2020年8月30日日曜日

COVID-19:ウィルス変異とワクチンの併用について

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

ある致命的な細菌に由来する病気に罹患した時には
抗生物質が使われることがあります。
抗生物質は微生物の発育を阻害する物質と定義されます。
あるいは、農薬などにも抗菌剤が使われます。
そうした生活の中で使われる抗生物質が乱用されると
あるいはガイドラインに従って使用していたとしても
遺伝子変異によって、それに耐性を持った
細菌が現れることがあります。
それが社会の中で一つ共通の脅威となっています。

同じようにウィルスでも変異は起こります。
新型コロナウィルスでも同様です。
その新型コロナウィルスに対して、
ワクチンの開発が進んでいて、
日本は有効性のあるワクチンの取得に
厚生労働省を中心して鋭意動かれています。
それに対する社会の期待は大きいです。
しかし、そのワクチンは
抗体依存性増強という抗体を入れることで
逆に病状が悪化する事があります。
あるいは副作用も考えられます。
従って、
今の状況に安心することなく
継続的にある程度の緊張感を持って
社会として動いていく必要があります。

本日紹介する報告は
アメリカのリジェネロン社という製薬会社からのものです。
その報告に、
「生体内ではなく試験管の結果」ですが、
ある単一の抗体を入れると、
それに耐性を持つ、つまり中和能を下げるような
変異型のスパイクが現れる結果が示されました。

この変異型のスパイクは
複数の抗体を同時に入れる、併用することで
少なくとも発現されにくいことが示されました。
おそらく世間の方は
新型コロナウィルスのSタンパク質に抗体が結合して
ファンデルワールス力を弱めて、中和して、
エントリー受容体(ACE2)への結合能力を弱めて
それによって細胞内の感染を防ぐ中において
その「抗体がつく場所」は同一である
と考えている人もいると思います。
しかし、ナノスケールでみれば、
同じ受容体結合面(Receptor binding domain:RBD)であっても
抗体の種類ごとに微妙に結合する場所が違います。
そうであるから
抗体ごとに中和する能力、
言い換えればワクチンの性能が異なります。
それは見方を変えれば
「複数のワクチンを併用接種できる」
可能性を示唆しています。
つまり、複数の抗体を違う効果的な結合部位に結合させる
ことができます。
以前の報告では、効果的な結合部位は
一か所ではなく、散在もせず
集合的に存在することがわかっています。
参考文献では
このように複数の抗体を新型コロナウィルスに対して
試験管で作用させることによって、
新型コロナウィルスの変異の起こりにくさを示しました。

この結果は2つの側面を示しています。
一つは
これからワクチンが開発されて、それが有効であったとしても
継続的に違うワクチン、あるいは改良版を
開発し続けなければいけない
ということです。
なぜなら何十億という数の人にワクチンを接種すれば
おそらくそこに変異型のウィルスが生まれる可能性が高い
からです。
インフルエンザのように毎年ワクチンを打つ中で
その都度、ワクチンを最適化する必要性です。
もう一つは、
違う種類のワクチンを併用して打つことのメリットです。
ただそれらを副作用を含めて評価することは
単一のワクチン接種に比べて複雑になりますが、
良い場所に複数の抗体を結合させることができて
相乗効果を生む可能性もあります。
さらにはここで示された変異が起こりにくいわけですから
新たなワクチンを開発する必要性も下がってきます。
それは大きく意味のあることです。

ここからは内容のより詳しいことになります。
実際にどの抗体を組み合わせれば
効果が出たかというが示されています。
その中で
特に注目したいのが
REGN10987+REGN10933の組み合わせです。
この組み合わせでいくつか着目できる点があります。
それはこれらの併用で
重複することなく違うRBD部位に抗体が結合したこと
が確認されたということです。
つまり上述した意図が結果に反映された形になっています。

また抗体を新型コロナウィルスのSタンパク質に作用
させたときの変異が起こりやすいところは、
遺伝子位置:5040, 5122
Sタンパク質遺伝子位置:1963, 2045
参照ヌクレオチド:C, G
変異ヌクレオチド:T, A
タンパク質位置:655, 682
、、、
となっています。(Fig.2参照)
これらの変異が
REGN10987+REGN10933(10μg/ml)の併用では
ほとんど確認されませんでした。
また、想定される変異(Escape mutants)において
中和活性はどれも高く維持されています。
しかし、これらの抗体が単一の場合では
いくつかの変異において中和活性が落ちています。
つまり併用による効果が出ています。(Table.2参照)

また今回併用の検討を行う中で
結合するタイミングが同時ではなく異なる中で
結合強度が変わるという点です。
例えば
REGN10989が先に結合した後、
REGN10987は緩く結合することがわかっています。
このことは、
複数のワクチンを接種するときには
同時に接種するのではなく
その順番、タイミングを考慮する余地を与えています。
従って、
最適な接種条件を探すためには
併用の場合には非常に複雑にはなります。

この試験管の結果を受けて、
継続的に新型コロナウィルスのワクチンが開発されていく中で
抵抗性ウィルスを生みにくい世界を実現するために
これから開発されるワクチンを
どういう組み合わせで、どういう条件で
接種するかというのは治験が進められていくと思います。
抵抗性ウィルスが減れば、
開発労力、費用の削減、
早期供給、安定供給にもつながり
それは世界的にメリットがあることです。

以上です。

(参考文献)
Alina Baum, Benjamin O. Fulton, Elzbieta Wloga, Richard Copin, Kristen E. Pascal, Vincenzo Russo, Stephanie Giordano, Kathryn Lanza, Nicole Negron, Min Ni, Yi Wei, Gurinder S. Atwal, Andrew J. Murphy, Neil Stahl, George D. Yancopoulos, Christos A. Kyratsous
Antibody cocktail to SARS-CoV-2 spike protein prevents rapid mutational escape seen with individual antibodies
Science  21 Aug 2020:
Vol. 369, Issue 6506, pp. 1014-1018
DOI: 10.1126/science.abd0831

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