胞の中の移動媒体である
グルタミン酸やカルシウムなどが挙げられます(5,6)。
しかし、酸化グラフェンの大きさが1μm以上に大きくなると
神経毒性があり、神経伝達物質への効果が
下がることが示されています(1)。
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グルタミン酸作動性に影響を与えるため
脳腫瘍、自閉症、脅迫神経症、発作、てんかんなど
子供も同様に罹患する脳神経系の疾患に対して
応用できる可能性があります(7-10)。
//グラフェン-薬剤複合体//---
参考文献(1) Fig.2で示されるように
グラフェンナノシート状に薬を結合させて、
標的部位で任意に薬剤を放出させるモデルが考えられています。
例えば、pHの変化、特定タンパク質との結合
光(赤外光)、超音波、磁気などの特定の信号に反応して
放出を制御する事が考えられます。
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グラフェンでの薬剤輸送媒体として特徴的なのが
シート上であり、平面を持つという事です。
そのステージに多孔性(Mesoporous)のシリカを結合し
その中に薬剤を詰め込んで、輸送放出させるという例があります。
構造としては複雑になりますが、
ナノ粒子や抗体などと複合させる場合とは異なる方法で
薬剤を輸送させる事ができる可能性を示すものです。
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グラフェンの物理的性質、
あるいは物理化学的性質からの装飾任意性から
薬剤を複合させたときに
薬剤が標的部位に届いているかどうか確認するための
代理マーカーとして機能させる事ができる可能性があります。
例えば、グラフェンは近赤外の波長の吸収係数が高いので
そのような物理的性質をマーカーとして使うことができる
可能性があります。
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グラフェンに対する機能性の付加は
細胞、ナノ粒子、抗体などと比べて
構成材料が炭素(あるいは酸素)一種類と単純な事と
構造の規則性が高いことから
従来にはないアプローチが使える可能性があります。
例えば、グラフェンの上に金属などの触媒材料を
原子オーダーで制御して配置させ(4)
特定の反応性を高める事ができる可能性があります。
それによって生体内の好ましい反応経路を制御できるかもしれません。
あるいは余剰に蓄積したタンパク質などの細胞外材料を
分解する事もできるかもしれません。
//製造に関して//---
脳の治療に限らず、様々な病変部位に対して
輸送向性を持たせるためには
その病変部位が特異的にもつ特徴に親和性、反応性を持つ
機能を輸送媒体に持たせる事が重要です。
細胞特異的輸送系統では
病変部位の細胞の独自の表面タンパク質に高い結合性を持つ
タンパク質を輸送媒体表面に高密度に装飾することで
輸送効率を上げようというコンセプトがあります。
このコンセプトは
細胞、ナノ粒子のような粒上の媒体だけではなく
シート状のグラフェンにも適用可能です。
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実際に製造してみないとわからないことですが、
輸送媒体がシート状である事の製造上のメリットがある
可能性もあります。
細胞一つ一つに薬剤を注入する事は
製造コストの面で不利な可能性があります。
シート状であれば、
初めに大きなシート状のグラフェンを作製し、
そこに一定密度になるように任意の装飾を「一気に」施し、
その後、任意の大きさにカットすることで
粒子上の複合薬剤を製造するよりも低コストでできるかもしれません。
//考察//---
グラフェン系材料が脳神経系の治療に対して有望がどうかは
いくつかの要因があると思いますが、
グラフェンの母体材料に対する機能付加の容易性、任意性に
あると考えています。
脳神経系にアクセスする際
グルタミン酸やカルシウムなど神経伝達に関わる
分子活性を任意に制御できることはもちろんの事、
頭蓋内の脳神経のうち、問題が生じているところにだけ
特異に輸送できるか?
あるいは、この記事でも述べた様に
薬剤などの複合体を形成できるか?
それらを兼ね備える事ができるか?
そういったことが挙げられます。
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安全性の問題もあります。
グラフェンは鋭利に尖った部分が存在すると
それによって神経や細胞を傷つけてしまうことが示唆されています(2)。
従って、グラフェンの形状を製造段階で
しっかり制御して、細胞毒性が生じないようにする必要があります。
また、グラフェン自体が肝臓などを通じて
どのように代謝されるかという研究も必要です。
-
グラフェンはシート状の形をしていますが
この材料が果たして血液脳関門を通過できるか?
という問題もあります。
しかし、還元型酸化グラフェンでは
一時的に血液脳関門を開くことが示唆されています(1.3,11)
-
薬剤の治療を考える場合には
標的とする部位に対する向性、走化性を考える必要があります。
それは注入方法、部位によっても変わりますが、
グラフェン系材料における脳への向性がどのようであるか
それが重要です。
実際に動物に対する口腔からの投与では
脳での還元型酸化グラフェンの濃度は低かったとされています(1)。
//むすび//---
グラフェンは主に物理、化学、工学分野での研究が盛んですが、
その特異な形状、特性から従来にはないアプローチで
医療に貢献できる可能性があります。
分野横断的な研究によって新たな革新が生まれる事も
十分に考えられます。
(参考文献)
(1)
Giada Cellot, Audrey Franceschi Biagioni & Laura Ballerini
Nanomedicine and graphene-based materials: advanced technologies for potential treatments of diseases in the developing nervous system
Pediatric Research (2021)
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Author information
Affiliations
Neuron Physiology and Technology Lab, International School for Advanced Studies (SISSA), Trieste, Italy
Giada Cellot, Audrey Franceschi Biagioni & Laura Ballerini
(2)
Yinfeng Li, Hongyan Yuan, Annette von dem Bussche, Megan Creighton, Robert H. Hurt, Agnes B. Kane, and Huajian Gao
Graphene microsheets enter cells through spontaneous membrane penetration at edge asperities and corner sites
PNAS first published July 9, 2013; doi.org/10.1073/pnas.1222276110
(3)
Monique Culturato Padilha Mendonça, Edilene Siqueira Soares, Marcelo Bispo de Jesus, Helder José Ceragioli, Mônica Siqueira Ferreira, Rodrigo Ramos Catharino & Maria Alice da Cruz-Höfling
Reduced graphene oxide induces transient blood–brain barrier opening: an in vivo study
Journal of Nanobiotechnology volume 13, Article number: 78 (2015)
(4)
Sharon Mitchell & Javier Pérez-Ramírez
Atomically precise control in the design of low-nuclearity supported metal catalysts
Nature Reviews Materials (2021)
(5)
Rauti, R. et al.
Graphene oxide fl akes tune excitatory neurotransmission in vivo bytargeting hippocampal synapses.
Nano Lett. 19, 2858 – 2870 (2019).
(6)
Bramini, M. et al.
An increase in membrane cholesterol by graphene oxide disrupts calcium homeostasis in primary astrocytes.
Small 15, 1 – 14 (2019)
(7)
Brocke, K. S. et al.
Glutamate receptors in pediatric tumors of the central nervous system.
Cancer Biol. Ther. 9, 455 – 468 (2010).
(8)
Naaijen, J. et al.
Fronto-striatal glutamate in children with Tourette ’ s disorder and attention-deficit/hyperactivity disorder.
NeuroImage Clin. 13, 16 – 23 (2017).
(9)
Macmaster, F. P.
Translational neuroimaging research in pediatric obsessive-compulsive disorder.
Dialog. Clin. Neurosci. 12, 165 – 174 (2010).
(10)
Barker-Haliski, M. & White, S. H.
Glutamatergic mechanisms associated with seizures and epilepsy.
Cold Spring Harb. Perspect. Med. 5, 1 – 15 (2015).
(11)
Su, S. et al.
In vitro study of transportation of porphyrin immobilized graphene oxide through blood brain barrier.
Mater. Sci. Eng. C 107, 110313 (2020).
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