2024年7月8日月曜日

インテグリン-テトラスパニン複合体装飾細胞外小胞による細胞種特異的薬物送達システム

(インテグリン依存的な細胞外小胞による細胞種特異的薬物送達システム)
テトラスパニンは細胞外小胞でも豊富に分泌される事が
一般的に知られています。
テトラスパニンは多くの結合サイトを持つため、
インテグリンなどとの細胞接着分子と複合体を作り、
細胞内への信号伝達機能に関わります(1)。
細胞外小胞におけるテトラスパニンの機能は
細胞と同様に他の膜貫通タンパク質と複合体を作ることで
あるいはテトラスパニン同士が凝集する事で
いくつか確認されています。
一方で、テトラスパニンは細胞内外の物質を引き付ける効果があります。
従って、その物質によって、
テトラスパニンと結合したインテグリンの構造が変わるか?
そういった疑問も生じます。
例えば、インテグリンをアロステリックに構造を変え
その結合活性を上げる、CXCL12があります(2)。
このCXCL12はテトラスパニンCD9bと相互作用する事が知られており(3)、
このアロステリック因子を誘導する事で
インテグリンの構造変化のきっかけになる可能性があります。
そうすると細胞外小胞において
分泌後もこうしたアロステリック因子が環境中に存在すれば、
テトラスパニンの存在によって
インテグリンの活性が細胞外に出ている状況においても
変化する可能性があります。
CXCL12はケモカインなので免疫細胞などの走化性に関わる物質です。
ケモカインは濃度依存的に細胞を誘導する働きがありますが、
その作用機序の中にインテグリンなどの
細胞接着に関わる分子をアロステリックに構造を変化させる事で
その吸着性を高め、結果として目的とする組織に送達させる
役割もあるかもしれません。
その相互作用をより高めるのがインテグリンと複合体を作った
テトラスパニンである可能性があります。
これは、細胞だけではなく、細胞外小胞でも起こる可能性があります。
インテグリンの活性をケモカイン依存的に変えられる事は
細胞外小胞の組織特異的送達を
共通的に発現されるインテグリンであっても
ある程度実現できうる事を意味します。
例えば、治療が難しい肺がんに対して
細胞外小胞を使ってインテグリンを装飾して薬物送達するケースを想定します。
例えば、インテグリンβ1が肺がん細胞に発現されている事が
確認されています(4)。
このインテグリンβ1は薬物の通り道である血管内皮にも
存在しているため(5)、非特異的に送達ルートで結合し
トラップされる可能性があります。
このことからインテグリンβ1装飾だけで
細胞外小胞による肺がん細胞種特異的送達システムを組むのは
おそらく困難であると想定されます。
従って、冗長なシステムが必要です。
その冗長なシステムとして他の細胞接着分子を組み合わせる事も重要ですが、
細胞外小胞の場合には、テトラスパニンを取り込む形質があることから
テトラスパニンの機能を理解し、それを含めて設計する事が大切になります。
上述したようにテトラスパニンはケモカインを誘導し、
インテグリンの結合活性を高める可能性があります。
癌微小環境にはケモカインを産生する細胞が癌細胞を含めて多く存在し
その濃度が他の領域よりも高まっている可能性があります。
CXCL12についても同様です。
もし、そうであるとするならば、
あらかじめ細胞外小胞を投入するときには
人為的にインテグリンの構造を不活性にしておき、
その状態でテトラスパニンと高く相互作用させておきます。
そうすると癌微小環境周りではインテグリンの活性を高める
ケモカインが高濃度で存在しますから、
より多くのインテグリンの結合活性が
テトラスパニン依存的に高まる可能性があります。
少し観点を変えて追記すると
始めはほとんどが不活性なので、
循環器で、あるいは他の組織でインテグリンβ1があったとしても
インテグリンは結合活性を示しません。
ケモカインCXCL12が高まった状態で、より有効に引き付ける事で
多くのインテグリンが結合活性を高めます。
従って、いわば、オフからオンのスイッチを
癌細胞周辺の環境でケモカイン依存的に押すことができます。
これは生体内の自然な機序でオンオフするアイデアですが、
例えば、ケモカインの濃度を免疫療法なども含めて
人為的に癌微小環境で上げることができれば、
こうした効果はより顕著になる可能性もあります。
そうした特性の感受性をテトラスパニンによって動かす事ができる可能性があります。
そうすると共通的に発現しているインテグリンの型でも
その活性をケモカイン濃度、テトラスパニン複合体化によって
感受性高く癌細胞周辺でのみ結合活性を高めることができ、
それによって特異的送達が可能になるかもしれません。
しかしながら、技術的障害として
テトラスパニンとの相互作用やインテグリンの不活性度など
細胞内でどのように分布、構造を人為的に動かすことができるか?
これらが少なくとも存在します。
一方で、細胞外小胞は一般的に細胞骨格を持たないので
細胞外小胞に発現される細胞接着分子の状態は
基本的に細胞の細胞膜上に発現される状態と異なります。
具体的には細胞質側のCターミナルドメインにおいて
細胞骨格との結合因子が細胞外小胞ではないと考えられます。
もし、細胞外小胞上に発現されるインテグリンの構造を
アロステリックに変える際に、
細胞が持つ細胞内ドメインにおける
細胞骨格を通した信号伝達が(一部)関わっているとしたら、
細胞外小胞での上述したスイッチ機能は弱いか、ないという事も考えれます。
そうしたことも想定しておく必要があります。
--
通常、インテグリンはカドヘリンと異なり、
同種結合ではなく、基質の細胞外マトリックスのRGDドメインと結合します。
従って、正確にはインテグリンを細胞外小胞に
バイオエンジニアリングによって制御して装飾させたとき、
その標的として意識しないといけないのは
同じ型のインテグリンではなく、対となる細胞外マトリックスです。
しかし、上でそのことを記載しなかったのは
例えば、血管の内皮組織に同じ型のインテグリンがあるという事は
自然に考えてその周辺にそれと特異的に結合する
細胞外マトリックスがあると考えられるからです。
従って、正確にはインテグリンを装飾した細胞外小胞は
細胞ではなく、細胞外マトリックスに結合する事になります。
ここについて正確に考える事は、癌において一つの想起を与えます。
癌微小環境では細胞外マトリックスも改変され、
その密度が高まっていることもあるからです。
こうした因子もインテグリンを装飾した細胞外小胞を
腫瘍組織に特異的に送達させる際に重要となります。
--
インテグリンのクローズド配座とオープン配座では
結合活性が200~6000倍も異なるとされちえます。
従って、テトラスパニンとケモカイン依存的に
炎症部位、腫瘍組織の近接場で多くのインテグリンを
不活性状態から活性状態にできれば、
スイッチのSN比 (Signal-to-noise ratio)を顕著に高める事ができて、
それにより細胞種特異的薬物送達システムが実現する可能性があります。

(参考文献)
(1)
Xin A. Zhang,*† Alexander R. Kazarov,† Xiuwei Yang, Alexa L. Bontrager, Christopher S. Stipp, and Martin E. Hemler‡
Function of the Tetraspanin CD151–α6β1 Integrin Complex during Cellular Morphogenesis
Mol Biol Cell. 2002 Jan; 13(1): 1–11.
(2)
Masaaki Fujita 1 2, Parastoo Davari 2, Yoko K Takada 2, Yoshikazu Takada
Stromal cell-derived factor-1 (CXCL12) activates integrins by direct binding to an allosteric ligand-binding site (site 2) of integrins without CXCR4
Biochem J. 2018 Feb 16;475(4):723-732.
(3)
Katherine S Marsay 1 2 3, Sarah Greaves 4, Harsha Mahabaleshwar 5, Charmaine Min Ho 5, Henry Roehl 4, Peter N Monk 2, Tom J Carney 3 5, Lynda J Partridge
Tetraspanin Cd9b and Cxcl12a/Cxcr4b have a synergistic effect on the control of collective cell migration
PLoS One. 2021 Nov 30;16(11):e0260372.
(4)
Tatsuya Yoshimasu, Nariaki Matsuura, Ichiro Ota, Naoyuki Tani, Shoji Oura, Hirokazu Tanino, Teruhisa Sakurai, Yozo Kokawa, Kenji Matsuyama, Yasuaki Naito
Integrins α2β1, α5β1 and αvβ5 Are Related to Tumor Growthand Metastasis of Non-small Cell Lung Cancer
肺癌 2001 年 41 巻 2 号 p. 111-115
(5)
Ann C. Zovein,1,2,* Alfonso Luque,1,3,*& Kirsten A. Turlo,1,3 Jennifer J. Hofmann,1,3 Kathleen M. Yee,3 Michael S. Becker,3 Reinhard Fassler,6 Ira Mellman,7 Timothy F. Lane,4,5 and M. Luisa Iruela-Arispe1,3,
β1 integrin establishes endothelial cell polarity and arteriolar lumen formation via a Par3-dependent mechanism
Dev Cell. 2010 Jan 19; 18(1): 39–51.
(6)
Michael Bachmann 1, Sampo Kukkurainen 1, Vesa P Hytönen 1, Bernhard Wehrle-Haller 1
Cell Adhesion by Integrins
Physiol Rev. 2019 Oct 1;99(4):1655-1699

0 コメント:

コメントを投稿

 
;