//背景//---
新型コロナウィルスで生じた世界的なパンデミックは
SARS, MARSなどの流行の後、
COVID-19の前に繰り返し警鐘が鳴らされてきた
とされています。
しかし、気候変動などの環境問題も同じですが、
世界が一致団結して動くためには
きっかけとなる大きな事象が必要だと考えます。
新型コロナウィルスは2020年の初旬に
世界的に一気に広がる事は見えていましたから、
世界は本気で動きました。
ワクチンの開発は様々なリスクがありますが、
1年程度で実用化、大規模接種を実現することができました。
しかしながら、新型コロナウィルスが生じていないと
このような著しく迅速な動きは当然ながらありません。
10年程度の承認までの期間と
採択率10%程度のワクチン開発において
将来のリスクに備えて本気で動くことはなかった
と考えられます。
今回、新型コロナウィルスのパンデミックが起こったことで
ワクチン、治療薬を始め、感染症に対する危機感は
世界的に高まったと考えられます。
従って、特にワクチンの技術レベルの向上が
今後見込まれると考えられます。
一方、今述べた感染症のリスクと
冒頭で触れた気候変動は切り離せないものである
と考えられます。
例えば、気候変動によって生物の生息域が変われば
それによって生態系あるいは人との関わりが変わるため
今まで生じなかったような感染経路が生まれる可能性もあります。
あるいは熱帯地域でしか見られなかった感染症が
中緯度でも見られるようになることも考えられます。
さらには永久凍土が融解することで
そこに眠っている未知のウィルスが
動的な生態系に入る脅威もあります。
温度上昇により衛生状態が悪化することで
感染症のリスクが高まるかもしれません。
このようなリスクを考えると今回のパンデミックによって
将来の感染症のリスクを考えるようになりますから
気候変動の問題を考えるきっかけになる可能性もあります。
さらには
国際的に移動が盛んになる事(国際化)、
発展途上国を中心に人口が増加する事などから
今後、そういった事が感染の起点となる可能性もあります。
新型コロナウィルスでは世界で初めて
mRNAのワクチンが実用化されました。
このmRNAワクチンは脂質ナノ粒子が使われています。
その点でも最先端の技術が使われています。
今後はこの技術をより広範に発展させていく事が
将来の感染症に対する危機管理に繋がります。
--
Gillie A. Roth, Vittoria C. T. M. Picece, Ben S. Ou, Wei Luo, Bali Pulendran and Eric A. Appel
(敬称略)ら医療研究グループは
ワクチンが身体の中でどのように働くか?
空間と時間軸の中で考えています。
その中で効果をより高めるためのアイデアが提示されています(1)。
本日は、Ref.(1)で示されている図を起点に内容を参照しながら
独自の視点、考察を加えて読者の方と情報共有したいと思います。
//ワクチンと免疫反応のタイムライン//---
ワクチンは注入箇所から数時間から数日で
樹状細胞やマクロファージなどのワクチンの成分を検出する
パターン認識受容体などに結合、認識されると考えられています。
mRNAワクチンの場合は、これらの細胞の中に取り込まれて
コード化された遺伝子情報に基づいて
ウィルスのタンパク質を細胞内で作り出し細胞外に放出します。
そして再度樹状細胞やマクロファージ等と結合して
あるいはその抗原情報を有した状態で
身体中に存在する2次リンパ節である胚中心まで運ばれます。
胚中心に入る前、入った後で
CD4, CD8T細胞、B細胞と結合(抗原提示)を通じて
B細胞、T細胞の親和性成熟が起こります。
樹状細胞やマクロファージは胚中心常在型の細胞も存在します。
それらも胚中心の中の抗原提示、親和性成熟に関わります。
これらは胚中心のライトゾーンと呼ばれる領域で起こります。
逆に胚中心のダークゾーンでは
成熟されたB細胞などの増殖が生じます。
しかし、胚中心でのプロセスの詳細については
まだ研究の余地が大きいとされています(2,3)。
そうして2次リンパ節から設計された抗原に合った
抗体を放出できる成熟したB細胞、プラズマ細胞
それに特異的に反応するT細胞が放出されます。
B細胞、プラズマ細胞から放出される抗体は
IgMからIgG抗体へとクラススイッチが起こります。
mRNAワクチンではIgG抗体価が上がるまでに数週間かかりましたが、
ここまでのプロセスに同じ程度の期間がかかると考えられています。
そして、抗原特異的に成熟したB細胞、T細胞、プラズマ細胞は
それぞれその一部は長期間記憶されて体内にの残ります。
癌ワクチンでは主にこの記憶化したT細胞を
癌退縮のために利用します。
長い見積もりでは数年以上残ると考えられています。
特にIgM発現メモリー細胞は長期記憶に重要な役割を
担っているとされています(4)。
このように免疫細胞が記憶された状態では
似た抗原が体内に入ってくると
このメモリー細胞が早く反応し、
より多くの質の良い抗体を放出する事ができます。
これを「Original antigenic sin effect」と呼びます(5,6)。
実際に、mRNAワクチンの3回目のブースター接種では
抗体価、中和能力が向上している事が確認されていました。
--
胚中心の親和性成熟のプロセスに関わる濾胞性ヘルバーT細胞は
サイトカインIL-2, IL-6, IL-21などによって分化が
促されるとされています。
これらは炎症に反応するサイトカインです。
それにより親和性成熟やメモリー化を強化する
とされています(7,8)。
//アドジュバント//---
ワクチン接種後、抗原の認識能力を上げるためには
アドジュバントが必要です。
このアドジュバントは病原体関連分子パターンを模した
ものであると言われています(1)。
このアドジュバントはプロセスの初期に関わる
樹状細胞やマクロファージに発現されている
〇パターン認識受容体、
〇Toll様受容体、〇NOD様受容体と結合する必要があります。
そのためのアドジュバントとしては
負に帯電した高分子が以下、挙げられています。
〇CpG /〇CDNs /〇plC
その他、
〇MPL /〇Pam2CSK4 /〇脂質
〇MDP /〇Resiquimod
これらがあります。
mRNAワクチンではアドジュバントに関しては明示されていませんが、
おそらく脂質ナノ粒子自体がマクロファージや樹状細胞などの
抗原提示細胞の取り込み効率が高く、
アドジュバントと同様の役割を果たしているのではないか?
と考えています。
このような事はリポソームナノ粒子でも確認されています(9,10)。
--
アドジュバントは細胞の走化性に影響を与えると言われています。
例えば、MF59アドジュバントは、ワクチン接種後
3時間以内にリンパ節に細胞に向性を持たせると言われています。
そのリンパ節に対する細胞の引き寄せ効果は11日間程度
継続すると言われています(11)。
下述するようにアドジュバントは自然免疫系を活性化させる
役割があると考えられますが、それ以外に
細胞を液性免疫に関わる適切な部位(リンパ節)まで
効率的に輸送する事に関わっていると示されています。
これはアドジュバントの一部が少なくとも
リンパ節に対して走化性を持つ特性の特徴である
負の電荷を持っている事と関係している可能性があります
(Ref,(1) Fig.5a)。
//自然免疫細胞の活性化//---
上述したアドジュバントの機能も含めて、
2次リンパ節での成熟プロセスの前に
自然免疫細胞を活性化させる必要があります。
それに関わる受容体として
〇Toll様受容体(アドジュバント認識)
〇NOD様受容体
〇パターン認識受容体(ワクチン成分認識)
〇MHCクラス1,2(抗原提示)
これらが挙げられています。
--
自然免疫を活性化させる方法はいくつかあります。
〇静電気力相互作用
〇疎水性相互作用
〇リポソーム(親水-疎水カーゴ)
〇吸着、結合
〇タンパク質の合成(抗原とペプチド)
//ナノ粒子の働き//---
mRNAワクチンでは脂質ナノ粒子がmRNAの輸送体として
使われています。このナノ粒子にいくつかの機能性を持たせる
ことができます。
--
①ナノ粒子のサイズや荷電によって
自然免疫細胞内の取り込み効率などが変わると考えられます。
なぜならアドジュバントの一つの種類として
負に帯電した材料が挙げられており、
細胞膜に膜電位が存在するからであると考えられます。
--
②ナノ粒子はパターン関連分子パターンと抗原の
両方をワクチンの取り込みが挙げるために運ぶことができます。
上述したパターン認識受容体に認識させるための
分子パターンをナノ粒子に作製するということです。
--
③ナノ粒子の価数は親和性や放出される抗体の多様性(breadth)
に影響を与えます。
--
④ナノ粒子はアドジュバントを運ぶこともできます。
例えば、ノババッククス社の新型コロナウィルスのワクチンは
独自のアドジュバントをナノ粒子に搭載しています。
またナノ粒子は上述したようにその材料自体が
アドジュバント機能を有していることもあります。
//ワクチン輸送媒体//---
ナノ粒子よりももう少し構造的に複雑で大きな
ヒドロゲルや基台(scaffold)を輸送媒体にすることができます。
それらは構造内に抗原やアドジュバント
あるいは免疫細胞を引き付けるケモカインなどが
含んでいます。
これらの材料の利点はいくつか考えられます。
-
①構造によって物理的に引き付けることができます。
構造の凹凸や電気的、水性、結合性相互作用など
物理的性質の制御の幅が広がります。
自然免疫細胞を固着させることで
より抗原認識の効率を上げる事ができる可能性があります。
-
②ケモカインを使うことで「特定の、狙いの」
免疫細胞を引き付けることができます。
ケモカインの種類によって免疫細胞の走化性が
変わるからです。
-
③ケモカインもしくはサイトカイン自身を
免疫系に働きかける事ができます。
-
④構造によって物質の放出を制御できます。
例えば、粘性を上げて
アドジュバントとワクチンをゆっくり放出するような
仕組みにすれば、長く働かせる事が出来
ブースター接種の必要性は亡くなる可能性があります。
あるいはワクチンの成分だけを放出できるように
構造の穴の大きさを制御することで可能になります。
抗原をゆっくり放出させることは
体細胞超変異のサイクルを増やし
親和性成熟を強化します(12-14)。
それによって中和抗体価や変異に強い抗体群(high breadth)
が生じやすくなります。
--
一方、大きくなることで免疫機能を過剰に高めたり
大きさ、重量、形状によって
通常細胞を傷つけたりする可能性もあります。
例えば、グラフェンナノシートでは
端部の尖りが細胞を傷つけるという報告もあります。
従って、安全性にはより慎重になる必要があります。
//リンパ節の輸送効率向上//---
ワクチンによる抗体の産生のためには
2次リンパ節にある胚中心での細胞の成熟が必要です。
従って、自然免疫系を活性化させた状態で
その2次リンパ節まで輸送する必要があります。
例えば、ワクチンの成分自体が
2次リンパ節に届きやすい構造になっていれば、
その部位と近い自然免疫細胞に働きかけることが
できると考えられます。
そうすると免疫細胞の成熟化が起こりやすくなると
考えられます。
そのためのいくつかの戦略が考えられます(以下)。
--
①最適なナノ粒子のサイズ(20-200nm)
-
②ナノ粒子の荷電(負に荷電)
-
③ナノ粒子の装飾(PEGylation)
(※細胞特異的輸送系統の部分で追加説明)
-
④ナノ粒子の複合体化(抗体を結合させる)
-
⑤リンパ系免疫細胞(濾胞性T, B, NK細胞など)にも
働きかける
//安全性をどう考えるか//---
今回、mRNAワクチンは最終的には数十億人の人に
接種する事になると思いますが、
万能薬(パナシーア)はありません。
但し、ワクチンは健康な人に予防的に接種するので
普通の薬よりも高い安全性が求められます。
今回、明らかになることがあると思いますので、
そういった中で次のナノ粒子を使った
mRNAワクチンの開発、あるいはナノ粒子を使った薬剤の開発に
今回の大規模接種の経験、
結果を生かすことができると考えられます。
基本的に食べ物でもごく一部の人には
強いアレルギー反応はありますから
異物が多く入る消化器系、呼吸器系以外の
血液系に直接注入する限りにおいては
リスクをゼロにすることは難しいと考えられます。
例えば、消化器系や呼吸器系は
常に環境にさらされていますから、
そこからより安全性の高いワクチンを入れるほうが
最終的なリスクは低くなる可能性は考えられます。
例えば、鼻から噴霧するタイプです(15-17)。
しかし、鼻腔は脳の視床下部に近いことから
ウィルスと同じように神経症状が出やすいかもしれません。
ワクチンの生理としての安全性以外の視点では
重篤な副作用が出やすい人を
事前にどうやってスクリーニングするか?
という手続き的な事も重要です。
他には用量の最適化の問題もあります。
より少ない量で期間を空けて複数回接種したほうが
リスクが少ないかどうか?ということです。
//細胞特異的輸送系統//---
今回の脂質ナノ粒子を使ったmRNAワクチンの実現、
大規模接種の経験、製造技術、コスト優位性、結果は
細胞特異的輸送系統の実現の
マイルストーンとして欠かせないものです。
ナノ粒子の中に目的の成分を入れるという構想は
細胞特異的輸送系統と同じだからです。
この細胞特異的輸送系統の場合は
ナノ粒子に標的性を上げるための物質を結合、固着させます。
ナノ粒子が細胞の場合はウィルスベクターによって
特定の細胞貫通タンパク質を設計することができます。
脂質ナノ粒子は経済性に優れているので
もしこのナノ粒子に大規模生産に耐えうる
易製造性を有する方法でうまく標的を形成できれば、
感染症などのワクチンに限らず、
多くの薬剤にカプセルのように適用できる可能性があります。
//まとめ//---
今回、新型コロナウィルスのワクチンは
mRNAも、アデノウィルスワクチンも事前の長い技術開発が
礎としてあったから短期の導入が可能になりました。
液性免疫を含めたワクチンの生理の理解、
それを利用した効果的かつ安全なワクチンの技術を
これからも継続的に積み上げていく事によって
将来生じるかもしれない感染症に対して
さらに短い時間で対処できる体制を世界で作れる可能性があります。
今回のパンデミックは1年程度で承認となりましたが、
世界にいきわたる迄には時間がかかっています。
今後は、感染症が生じたらすぐに
発展途上国も含めてすぐに供給できるような体制を
整える事が大切になるのではないかと考えられます。
(Reference)
(1)
Gillie A. Roth, Vittoria C. T. M. Picece, Ben S. Ou, Wei Luo, Bali Pulendran & Eric A. Appel
Designing spatial and temporal control of vaccine responses
Nature Reviews Materials (2021)
---
Author information
Affiliations
Department of Bioengineering, Stanford University, Stanford, CA, USA
Gillie A. Roth, Ben S. Ou & Eric A. Appel
Department of Materials Science & Engineering, Stanford University, Stanford, CA, USA
Vittoria C. T. M. Picece & Eric A. Appel
Department of Chemistry and Applied Biosciences, ETH Zürich, Zürich, Switzerland
Vittoria C. T. M. Picece
Institute for Immunity, Transplantation & Infection, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Wei Luo & Bali Pulendran
ChEM-H Institute, Stanford University, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran & Eric A. Appel
Department of Microbiology & Immunology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran
Program in Immunology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran
Department of Pathology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Bali Pulendran
Department of Paediatrics — Endocrinology, Stanford University School of Medicine, Stanford, CA, USA
Eric A. Appel
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