2024年9月14日土曜日

MRI空間分解能向上の為の入射ラジオ波半値幅低減技術

(背景)
先日は私は大きな決断をしました。
2039年7月末までの細胞種特異的薬物送達システムの
臨床試験開始の対象疾患を小児脳腫瘍に決定しました。
従って、この実現に向かって1つ1つ事を進めていく事になります。
このMRI測定はCT、PETのようにX線,γ線などの
高エネルギー電磁波による被ばくの影響がないので、
子どもに対しても比較的安全な検査方法であるとされています。
子どもは頭のサイズも小さく、水分量も大人に比べて多いことから
良好なコントラストが得やすいです。
脳は柔軟な組織の為、MRI解析は脳組織の解析で一般的に利用されます。
特に、上述した理由から子どもの脳の解析、検査として
MRI測定は欠かせないものです。
当然、脳腫瘍の評価の際にも一つの重要な検査モダリティーですから、
MRIの解析精度向上は、私が目指す医療の実現に貢献するものです。
従って、この記事の重要性は高く、
それについて詳しく掘り下げて考えていく事は当然の取り組みとなります。
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ラーモア周波数に対して主磁場の強さが一義的に決定されずに
幅を持つ一つの大きな理由は
入射するラジオ波の波長帯域幅(FWHM)があるからです。
これがMRIの空間分解能を決める一つの因子です。
MRIの空間分解能を上げる最も主要な取り組みは
主磁場の強度を上げる取り組みであり、
現在、医療現場で一般的に普及している
高解像度タイプの主磁場の強度は3テスラです。
研究用では7 ~ 11.7テスラまでのMRIが利用されていますが、
これを実際に患者さんの検査に利用するためには
磁場に対する人への長期的な安全性を評価する必要があり、
これを医療現場で実際に導入するには少なくとも一定の時間がかかります。
代替の手段で解像度を上げる取り組みが
主磁場を上げる取り組みと並行して必要であります。
その手段として私が提案するのは、本日、記事として立ち上げる
ラーモア周波数を満たす主磁場幅を決める入射ラジオ波の改善です。
入射ラジオ波の帯域幅、半値幅を下げるために
具体的にどういった技術が必要か?
前回の記事でその概要について公開しましたが、
本日はそれをもう少し深掘りしていきます。

(内容)
<<1. 高精度基準発振器の使用>>
基準発信機では入射ラジオ波周波数、材料の共鳴周波数に一致する
交流電気信号を発振器回路に入力します。
(逆)ピエゾ効果、すなわち
材料に依存する振動数で体積変化するピエゾ素子は
その周波数を持つ音波や交流電気信号を出力します。
石英では原子時計に次いで、この時間が正確です。
従って、性能の良い時計では石英が利用されます。
MRI装置で利用されるラジオ波の周波数帯域は
30 MHz ~ 300 MHzです。
従って、出力されるラジオ波の周波数帯域を狭めるには(半値幅を小さくするには)
例えば、石英が材料として持つ時間の正確性を
最大限引き出すことが必要です。
仮に、石英に多くの結晶欠陥や転位があると
その時間正確性に悪影響を及ぼします。
但し、石英から生み出される交流信号は
MRI装置に必要とされるパワーを満たさないため、
その交流信号を増幅させるアンプが必要になります。

(1-1)超高安定水晶発振器(OCXO:Oven-Controlled Crystal Oscillator): 
ピエゾ素子としての材料は石英水晶です。
石英は三方晶系結晶(trigonal crystal system)を室温でとるため、
直方体に加工するのは原理的に難しいです。
また、硬度も7で非常に硬いため、形としての安定性には優れていますが、
初めの製造時点での精度の高い加工は難しい分類に入ります。
厚さの均一性を高める事がラジオ波のスペクトルの正確性に関わるため
厚さを決める方位を石英結晶のへき開方向に一致させる事が重要です。
ただし、方位によって圧電定数(-0.9 or 2.3 pm/V)が大きくかわるため、
方位に合わせた厚さなどの設計が必要になります。
例えば、方位がずれていると、
圧電定数が一定ではないですから、
出力されるラジオ波の周波数の精度が下がる事は考えられます。
他方で、
形としての安定性に優れているため、
温度に対する周波数ドリフト、すなわち変形が少ないです。
その線膨張係数は0.55ppm/K(0.55 * 10^-6/K)です。
例えば、ガラス(8ppm/K)、シリコン(2.5ppm/K)、セラミック(12ppm/K)なので
こうした広く使われる無機材料に比べても、
石英水晶は形として温度に対して安定性が高いと評価できます。
共振周波数は形状(厚さなど)によって広い幅で調整可能なため、
30 MHz ~ 300 MHzのどのラジオ波に合わせるかで
任意に大きさが決定されます。

(1-2)ルビジウム発振器: 
ルビジウムは体心立方格子(body-centered cubic structure)をとり、
モース硬度は0.3です。
従って、石英水晶に比べて柔らかく、立方格子構造を取るので
直方体など垂直に加工しやすい特徴を持ちます。
しかしながら、線膨張係数は90ppm/Kであるため
石英水晶に対して温度に対して形状変化しやすく、
高い精度のラジオ波を得るためには
石英に対して高い温度制御が必要になります。
従って、ルビジウムは加工精度で石英に対して高くなければ、
そのメリットを生かせない事になります。
但し、ルビジウム系圧電素子である
ルビジウムジヒドロゲンリン酸塩 (RbDP) の圧電定数は
Z方向では26.7 pm/Vと石英に比べて1桁以上高いため、
電圧に対してより強度の高いラジオ波を放出できます。
これがルビジウム化合物をラジオ波発生の為の圧電素子として
利用する一つの大きなメリットです。

(1-3)ラジオ波の測定、校正
入射するラジオ波の周波数帯域を狭める技術的介入は
より正確なラジオ波の制御、測定(確認)、校正が必要になります。
光周波数コムを利用したレーザー発振器によって
高精度な周波数コム(1PHz)を基準にして
ラジオ波の周波数測定ができるため、
より精密に校正することができます。

<<2.フェーズロックループ(PLL)の改良>>
フェーズロックループ(PLL)は、MRIのラジオ波発生において、
周波数の安定化、調整、制御に重要な役割を果たします。
基準信号と発振器の出力信号を比較し、
位相差を元に制御信号を生成して発振器を調整することで、
正確で安定したラジオ波信号を提供します。

(2-1)高品質のPLLループフィルターの使用
(役目)
エラー信号の処理:
ループフィルターは、位相検出器から出力されるエラー信号を受け取り、その信号を処理します。このエラー信号は、基準信号と発振器の出力信号の位相差に基づいています。
安定化とノイズ低減:
ループフィルターは、エラー信号から高周波ノイズを除去し、スムーズな制御信号を生成します。これにより、発振器の周波数や位相が安定化し、PLLのロック状態が維持されます。
帯域幅の調整:
ループフィルターは、PLLの応答速度と安定性を調整するための帯域幅を設定します。フィルターの設計により、応答時間や安定性のトレードオフが調整可能です。
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(ループフィルターの材料と物理的特性)
ループフィルターの材料や設計には以下のような特性が求められます。
1.材料:
抵抗: 高精度の抵抗が使用され、安定した抵抗値が求められます。材料としては金属酸化物や薄膜抵抗などが使われます。
コンデンサ: 高品質なコンデンサが使用され、誘電体材料としてはセラミックや薄膜材料が一般的です。誘電体の安定性と低誘電損失が求められます。
インダクタ: 高周波の安定したインダクタが必要です。材料としてはフェライトコアや金属ワイヤーが使われます。
2.物理的特性:
精度と安定性: ループフィルターの材料は、高い精度と長期間にわたる安定性を持っている必要があります。温度変化や時間経過による変動が最小限に抑えられることが求められます。
低誘電損失: コンデンサの誘電体は、低誘電損失特性を持ち、高周波領域でも高い性能を発揮する必要があります。
高い周波数応答: フィルターは高周波数に対しても正確な応答を示す必要があります。特にPLLでは高周波数の信号処理が行われるため、材料はこの要求に適合する必要があります。
温度安定性: 材料の温度変化に対する安定性が重要です。特に高精度なPLLシステムでは、温度変化による性能変動が最小限に抑えられることが望まれます。

(2-2)高スループットおよび低ノイズのVCO(Voltage-Controlled Oscillator)
 LC VCOは、インダクタ(L)とキャパシタ(C)で構成された発振回路です。
発振周波数は  f = 1/2π(LC)^0.5 これで決まります。
コンデンサは抵抗やインダクタンスと組み合わせる事で
容量に従って一定の周期で電子を貯蔵したり、放出したりできる為、
直流電流を高周波電流信号に変換する事が可能です。
30 MHz ~ 300 MHz帯では
セラミックコンデンサ(特にC0G/NP0タイプ)が適していると言われています。
容量は温度によって変化し、容量の変化率を下げる事が
高周波の信号の質を高めるため、
温度による変動が少ない材料から成るコンデンサを選ぶ必要があります。
主にノイズ信号として混入しやすい高周波ノイズに対しては
金属シールドケース、接地、電源フィルタ、バイパスコンデンサ
トレースの配置、グランドプレーン、フェライトビーズ
EMIシールドシート、冷却、温度安定化、高周波対応基板
適切な部品選定、ノイズ対策設計
これらなどの対策が必要です。

(2-3)低ジッターのデジタル制御回路:
jitter(ジッター)とは望ましくない、電気信号のわずかな変動です。
MRIのラジオ波入射系では、電源スイッチ(トランジスタなど)のオンオフの周波数を
VCO、ピエゾ素子によって整えて、ラジオ波の周波数に電気信号を同期させて
ラジオ波を出射するもう一つのピエゾ素子に電気パルス信号を送る必要がありまうが、
回路のジッターが高いと、受信系から電気信号を生み出すときに
時間的な遅れなどが生じ、理想的な矩形波パルス波形に乱れがでます。
こうしたジッターは回路の抵抗、インダクタンスや
電源の変動、外部ノイズが原因で生じます。
従って、こうしたジッターの原因となる要因を最小限にし、
理想的な高周波回路系統に近づける必要があります。

<<3. 高精度フィルタリング>>
生成されたラジオ波には高周波成分、低周波成分のノイズが含まれることがあります。
こうしたノイズは、それぞれ
ローパスフィルタ(高周波成分除去)、ハイバイパスフィルタ(低周波成分除去)で
ラジオ波入射経路に設置することで除去する事ができます。
また、ラジオ波の半値幅を下げるために
特定の周波数領域だけ通過させるバンドパスフィルタがあります。
また、ラジオ波が2ピーク化してしまったときには
必要のないピーク化した特定の帯域を持つラジオ波をカットする
ノッチフィルタがあります。

特にラジオ波の半値幅を下げるためには
通過させる事ができるラジオ波帯域幅を物理的設計によって制御できる
バンドパスフィルターについて考える事が重要です。
誘電体フィルタ、導電管フィルタ、キャビディフィルタがありますが、
一番、狭い帯域幅に制御できるのは
キャビディ(共振器)フィルタです。
その半値幅は最大で数kHzです。
今、MRIで高分解能が求められる設計における
ラジオ波がちょうど数kHzくらいなので
キャビティフィルタで放出できる最も高精度なレベルとなります。
しかし、キャビティフィルタは
特定の周波数に対してしか共振しないため、
MRIのように任意の周波数を動かすことが求められる装置には適合しません。
任意の周波数は電気的な信号の中で
周波数を調整する必要があるため、
RFコイルから放出されたラジオ波に対して
キャビティーフィルターを入れる事は
装置の設計の面からしても合理性に欠けます。
RFコイルに流れる交流信号の時間正確性を上げる事が重要です。
その正確性においていくつか直列に関連する要素があるので
それらの要素を一つ一つ精度を上げていく努力が必要になります。

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