//背景//---
試験管レベルの実験、動物実験、人への臨床をつなぐ
トランスレーショナル医療の実現においては
試験管レベルの実験から
人をベースとした解析が重要であると考えられます。
Yosuke Tanaka, Fumiko Chiwaki(敬称略)ら
医療研究グループは胃癌の患者さん98人の腹水のサンプルから
癌細胞を精製して、癌細胞の特徴を遺伝子レベルで調べています(1)。
このような手法では、
人に対する分析である事、また統計的な分析である事から
癌細胞の分析を試験管レベルで行った場合においても
そこから臨床へつなぐための整合性は高いと考えられます。
その癌細胞が生体内でどのような振る舞いをするか調べる際には
動物に人の細胞を異種移植して調べる事もできます。
このような手法は広く適用されていますが、
基礎実験と臨床をつなぐトランスレーショナル医療のための
一つの有効な方法であると考える事ができます。
---
Yosuke Tanaka氏らが報告対象としている胃癌の罹患率は
日本を含め東アジアで高いと言われています(2)。
胃癌のうち悪性度の高い腹膜を通じた転移性の癌による死亡率は高く、
現在のところ有効性の高い治療方法はない
とされています(3-6)。
この転移性の胃癌の遺伝子的、生理的な特徴を
ゲノム解析をベースに調べています(1)。
転移をするためには原発腫瘍組織から癌細胞が間葉
あるいは内皮組織を通じて血中に流れ出し、
他の臓器に転移するなど、
元々の組織から離れて移動する事が必要です。
その機序は「上皮間葉転換」と言われますが、
転移を考える上ではこの上皮間葉転換に関わる遺伝子や
生理機能を考える事が重要になります。
従って、この記事ではYosuke Tanaka氏らの内容から
上皮間葉転換に関わる部分を抜粋し、
独自の視点を加えながら読者の方と情報共有したいと思います。
//タンパク質コード遺伝子(1)//---
(癌細胞)
SMAD3, TGFB1, TGFB2, BMP1, INHBA
(腹水)
SMAD3, TGFB1, TGFB2, INHBA
これらの遺伝子の発現量が上皮間葉転換有の細胞、腹水で
それがない場合に比べて大きくなっています(Fig.3c)。
-
SMAD遺伝子は上皮間葉転換に関わる
TGF-β信号に強く関連すると言われています。
SMAD3, TGFB1/2が関わっていることから
上皮間葉転換ではTGF-β信号の関与が大きいことが示されています。
//非コード化RNA遺伝子(1)//---
VIM-AS1, LINC00842, CYTOR
これらの発現が上皮間葉転換細胞で多く
HNF1A-AS1, BCAR3-AS1, LINC01559
これらの発現が少なくなっています(Extended DaTa Fig.4)。
-
LINC00842は上述したタンパク質コード化遺伝子
SMAD3と相互作用して上皮間葉転換を促すことが報告されています(7)。
//Hippo経路(1)//---
私たちの身体の細胞は常に入れ替わっていますが、
おおよその身体の形は当たり前に保たれています。
成長期では時間をかけて大きくなりますが、
大人になり成熟すると臓器や骨などの形や大きさが
大きく変化する事はありません。
その理由は形状を記憶する生理が体に存在するからです。
その形状の記憶に関わっている生理がHippo経路です。
従って、細胞が組織化する場合において
このHippo経路が働くと考えられます。
それは正常な組織だけではなく、癌細胞からなる組織でも同様です。
上皮間葉転換した転移性の高い癌細胞は腹膜なども含めて
他の組織で腫瘍組織を形成するように
Hippo経路を通じてプログラムされている
と考える事ができます。
ゆえに、Hippo経路を誘発する遺伝子の特徴を有している
と考えられます。
このHippo経路に関わる遺伝子のうち
TEAD1, WWTR1
これらの遺伝子が癌細胞で過剰発現されています(Fig.4c)。
//治療(1)//---
治療としては上述したHippo経路を抑える薬が考えられます。
Hippo経路はYAP/TAZタンパク質と関連があり
癌細胞の核においてYAP/TAZタンパク質と結合する
TEADタンパク質があります。
このTEADタンパク質を抑える薬K-975が提案されています(8)。
マウスによる癌の進行状況の評価では
完全な退行には届かないものの
一定の奏功が得られています(Fig.8c)。
//考察//---
TGF-β信号、Hippo経路などにおいて
癌特有の特徴を掌握し、それに特異的に作用する薬を投与し、
効果を評価していく事が求められます。
一方、
Fig.7c,7dのように遺伝子異常の特徴に合わせて
薬剤を選択していく事も必要です。
-
原発腫瘍が生じた際に転移する前に
その癌細胞から上皮間葉転換して転移する遺伝子的な特徴を
事前に見出すことができるか?という視点があります。
このような遺伝子的な特徴は
癌組織の成長に伴って後天的に獲得していく可能性はありますが、
もし、事前にリスク因子として抽出できれば、
予防的に治療する事が可能になります。
すでに転移している人から遺伝子的な特徴が明らかになっています。
データからは転移が生じていない細胞においても
統計的なばらつきがあり、
転移関連遺伝子の値が大きい細胞があります。
例えば、上皮間葉転換していない細胞の中から
転移に関連する遺伝子の値が大きな細胞を集めて
その細胞の発展を生体内で評価した際に
その後、転移性を獲得するかといった実験モデルも考えられます。
-
また転移性の癌の遺伝子的な特徴の中で
細胞表面にタンパク質として突出した形で現れるのであれば、
そのたんぱく質をターゲットとして
転移性を有する癌細胞に特異的な
薬剤輸送系統を構築できる可能性があります。
転移性の癌が血中に多く存在するのであれば、
細胞特異的輸送系統ではおそらく血中の細胞を標的にする方が
組織常在型の癌細胞よりは障壁が低い可能性があるので
一定の奏功を収める可能性があります。
//Discussion//---
Yosuke Tanaka, Fumiko Chiwaki et al. demonstrate the specific feature of gene in a pluralistic manner(1) in gastric cancer in human model. Is there a case that this feature is emerged on the cell surface so that drug can function outside cancer cell? If so, this surface protein is promising and specific target in cell-specific delivery system. The cell-type specific analysis including structural analysis for metastatic cancer may be important.
(Reference)
(1)
Yosuke Tanaka, Fumiko Chiwaki, Shinya Kojima, Masahito Kawazu, Masayuki Komatsu, Toshihide Ueno, Satoshi Inoue, Shigeki Sekine, Keisuke Matsusaki, Hiromichi Matsushita, Narikazu Boku, Yae Kanai, Yasushi Yatabe, Hiroki Sasaki & Hiroyuki Mano
Multi-omic profiling of peritoneal metastases in gastric cancer identifies molecular subtypes and therapeutic vulnerabilities
Nature Cancer (2021)
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Author information
Author notes
These authors contributed equally: Yosuke Tanaka, Fumiko Chiwaki.
Affiliations
Division of Cellular Signaling, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan
Yosuke Tanaka, Shinya Kojima, Masahito Kawazu, Toshihide Ueno, Satoshi Inoue & Hiroyuki Mano
Department of Translational Oncology, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan
Fumiko Chiwaki, Masayuki Komatsu & Hiroki Sasaki
Department of Diagnostic Pathology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
Shigeki Sekine & Yasushi Yatabe
Kanamecho Hospital, Tokyo, Japan
Keisuke Matsusaki
Department of Laboratory Medicine, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
Hiromichi Matsushita
Division of Gastrointestinal Medical Oncology, National Cancer Center Hospital, Tokyo, Japan
Narikazu Boku
Department of Pathology, Keio University School of Medicine, Tokyo, Japan
Yae Kanai
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