2021年4月18日日曜日

女児特有の疾患, PCDH19の病理

神経細胞は通常の細胞よりも形状が複雑で
枝のように四方八方に伸びた形をしています。
その先端にはシナプスと呼ばれる接続部位があり、
軸索とつながります。
その軸索は他方の末端でシナプスの連結により
神経細胞とつながります。
従って、2つのシナプス、軸索を通じて
神経細胞の連結、その集合のネットワークが形成されます。
このシナプスの連結部ではカドヘリンと呼ばれる
細胞をつなぐタンパク質が信号伝達や
細胞の位置の固定に貢献していると考えられます。
PCDH19と呼ばれる女性の乳幼児が主に罹患する難病があります。
このPCDH19ではカドヘリンのミスマッチにより
連結がうまくいかなくなり神経の伝達に支障が生じます。
実際にシナプスでの神経伝達物質の放出の確率が下がる
ことが示唆されています(1)。
それにより臨床症状ではてんかん発作である
全身の痙攣や失神が起こることにつながります。
また認知機能の障害が起こることもあります。
実際に知能障害は70%の患者さんで生じるといわれています(2,3)。
PCDH19は海馬に多く、生後間もなく上昇するといわれています(4)。
海馬は新しい記憶の貯蔵に関係する部位で
その機能不全が知能障害に関係している可能性が考えられます。
実際に長期記憶増強がPCDH19に異常が出ることで
失われることが確認されています(1)。
成長につれて寛解するケースもありますが、
発達期に脳に障害がでることで、
臨床症状としては完治しても、認知機能の障害などは
その後の生活に影響を及ぼす可能性があります。

構造としてはカドヘリンの装飾因子として
PCDH19と呼ばれるたんぱく質が結合して
それらが正常に結合、形成される事に寄って
シナプスでの連結が可能になります。
しかし、X染色体に関連するPCDH19に変異が入ると
PCDH19とNカドヘリンの結合親和性が落ちる
もしくはPCDH19の分泌量そのものが下がって
結合している端末とそうではない端末のミスマッチが生じ
PCDH19を介した結合に障害がでることが示されています(1)。

おそらくこの疾患が女性に特有な原因は
Ref.(1)Fig.4に示されているように
分子的な親和性が落ちるか、
不完全な量で分泌するためであると考えられます。
男性の場合は遺伝子のオンとオフが混在することがないため
不完全な形でPCDH19が結合することがないため
PCDH19不全に起因する神経系の疾患が起こりにくい
ということがあると考えています。

私が着目したのはMossy-fiberと表現される
海馬特有の苔のような神経系です。
それは空間的に言えば、
密なところと疎であるところが比較的分離されいていて
密度分布にバラツキがあるという事だと思います。
実際にRef.(1) Fig.4をみればわかります。
それに付随した形でPCDH19も偏在していますが、
PCDH19に異常が生じた場合には
その空間分布の凝集、ばらつきが小さくなっているようにみえまうs。
Ref.(1) Fig.4B
実際には脳脊髄液、間質液の溶液の中での
タンパク質の振る舞いを見ていると思います。
言い換えれば、液体中の固体(タンパク質)の分布です。
その凝集が溶けているということは
物質の化学的性質が遺伝子変異によって変わっていることを
示しているのではないか?と考えています。
高分子の中で凝集に影響を与えるような構造、残基があるならば
構造的な違いを低温電子顕微鏡などで調べた時に
その違いが凝集に関わるような物理的性質とリンクするか?
という点に関心があります。

治療の戦略としては
もちろん遺伝子に直接働きかける方法もあります。
一方カドヘリンにPCDH19が結合しない事が
正常な神経伝達に貢献することが男性の例で考えられるので
それらの結合をアンタゴナイズするような薬剤が
もう一つの治療戦略として考えられます。

(Reference)
(1)
Naosuke Hoshina, Erin M. Johnson-Venkatesh, Miyuki Hoshina, Hisashi Umemori 
Female-specific synaptic dysfunction and cognitive impairment in a mouse model of PCDH19 disorder
Science  16 Apr 2021:Vol. 372, Issue 6539, eaaz3893

Department of Neurology, F. M. Kirby Neurobiology Center, Boston Children’s Hospital, Harvard Medical School, Boston, MA 02115, USA.

(2)
L. M. Dibbens et al., 
X-linked protocadherin 19 mutationscause female-limited epilepsy and cognitive impairment.
Nat. Genet. 40, 776 – 781 (2008). 
doi: 10.1038/ng.149;pmid: 18469813
(3)
K. L. Kolc et al., 
A systematic review and meta-analysis of 271 PCDH19-variant individuals identifies psychiatric comorbidities, and association of seizure onset and disease severity.
Mol. Psychiatry 24, 241 – 251 (2019). 
doi: 10.1038/s41380-018-0066-9; pmid: 29892053
(4)
A. Terauchi et al., 
Distinct FGFs promote differentiation ofexcitatory and inhibitory synapses. 
Nature 465, 783 – 787(2010). 
doi: 10.1038/nature09041; pmid: 20505669

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