mRNAワクチンにおいては心筋炎のリスクが指摘されています。
但し、これについては様々な軸でよく考える必要があります。
先に結果から申し上げますが
ファイザー製のmRNAワクチンの心筋炎の発症リスクは
10万人あたり2回目接種後は男性3.83人、女性0.46人となっています。
もっともリスクが高い若い世代男性16-19歳で15.07人です。
これをどう評価するか?です。
心筋炎はウィルス感染が一つの主な原因となっています。
風邪ウィルス、インフルエンザウィルスでもかかるとされており
その予防の為、手洗い、うがいなどの衛生面、
予防接種(ワクチン)などが推奨されています。
当然、新型コロナウィルスに罹患しても心筋炎に罹る事もあります。
その心筋炎の年間発症率はコロナ禍以外でも
10万人あたり22人(0.02%)とされており、
男性、新生児、小児、20~40歳前後に有病率が高いとされています(3)。
従って、ファイザー製のmRNAワクチン接種によって心筋炎に罹るリスクは
普通に過ごしていて罹る心筋炎のリスクよりも顕著に低い
ということがデータから読み取ることができます。
今はコロナ禍ですからウィルス感染のリスクも高まっています。
従って、感染によって生じる心筋炎のリスクは高いと想定されます。
ー
また新型コロナウィルスに感染した場合は他のリスクもあります。
例えば、10代であれば後遺症のリスクもあります。
中等症、重症化のリスクもあります。
もちろん若い人では少ないですが死亡するリスクもあります。
ー
中にはワクチン接種に対して
「しばらく様子をみよう。」と考えている人もいると思います。
特に若い人の中には多いかもしれません。
運よく新型コロナウィルスに感染することなく数年が過ぎ、
落ち着いたとしても新型コロナウィルスに対する
免疫が形成されないまま過ごすことになります。
インフルエンザのように再流行があれば、
いずれどこかで感染のリスクにさらされることになります。
その時には様々なリスクがあります。
この場合の考えられるメリットは、
数年間でよりワクチンの理解が進んでいるかもしれない
ということです。
但し、感染リスクなどデメリットも大きいです。
また、もう一つ大切な情報として
「今、新型コロナウィルス(SARS-CoV-2)の免疫を獲得する」
ということは後の事を考えると大きなメリットがあります。
以前、2003年にSARS-CoV-1が流行しましたが、
この免疫を持っている人は
新型コロナウィルスSARS-CoV-2の免疫を獲得した時の
反応性、ユニバーサル性が高いという事が示されています(4)。
つまり、中和抗体能も高い傾向にあるし、
デルタ株など変異に強い多種、多様な抗体も
生み出されるということです。
従って、今、SARS-CoV-2の高い免疫を有する事は
後に流行するかもしれない異なるコロナウィルスに対する
リスクを下げる事にもつながる可能性があります。
ー
ただし、重要なのは男性が多いという事と若い人が多い
というデータが示された(1)ということです。
ワクチン接種、3日後をピークに
ほとんどのケースで一週間以内、
全体で1か月以内となっています。
従って、ワクチン接種の場合は接種日が明らかになっていますから
非常に稀に発生する心筋炎に対して
どのような対策を取ることができるか?
という事だと思います。
但し、95%のケースで症状は軽いとされています(1)。
今回、対象となったのが500万人規模なので
日本の場合はその約20倍の規模、
世界で言えば約160倍の規模なので
非常に稀なケースで症状が重いケースも出てくると考えられます。
但し、ワクチン忌避に繋がらないために強調したい事は
このような心筋炎のリスクは
ワクチンを接種しなくても常に存在するということです。
またワクチンによって感染のリスク、重症化のリスクが下がる
という大きなメリットもあります。
またワクチンパスポートなど
日常生活、社会的な行動の制限にも影響します。
ー
D. Mevorach, E. Anis(敬称略)ら(1)
Guy Witberg(敬称略)ら(2)はイスラエルにおける
ファイザー/ビオンテック社製mRNAワクチンBNT162b2における
心筋炎の大規模調査を行っています(1,2)。
上の記述を踏まえ、示されたデータの一部を
読者の方と情報共有したいと思います。
Ref.(1)からは疫学データ、
Ref.(2)からは心筋炎の症状に関するデータを参照します。
//心筋炎の発症リスク(10万人あたり)//---
(Ref.(1) Table 3より)
ー
(ワクチン1回目接種)
全年齢:0.64人(男性)/0.07人(女性)
16-19歳:1.34人(男性)/0人(女性)
20-24歳:1.91人(男性)/0人(女性)
25-29歳:1.22人(男性)/0人(女性)
30-39歳:0.41人(男性)/0人(女性)
40-49歳:0.65人(男性)/0.21人(女性)
50歳以上:0.10人(男性)/0.09人(女性)
ー
(ワクチン2回目接種)
全年齢:3.83人(男性)/0.46人(女性)
16-19歳:15.07人(男性)/1.00人(女性)
20-24歳:10.86人(男性)/2.16人(女性)
25-29歳:6.99人(男性)/0人(女性)
30-39歳:3.69人(男性)/0.22人(女性)
40-49歳:1.15人(男性)/0.45人(女性)
50歳以上:0.21人(男性)/0.19人(女性)
ー
このことから一般的な心筋炎と同様に
男性、若い人のリスクが相対的に高くなっています。
またワクチン接種2回目接種後のリスクが高くなっています。
//心筋炎が現れるタイミング//---
(Ref.(1) Figure.1より)
ー
1回目接種後の心筋炎のタイミングは
1日目から20日目迄分散していて傾向はありません。
しかし、2回目接種の場合は
全症例の約82%が接種から1週間以内です。
ピークは3日目で約38%となります。
最も多い2~4日目の合計で約69%です。
ー
上述したように95%において症状は軽いとされていますから
最も多い2回目接種から1週間(特に2~4日目)に
仮に有効な対策を打つことができれば、
ワクチン接種の心筋炎のリスクは大きく下げる事ができます。
//接種後心筋炎の臨床症状(54人)//---
(Ref.(2) Table.3より)
括弧内:割合
ー
(*)Chest pain 44/54 (81)
Palpitations 1/54 (2)
Dyspnea 3/54 (6)
Fever 5/54 (9)
Pericardial effusion 10/49 (20)
ー
Temperature — 37.4±1.0℃
Blood pressure — mmHg
Systolic 122.7±16.8
Diastolic 72.2±11.0
ー
Heart rate — 81.3±17.3(beat/min)
Shock — no./total no. (%) 1/47 (2)
ー
Electrocardiographic findings — no./total no. (%)
Normal 8/38 (21)
ST-segment elevation
Diffuse 18/38 (47)
Nondiffuse 2/38 (5)
T-wave change 7/38 (18)
Atrial fibrillation 1/38 (3)
Nonsustained ventricular tachycardia 2/38 (5)
ー
Laboratory values
Elevated troponin T — no./total no. (%) 41/41 (100)
Median creatine kinase (IQR) — 487 (230–1193)(U/liter)
ー
Clinical course during index hospitalization
— no./total no. (%)
Need for inotropes or vasopressors 1/49 (2)
Need for mechanical circulatory support 1/49 (2)
Arrhythmias 1/49 (2)
ー
心筋炎の一般的な症状は、
胸痛、呼吸困難、動機があります。
胸痛はデータより頻度の高い臨床症状です。
データより心電図の異常もあります。
またトロポニンレベル上昇、心エコー、心臓MRIで
異常がみられるケースもあります。
また37度台の微熱もあります。
しかし、一般的な副作用と重複するため、
分かりやすい症状としては胸痛があるかどうか?
というのが指標となる可能性があります。
治療としては対症療法や免疫調整などが多く、
特効性のある治療法はないとされています。
(Reference)
(1)
Dror Mevorach, M.D., Emilia Anis, M.D., M.P.H., Noa Cedar, M.P.H., Michal Bromberg, M.D., M.P.H., Eric J. Haas, M.D., M.S.C.E., Eyal Nadir, M.D., Sharon Olsha-Castell, M.D., Dana Arad, R.N., M.S.N., Tal Hasin, M.D., Nir Levi, M.D., Rabea Asleh, M.D., Ph.D., Offer Amir, M.D., Karen Meir, M.D., Dotan Cohen, M.D., Rita Dichtiar, M.P.H., Deborah Novick, M.Sc., Yael Hershkovitz, M.Sc., Ron Dagan, M.D., Iris Leitersdorf, M.D., M.H.A., Ronen Ben-Ami, M.D., Ian Miskin, M.D., Walid Saliba, M.D., M.P.H., Khitam Muhsen, Ph.D., Yehezkel Levi, M.D., Manfred S. Green, M.B., Ch.B., Ph.D., Lital Keinan-Boker, M.D., Ph.D., and Sharon Alroy-Preis, M.D., M.P.H.
Myocarditis after BNT162b2 mRNA Vaccine against Covid-19 in Israel
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
---
Author Affiliations
From the Department of Internal Medicine B, Division of Immunology–Rheumatology, and Wohl Institute for Translational Medicine (D.M.) and the Departments of Cardiology (R.A., O.A.), Pathology (K. Meir), and Radiology (D.C.), Hadassah Medical Center, Braun School of Public Health (E.A.), Jesselson Integrated Heart Center, Shaare Zedek Medical Center (T.H., N.L.), and the Department of Family Medicine (I.M.), Faculty of Medicine, Hebrew University of Jerusalem, the Divisions of Epidemiology (E.A., N.C., E.J.H., E.N.), Patient Safety (S.O.-C., D.A.), and Medicine (I.L.), Israeli Ministry of Health (M.B., R. Dichtiar, D.N., Y.H., Y.L., L.K.-B., S.A.-P.), and Clalit Health Services (E.N., I.M.), Jerusalem, Israel Center for Disease Control, and Azrieli Faculty of Medicine, Bar-Ilan University (O.A.), Ramat Gan, the Department of Epidemiology and Preventive Medicine, School of Public Health (M.B., K. Muhsen), and Tel Aviv Sourasky Medical Center (R.B.-A.), Tel Aviv University, Tel Aviv, Ben Gurion University of the Negev, Beer Sheva (E.J.H., R. Dagan), and the Department of Community Medicine and Epidemiology, Lady Davis Carmel Medical Center, Technion–Israel Institute of Technology (W.S.), and the School of Public Health, University of Haifa (M.S.G., L.K.-B.), Haifa — all in Israel.
(2)
Guy Witberg, M.D., Noam Barda, M.D., Ph.D., Sara Hoss, M.D., Ilan Richter, M.D., M.P.H., Maya Wiessman, M.D., Yaron Aviv, M.D., Tzlil Grinberg, M.D., Oren Auster, M.Sc., Noa Dagan, M.D., Ph.D., M.P.H., Ran D. Balicer, M.D., Ph.D., M.P.H., and Ran Kornowski, M.D.
Myocarditis after Covid-19 Vaccination in a Large Health Care Organization
The New England Journal of Medicine October 6, 2021
---
Author Affiliations
From the Cardiology Department, Rabin Medical Center, Beilinson Hospital, Petah Tikva (G.W., S.H., I.R., M.W., Y.A., T.G., R.K.), the Faculty of Medicine, Tel Aviv University (G.W., S.H., I.R., M.W., Y.A., T.G., R.K.), and the Innovation Division, Clalit Research Institute, Clalit Health Services (N.B., O.A., N.D., R.D.B.), Tel Aviv, and the Department of Software and Information Systems Engineering (N.B., N.D.) and the School of Public Health, Faculty of Health Sciences (R.D.B.), Ben Gurion University, Be’er Sheva — all in Israel; and the Department of Biomedical Informatics, Harvard Medical School (N.B., N.D.), and the Ivan and Francesca Berkowitz Family Living Laboratory Collaboration at Harvard Medical School and Clalit Research Institute (N.B., N.D., R.D.B.) — both in Boston.
(3)
榎木内科・循環器科医院
心筋炎
(4)
Chee-Wah Tan, Ph.D., Wan-Ni Chia, Ph.D., Barnaby E. Young, M.R.C.P., Feng Zhu, Ph.D., Beng-Lee Lim, M.Sc., Wan-Rong Sia, B.S., Tun-Linn Thein, M.P.H., Mark I.-C. Chen, Ph.D., Yee-Sin Leo, F.R.C.P., David C. Lye, F.R.C.P., and Lin-Fa Wang, Ph.D.
Pan-Sarbecovirus Neutralizing Antibodies in BNT162b2-Immunized SARS-CoV-1 Survivors
The New England Journal of Medicine 2021; 385:1401-1406
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Author Affiliations
From the Programme in Emerging Infectious Diseases, Duke–NUS (National University of Singapore) Medical School (C.-W.T., W.-N.C., F.Z., B.-L.L., W.-R.S., L.-F.W.), the National Centre for Infectious Diseases (B.E.Y., T.-L.T., M.I.-C.C., Y.-S.L., D.C.L.), Tan Tock Seng Hospital (B.E.Y., M.I.-C.C., Y.-S.L., D.C.L.), Lee Kong Chian School of Medicine, Nanyang Technological University (B.E.Y., Y.-S.L., D.C.L.), Yong Loo Lin School of Medicine (Y.-S.L., D.C.L.) and Saw Swee Hock School of Public Health (Y.-S.L.), National University of Singapore, and SingHealth Duke–NUS Global Health Institute (L.-F.W.) — all in Singapore.
(5)
矢野邦夫(浜松市感染症対策調整監)
mRNA COVID-19ワクチンと心筋炎
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