2020年8月28日金曜日

COVID-19:ウィルス粒子の統計的な構造解析

いつも記事を読んでくださり、ありがとうございます。

新型コロナウィルスのワクチンに対する
世の中の期待は大きいと思います。
しかし、インフルエンザも含めた
呼吸器系に作用するワクチンにおいて、
今まで撲滅させるほどの効果のある
ワクチンを開発できたことはない
といわれています。
長い年月をかけて開発してきたものでも
そうですから、
今年から流行し始めて、
1年と少しで従来のワクチンの効果を
超えるような性能の良いものを開発する
ということは極めて難しい
ということを推し量ることは容易です。
しかし、一つの伝染病に対して
ここまで世界が団結したことは、
今までにないかもしれません。
今はインターネットがありますし、
グローバルな研究がなされて久しいですから
そのポテンシャルの中で
従来にはなかった偉業を
世界の多くの人の手によって達成することは
可能であるという見方もできます。

今、最終段階に進んでいるワクチンがありますが、
量産性、価格、世界的な均等供給、
数量、副作用、効果など
全てにおいて全く欠点のないものを
1種類のワクチンで達成する事は困難です。
少しずつの積み重ね、改善の中で
よいワクチンが段階的に複数開発されると
日常生活を取り戻せるということが
実現されると思います。
そのためには、ワクチンの効果を
いろんな観点で分析することは欠かせません。

そのワクチンの解析の中で
微視的な構造を知ることは必須です。
メディアで映像を見た人は多いと思いますが、
新型コロナウィルスの形状は
球状であって、その周りに多くの突起があります。
その突起はSタンパク質、スパイクと呼ばれます。
そのスパイクの特定の位置に
ワクチンによって生成された抗体がつくことによって
エントリー受容体(ACE2)を通した
細胞への感染を防ぐことが可能になるだろう
ということです。
従って、前述した
Sタンパク質、突起の「特定の位置」
言い換えれば「最適な位置」に抗体が結合することが
「肝、キー」ですから、
抗体がつく前後のSタンパク質の構造を
細かく可視化して解析することは、
重要であるということです。
しかし、
このSタンパク質は構造を柔軟に変えたり、
ウィルスに複数ある中での構造のばらつき、差があったり
することがわかっています。
本日、紹介する報告は、
単一のSタンパク質の構造解析ではなく、
多くのSタンパク質の構造解析の中での
差、分布を見るための統計データを提供するものです。

今述べた様にSタンパク質には
いくつかの構造的な差、種類があります。
その大きな類別において
「Open prefusion conformation オープンな配座」
「Close prefusion conformation クローズな配座」
というのがあります。
※配座とは3次元的な幾何構造という意味です。
------
オープンな構造では、
Sタンパク質の
「へき開面の非共有結合的な架橋部分が離れていて(?)」
それによって受容体結合面(Receptor binding domain:RBD)が
浮かび上がって露出している状態
-------
クローズな構造では
Sタンパク質がしっかり固定されていて
それによって受容体結合面がスパイク表面上に平坦になっていて
結合サイトが塞がれている状態
--------
とされています。
このへき開面は2つあるので
①すべてがオープン
②1つオープン、1つがクローズ
③すべてがクローズ
という3種類の構造が大きく分けて存在します。

参考文献によれば
179個の「無傷」の新型コロナウィルスにおいて
3854個のSタンパク質の構造を調べる中で
①すべてがオープン:14%
②1つオープン、1つがクローズ:55%
③すべてがクローズ:31%
となっています。
従って、すべてがオープンになっていて
受容体結合面が完全に露出している割合は
少ないというデータになっています。

また一つのウィルス粒子に対する
Sタンパク質の数は24±9個といわれています。
この数のばらつきは
ある程度ウィルス粒子の大きさと関連があるようです。
またSタンパク質のウィルス粒子の表面(エンベロープ)
の存在位置は均等ではなく、偏りがあります。
今述べた様に大きさにもバラつきがあり。
91±11nmといわれています。
(ref.(1)Extended Data Fig. 1a:ヒストグラム参照)
またSタンパク質は、
ウィルス粒子の表面に垂直に立っているのではなく
ある程度の傾きがあります。
その傾きのヒストグラムは
ref.(1)Extended Data Fig. 1cにあります。
これを見ると50°くらいが一番
頻度としては大きくなっています。
突起が垂直に立っているイメージが強いですが
傾いているものが多いということです。

またウィルス粒子表面にどれくらいの密度で
Sタンパク質が存在するか?
それは1000nm2に1つといわれています。
インフルエンザでは100nm2に1つなので
密度としては1/10となっています。
もちろん受容体結合面がどれくらい露出されているか?
もしくは結合面での親和性などにもよりますが、
細胞に感染するためのSタンパク質の密度が
インフルエンザウィルスよりも少ないために
ワクチンの効果が出やすい可能性はあります。

これらを踏まえてた上でいくつかの疑問があります。

Q1:オープンとクローズの配座で中和抗体の付き方が違うか?
オープンでは受容体結合面が露出しているから
抗体が近づいてきた時に
露出していることによって
そのサイトに結合しやすいか?
もしそうであれば、オープンが多い状態では
ワクチンが効果を発揮しやすいかもしれない
という考え、
あるいは別の疑問
Q2:オープンからクローズに切り替わるために
物質的なきっかけは何か?
というものにもつながります。
例えば、薬剤によってそれを促すようなものがあれば、
ワクチンと併用することによって
効果が出やすくなるか?
ここまでくると飛躍している部分は否めないですが、
数珠的にこのような考えが浮かびます。
また
「ワクチン接種後」の中和抗体がついた状態での
新型コロナウィルスのSタンパク質の構造解析において
このように統計的に調べることができたら、
単に中和能を見るだけではなく
どれくらいのSタンパク質に
あるいはどの構造のSタンパク質に
どの位置に抗体がついているかがわかるか?
それによって構造的な裏づけ
論理根拠が得られる可能性があり、
ワクチンの機序の理解に貢献する部分がある
と考えます。

以上です。

(参考文献)
Zunlong Ke, Joaquin Oton, Kun Qu, Mirko Cortese, Vojtech Zila, Lesley McKeane, Takanori Nakane, Jasenko Zivanov, Christopher J. Neufeldt, Berati Cerikan, John M. Lu, Julia Peukes, Xiaoli Xiong, Hans-Georg Kräusslich, Sjors H. W. Scheres, Ralf Bartenschlager & John A. G. Briggs 
Structures and distributions of SARS-CoV-2 spike proteins on intact virions
Nature (2020)
doi.org/10.1038/s41586-020-2665-2

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