2021年10月4日月曜日

癌の痛みケアの微視的な機序

//筆者の着想//---
癌治療における痛みを最小化するというのは
この道を選択したきっかけでもあるので、
その目標は失わずに進んでいきたいと思っています。
例えば、腰痛において「キーン」と走る
独特の痛みが走ることがあります。
これは主に脊髄に走る神経が圧迫されたからであると考えられます。
従って、整形外科では神経を圧迫しないように
姿勢の矯正を行う処置をすることがあります。
そうすることで神経への圧迫がなくなれば、
痛みも和らぐということです。
ここから神経細胞の変形と痛みの関係が浮かび上がります。
--
このように痛みが軽減することがあるということは、
癌治療においてもオピオイドのような鎮静剤を使わなくても
もっと自然な形で痛みを軽減できるかもしれない
と考えました。
その時に頭に浮かんだのが、癌組織と末梢神経の関係です。
癌組織が固着して成長した時に
その組織内に神経が形成されることがあるか?
もしそうであれば、癌組織を抗がん剤で退縮させたときに
そこにつながる神経の状態が変わることで
様々な痛みに繋がっているのか?という疑問を持ちました。
繋がる神経をできるだけ刺激しないように
癌組織を退行させる事ができるか?
あるいは信号が一切伝わらないように切断するのがいいのか?
そういったことを考えました。
このような着想から
癌組織中の神経系の形成が現在調査対象となっています。
しかし、調べてみると事はもっと複雑である事がわかります。
一方、癌治療の痛みには悪液質と呼ばれる筋組織を含めた
極度の栄養不足によって生じるものがあります。
これに対する対策としては、細胞種特異的輸送系統などを利用して
如何に癌組織だけ栄養不足にして、臓器の筋組織や骨格筋など運動に関わる
器官を含めた正常な細胞に栄養を十分に届けるか?
そのような栄養の極性を実現する事が考えられます。
--
Patrick W. Mantyh, Denis R. Clohisy, Martin Koltzenburg & Steve P. Hunt 
(敬称略)は癌における痛みの分子的メカニズムについて
総括されています(1)。
本日はその内容の一部を読者の方と情報共有したいと思います。

//概要//---
#1:癌が存在する周辺の感覚神経が環境中の刺激因子を
受容体によって認識して、電気信号に変えて
中枢神経系に運ばれます。
--
#2:上述した脊髄に繋がる求心性感覚神経にある
受容体は多様であり、多くの因子を検知することができます。
--
#3:固形癌、その周辺が酸性に傾くことで
感覚神経が活性化され、痛みにつながります。
--
#4:癌組織の成長によって神経を傷つけ、
神経傷害性の痛みを伴います。
--
#5:脊髄や前脳は慢性的な痛みによって
神経化学的、構造的な変化を伴います。
このような痛みは感作を引き起こし、
侵害受容体からの痛みの信号を脊髄と前脳に
より運びやすくさせます。
--
#6:癌の痛みは病気の進行とともに大きく、深刻になります。
従って、進行度の高い癌の痛みのケアのためには
異なるタイプの鎮痛が必要であるとされています。
あるいはステージによって痛みのメカニズムが異なる
可能性があります。
--
#7:癌の痛みの深刻度は患者さん、癌種、部位ごとに
全ての項目で異なります。

//侵害受容体(Nociceptors)//---
感覚求心性神経には参考文献(1)Figure1で示されるように
いくつかの膜貫通受容体があります。
/EP/TrKA/P2X3/Na+/DRASIC/ETaR/VR1
これらは受容体の構造を変える事に寄って
不活性モードと活性モードが存在します(2)。
組織が損傷を受けるとこれらの受容体の活性が高まり
感覚神経線維から痛みの信号が脊髄に運ばれます。

//考察//---
参考文献(1)Table 2を見ると
骨の癌の痛みのケアの種類についてまとめられています。
これを見ると痛みの原因となる神経線維の受容体の
働きを弱める薬などが提案されています。
このような事は重要なのですが、
慢性化して痛みの信号が高まっている時に
同様に慢性的に受容体の機能を弱め続ける事が
果たして長期的にいいかどうか?という疑問があります。
--
また、なぜ抗がん剤の治療は強い吐き気や倦怠感などの
痛みを伴うのか?という事についても調べる必要があります。
抗がん剤が効いていれば、腫瘍組織は小さくなっている
わけですから癌細胞から痛みの原因となる
物質が放出されているのであるとするならば、
その量は少なくなるはずです。
そうすると治療により吐き気などの痛みが出ているのは
癌組織に浸潤した神経組織が
癌組織の変形によって損傷を受けるからでしょうか?
あるいは組織が変わることで
通常の求心性感覚神経が傷つけられるからでしょうか?
もし、そうであるとするならば、
抹消で傷つけられた神経線維が回復するまで
「一時的に」痛みに関わる信号を抑制することが
痛みのケアとして考えられるでしょうか?
--
#5で慢性的な痛みがあると脊髄や前脳の
化学物質(神経伝達物質)や構造が変化するとされています。
この状態にはできれば移行させたくないというのがあります。
脊髄よりもより末端側の求心性感覚神経の可塑性の中で
どうやって収束させたらトータルの痛みを最小化できるか?
ということを明らかにできるか?という事だと思います。
これは「できるかどうか?」というのは
とりあえず脇に置いています。
例えば、癌が抗がん剤によって消えた後、
繋がった神経線維をそのまま放置していれば、
自発的にその神経線維は活性を失って退縮するのか?
ということです。
--
一方で、参考文献(1) Fig.2で示されている
• ATP
• Bradykinin
• H+
• Mechanical distention
• Nerve growth factor
• Prostaglandins
• VEGF
これらは癌組織がなくなることで少なくなるので
「連結性ではない要素」は取り除かれるかもしれません。

//考察(痛み緩和の戦略)//---
慢性の痛みを如何に回避して、
急性の痛みを適度に薬によって抑えるか?
ということです。
従って、痛みの原因が慢性化しないように
短期で原因から取り除く必要があります。
癌組織を短期間で小さくするという事は
基本的な事だと思います。

//細胞特異的輸送系統//---
癌組織周辺の感覚神経線維の受容体のアンタゴニスト
受容体不活性物質(COX1など)を
鎮痛剤として使用する事が挙げられていますが、
これらの薬剤の他に
感覚神経の周辺の電気信号伝導性を制御するミエリン鞘
に作用する薬を癌組織周辺特異的に輸送することができないか?
という視点があります。
ミエリンに作用するのがいい理由は、
標的となる場所が「点ではなく」「線だから」です。
つまり標的断面積が大きいために
より楽にアクセスできる可能性があります。
しかし、ミエリン鞘の特異性がなく、共通性が強ければ
オフターゲットが無いように確実に癌組織まで運ぶ必要があります。
このような組織特異的な鎮痛薬の使用は
より副作用が少ない形で痛みを取り除ける可能性があるか?
という事が提起されます。
--
ただし、有害な信号を運ぶ神経はC-fibreesと
A-δfibresであり、前者はミエリンがない
後者は薄いミエリンとなっています(1)。
ミエリンは電気伝導性を上げるものなので、
それがない、薄いという事はやや反応が遅いということです。
熱いものを触った時に身体が反射的に動く速度と
それを熱いと知覚する速度に差があるのは
ミエリンの有無、厚さによるものかもしれません。
従って、C-fibrees/A-δfibresに対する
ミエリンをターゲットした神経信号制御は
基本的な薬理機序から一工夫が必要であると考えられます。

//考察(新型コロナウィルス後遺症)//
新型コロナウィルスの後遺症の特徴として
症状があるときに無理に動くと悪化する
ケースがあるということです。
これは実際に後遺症外来をされている
日本の医師の方からの情報です。
気になるのは「運動をすることによって何が変わるのか?」
ということです。
しかも、その後重篤な状態が続くという事です。
このような特性から考えて、
症状としては運動によって分子的な分泌が閾値的に
変わったというよりも、
筋肉、骨、関節などの組織を動かす事によって
求心性感覚神経、脊髄、脳の回路が損傷を受けた
あるいは一部切断されたという事は考えられないでしょうか?

(Reference)
(1)
Patrick W. Mantyh, Denis R. Clohisy, Martin Koltzenburg & Steve P. Hunt 
Molecular mechanisms of cancer pain
Nature Reviews Cancer volume 2, pages201–209 (2002)
---
Author information
Affiliations
Departments of Preventive Sciences, Psychiatry and Neuroscience, University of Minnesota, 18-208 Moos Tower, 515 Delaware Street SE, Minneapolis, 55455, Minnesota, USA
Patrick W. Mantyh
Department of Orthopaedic Surgery, Medical School and Cancer Center, University of Minnesota, 420 Delaware Street SE, Minneapolis, 55455, Minnesota, USA
Denis R. Clohisy
Institute of Child Health and Institute of Neurology, University College London and National Hospital for Neurology and Neurosurgery, 30 Guilford Street, London, WC1N 1EH, UK
Martin Koltzenburg
Department of Anatomy and Developmental Biology, Medawar Building, University College London, Gower Street, London, WC1E 6BT, UK
Steve P. Hunt
(2)
Schmidt, R. et al. 
Novel classes of responsive and unresponsive C nociceptors in human skin. 
J. Neurosci. 15,333–341 (1995).


0 コメント:

コメントを投稿

 
;